0103 待って! 通報しないで! 本当はたいした事してないんです、本当です!
こんなジュノンが居るわけねえだろ。こいつはジュノンが最近まで男だった事も、俺の名前はササジではない事も知らないのだ。
「馬鹿が……黙って騙されたふりでもしてればいいものを」
ジュノンは身を翻して俺から飛び退く。奴の手には例の、妙に立派な瓢箪が握られている、次の瞬間、奴の身体はノイズのような物に変化し……元の姿に戻る!
「アハハハハハ!」
ジュノンの姿に化けていたのは魔族だった! 赤い肌、黒白反転の目、ハリネズミのような固く尖った髪の毛からは、二本の角が飛び出している!
「はぅあ……あああ!」
俺は思わず目を見開き、後ずさりする!
「お前の仲間はみんなどっかに行っちまったみたいだねえ! そしてお前は武器一つ持って無ければ防具もない、ハハハハ! 終わりだよ、終わり!」
その顔立ちは悪魔的と言えば悪魔的なんだが、小悪魔的と言い換える事も出来るナイスなものだった! どぎついメイクも好印象だ、バストは!? バストはEカップだ、クレールにはちょっと及ばないがベリーグッド、それからまあ筋肉は多いな、腕も結構太いし腹筋なんか六つに割れている、でも手足は長くウエストは細い超ナイスバディでストライクゾーンど真ん中、トップスはクロスカットのビキニ、ボトムはホットパンツ、やっと会えた……やっと会えたねダークエルフのお姉さん! いやダークエルフとは色々違うな、落ち着け俺の股間のコモドドラゴン!
「ああ……あ……」
俺はだらしなく口を開けながら、尚も後ずさる……
―― ドボン!
俺はそのまま、岩風呂の縁に足を引っ掛け、湯船の中に尻餅をつく。
「随分いいザマだね! 本当にお前があれだけの数の魔族の男共を、卑劣な奸計とやらで退けた冒険者だってのかい? まあ、あんなクズ共が誰に負けようが、アタシは驚いたりしないけどね」
魔族の女は、刃渡り120センチぐらいの、ぎざぎざの刃を持つ曲刀を手に、じりじりと近づいて来る。
「わ……私の仲間をどうしたんですか……」
「おやおや? いくらかしおらしくなったねえ? まさか、まだ助けて貰える可能性があると思っているのかい?」
魔族女は自らも湯船の中に歩み入り、座り込んだ俺の前に立ち、左手で俺の肩を押さえつけ、右手に持った刃を俺の首元に近づけて来る。
「そうだねえ……まあ事と次第によっては、命だけは助けてやらない事もないよ……お前の名前は、ササジではないんだろう? あの女が最後に何か仕掛けたんだね。言ってごらん? 本当の名前は何だい?」
俺は、震え声で答える。
「教えたら……冥途の土産に……」
「ププッ、何だい冥途の土産だって、アハハハ!」
「無料で一発やらせてくれますか?」
女は目を見開く。
「何だと……ふざけるな!」
この女からしてみれば、俺の首はたった今斬り落とされていたはずだったのだろう。自分を侮辱し、本気で怒らせたのだから。
しかし、女の握った曲刀の刃は微動だにしない。女の手は刀の柄ごと、俺の手にぎゅうぎゅうに締め上げられていた。
―― ザブーン!!
次の瞬間には俺は身を翻し、女の首も掴んで浴槽の中に仰向けに引き摺り倒していた。湯船に沈められた女はもがき、抵抗するが、刀を握った右手と首を抑えられてしまっていて、水面に顔を出す事も出来ない。
それから……誰が武器一つ持ってないって? おう。見やがれ! これが俺のコモドドラゴンだ!
―― ゴボガバババ! ゴボボボ!
水面越しにそれを見せつけられ、女は激しく泡を吹き出す。バカ、水中で叫んだら肺の酸素無くなるぞ、お前らが肺呼吸かどうか知らんが。俺は一度首を掴んだまま、女の顔を水面に引き上げてやる。
「ガバッ!? ゲホ、ゲホッ! う……ああああ!!」
あ。女の顔に俺のコモドドラゴンを近づけるような形になってしまった。わざとじゃないよ! ほんとだよ!
「もう一度だけ言いますよ。私の仲間を今すぐ解放しなさい」
「ふ……ふざけるな、こ、この変態っ……!」
「人の入浴を覗きに来たのは、どちらでしたかね」
俺はそこで一度言葉を切り、真顔で女の目を睨む。降参する? しない。そう……降参しないんだぁ……ふふ、ふ……
「解らないなら仕方ない……体にお聞きするしか無さそうだ」
皆さん。今まで盛り上がるようで盛り上がらない、退屈な話をお見せし続けてしまって申し訳ありません。
だけど! 今回の私は違います! 私は仲間の為、正義の為! 世の為人の為、いつか来るヴェロニクの平和な治世の為、今からこのEカップの魔族のお姉さんに、ご理解をいただかなくてはなりません!!
女性にご理解をいただく方法も本来なら色々あるのですが、この度は彼女のおっしゃる通り、私の手持ちの材料はこの股間のコモドドラゴンのみ。他には何も無いのであります!
責任は彼女にあります……この状況で仕掛けて来たのは彼女なのですから。
そしてノエラ、クレール、ラシェル、まあジュノンも、私が自分のそんな姿を見せたくない大切な仲間達は、この場にはおりません……誰も私を見ていない。あとは……あっ、運営様!? 今だけ見ないフリをしていただけませんかね……?
さて。他に方法は無いという事、ご理解いただけましたでしょうか。
「これで最後だ。俺の仲間はどこだ? こっちも冗談言ってる余裕はねえんだよ」
女の手から曲刀が離れ、湯船の中に落ちる。震えてんのか? 魔族のくせに。先程までの威勢はどこへやら、口を半開きにしたまま俺を見つめている。
あー。畜生。仕方ない、もう一回湯船に顔を沈めてやろうか? 仲間の命が掛かってるかもしれないし、こいつ何も言わねえし。やんなきゃ駄目じゃん。やれよ。
だけど……俺のコモドドラゴンがそんな事は出来ないと言ってるんだよなあ。まあそれで言うとは限らないしな。畜生……手詰まりだよ。
「き、き、貴様ァァァア!!」
その時、背後で誰かが叫んだ。あの声は……アスタロウ!?