0010 こんなに近かったら子供が出来てもおかしくないよなー
「この村周辺のクエストはだいたい終わったね、そろそろ橋を渡って次に行こう」
翌朝から俺達は、登山道のような道を歩きだす。
森の間を抜ける道、谷間を通る道、ジグザグに登る道……普通に疲れる道だ。
時折、魔物も出る。
先程などは、ピンク色の可愛いクマちゃんが人間の頭蓋骨をカリカリ噛んでいる所に出くわした。幸いクレールの一太刀で片付いたが。
やがて道は山肌に沿った片斜面の道となる。
「かなり深い谷だな……」クレール。
「だいぶ登りましたからねぇ」俺。
こういう道なので俺達は背後からの敵襲も警戒し、クレール、俺、ラシェル、ノエラの順で進んでいた。
道の幅がだんだん細くなり、両側の斜面が切り立った崖になって行く……この道、本当に正しいんだろうか?
「さっきの分かれ道、上だったかも……」ラシェル。
「方向的には合ってるはずだ……」クレール。
やがて道幅は50cm程になってしまった。
「慎重に……落ちたら厄介だぞ……」クレール。
その時だった。
「な……うわっ!?」
「危ない!!」
クレールの足元が大きく崩れた。
俺は手を伸ばそうとしたが、クレール自身が素早く崩れてない方の足場を蹴ってこちらに戻る方が先になった。
しかし。
「き……貴様何をするっ!!」
「あの……何かしてるのは私じゃないんですけど……」
俺はクレールの体当りを受け、壁に叩きつけられていた。
そして壁画のようになった俺に、クレールが前から覆い被さっているのだ。
「なんでそんな所に居るんだッ……」
全くこの女だけは可愛げの欠片も……そう思った次の瞬間。
「きゃあっ!?」
「あっ……!」
俺は咄嗟に手をクレールの腰に回していた。別に助平心からではない。急にクレールがずり落ちそうになったのだ。
どうやら足場がさらに崩れたらしい……これは普通にまずい……!!
「クレールさん! ウサジさん !気をつけて! 迂闊に動かないで!!」
ラシェルが叫ぶ。
クレールは、どうにか別の足場を見つけたようだが……俺からは……クレールが覆いかぶさっているので全く足場が見えない……
「ラシェルさん……俺……私達がどうなってるか教えて下さい……」
「クレールさんとウサジさんが、今乗っている足場……そこ以外の足場が全部無くなってます!」
ラシェルの所までは3mくらい……そこまでの足場が全部崩れた!?
俺は小さな足場に、両足を揃えて立っている……片手は磔のまま、片手はクレールの腰。あっ……俺は怒られる前に、クレールの腰から手を離した。
クレールは少し足を開いた状態でぴったり俺にくっついている……足を開いているのは、そこにしか足場が無いかららしい。
「下はー! どうなってますかー!」
俺は叫ぶが……
「すみません! 私の所からだと角度的に見えません!」
ラシェルが答える。
「僕、周り込める場所を探してみる!」
向こうでノエラが言ったようだが、その姿は見えない……
「クレールさん、下を見てもらえませんか?」
「無理だ……」
「いえあの、下、どうなってるか知りたいですよね?」
「……見える姿勢になれないんだ! 解るだろう! 動いたら……落ちる……!」
女戦士なんて汗の臭いしかしないだろうと思ってたのに。何かいい臭いがするな……いやいや、この非常時に何考えてんだ。
強気な女、いや普通に強い、つーか俺なんてデコピン一発で倒せそうな女だけど……身長は俺より少し低いのな……
こいつは普段胸甲をつけてるから解りにくいが……間違いなくF、Fはあるよな……胸が……この角度だと上から覗けるな……
そしてこの密着感……やばい、たまらん……今は見えないけど、この女はパーティでは一番露出が多い。そしてこいつのレースクイーンみたいな衣装は、あくまで衣装は、俺のツボだ、どストライクなのだ……あれが今俺の身体に密着してるのか。
ん?
俺は頭に図面を描く。俺の頭がこのへん。クレールがこのへん。俺の身体がこうあって、クレールの身体がこうある。そして手足がこうあるとなるとだな……
ちょうどその……お互いの身体の中心部が……ポールとホールがタイトにアプローチしているかも……
俺は必死で今のイメージを振り払う。だめだ、死ぬ。
この非常時におかしな事を考えたせいで、クレールが少しでも暴れたら二人共落ちて死ぬ。助かったとしても俺はクレールの背中の両手剣で真っ二つにされて死ぬ。
やめろ! 今は駄目だマイバディ! 俺達は二つで一つだろ!
なんだって? こんなラッキー二度とない? よせ! この女に冗談は通用しないッ!
出て来い! 俺の中のヒゲに鉢巻き腹巻にステテコ姿の小さなおっさん妖精!