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0001 縄も猿轡も、俺のキングコングを止める事は出来ない訳だが

 俺は暗くて狭い所に閉じ込められていた。両手は後ろに縛られ、猿轡もされている。足を伸ばすスペースも無い……ここはどこなんだ……


 そう思った瞬間、頭上から、光が洩れ、降り注いだ。

 眩しい……今度は眩しくて……見えない……



「きゃああぁあぁあ!? 何これ!?」


 俺の耳に入って来たのは黄色い悲鳴、目に飛び込んで来たのは真っ白な世界と……覗き込む三つの人影だった。


「これは……いわゆる殿方ですね」


 次第に目が慣れて来る……世界は真っ白ではなかった。緑色、茶色、灰色……多分ここは大きな意味で、森の中だ。

 そして俺が居る場所は、小さい意味では、箱の中らしい。俺をぎゅうぎゅうに詰め、森の中に置かれていた箱が、今開けられたのだ。


「蓋を閉めて帰ろう。馬鹿馬鹿しい」


 今何か、聞こえてはいけない言葉が聞こえたような気がする……始まりかけた物語を五秒で閉じるような? 小説の第一話を二行で見切り、ブラウザバックするような? そんな言葉が。

 何か反論したいような気もするのだが、俺は猿轡を噛まされている。


「んむー! むー! むーむー!」


 俺は抗議の呻き声を上げながら顔を上げる……



 俺の小さな世界の扉を開けてくれたのは……水色の髪のショートカットの女の子だった。少しボーイッシュな感じで目鼻がぱっちりしていて可愛らしい……ぷるんと柔らかそうな、形も色もいい唇が特に印象的だな。ちょっと男の子っぽい服装に革鎧なんか着ているのが、無理してるみたいで更に可愛らしい。


 後ろで不機嫌そうに腕組みをしているのは……薄紫のロングヘアを一つくくりにした背の高い少女だ……目元はきりっと切れ長、引き結んだ唇もきりりとして、正にクール・ビューティという感じだ。そして、まるでレースクイーンか何かのような体にぴっちりとした衣装の上に、胸甲や手甲、脚絆などを纏っている。


 もう一人、白いブラウスにヒラヒラのワンピースを合わせた、お嬢様っぽい女の子……濃い目の金髪は肩口までのセミロングで、他の二人と比べると女の子らしい女の子という造りの……端整で優しげな目鼻立ちの、これまた大変な美少女だ。丸っこい眼鏡をしてるな。そして……少し怖がっている様子だ。



「むぅ。むぅむぅ」


 少し落ち着いた俺は、彼女達にここから出してくれるように御願いしてみた。今の俺は自力では何も出来ないのだ。

 すると……


「とにかく閉めろ」


 薄紫がそう言って前に出て来て……箱の蓋を閉めた。ちょっと!!



「一体何だこれは! 聞いていたのと違うぞ! 魔王を倒す武器はどこだ!」

「解らないけど……鍵がかかってないのはおかしいと思ったんだ、僕も」

「あ、あの、今の方に伺ってみるというのは駄目なんですか?」


「見ただろう! 今の男の視線を! 私も全身を舐め回すように見られた!」

「そ、そうかな……僕はそんなの感じなかったけど……」

「クレールさんは……その……スタイルが良いからではないかと……」


「何を言い出すんだ、違う、ああいう男は女なら誰でもいいんだ!」

「じゃあ僕でもいいって事じゃないか! でもそんなの全然無かった!」

「あああ、喧嘩はだめです、中の人に聞こえますわ」



「もごー!! もごもごー!!」


 俺は力の限り暴れ、声を出す……だんだん息苦しくなって来た、このままだと俺は死ぬ。いやだ。こんな死に方をしたら来世は閉所恐怖症になってしまう。

 こんなつまらない諍いを聞かされながら窒息死するだけの人生なんて、あまりにも惨め過ぎないか。



「とにかく……人の命を救うのも勇者の務めですし、まずは出して差し上げては……」

「まあ、もしかしたら箱の底にちゃんと武器が入っているかもしれないな」

「大丈夫? 今開けるよ」


 再び、世界に光が満ちた。



 俺はともかく、箱の中からは出して貰えた。やはりここは森の中だが……どこのどんな森の中なのかは全く解らない。

 多分縄を解いては貰えないだろうなあとは思っていたが、やっぱり縄は解いて貰えなかった。俺が女共の顔や体をジロジロ見たからか……仕方無いじゃん……男の性だよ……仕方無いじゃん……

 せめて……せめて猿轡を解いてもらえないものか……そうしたら口八丁で騙して縄を解かせる事も出来るだろうし……何かこの娘達チョロそうだし。ついでにちょっとねんごろになってだな……いかん、こんな事考えるから顔に出るんだ……


「やっぱり、箱の中にも何も無いね。古びたシーツ、エールの空き瓶……」

「待て、シーツの間から何か落ちた……って! 春画じゃないか! 恥知らずめ!」

「この方……この箱の中で暮らしていたのでしょうか」


 知らねえよ……知らねぇ……俺はまだ何もしていない。何もしていないのに段々立場が悪くなる。畜生。なんて世界だ。無くなってしまえ。こんな世界無くなってしまえ。


「あのね。この人自体が……アーティファクト、って可能性は無いかな」


 俺の背中で、水色がそう言った。

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
不遇スタートから始まる、貧しさに負けず頑張る女の子の大冒険ファンタジー活劇サクセスストーリー!
是非是非見に来て下さい!
― 新着の感想 ―
[良い点] なんで先生は何書いても面白く書けるんですかw
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