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ある意味ご褒美ですッ!

「おぶろっっ!?!!」


思わず出た声を置き去りにして俺は吹き飛ばされ、顔面からバウンドして錐揉みしつつそのままの勢いで壁に叩きつけられた。

壁にめり込んだ体を引き抜きつつ、俺は思わず零した。


「どうしてこうなった…。」


元の世界で死んでこっちの世界に呼ばれて、霊鳥に旅をしてくれと言われた。ここまではいい、ラノベとかでありえる展開だ。体が勝手に強化されてたり、強力な武器防具をもらうのも、まぁいい。

だがこれは納得いかない。断固抗議する。


「なんで俺を呼んだ張本人にボッコボコにされてるんですかねェェェ!!!!」


「言ったであろうが、お主には鍛錬してもらうと。」


土煙が晴れて俺の視界の先に立っていたのは、燃えるような紅に太陽の光のような金色が入った長髪に、わりと高めの身長、スラリとした肢体の美女。

目鼻立ちがはっきりして、元の世界ではそうそう目にしたことのない整った顔には呆れの表情が出ている。

この女性、先ほど言ったように俺を呼んだ霊鳥本人である。

鍛錬をしてもらうのセリフの後、人型をとった霊鳥(コイツ)に、あれから延々とフルボッコにされている。


「戦う機会がなかったのはわかっておるが、これでは鍛錬にならんぞ、お主。」


「いや…ホント無茶言わないでくれます?無理ですって、これ。」


「無理ではない。肉体自体は強化されておるし、得物も渡しておる。集中出来ておらんだけではないか。」


「そんな恰好で集中出来るかァ!!服着てくれないですかねェェ!?」


そう、俺が集中出来ていないのには理由がある。霊鳥(コイツ)人化して鍛錬を始めてからずっとマッパなのだ。元が鳥だからなのか感覚が違うのか、羞恥心を欠片も感じていないらしい。

こっちとしてはたまったものじゃない。いや最初はこんな目に合った俺へのご褒美か!と思っていたのは認める、反論はしない。ただそれで鍛錬というか模擬戦をされるとね、男の性か視線が嫌でも誘導されてしまうわけで、次の瞬間には地面か壁にハグをしているザマになる。

加えて鍛錬を始めて恐らく体感で数日経っている。しかし、その間食事を含む休憩を一切摂っていないのだ。

曰く俺の体は霊鳥達にほぼ近い形になっているので、基本的に食事・睡眠の必要はないらしい。空気中の魔素を吸収だとか循環だとかなんか言っていたが鍛錬の最中だったので、とりあえず不思議パゥワーということで納得しておいた。


「またそれか、面倒な。そこまで言うなら仕方なかろう。これでいいか?」


「…出来るならもっと早くやって欲しかったですけどね。それでいいです。」


「こういうのは動きの邪魔になるので、好かんのだ。」


「こういう状況じゃなければ俺も好きですけどね。鍛錬に集中出来ないんで、それでお願いします。それから休憩とりましょう、休憩。」


「必要なかろう?今のお主の体は何週間か飲まず食わずでも死なん。」


「いやそれは聞きましたけどね、こっちは人間上がりなんで、さすがに休憩とか食事の習慣はいきなり抜けないですし、精神的に死んじゃいますんで。」


「軟弱よのう。」


再三のお願いで服を着た痴女にやれやれといった風に言われ、イラっときたが今は黙っておく。

ようやくとれた休憩を潰したくはないのだ。


「なんか食べる物とかないですかね?」


ボーっとしているだけでも休憩にはなるし、この体は食べなくても平気らしいがそんなすぐ元の世界の感覚は抜けない。飢えているわけではないが、何かしら腹に入れたい。


「ないぞ。我は食べる必要がないのに用意する理由が無かろう。」


「ですよねー。」


はぁ、とため息が思わず出た。そんな気はしてたが、改めて言われると余計に何か食べたくなる。

そんな俺を見ていた霊鳥はあごに手をやり、何かを考えるそぶりを見せた。


「ふむ、ひょっとすればヒトの食い物があるやもしれん。暫し待て。」


そう言って霊鳥は、何かを探るように空中に空いた穴に手を突っ込んだ。

実際には初めて見るがあれが空間魔法らしい、よく言うアイテムボックスとかストレージみたいなもんだという。

そのままゴソゴソとやっているのを見ていると、何かを見つけたように手が止まり空中の穴から引き抜いた時には使い込まれた革袋を数個持っていた。


「なんです、それ?」


「以前神獣を討てれば願いが叶う、という話がヒトの間で流れてな。その時に我にも多くのヒトが挑んできたのだ。」


「マジですか。」


鍛錬しててもわかるが、俺の体のスペックは完全に人外のそれだ。そのスペックをして魔法無しのハンデをつけた霊鳥に未だに指一本触れることが出来ない、化け物レベルの強さだというのは身に染みて理解している。そんなのに挑もうとは、よほど強さに自信があったのかバカなのか。


「なんの根拠もない噂よ。挑んできた奴らは全部返り討ちにしてやったがな、そのうちの何人かがこの収納袋を落としていきおった。中に食い物があるかもしれん、探してみよ。」


「おお、ありがとうございます。」


霊鳥に渡された収納袋を探れば、内容物の時間経過が起きないものだったらしくパンにチーズに干し肉やら旅の保存食らしいものが色々出てきた。

これだけあれば当分の食事は大丈夫だろう。

ただそのまま食うのも気分が出ないので、パンに切り込みを入れて(刀で)、干し肉の塊を削ぎ落し(刀で)、チーズを削り(刀で)簡単なサンドイッチを作った。

それを見ていた霊鳥は、何とも言えない微妙な顔をしていた。


「…お主使い方間違っとるだろう。」


「包丁なんて無いですし、代わりになるのはこれぐらいだったんで。」


食べれないことはないが、そのままだとさすがに固いので魔法で出した火で全体を炙る。

チーズと干し肉に残った脂が溶け出し何とも言えない旨そうな匂いを出し、洞窟内に漂った。

空腹を感じないはずの腹が鳴り、その催促に従ってかぶりついた。

しばらくぶりの食事だからか、思わず無言でパクついてしまい気付けば一個ぺろりと食べてしまっていた。

これじゃ足りないともう一個作って炙り始めたところで、くるくると腹が鳴る。俺ではない。

炙り終えたサンドイッチを食べようとしたところで、また腹が鳴る。これも俺ではない。


「…わかった、わかりました。俺の負けです、どうぞ食べてください。」


一個目を焙っていた時から、霊鳥がこっちを凝視していたのは知っていた。

ただ物珍しいだけかと思ったが、匂いに負けたらしい。二個目を作り始めた時からさっきよりも近い距離で凝視され、腹まで鳴らされたらさすがに無視できなかった。


「いや、別に腹が減ったというわけではないのだ。(キュルキュル)うむ、そうだ、珍しくてな。(きゅ~)それがヒトの(くぅ~)料理かと思うてな、(くるくるくる)お主の食事を取ろうと(ぐぅぅ)いうわけでは…」


「本音が駄々洩れですから。建前で隠しきれてないですから。」


「………。」


「まだ量はありますし、どうぞ。元々あんたのですからね。」


「…うむ。」


しれっとサンドイッチを受け取った霊鳥はそのまま一口かじり、動きを止めた。

そのまま様子を見ていると、ハッとしたようにガツガツ食べ始め、あっという間に完食していた。

食べ尽くしてしまったことに気付いた霊鳥は、しょんぼりしたような雰囲気を出して、名残惜しそうに手についた脂をペロペロなめとっている。


「おかわりはいりますか?」


「…む、いただこう。」


結局その後、霊鳥は5個、俺は2個平らげ休憩は終了し、これ以降の鍛錬では休憩と食事を適宜取るようになった。

初めてヒトが作る食事というものを食べたらしい霊鳥は、これ以降味覚を楽しんでいるようで俺が食事を作っている時には無言のプレッシャーが掛かるようになった。

まぁ、こちらとしても一人で作って食べるのは味気ないので丁度良かったが。


鍛錬の日々の中、ある日食後にコーヒー(らしきもの)を飲んでいると、向かいに腰掛けた霊鳥が真面目な顔をして話しかけてきた。


「のう、お主は何故自分を抑え込んでおるのだ?」


「……どういうことです?」


「自分でも薄々わかっておろうが。それとも本当に自覚が無いのか?」


「………」


「鍛錬を続けて以前に比べ、格段に腕は上がってきておる。事実、今日の鍛錬でも何度か我に打ち込めたはず。確実に反応していたにもかかわらず、お主は躊躇ったな。」


「そりゃあ、元の世界じゃこんな荒事なんてやったことありませんし、躊躇いますよ。」


「それだけではないな。こういった休息や食事の時、我と話している時、それにこちらに呼び出した時もそうであった。お主は己の感情や行動を極力出さぬように抑えておろう。」


「っ…!!」


霊鳥の言うことは図星だった。傷つけることは勿論怖いが、それだけではなく誰かと共にあることが、接するのが怖いのだ。誰かに期待されること、馬鹿にされること、裏切られること、いなくなられることが恐ろしい。だから、躊躇って自分自身が思う行動をせず感情を極力出さず、その場に適した当たり障りの無いような振る舞いをしている。


「お主の問題はそこであろう。そこが何とかなれば鍛錬の成果もより上がるであろうし、何よりもお主を呼び出した目的に不可欠なのだ。」


「自由に生きろってやつですか。」


「うむ、今のままのお主では自由に程遠く、結局己を抑えつけてこの世界で過ごすことになるだろう。それではダメなのだ。お主の思うように生きればよい、したいと思ったことをすればよい。お主が己に課した枷を取り払うのだ。」


「……そうは言われても簡単に出来るもんでもないですよ。」


「であろうな。まだまだ時間はあるのでな、徐々にやっていけばよい。まずはその口調からかのう。」


「は?口調、ですか?」


「うむ、我と話すときはその口調を意識しておるようだが、お主本来の口調はそうではあるまい。」


「それはそうですが。一応目上というかまぁ上の立場の存在なんでしょう、霊鳥って。それならこの口調じゃないとまずいかなと思いまして。」


「構わぬ。言ったであろう、己を無理に抑えるなと。それにお主の今の体は我らに近く、我らはお主にこの世界に来てもらっていると考えよ。」


「はぁ…。そこまで言われるならそうしますけど。」


「ほれ、言ったそばから。」


「はいはい、わかったわかりました。これでいいんだろ?」


「うむ、それでよい。我とお主は対等と思い、話をせよ。言いたいこと思っていることを抑え込まずに出してしまえ、我が許す。」


「…そうですか。」


そんなことを言われたのは元の世界でも一度も無く、ほんの少しこの世界に来てよかったと霊鳥に会えて良かったと俺は思った。


「お主の思いや考えを素直に出すがよい。さすれば、お主にとってもこの世界に来たことが良き事になろう。」


「そうか、そうだな。…わかった。じゃあ、さっそくなんだが。」


「うむ、なんだ?存分に言うてみよ。」


「お前食べすぎ。太るぞ。」


「お主…今我が良い事言った感じだったであろう?今言わなくてもよかったであろう?なあ、怒っとるだろう、食べ過ぎたの怒っとるだろう?」

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