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第一種接近遭遇

冷たいものが顔に当たり、意識が覚醒した。

目を開ければ、視界にはデコボコとした岩肌が横向きに映っている、どうやらうつ伏せで倒れてるようで顔が痛い。

寝起きのせいか頭が回らない。元々そこまで回転する脳みそも持ってないが。

親子連れを助けて、車に挟まれて死にかけていたはずだ。

体が動くのを確かめながら体を起こし、その場に座り込んだ。


「さっきまでのは夢か…?いや、違う…よな」


夢を見て起きた時は夢だと自覚があるものだが、さっきまでのは間違いなく違うと断言できる。

ちゃんと下半身はあるし、血も出てない。

ただ生々しい感覚だけが残っていて、アレは現実だと主張している。


「訳がわからん…。それにどこよ、ここ?」


洞窟だろうか、左右を見れば3~4メートルほど向こうにむき出しの岩肌、上を見れば薄暗いが同じく岩肌の天井がうっすら見える。

どう考えてもおかしい。

さっきまでのがもし夢なら、俺は自室のベッドの上にいるはず。

さっきまでのが現実なら、俺は舗装された道路上で車と壁に下半身をサンドイッチされてたはず。

あの状態から意識を取り戻すとしたら、まだサンドイッチされてるか次は病院か、もしくは


「あぁ、あれか?俗に言う天国地獄だとか死後の世界ってやつか?」


薄暗く岩肌に囲まれてる現状じゃ天国という感じでもないが。


『ふむ、半分正解だのう』


「!?誰だ!?」


頭に響くように、俺の独り言に対する返答があった。

思わず声をあげながら振り向いたが、そこには誰の姿もない。

すわ、心霊現象かと背筋が凍ったが死後の世界だとすれば俺も大して変わりないのか?と一瞬考えた。


『こっちにおる。お主も混乱しとるだろうし、詳しく説明してやるのでそのまま道なりに来るといい。』


声が続けて話しかけてくるが、この声を信じていいものか。

さっき確かめたように左右と後ろは岩壁で目の前には道が続いているが、先が見えない。

携帯で助けをと思ったが、携帯や財布、ティッシュすら無くなっている。

服は着ているので、全裸でないのが辛うじての救いか。


『はよう来い、危害は加えぬ』


三度声が聞こえた。

どのみち動くしかないか、と腹をくくって声に従うことにした。


「わかりました、そっちに行きます。」


『うむ、そのまま進めばよい』


俺より一回り大きい程度の通路に足を踏み出した。

しばらく歩いただろうか、声の主が言う通り一本道で迷う要素はなかった。

ただ薄暗い中黙々と歩くのもなんだかしんどいものだし、少しでも状況を知りたかった俺は声の主に対して話しかけた。


「えぇと、聞こえてますか?」


『聞こえとる』


「そうですか、ならあんたはなんなんです?それに俺はどうしてこんなところにいるんですか?」


『ふむ、それに関しては言葉で聞くよりも実際に会って話した方が早い』


「あー、そうですか…。まだ言うつもりは無いと。いつまで歩けばいいんです?」


『安心せい。もうすぐ見える』


その声の響きが消えた頃前方の通路が奥の方から明るく照らされているのが見え、やっとゴールかと心持ち足早になり、通路の外へと出た瞬間俺は言葉を失った。

燃え盛る炎のような紅と朝日のような金色の体を持ち、火の粉のように光を周囲に放つ神々しい生き物がいた。敢えて言うなら不死鳥というのがふさわしいだろうか。

2~30m四方はありそうなその広間の奥にいたそれは、俺の方をじっと見据えていた。


『改めて挨拶しよう、我は霊鳥。ようこそ、異世界へ。』


「……っは!?あんたがさっきの声の!?霊鳥!?異世界って!?」


『うむ、先ほどまで声の主、霊鳥というのは我らを総じてヒトが呼ぶ名だ。異世界というのも言葉通り、お主からすれば別の世界ということだ。』


「…はは、訳がわからん。なんだよ、それ……」


霊鳥とやらから告げられた言葉が理解できなかった。

小説やアニメだとかで異世界モノを見たこともあるが、あくまでフィクションの世界だ。

そんなことが現実に自分が体験するなど思いもしなかった

だが今目の前に地球では存在するはずのない霊鳥なんてものがいて、しかも喋っている。

俺の体も目の前の存在が発する圧みたいなものをピリピリと感じ取り、まぎれもない現実だと教えてくる。

ただ未知の存在ではあるが、恐怖はなぜか感じない。


「あんたが言ってたのはこういうことですか…。確かに会った方が早いか。」


『そうであろう、理解したようでなによりだ。さて約束通り詳しく説明をしよう、もっとこちらへ来ると良い。取って食いはせぬ。』


「…わかりました。」


そう返した俺は霊鳥の近くへと移動した。

わかってはいたが間近で見るとやはりデカい。頭まで3メートル程度はあるだろうか。

その先の霊鳥の目を見ながら腰を下ろした。


『ではまず、説明の前に双方の知識のすり合わせをしたいのう。』


「知識のすり合わせ?」


『うむ、この世界の成り立ちや基礎的な知識だとか、逆にお主の世界のものをお互いに知っておかねば理解に齟齬が生まれたり、説明だけで無駄に時間が掛かるのはわかろう?』


「あぁ、なるほど。それは理解しましたけど、どうするんです?」


『少し驚くかもしれんが、そのままじっとしておれ。』


そういって霊鳥は首をこちらに寄せ、俺の額に自分の頭を軽く当てた。

そこから自分の頭の中にこの世界の知識が流れ込んでくるのがわかった。いわゆる魔法と呼ばれる技術だとかこの世界の成り立ち、社会の仕組みそういったものが元から理解していたように頭の中にある。

よくこういうパターンだと頭痛が起きるものだが、それはなかったので少しホッとしたと同時に異世界であることを改めて認識した。


『今ので基礎知識は定着したはずだが、わかるか?』


「あぁわかります、すごいな。ほんとに異世界ですか…」


『そうだ。だが、お主の知識にある魔王のような世界の危機があるわけではない。』


「みたいですね。今の知識の中には、そんな存在なかったですし。じゃあなんで俺はここにいるんです?」


『うむ、そういう意味では全く問題ない。お主がここにいるのは、我が呼び寄せたからだ。』


特に世界がヤバいわけじゃないけど、自分が呼んだ。そう言う霊鳥は少し自慢げに見えた。鳥なのでわからないが人で言うドヤ顔をしているのだろうか。

ていうか、お前が呼んだのは状況的に何となくわかるよ。そうじゃなくて俺が呼ばれた理由が知りたいんだよ。


「…そうですか、なんで俺は呼ばれたんですかね?」


『お主に渡した知識にもある魔法陣を使って、お主のいた地球のある世界で死んだ人間を呼び出したのだ』


そうか、それはわかった。

ただ違うんだよ、()()使()()()()()()()()()じゃないんだよ。そこじゃないんだよ、俺が知りたいのは!

また自慢げな雰囲気出してるし、ちょっとイラっとしてくるな霊鳥(コイツ)


「……この世界に呼び寄せた理由となぜ俺だったのかが知りたいんですが。」


『む、そうだったか。呼び寄せた理由というのはこの世界を回って欲しいのだ。』


「?どういうことです、旅して回れってことですか?」


『うむ、まぁその通りだ。この世界、文化は出来上がって時間が経ちすぎていて外部からの刺激が必要でな。知識でもいい、その種でもいいからこの硬直し始めた世界に刺激を与えて欲しい。』


「どういう…何をしろってことです?」


『我からは何をしろとは言わん。お主の好きに自由に生きればいい、好きなことをすれば良い。例えば文化的に革命を起こしてもいい、世界統一に乗り出してもいい、逆にどこかに腰を据えてひっそり暮らしてもかまわぬし、善悪も問わぬ。お主という外部の存在それ自体がこの世界にとって刺激になるのでな。』


「そりゃまた…気前のいい話ですね。向こうの世界に戻ったりも出来るんですか?」


『お主に関しては無理だのう。こちらに来る直前の事を覚えておろう?』


「……ああ。車に突っ込まれて…やっぱり死んでたのか、俺。」


『うむ、あの時お主は死んでおる。たまたま我が陣を起動したタイミングとお主が死んだタイミングが重なってこちらに来た、という形だのう。他に色々な要因はあろうが、主にそれが一番の理由だのう。」


「たまたまってことか。…まぁ選ばれた、なんてパターンよりは気が楽ですけど。」


『そう言ってもらえると助かるのう。でだ、お主には世界を回って欲しいわけだが、知識にあるように人に害を及ぼすこの世界の固有種もおればヒト同士の争いもある。呼んでそうそう死なれては我も寝覚めが悪いし、コスパも悪いのだ。』


コスパって…確かにそうだろうけど。こっちの知識さっそく使いこなしてやがるし。


『ゆえにこちらに来た際に、そうそう死なぬように色々な面で元の世界より強化されておる。それと得物なしというわけにもいかんだろう、お主にはこれをやろう。』


いつのまにか俺は改造人間になってるらしい。強化ってなんだよ。霊鳥が言うなり俺の前に光が集まり弾け、中から霊鳥が放つ紅と金色をあしらったバンブレースとガントレットを合わせたような肘から先用の防具とグリーブとサバトンを合わせた膝から下用の防具、それに


「なんで刀…?」


和洋折衷にもほどがある。いや、中二心はすごく刺激されるんだけれども。男の子は大体剣とか刀とか好きだからね。


『体形や骨格的に叩き切るいわゆる西洋剣よりは、そちらの得物の方が使いやすかろうと思ってな。

一度着けてみよ、そのまま腕や足を通せばよい。』


言われるままに防具を着けてみれば、少し大きいと思ったものがぴったりのサイズに勝手に調整され動かす違和感すら感じなくなった。

正直派手すぎて趣味じゃなかった色合いも俺に合わせるかのように、全体的に黒が混ざり落ち着いた色合いになった。


「おぉ、すごいですねこれ。動いても違和感が全くないです。」


『…うむ、色まで変わってお主専用になっているからな。装具も刀もそれぞれがヒトが作り出したモノの遥か上をいく性能だからのう。』


「そんなすごいんですか、これ。俗に言う宝具とか神具みたいなもんじゃ…?」


『その通り。ただどんな良い物も、使いこなせねば意味はない。違うか?』


「やっぱり、そりゃそうですよね。」


『うむ、というわけだから、お主にはしばらくここで鍛錬してもらう。』


「は?ここでですか?」


そう返した瞬間霊鳥から視界を焼き尽くす光が溢れ、俺は思わず眼をふさいだ。

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