戦闘は足し算ではなく掛け算で行われる。
《ウェーブ・ツー》
ゆらゆらと燃える炎の文字を見ていると林からゴブリンが二匹現れる。
頭上の名前はゴブリンAとゴブリンBとなっていた。
「今度は二体かよ」
そう呟くのと同時に自分の頭上にダイスが現れる。二体のゴブリンが立ち止まったのをキッカケに俺は走り出した。
「おらっ!」
右側にいるゴブリンAへと俺が攻撃する。
加速をつけた蹴りを避けようとするゴブリンだが俺はしっかりと緑色の肌をしたお腹へと命中させた。
「プギャッ!」
かなり手応えのいい蹴りはゴブリンを吹き飛ばし、ゴロゴロと地面を転がせる。
ダイスは俺が六、ゴブリンAが四。
ゴブリンBにダイスは出ていなかった。
HPバーが半分以上削れてたゴブリンAが立ち上がると俺の頭上からダイスが消え、ゴブリンBにダイスが現れる。
もしかして――、と思う間も無くゴブリンAとゴブリンBが同時に走り出した。
「同時かよっ」
二匹の頭上にあるダイスが回り始めた瞬間、俺の頭上にもダイスが現れる回り始める。
二体同時の攻撃なんて対処できない。
俺はそう確信して片方は諦めることにした。
「ぐああっ!」
俺は近かったゴブリンBの噛みつきを何とか防ぐも鋭い爪で腕をやられ、対処のできなかったゴブリンAに脇腹を噛み付かれる。
激痛に耐えながらダイスを確認すると俺が四、ゴブリンAが三、ゴブリンBが四だった。
俺のHPバーは二割近くも削られ残り六割ちょっととなる。
これは……はやく片方を倒さないとやばいかもしれない。
「うおおお!」
俺は焦りを覚えながらゴブリンAへと蹴りかかる。
今度は防御され蹴りはゴブリンAの両腕で威力を抑えられてしまう。
ダイスは俺が四、ゴブリンAが六。
それでもダメージはあったのか一割ほどのHPバーが削れていた。
俺が距離を取るとゴブリンAとBにダイスが現れる。
「ぐっ!」
今度も同じようにゴブリンBの攻撃を防ぐもゴブリンAを対処することが出来ずに噛み付かれてしまう。
ダイスは俺が二、ゴブリンAが四、ゴブリンBが一。
相変わらず痛みは本物だ。
どうせ怪我しないのなら痛みもなくしてほしい。
これが現実なら血を止めるたりですぐに戦闘が出来なかったりするし、最悪炎症などを引き起こす恐れもあるだろう。
一つ星冒険者の死因の内でゴブリンから受けた切り傷や擦り傷をそのまま放置して炎症になんてのはよく聞く話だ。
チラリと確認した俺のHPバーは半分を下回っていた。
本格的にやばいかもしれない。
おそらくこの二体を倒して終わりなんてことはない。ゴブリンソルジャーを倒さないと戻れないのだから。
次の戦闘がゴブリンソルジャーだけならいいのだが、三体出てくる可能性もある。
フォレストウルフの時も最初は一体、次に二体だった。戦闘をこなすごとに数が増えている。
「死ねっ!」
俺は動けるようになるとすぐに走り出し、思いっきり力を込めて蹴りを繰り出した。
「ギャ!」
ダイスは俺が三、ゴブリンAが五。
ゴブリンAが伸ばしてきた腕が邪魔をして上手く命中しなかった。
「くそっ!」
敵の腕を弾いただけに終わった攻撃に悪態を吐く。
だが、反省してる暇もなく次の攻撃が押し寄せてきた。
「いがあああ!」
今回はゴブリンBの攻撃すら防げずに腕を噛まれてしまう。ゴブリンAには太ももを噛み付かれた。
ダイスは俺が二、ゴブリンAが三、ゴブリンBが三。
俺のHPバーは二割ほど無くなった。残りはもう三分の一くらいだ。
次で決めなければ本気で危ない。
HPバーが無くなっても死ぬことはないのが救いだが……。
「この……っ!」
地を蹴るとダイスが回り始める。
繰り出した蹴りが緑色の体に当たると同時にダイスが目を決めた。
俺が五、ゴブリンAが三。
感じていたゴブリンの柔らかい感触が消えた。すぐに倒したんだと俺は確信する。
そんな確信を裏付けるように音もなくゴブリンAの体は光の泡となって消えていった。
「あとはお前だけだぞ……」
俺は残ったゴブリンBを睨むと、
「ギギッ」
頭上にダイスの現れたゴブリンBも俺を睨み返してくる。
「ギギャ!」
ゴブリンBが攻撃をしてきた。が、噛み付かれることもなくガードする。
ダイスは俺が五、ゴブリンが四。
ダメージはなかった。
そこからはほぼ一方的な展開になる。
俺が蹴って、ゴブリンの攻撃を防ぐ。
それだけを繰り返すだけでゴブリンBのHPバーはみるみる削れていき、三度目の蹴りを食らった瞬間に無くなった。
「……やばいな」
天に昇っていく光のカケラを眺めながら自分のHPバーを確認する。
ゴブリンBになってからはあまりダメージを受けなかったが、二匹の時に削られすぎた。
残りHPバーは二割ちょっと。
空中に炎の文字が燃え上がる。