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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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ダンジョンマスター

「やっぱりここでサボってる」

 ひなたぼっこスポットで半溶けになっていると、妹のユイが音もなく姿を見せた。
 母さんの実の娘、ドラゴン。
 生意気な性格をしているが、人間の姿をしてる時はメチャクチャ可愛い。

「ほんっとだらしないね、そんな事で恥ずかしくないの」

 ただし黙っていれば、ってつく。
 まあユイの悪口は慣れたもんだし、今更どうと言うことはないが。

「はずかしくねえぜ、見ての通りおれスライムだからな」
「見た目とかどうでもいいの! お母さんの子ならもっとお母さんのこらしくシャキンとしてなさいよ!」
「へいへい。ていうかお前何しに来たんだよ」
「西の森、勇者たちにだいぶ荒らされたから、お兄ちゃんが直してきてよ」
「森の修復ぅ?」

 おれは盛大に眉をひそめた。

 毎日のように侵入してくる勇者だが、その際に森の住民であるモンスターだけじゃなくて、時には森そのものに被害が出る。
 それは純粋に戦闘のとばっちりだったり、あるいは腹いせで壊されたり、はたまた何か仕掛けをしていったりと様々だ。
 ただどっちにしろ森のモンスターにとって害になるから、すぐに直したり排除したりしないといけない。

「なんでおれが? また母さんの命令か?」
「ううん、お母さんは寝てる。あたしの判断だよ」
「ユイの? じゃあ別におれじゃなくても」
「みんな忙しいの! あっちこっちで勇者が侵入してるし、他に出来る人がいないの。それになんでおれとかじゃない、母さんの息子としての義務なの!」
「義務って」

 面倒くせえなそれ。
 おれ義務って言葉大嫌いなんだよ、その言葉にくっついてくるものは例外なく面倒臭い、ただただ面倒臭い。
 権利は大好きなんだけどね。

「見ての通りおれも休憩中だから他当たってくれ」
「行かないとお母さんに言いつけちゃうよ」
「い、言ってみろよ。そんなの怖くともなんともない――」

 強がってみたがだらだら脂汗がでた、スライムの体から変な汁がドバドバとにじみ出た。
 本当義務ってのは面倒臭い、だってそこにくっついてくるのは大抵正論だ。
 そして正論ってのは大抵気持ちを無視してただただ正しいだけ。

 森の修復もそうだ。他のモンスター、ひいては森のためにはやらないといけない。
 そしてそれは今おれしか出来ない。

 これを断ったら母さんの折檻(全殺し)がひどい事になる。

「はあ……わかったよ、やればいいんだろやれば」
「うん、分かればよろしい」

 ユイは腰に手を当てて、頷いた。
 人間の中に混じってもトップクラスくらいに可愛いのに、こう言う時はものすごく憎たらしく見える。

 そんなユイは手を伸ばしてきた。

「なんだよ」
「お兄ちゃんが途中で道草食うといけないからあたしがつれて行くの」
「いいって、一人で行けるから」
「そういうのは普段のサボり癖を直してから言って」
「ぐっ……」

 ぐうの音もでなかった。
 ため息がでた。しょうがない、さっさと行ってさっさと終わらせるか。

「言っとくけど終わったら今日はもう休むからな」
「ご自由に」

 そう言ってジト目でおれを見るユイの手の上に乗った。
 ユイはおれを胸もとに抱いた。

「飛ばすよ」

 そう言って森の中を疾走するユイ、さすが生粋のドラゴン、身体能力が半端ない。
 景色が後ろに流れていってほとんど見えない。
 そしておれの体はガッチリと抱きしめられている。

「そんなに強くしなくても逃げねえって」
「どうだか」

 鼻で笑うユイ、見た目は可愛いけど、性格は本当に可愛くないな。
 と思ってたらまた強くぎゅっとされた。だから逃げないって。

「……♪」

 おれは諦めて、更に強く抱きしめてくるユイになすがままにされて、運ばれていった。

     ☆

 ディープフォレスト西部、ユイにつれてやってきたそこはまるで荒野だった。
 激戦で木々が吹っ飛び、地面がえぐられ土が焦げている。
 上を向けば青々しいそらが見えて、森特有の濃厚な魔力もどこへやらだ。

「だいぶやられたな」
「結構強い連中だったみたいよ」
「この有様じゃ結構犠牲も出たんじゃないのか?」
「うん、それもあってお母さんは今眠てるんだ、復活のしすぎで」
「そうか」
「これでも最後はヒメお姉ちゃんが出てきたから犠牲は少なくてすんだんだけどね。お姉ちゃん言ってた、『十年に一度の強さと粘りのある勇者』だって」
「酒の評論かよ」

 突っ込んでみたが、わりと笑えない冗談だ。
 ナンバー2のヒメが出てくるやばい勇者、相当なもんだったんだろうな。

 おれは魔法陣を広げ、魔力を大量に放出した。
 荒れた地面を修復し、折れた木々をまた生やした。
 地面は元の土と草にもどり、木々は再び空を覆った。

 それまでどこかに行ってた森の濃厚な魔力も、修復された事でまわりから徐々に戻ってきた。

「こんなもんか」
「だね。その、お、お、おつ――」
「せっかくだしワナの一つでも作っていくか」
「――おつかって、ワナ?」

 何か言いかけたユイが驚いておれをみた。

「ああ、犠牲を出すのもアレだから、ワナである程度勇者の戦力を削れるようにしといたほうがいいだろ」
「それはそうだけど……お兄ちゃんやってくれるの?」
「乗りかかった船だ、ちょっと離れてろユイ」
「……」
「ユイ?」
「え? あ、うんごめん」

 何故かぼうっとおれを見ていたユイがわれに帰って、言われた通り離れた。

 更に魔法を使う、頭の中でイメージして、それを魔力で具現化する。
 いま生やしたばかりの木々がまるで立ち上がる(、、、、、)かのように、地面から根っこが出てきて足のようになった。
 そして動き回って、それぞれの位置につく。

「なにこれ?」
「軽く迷宮にした、迷いの森ってところだ」
「迷宮に見えないけど?」
「入ってみるか」

 ユイは頷き、おれが迷宮だと言った動く木々の中に入った。
 瞬間、木々が動いて、構造が一変した。

「えええ!? な、なにこれ」
「生きてる迷宮ってところだ、中に勇者が入るたびに――」

 そう言っておれも中に入って、ユイの隣にたつ。
 すると木々がまだ動いて、構造が変わった。

「こんな風に変わる」
「す、すごい……」
「ん?」

 なんかつぶやいたユイ。

「べ、別に何もいってない」
「そうか。試しにユイが攻略してみろよ」
「あたしが?」
「テストだ、ドラゴンの力じゃなくて人間っぽく攻略してみろよ」
「わかった、やってみる」

 ユイは言われたとおり迷いの迷宮を攻略しだした。
 まずは歩いて外に出ようとするが、動く木々が作る道、分岐を通るたびに迷宮そのものの構造が変わる。

「で、出られない。どうしたらいいの?」
「ドラゴンの方角があるだろ? あれにそって暗黒龍の方角から入って、天空龍を経由して閃電龍から抜けていくんだ」
「……?」
「なんでドラゴンのお前がちんぷんかんぷんだって顔をする」
「しょ、しょうがないじゃん、そんなの教わってないんだから」
「はいはい、じゃあまずこっちね」

 逆切れするユイにおれが先導する。
 迷宮が変わるのを織り込み済みでしばらく歩くと、目の前に輝く湧き水が現われた。

「何これ?」
「体力と魔力を回復する泉だ、これもつくっといた」
「なんでそんな物をつくったの? 勇者に有利になるだけじゃん」
「これは一回使ったらなくなるヤツだ。こういうのがあるとな、勇者はペース配分を間違えたり引き際を間違えたりするんだ。しまいにはこういうのを期待して最初から無茶をする様になる」
「そ、そう言うものなの?」
「そういうものだ。無茶をしたり引き際を見誤ったヤツをさくっとやっちまうためのものだ」
「……」

 目を見張るユイ、驚いてるのかこれ。

 更に進むと、進行方向とは反対側に宝箱が見えた。

「あれは?」
「宝箱だ、ちゃんと宝物をいれてある。この距離からなら勇者どもは鑑定の魔法でいいものが入ってるって分かるはずだ」
「なんでそんなものを?」
「……取って見ろ」
「……? わかった」

 ユイは不思議がりながらも宝箱に向かって行った。
 次の瞬間彼女の姿が消えた。
 狙い通りの動作、ドラゴン相手にもワナは発動するんだと確認したおれは同じように進み、同じように消えた。

 飛ばされたのだ、宝箱のまえから、迷いのダンジョンの入り口まで。

「どういう事なのお兄ちゃん」
「もう一回ダンジョンに入らせるためのワナだ。ちゃんと宝物が入ってる箱、それに近づいたら振り出しまでもどる、すると勇者はそれを目当てにもう一度迷宮に入る」
「なるほど」
「これで途中の回復の湧き水を使ってたら効果倍増だ、回復してそこまで行けたのに、今度は回復はないんだからな」
「す、すごい……それにエグい……」

 感心するユイ。
 まあ、この迷宮はそれだけじゃなくて色々仕掛けがあるけどな。
 人間の心理をついたしかけ、ハメ、初見殺し、経験者殺し。
 スライムに転生する前の知識をふんだんに使って、あれこれ仕掛けを盛り込んだ。
 これなら侵入してきた勇者をある程度間引いてモンスターたちが楽になるだろう。

「で、ユイ」
「な、なによ?」
「たまにでいいから、あっち――この迷宮の反対側にいて威圧感を出しててくれないか」
「反対側に?」
「ドラゴンのプレッシャーで『あっちいけ』出来るだろ? お前がそこにいれば勇者は高確率でこの迷宮ルートを選ぶようになる。いいな」
「しょ、しょうがないわね」

 ユイは何故か顔を背いて、不承不承にいった。
 なんだこいつ、おれにさんざん義務だみたいな事をいっといて自分もやる気無しかよ。

 まあ、おれはもっとやる気ないから人の事はいえないが。それに別にユイがいなくても、この迷宮がここにあれば多少勇者は削れるからいいんだけど。

「お兄ちゃんの力に……やった」

 ユイがぶつぶつ何か言ってる横で、せっかくだからもう少しダンジョンを改良していくことにした。
 迷いの迷宮はその後しばらく、勇者どもの悲鳴と嘆きがこだまする名所になるのだった。
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