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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第四章

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お兄ちゃんに包まれて

 裏クリスタルタワー。
 ここに住んでいる人もモンスターもほとんど出払ってて、ユイが一人留守をしていた。

 椅子を置いて、優雅に腰掛けているユイだが、実の所意気込みがすごい。

(お兄ちゃんがいない間……あたしが守るんだから)

 兄、リュウが作りあげたクリスタルタワー、その最終関門である裏クリスタルタワー。
 ここを抜けたらダンジョン完全クリアということになる、それは何が何でもさせられない、特にリュウが留守にしている内にそうなったら合わす顔がない。
 ユイは平然と、気品溢れる振る舞いをしていたが、心臓の弱い人間が足を踏み入れただけで即死するほどの殺気を放っている。

「ふー、たったいまー」

 そこに留守にしていた一人、カレンが戻ってきた。
 裏クリスタルタワー四天王の一人、ナイトクイーンのカレン。
 ユイとは対照的に露出の高い服を来て、奔放的な性格のモンスターだ。

「誰もいないの? って、ユイちゃんどうしたの」
「……なにが?」
「すっごい怖い顔してるけど」
「なんでもない」

 ユイはぷい、と顔を背けた。
 この意気込みでさえ彼女にとっては神聖な感情。
 カレンに踏み込まれたくない感情だ。

「ふーん。まいっか。ねえねえ、それよりこれ見てこれ」

 カレンはどこからともなく服を取り出した。
 ピンクを基調にしたフリルやリボンを多用したドレス。
 可愛らしく、お姫様チックなドレスだ。

「街に遊びにいったんだけど、可愛すぎるから思わず買ってきちゃった」
「そう」
「ユイちゃん着てみてよ」
「はあ? なに言ってんの、なんであたしがそんなものを着なきゃいけないの」
「だって可愛いじゃん? というか可愛すぎてあたしには似合わないんだよね。ルーシアもだめ。クリスは論外」
「消去法であたし……?」

 すぅ、とユイの目が細められた。
 瞳にも殺気がこもり、は虫類のそれになる。

「うんにゃ、普通にユイちゃんに似合うってだけ。すっごく似合うと思うよ」
「……ふん」
「こういうの、リュウ様好きだって思うんだよね」
「え?」
「だから着てみなよ、着てリュウ様にさ」
「ば、ばばばばばバカじゃないの!? 何であたしがそんなのを着てお兄ちゃんに見せなきゃいけないのよ」
「えー、見せたくないの? 自分の可愛いところをリュウ様に」
「み、見せる訳ないじゃん!」
「ふーん」

 カレンはしばしユイの顔を見つめてから、やがて興味を失せたかのようにドレスをぽい投げして。

「まいっか」

 と、裏クリスタルタワーから出て行った。

 また一人っきりに戻ったユイ。
 さっきまでの意気込みに戻った……かと思えばそうではなかった。

 彼女はチラチラと、カレンが置いていったドレスを気にしている。
 自分に似合う……リュウが喜ぶ。

 それは魔法の言葉だった。
 意地っ張りと素直さを同時に引き出す魔法の言葉。

 二つの割合はまちまちだが、今回は素直さがちょっとだけ上回った。

「ちょ、ちょっと試してみるだけだから。別にお兄ちゃんと関係ないから」

 誰もいないのにもかかわらず、ユイはいい訳を口にしてから、ドレスを拾ってそれに着替えた。
 ピンク色の、ふわふわとしたお姫様なドレス。
 カレンの見立て通り、ユイにものすごく似合っていた。

 本人でもついそう思ってしまうくらいに似合っていた。

「これを……お兄ちゃんが……」
「ただいま-」
「ひゃん!」

 心臓が口から飛び出るほど驚いたユイ。

 おそるおそる振り向くと、そこにユーリエに抱っこされたリュウの姿があった。

「お、お帰りお兄ちゃん」
「ただいま。留守の間何かあったか」
「ううん、な、何もなかった」
「そうか」

 抱っこされたまま、リュウは自分の指定席に戻って、いつもの様に疑似太陽を魔力で作り出し、その太陽のしたのんびり日光浴をした。

 何も反応してくれなかった。
 普段と違う格好なのに、リュウは何も反応してくれなかった。

 ユイは意を決して、リュウに近づき声をかける。

「お、お兄ちゃん」
「うん? どうかしたか」
「な、何か変わってるって思わない?」
「変わってる?」

 リュウはぐるり、とスライムの体に目玉を滑らせて、裏クリスタルタワーの中を見回した。

「何もないけど」
「……そう!」
「どうしたんだいきなり、怒ってるのか?」
「怒ってないわよ! ばか!」

 前後ではっきりと矛盾している言葉を吐き捨てて、ユイはプンプンしながらさっきまで自分が座っていた椅子に戻っていった。

(全然興味ないじゃないの! 後であの女殺す!)

 ユイの怒りの矛先は完全にカレンに向けられた。
 そして、関係のないものにも向けられた。

 一人の勇者が現われた。

「GYYAAAAAAA! ここがラストかああああ!」

 野性味溢れる、猛獣のような勇者だ。
 勇者はぐるり、と塔の中を見回して敵を探した。

 敵が現われた。
 人型だったユイが一瞬で本来の姿、黄金竜の姿になった。
 巨大な黄金竜、力があふれ出し、威圧感が場を包んだ。

 勇者はひるむ事なくユイに挑みかかっていったが、ユイは怒りにまかせて勇者を殴り飛ばし、白い輝く炎で骨まで焼き尽くした。

 腹いせの全力、単なる八つ当たり。
 塔を単身で駆け抜けた強力な勇者をアッというまに瞬殺した。

 ユイは人の姿にもどった。
 ドレスはもうない、彼女がいつも着ているものじゃなくてカレンが街から買ってきたただの人間用のドレスだから、変身したときに破けてしまったのだ。

 だが、それでいい。

(どうせお兄ちゃんみてないもん……)

 彼女は唇を尖らせた。まるっきりすねている子どもだ。

 そんな彼女に何かが触れてきた。
 いや、覆ってきた。

 警戒も反抗もしなかった、触れた瞬間なじみのある感触なのがそうさせた。

 覆ってきたのは、リュウが体から切り離したスライムだ。
 それが完全にユイを覆った次の瞬間。
 なんとスライムがドレスに替わった。

 カレンが買ってきたピンク色でふわふわのドレス。
 破けたばかりのドレスが再びユイに着せられた。

「お、お兄ちゃん?」
「新しい服だと思ったら人間が作ったものだったんだな。もう大丈夫、それは俺の体が材質だから、変身しても破けることはない」
「……」
「どうした」
「気づいてたの?」
「そりゃ服かわったら気づくだろ」
「でも変わった所ないって……」
「ユイはいつも可愛いしそれも似合ってるから、変わってないだろ」
「スライム様……そういう事じゃないです」

 リュウを抱っこしてるユーリエが呆れた様に言った。
 リュウは首をかしげた。

 一方で、ユイの口角がヒクヒクした。
 今にもにやけてしまいそうな、ヒクヒク。

「うん? 気に入らないのか? さっきのを完全に再現したつもりだけど、どっかちがったか?」
「き、気に入るわけないじゃん!」

 ユイは顔を赤らめながらも、ぷい、と背けてしまった。

「気に入らないけど破けないみたいだから、しょうがないから着てあげるわよ」
「そうか」
「ふん!」

 ユイは振り向き、自分の椅子に戻っていく。
 ぎりぎりで間に合った。
 振り向くのがもう一秒遅れたら。

 ユイは、兄にだらしなくにやけた顔を晒していた。
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