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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第四章

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卵産みたい

 クリスタルタワー一階。

「ピキ♪」

 ドルチェが美味しそうにケーキを食べてるのを眺めた。
 今日作ってきたのは芋のモンブランケーキ、普通は栗で作るもんだが、あの細いうにょうにょは芋とも結構相性がいいから、芋で作ってみた。
 ドルチェはそれを美味しそうにむさぼり食った。

「ドルチェ、ちょっとそのまま動くな」
「ピキ?」

 クビを傾げる未来の女王蟻、スライムの体を一部変形させて、鼻先を拭った。
 むさぼり食ったせいで、ドルチェの鼻先に芋とクリームがくっついていたのだ。
 それをとってやったのだが――。

「ピキキ――」

 ドルチェは俺に飛び付いてきた。
 変形が戻ったスライムの体、食べかすを拭ったのは俺のほっぺあたりだが、ドルチェはそこそペロペロなめてきた。

「こら、やめろドルチェ……くすぐったぞこら」
「ピキ♪」

 完全に舐め取った後、ドルチェは満足そうな顔をして、再び元のケーキの方に戻っていった。
 食べる姿は相変わらず可愛くて、見守る顔が緩むのが自覚出来た。

「リュウ様ー」

 そんな俺に声をかけながら、パタパタと羽根を羽ばたかせてこっちに飛んでくるカレン。
 その後ろにモンスターがくっついて一緒にこっちにきた。

 上半身は人間の女、下半身は胴とおなじくらい太い蛇の尻尾。
 ナーガという種族のモンスターで、クリスタ―タワーでは主に3から4階あたりに生息してる連中だ。

 そのナーガがカレンと一緒にやってきた。

「どうしたんだ?」
「今相談を受けたの。それでちょっとリュウ様の意見も聞きたいなあ、って」

 カレンはそう言いながら、意味ありげな目で俺を見た。
 何となく理解した。

 彼女は相談を受けた、そしてかいけつしてやりたかった。
 だけど自分じゃ解決出来ないから俺に何とか欲しい。

 状況をざっくり理解して、目配せをした。カレンは静かにうなずいた。
 俺が解決しても、その手柄を肩代わりしてくれる、その意思疎通が出来た。

「分かったよ、アドバイスとか出来るか分からないけど、話を聞かせてくれ」
「ありがと。じゃあエリー、もう一回話を聞かせてよ」
「うん……私、繁殖期が来たの」
「ほう」

 繁殖期、それはモンスターに取って大事な時期である。
 ある程度の強さのモンスター、目安として中級以上のモンスターなら繁殖する時期が決まってる。
 弱いモンスターは数が種族の生存に直結してるので年中発情期だが、ナーガみたいなのだとそうじゃなくなる。

 決まった時期にだけ繁殖をするのだ。
 そしてそういう生態だからこそ、繁殖期というのは結構重要だ。
 こうして相談に来るほどに。

「ナーガの繁殖は……たしか……」

 カレンが頷く。

「うん、捕食するの。気に入った相手を丸呑みすることで卵をうめるようになるんだよ」
「なるほど」
「それで、あの……ゆ、勇者が欲しいの」
「勇者?」
「うん。前に一回だけ来たことのある勇者……会ったときにこの人だ! って思ったの」
「一目惚れか。そいつの血筋が欲しいって本能が叫んでるんだな」
「でもそれ以降来ないんです……」

 うつむき、消沈してしまうナーガのエリー。

「それであたしに相談してきたの。どうしたらいいのかって。ほら繁殖といえばエッチ、エッチと言えばサキュバス改めナイトクイーンのあたしじゃない?」
「なるほどね」

 話は分かった。
 つまり一回しか来たことのない勇者を探し出せば良いんだな。

「どうかな」
「そうだな……」

 俺は少し考えて……言い方も考えてから、いった。

「カレンのあの技がいいんじゃないか?」
「あの技?」
「そ、あの技。相手の特徴が分かればおびき寄せられる技があっただろ」

 もちろんカレンにそんな技はない、彼女じゃなくて俺がやれる事だ。
 賢いカレンはすぐに理解して、ポンと手をうった。

「そうだったそうだった、あまりにも使ってないから忘れてたよ。ありがとうリュウ様」
「そうなの?」
「うん。いやあ困ったもんだよね。ほとんど使ったことのない技だとむしろ他人の方が覚えてたりするんだ」
「あっ……そうかも……」

 カレンのごまかしにエリーは納得した。
 それでいいのかと思いつつ、彼女に相手の特徴を聞いた。

「すごく格好良くて、シュッとしてて、ものすごくイケメンなんです」
「そうなんだ」

 カレンは相づちを打ちながらちらっと俺を見た。微妙に複雑な顔をしてる。
 こんな曖昧な条件でいいのか、って顔だ。

 俺は静かにうなずいてやった、ついでに「やれ」って感じで目配せした。

「よし、じゃあ今からそれをやっちゃうから」
「今から?」
「今から」

 カレンはそういって、むむむむむ、って感じで構えた。
 何かをする様に見える構えだが、よく見ればでたらめだ。
 が、それでいい。

 俺はそれに合わせてこっそり魔法を使った。
 勇者を引き寄せる魔法。
 条件を定めて、その条件に合致する勇者が「行きたくなる」ように気持ちを誘導する魔法。

 ついでに魔法の発動を見える様にして、カレンの体から出させるようにした。

「できたんじゃないかな。……前見た時と一緒だ」

 俺はすっとぼけた感じでいった。

「うん! 出来た」
「本当に?」
「うん、これでくるはずだよ」

 カレンがそう言うと、エリーは赤面してうつむいてしまった。
 上半身が人間の女という事もあって、その姿はまるっきり恋する乙女だ。

 楚々としたその姿は、カレンの頼みでなくても協力してあげたくなる気分になる。

 そうしてしばらく待ってると、塔の外が騒がしくなった。

 勇者がクリスタルタワーに攻め込んできた。
 塔にはいってきた勇者は魔法で設定した条件に合った。

 格好良くて、シュッとして、イケメンな感じの連中だ。
 男の俺から見てもその条件に合致してる勇者が複数攻め込んできた。

 塔のモンスターが迎撃する中、カレンがエリーに聞く。

「どう? いる?」
「ううん」

 エリーは即答した。

 最初の一陣が一階を突破して二階に上がっていく。
 すぐさま次の集団がやってきた。

 都であれば若い女達にキャーキャー言われそうな、勇者よりも役者の方が似合いそうな連中が複数やってきた。

「いる?」
「いない」

 エリーはまたしても即答した。
 本当にみたのかってクビを傾げたくなるほどの即答だ。

 そいつらがまた突破していき、第三グループがやってきた。
 今度は若干チャラチャラしている、大きい街で水商売をやってるような連中だ。
 でも、イケメンの域にいるのは間違いない連中。

「どう?」
「いない」

 三度の即答。

 その後も何回か勇者が来た。
 魔法の効果で、全員が全員イケメンだらけだ。
 今この瞬間だけど、地上で一番イケメン率が高いのがこのクリスタルタワーかもしれない。
 だがいなかった、その中にエリーの思い人はいなかった。

「……やっぱりこない」
「もう死んでるんじゃないのか? 外で」

 モンスターのダンジョンでいくら死んでも勇者は蘇るが、外で死んだらそれっきりだ。
 一回しか来たことのないやつだし、既にそうなってる可能性もあるなと思った。

「うん? どうしたカレン。そんなに考え込んで」
「うーん、もしかしてなんだけど」
「うん」
「ねえもう一回同じ技使っていいかな。今度は条件全部反転で」

 俺の意見を求める風に聞いて来るカレン。
 訳せばそれでもう一回やってくれって意味だ。

 それはいいけど……反転?

「うん、やってみて」

 とりあえずカレンに頷いてやった。
 彼女はまたグググと技を使うポーズをして、俺はそれに合わせて魔法を使う。

 条件を再設定――えっと反転だっけ。
 つまり……格好良くなくて、もさっとしてて、ものすごいブサメン――ってそれでいいのか?

 迷ったが、その通りにした。
 可視化された魔法の効果がカレンの体から立ちこめる。
 それでしばらく待ってると、一人の勇者が来た。

 条件とおり格好良くなくて、もさっとしてて、ものすごいブサメン。
 勇者らしくそれなりに出来る物腰だが、ぱっと見おっさんでホームレスだ。

 まさかこんなのが――。

「ああ! 愛しのあなた」
「えええええ!?」
「やっぱり……」
「どういう事だカレン」

 うっとりするエリーと、得意げな表情のカレン。

「恋は盲目ってヤツだよ。繁殖期の乙女の目にはあれが王子様に見えるのさ」
「そ、そうなのか……」

 正直どうなの? って思わなくもないが、エリーが目をハートマークにして近づいていくのをみてどうでもいいか持って思った。

 せっかくだからアフターサービスだ。
 俺はこっそりブサメン勇者を拘束した。
 完全に動けなくなるようにする拘束だ。

 動けなくなった勇者、ふらふらとやっていくエリー。
 二人が接触した瞬間、エリーは口を開けて勇者を丸呑みした。

「うわーおぅ」
「意外とグロいな」
「なに言ってるのリュウ様。これは生殖行為、つまりエッチなんだよ」
「いやぁ……それにしては致命的に色気が足りないだろ……」

 かくしてエリーは運命の思い人を呑み込んで、翌日ちょっと大きい卵を無事産み落としたのだった。
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