挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第四章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

73/77

煙の中のスライム

 クリスタルタワー一階。
 ドルチェが俺に懐いていた。
 俺を前足で抱いて、頭をスリスリしてくる、アリの硬い体でやられたもんだから、削られたチーズのようにスライム体が回りに飛び散っていた。

 それでも。

「ピキキ♪」

 ドルチェは嬉しそうにしてるから、まあいっか思った。
 体を削られてもそんなに痛くないし、ある意味ドルチェも一緒にのんびりくつろいでるから、好きにさせてやった。
 まわりのモンスターもくつろいでた。

 人間がよく勘違いする事だが、モンスターにも日常がある。
 勇者がやってこない時のモンスターは人間とそんなに変わらない日常を過ごしている。

「おれが思うにロリババアは処女であるべきだ」
「違う! ロリババアはビッチが最高だ」
「ゴブリンの風上にも置けない事をいってんじゃねえ。処女だろうがビッチだろうが、さらってきた女こそが至高だ」

 ……。
 一部変な日常を過ごしてる種族もいるが、概ね人間と変わらない日常のはずだ。

「勇者だ!」

 誰かが叫ぶと、それまでめいめいに日常を満喫していたモンスターが動き出した。
 緩んでいた空気がビシッと引き締まる。大半が臨戦態勢に入る。

「ま、待ってくれ! おらは勇者じゃねえ」

 入り口に現われたのはいかにも農民といった感じの人間で、白旗を掲げてあわあわしていた。
 ああ、そういうのが来たか。と俺はドルチェに体を削られたまま思ったのだった。

     ☆

「お、おらはスーヨンの村の代表ですだ」
「スーヨンの村ぁ?」

 話を聞いて、一階に降りてきたクリスタルタワーのボス、シェスタ。
 白旗を掲げたままの村人の話を聞いて、そのまま首をかしげた。

 その横からゴブリンの一体が。

「ここからちょっと離れたところにある村ですシェスタさん」
「そうか。で、そのスーヨンの村のヤツが何しに来たんだ」
「おらたちを魔物様の傘下に加えさせてくだせえ」

 村人がそう言って、パッとその場で土下座した。
 魔物の前だからか、土下座してても体が震えている。

 あたりはシーン、と静まりかえった。

「ふふ、ふふふ、ふははははは」

 シェスタが天井を仰いで大笑いした。

「シェスタさん?」
「来たか、ようやく」

 シェスタも分かってるみたいだ。
 ダンジョンとして名をあげていくと、人間の中には抵抗するよりもダンジョンの下につくと考える連中が出てくる。

 理由は様々だが、多分このスーヨンという村はその中で一番ありきたりな理由。
 近いから、という理由なんだろう。
 ダンジョンから近い村や町は襲われやすい。抵抗して安全を確保する確信があるのならまだしも、そうではないところはダンジョンに降伏して代わりに襲われない道を選んだ方が利口だ。
 スーヨンは、その道を選んだのだろう。

「よおし、じゃあその村に行くか」
「で、では?」

 村人は顔を上げて、期待と怯えが半々の目でシェスタを見た。

「おう、案内しろい」
「へ、へえ!」

 シェスタは村人に案内されて、ダンジョンを出てスーヨンの街に向かった。
 他のモンスターも興奮してわらわらついていった。
 シェスタの勇姿をみにいくつもりなんだろう。

「……カレン、クリス」

 俺は少し考えて、この二人に声をかけた。
 すると間をおかずに、()から出てきた二人が俺の前に立った。
 露出の多い服を着ている色っぽいカレンと、まがまがしいオーラを立ち上らせているクリス。

「どうしたのリュウ様」
「シェスタについてってやってくれ、大丈夫だとは思うが、一応な」
「分かった、あたしに任せて」

 カレンがいつものハイテンションでいい、クリスは静かにうなずいた。
 わらわらとついていくモンスターの後ろについていく二人。

 あっという間に、クリスタルタワーがガラガラになった。

「さって、こっちも準備するか」
「何を準備するんですかスライム様」

 今度はユーリエが話しかけてきた。
 彼女は俺から少し離れた所で、俺の分身を抱っこしている。

「人間の村が降伏してくる頃になると、示し合わせたように勇者の数が増えるんだ」
「罠ですか?」

 驚くユーリエ。

「そういう場合もあるが、それだけじゃない。要するにダンジョンが脅威になるんだ、人間にとって。そうなるといままで動かなかった層が一気に降伏と反抗に動き出すんだ」
「じゃあ新しい勇者が来るんですね」
「しかも大勢に、な。察しがいいな」

 ユーリエははにかんでうつむき、俺の分身体に顔を埋めた。
 まあそういうことだから、残った俺は勇者の襲撃に備えることにした。
 ダンジョンの中をさっとスキャンした。ちょっとびっくり。

 モンスターが一体も残ってなかった。
 いま、クリスタルタワーにいるモンスターは俺とドルチェ、そしてユイの三人だ。
 更に人間が二人――ルーシアとユーリエが残ってる。

 それ以外のモンスターはまったく残ってなかった。

「全員がシェスタについていったのか」

 すごい人気だなあのおっさん。
 まあその方が俺も助かるからいいんだけど。

 となると、いま襲われたら俺が戦うしかないか。ここで防がなきゃ全員が素通りして裏クリスタルタワーにはいって、今後が面倒臭くなる。

 俺が戦わないといけないけど……ばれるのはこれまた今後が面倒。

「……あれを使うか」
「あれってなんですか?」
「見てろ」

 俺は体内で()を生成した。その煙に効果を付与させてから、吐き出して塔に充満させた。
 煙は吐き出された直後は霧っぽかったが、すぐに水蒸気の霧のように空気の中に溶け込んで透明になった。
 が。

「これは……あれ? スライム様何処ですか?」
「ここだ、といっても聞こえないよな」
「ピキ?」
「ドルチェもみえてないか。久しぶりだったけどちゃんと使えたか」

 塔の一階で、きょろきょろしたり右往左往したりしているユーリエとドルチェ。

『あわてるなユーリエ』
『あっ、スライム様』
『念話は通じるな。そのまま右斜め前に五歩進め、ドルチェを回収したら180度反転して十歩すすめ』
『わかりました』

 俺の言葉にまったく疑いを持たずに、ドルチェは指示通りに動いた。
 未だにおろおろしているドルチェを回収してから、俺のところにやってきた。

「あっ! スライム様に触れたら見える様に」
『見えててもこの煙のなかじゃ声が通らないからこっちにしろ』
『声が通らないんですか?』
『ああそうだ。ちょうどいいところに勇者がきたな』

 塔の入り口から勇者が入って来た。
 ちょっと前に見た三兄弟の勇者だ。

 三人は勢いよく塔の中に飛び込んできたが。

「むっ? おい二人も何処にいった」
「クオ兄さん! パン! くそ! モンスターの仕業か」
「兄ちゃん! 兄ちゃん達どこ?」

 三人はまわりをきょろきょろして、大声で仲間の事を呼んだりモンスターに呪詛の言葉を吐いたりしていた。

 傍から見て滑稽な光景だ。

 俺は力を解放して、三人のうち一人を瞬殺した。

「くああああ!」

 悲鳴があがる、ドラゴンの一撃で塔が揺れる。

「落ち着け、まずはクオ兄さんと合流だ」
「兄ちゃん……うわあああん、兄ちゃん返事をして」

 仲間の一人がやられたのにもかかわらず、それが見えていない、聞こえてもいない二人だった。

『どういう事なんですかスライム様』
『この煙の中にいると声はまったく聞こえなくなる、そして触っていない相手には見えなくなる。例えば――』

 俺は勇者の一人、デブの前に行って、スライムの体を変形させて変顔をした。
 大抵の人間が吹き出すほどの変顔だが、そいつは反応しなかった。

 更に一歩引いて、息を吸い込むと。

「ぐおおおおお!!」

 ドラゴンの咆吼を放った。
 塔が揺れるほどの咆吼だ。

 が、それも二人は反応しなかった。

『こんな感じで、視覚と聴覚を奪うものだ。勇者を分断して各個撃破するための技だが――』

 そう言いながら、残った二人も瞬殺する。
 三人の勇者は何も知らず、誰に倒されたのかも分からないまま倒された。

『――これで俺がやってもばれないですむ』
『なるほど! さすがスライム様です』

 感心するユーリエ。
 これで状況は整った。

 そして勇者がやってくる、予想した通り大勢やってきた。
 俺は煙の中に潜んで、やってきた勇者達を次々と倒した。
 闇に潜む暗殺者の如く、クリスタルタワーにかつてない程の勇者の屍を積み上げたのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ