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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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ファットアント

 ファイヤーアント。
 その卵、次の女王として生まれてくる種族として何よりも大事な卵を見つめて、考えていた。

 アリスターの言うことも一理ある、ファイヤーアントが仮にモンスターの味を覚えたらモンスターをも喰らい尽くす。
 繁殖力と食欲が強く、それを実現するための力も強い。
 というより、適応力がものすごいと聞いた。

 肉食動物と草食動物の歯が違う様に、ファイヤーアントは世代ごとに、食べたいものを一番食べられるように体を自ら進化させる。

 仮にスライムの味を覚えて気に入ったら、肉体をスライムを食べるに適したものに自らを変化・進化させる。

『どんなものになるのですか?』
『ん? ああ……口がストローになる、とか? スライムの体ゼリーだし』

 俺の思考に割って入って来たきたユーリエに答える。
 考え事してる時に会話をするのは嫌いではない。
 人に話して聞かせるとそこから発想を得ることも多いからだ。

『そ、そうなるのですか!? ストロー口の蟻……』
『あくまでこっちのパッと考えたものだからな。そうなるとは限らない。凍らせて食べた方がうまいからって冷気をまとうようになるかも知れないしな』
『な、なるほど』
『あくまで適した進化をするって話だ』

 そしてそれは問題になる。
 適していれば効率的に食べる事ができる、それで種族ごと喰らい尽くす可能性がある。

『お花をすきになったらクリスさんみたいになりますか?』
『え?』
『え?』

 目玉を頭の上に動かす、いつもの様に抱っこしてるユーリエがものすごいびっくりした目でおれをガン見していた。

『す、すみません。花を好きになってもクリスさんみたいにはならないですよね』
『いや……むしろ。……ふむ』

 やっぱり……人と話すと思考が意外な飛び方をする。
 ユーリエとの会話でヒントを得た俺は考えた。
 どうしたら一番いいのかを、更に考えていった。

     ☆

 卵を守り始めてから十日目。
 この日で約束の十日目だ。

 ユイ、カレン、クリス、ルーシアの四人はダンジョンの外を守っていた。
 そろそろ卵が孵化するから、中で戦うと流れ弾とか当たるかも知れないから、四人には外を守ってもらった。

 彼女らなら安心だ。あの四人が力を合わせれば、俺でも抜けるのに大分手間取ってしまう。
 並みの勇者じゃ入ってくることも出来ないだろう。

 そうした鉄壁の守りの中、俺はユーリエと二人で卵の前にいた。
 卵はどっくん、どっくんと脈動していて、うっすらと殻の向こうにシルエットが見える。
 今にも孵ってきそうな雰囲気だ。

 俺はユーリエが運んでくる材料(、、)を一つ一つ体に取り込んだ。
 体を広げて、くるんで取り込む。

「これで全部です」
「うん、一通り揃ってる」
「あの……本当に大丈夫なんですか?」
「これをやったの前にも見た事があるだろ」
「ありますけど……そういうことじゃなくて」
「失敗したらその時はその時は。生物の本能だから自然に任せろってことなのさ」
「はい……」

 渋々ながらも納得するユーリエ。

 そうしてる内に卵の脈動が早くなった。
 脈動と共に殻の向こうが光り出した。

 びしっ、ヒビが入って、卵が割れる。
 てっぺんからにょき、と頭が出てきた。

 いかにもな昆虫、アリって感じのフォルムだ。
 サイズは人間の赤ん坊とほぼ同等、昆虫と考えれば大きいけど、モンスターで考えたら何処にでもあるサイズだ。

 そいつはジタバタした、ジタバタもがいて、卵の中から出てこようとする。
 真上に穴を開けたもんで上からそのまま出ようとしたが、体が半分でたところで卵がバランスを崩して、アリは頭から地面につっこんだ。

 シーン。

 俺とユーリエ、そしてアリ。
 しばらくの間空気が凝結したかのように時間が流れた。

 その後思い出したようにまたジタバタして、完全に卵から出てきた。

「す、スライム様」
「おう」

 ユーリエに呼ばれて、我に返る俺。
 俺はぴょんぴょんとアリの前に移動した。

 アリは俺を見あげた、生まれたばかりだが意外と凶暴な目つきをしている。
 子どもだからもうちょっとつぶらな瞳なのも想像してたけどそんな事はなかった。

 その目で見つめられた俺はぺっ、ぺっと吐き出した。

 用意してもらった材料を全部呑み込んで、体の中で調理したもの。
 一つずつ吐き出して、アリの前に積み上げる。

 それは山ほどのケーキだった。
 ケーキを作るのは大分ひさしぶり、というかスライムに転生してからは初めてだが、逆にスライムになってから、材料を体内に取り込んでこねこね混ぜ混ぜの調理法が出来る様になって、人間時代よりも上手く作れるようになった。

 出来はルーシアに料理をつくってやった時で問題ないと分かってる、後は気に入ってくれるかだな。

 アリは俺を見て、出された山ほどのケーキを見て。
 交互に見比べた。

 食べてくれ、食べてくれ、そう祈りつつ。
 そして――。

「きゃあ!」
「ユイ!? よくもやったわね!」

 外から戦闘の音と悲鳴が聞こえて、直後に一人の男が飛び込んできた。
 アリスター・マルス。軍神の別名を持つ、万年二位の勇者だ。

「舞い戻ったぞスライム! さあ――え?」

 血に濡れた剣を俺に突きつけたアリスターはきょとんとなった。
 気持ちは、分かる。
 何とかしたくて、俺がした封印を本来よりも早いタイミングで無理矢理破ってきたアリスター。多分結構無茶したんだろう。
 そこまでして駆けつけたのみ、目の前にうつった光景は。

 ケーキをもそもそ食べているアリの姿だった。

「これは……どういう事だ?」
「ケーキを食べてるんだ」
「それは見れば分かる!」
「多少隠し味をいれたから、食べたらやみつきになるはずだ」
「隠し味だと?」
「隠し味だ」

 おうむ返しで言うと、ユーリエが「危ない隠し味に聞こえる……」とつぶやいた。
 アリスターが驚き戸惑っている間も、アリはケーキを食べ続けた。
 俺が用意した様々なケーキ、数百はあろうかというケーキ。

 それを食べていった。
 食べ進めていくにつれ、アリの姿は徐々に変わった。

 怖い目がつぶらになり、まがまがしい昆虫のフォルムが丸みを帯びて親しみやすくなった。

 口さがない者に言わせればデブかピザ、女の子に言わせれば「かーわーいーいー」なフォルムだ。

 ケーキを食べるごとにそのフォルムに変化していく。

「これも貴様がやったのか?」
「こっちは違う。ファイヤーアントは気に入った食べ物に合わせて適応していくんだろ」
「それでケーキを?」
「まあな」

 上手く行かなかった時のセカンドプランも一応あるにはあるけど……今となってはもう必要ないな。

「なぜ……?」
「気に入ったものを食べ尽くすなら味覚を誘導してやればいいだけの話だろ? ケーキ大好きになってそれで困る人はあまりいない」
「……」
「これでもう無害だろ?」
「ああ……」

 アリスターは武器を下ろして、俺をじっと見た。

「なんだ」
「貴様に……よく似ている男を知っている」

 といった。
 そりゃ俺の事だ、とはいなかった。
 アリスターは強い、万年二位勇者と言われるほどずっと世界二位に居続ける位強いけど、アレックスに比べて危険度は少ない。
 俺の事を()だって気づかないからな。

 アリスターは身を翻しつつ、クビだけ振り向いてちらっと俺を見た。

「今回はこれでひく」
「次の世代がやばくなるかも知れないぞ」
「お前が責任をとれ、そうじゃなかった時は俺が滅ぼしにくる」
「そうか」

 アリスターが引き下がったことをしり、ユーリエはあきらかに胸をなで下ろした。
 そうして一件落着して、立ち去ろうとするアリスター。

「あっ、ちょっと待て」
「なんだ」
「あんたにも一つ責任を取ってもらう」
「責任……何をする!?」

 驚愕するアリスター、俺が力を解放したことに驚いているのだ。

「責任というかけじめだな、人様の妹をケガさせた、な」
「まっ――」

 何かを言おうとするアリスターを無視して、全力のドラゴンの前足(ファイナルストライク)を振り下ろす。

 アリスターは跡形もなく消滅した、まあ、ダンジョンの中で死んだ勇者だから復活ポイントで復活してるだろう。

 こうして、ファイヤーアントの件はひとまず解決した。
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