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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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一位と二位

 6日目、この日もファイヤアントの卵を守っていた。
 朝から続く勇者ラッシュは一段落した、このダンジョンの事が広がり、来る勇者来る勇者全員が四つの祭壇に散っていくから、俺はものすごく楽が出来た。

 たまーに何も知らないで突っ込んでくる勇者もいるけど、そういう下調べもしないようなのは決まって楽しようと卵を攻撃してくるから、倍返しカウンターで容赦なくやっつけといた。

 反射じゃなくてリアルタイム解析と倍の出力で打ち返すと本当の事を話したらユイは。

「普段からそうやってちゃんと働けばいいのに」

 っていった。
 言いたい事はいつも通りの事だけど、何故か思いっきりにやけてた。

 にやけたのは意味不明だけど、俺が働いてるからユイはうるさいことを言ってこなかった。

 そのおかげで、勇者達が俺の目の前を素通りしていくのを眺めてながらのんびりしていた。

 その勇者の流れが途切れてしばらく、ふと、視界の隅っこでクリスの姿を捕らえた。
 自分の祭壇から出てくるクリス、何故か祭壇の前で膝を抱えて中を見ていた。

 あたりの気配を探る、しばらくは勇者は来ないと判断して、クリスの元にむかう。

「どうしたんだクリス」
「花、生えた」
「うん?」

 クリスの視線を追う、祭壇の中はいつの間にかいろんな花が満開になっていた。

「こりゃまた見事に咲いたな」
「勇者の養分、たっぷり」
「なるほど。確かに強いヤツの死体は大地にとって極上の養分になるな」

 このあたりは人間もモンスターも変わらない、死んだ後は大地の養分になる。
 強ければ強いほど養分もたっぷりだ。

 だから戦争をした国とかは、その翌年とか翌々年とか農作物の収穫量がとんでもない事になる。

 皮肉な話だが、モンスターの軍門に降った村の方が、その恩恵で常に豊作になる。
 モンスターと人間の両方がバランスよく死んで質の高い肥料になるからだ。

 ディープフォレストについた村がまさにそれで、そこは生け贄を定期的に差し出しててもディープフォレストの下にいようとする。

 それと同じで、大量の勇者が死んでいったクリスの祭壇も花が綺麗に咲いてきたのだ。

「しかしこれだと戦えないだろ」
「問題ない、ここで戦う」

 クリスはそう言って、一旦立ち上がって外を向いた。
 鬼面のオーガが仁王立ちしている姿は雄々しく、何人たりともここを通さない、って空気を出している。

 それをアピールした後、また座り直して、膝を抱えて花をじっと見つめだした。

 祭壇の中に花、クリスが外。
 パッと見て、ひさしを貸して母屋を乗っ取られたような状態、なんだが。

 本人はしあわせそうだった。

『なんか家を追い出されたお父さんみたい』

 ユーリエも似たような感想を抱いた。

『そういう趣味、いやもうそういう生き物なんだからしょうがないさ』

 俺はユーリエと共にまん中の台座に戻った。
 擬態して、卵とスライム台座に戻る。

 そこでのんびりしつつ、たまにクリスの様子を見たりする。
 そんな時間が流れる。

「むっ」
「どうしたんですかスライム様」
「なんか来る」
「え?」

 クリスのところに行くために出してた、その後も惰性で出し続けた警戒ラインに引っかかった。
 勇者が来る。

 数は一、強さは……まずいこれは!

 対策を練るよりも先に、勇者がダンジョンの中に突入してきた。

 若い男だ、逆立ったツンツン頭に、背中に背負っている存在感たっぷりの剣。
 軽装の鎧とマントは上品な青色で揃えている。

 風格がこれでもか、って出ている勇者だ。

 そいつはぎょろり、とあたりを見回した。
 祭壇の外に出ているクリスに目がとまった。
 背中の剣を抜き、構える。

 クリスもそれに気づいた。
 のそりと立ち上がって、スライムこん棒と持って立ちこめるオーラと共に勇者に立ち向かった。

 勇者は無造作に剣を振り下ろす、クリスは反撃しようとした。

「よけろクリス!」

 気が付いたら俺は叫んでた。
 クリスはビクッとなった。地面をぐっと踏み込んで飛び退けようとした。

「――っ!」

 が、動かなかった。
 充分に反応出来てかわせたのに、クリスは躱さず、逆に腕をクロスさせてガードした。

 勇者が放った斬撃は空間ごとクリスを切り出した。

『ど、どうしてよけなかったの?』

 花があったからだ。
 クリスの背中に花があった。勇者の斬撃をよければ花が切られてしまう。
 クリスは身を挺して花を守った。

 斬られたクリス、大量の血をふいて崩れ落ちる。

「どうした――あ、あなたは」

 騒ぎを聞きつけて担当の祭壇から飛び出してきたルーシアは相手を見て目を見張った。
 気づいたか、相手の正体を。

 俺はそいつの事を知っていた、ルーシアも知っていた。

「アリスター様……」
「お前は……たしかリュウの弟子の……こんなところで何をしている」
「……」

 ルーシアは答えなかった。
 (リュウ)がここにいるからいるんだ、なんて言えないからだ。

 アリスター・マルス。
 万年二位の勇者と揶揄されている男だ。

 そんな二つ名で呼ばれているが、実力は勇者の中で飛び抜けている。
 何せ「二十年以上ずっと世界で二番目に強い」と目されているからだ。

「しかも……妙な事に加担をしている」

 呆れと蔑視、その二つの感情を乗せつつルーシアと卵を交互に見た。
 さすがアリスター、一目で見破ったか。
 ルーシアが守っている祭壇に意味はなく、力さえ足りればまん中の卵に直接攻撃が出来る事。卵そのものがフェイクである。
 それを一瞬で見抜いた感じだ。

「すみません、ですがこれが私の道です」
「……」

 ルーシアはガリアンソードを抜いて構えた。

「なになに、どうしたの……ってクリス!?」
「人間のくせに生意気な」

 騒ぎを聞きつけてカレンとユイが出てきた。
 二人とも状況を一瞬で察し、場の空気が張り詰めていく。

「まあいい、どのみち倒した方が邪魔が入らない」
「くっ」

 アリスターが背中の剣に手をかけると、ルーシアの表情がますます強ばった。
 死を覚悟した、と言ってもいい。

「待て」

 俺はユーリエから跳び降りて、フェイクを解除して姿を表した。

「またいたのか……むぅ?」

 俺を見た瞬間アリスターも表情を変えた。
 姿を現わした瞬間、力を解放したからだ。
 よほどの間抜けでも無い限りわかる用に力を解放した。

「なるほど、お前がここのボスか」
「ああ。みんなさがれ。ここは俺がやる」
「わ、わかった」
「りょーかい」
「せいぜいお兄ちゃんに嬲り殺されるといいわ」

 三人はそれぞれの言葉を残して、俺とアリスターから距離を取った。

 戦闘距離内でにらみ合う俺とアリスター。
 こんな風にこいつと向き合うのは何年ぶりだろうな……同じ勇者として、昔から因縁はあった。

 アリスターはアレックスとは違う意味で融通が利かないから、いろんな事で対立したもんだ。
 それは、今回も同じだろう。

「聞こう、貴様は知っているのか。ファイヤーアントの習性を」
「なんの事だ」
「あれは別名オールイーターと呼ばれている。何でも喰らう、味を覚えたらおなじモンスターでさえ喰らう危険な生物だ」
「……」
「そいつらは人間の味を覚えた、だから討伐する。庇護するとその次喰われるのは貴様らになるのかもしれんぞ」
「だから全滅させる、か」
「そうだ。わかったらそこをどけ、今回はファイヤーアントさえ滅ぼせば――」
「そういう生き物だっていうんならそれでしょうがない」
「……なんだと?」

 アリスターの表情が変わった。
 より怒った――怒りがメラメラと燃え上がって今にも目が火を吹きそうだ。

「それでいい、だと?」
「そういういきものなら、な」
「貴様、自分が何を言ってるのかわかってるのか」
「分かってるつもりだ。執拗に処女と連呼するゴブリンも見栄を張る大ネズミも、夢をもてあそぶサキュバスも花を命がけで愛でたがるオーガも」
「そんなものと一緒にするか!」
「人間だって自分の都合でモンスターを虐殺してるだろう。お互い様だ」
「……話にならん」
「そうだな」

 前からそうだった、アリスターはアレックスと違う意味で頑固だ。
 一度正義と認めたが最後それを決して曲がらない。相手にどんな事情があろうと認めないのだ。

 やっかいなのは、一面的であろうとそれは紛れも無く正しくて、そして。

「貴様を倒して卵をつぶす」

 万年二位と呼ばれるに値する程の力をもっていることだ。
 背中の長剣は抜かれた直後にキーン、となりだしている。
 膨大なエネルギーが渦巻き。

「くっ」
「な、なにあれ……」
「うぅ……」

 ルーシア、カレン、ユイの三人が気圧される程だ。
 相変わらず強い、いやますます強い。
 前に戦った時よりも(、、、、、、、、、)

 やるしかないな。

 俺は更に力を解放した。
 立ちこめる力、ドラゴンの力。

「黄金竜の力をもつスライム。巣にでも生まれたか」

 さすがアリスター、一発で見抜くか。
 出し惜しみはしてられない、一発で決めなきゃ。

「ぐおおおお!」

 雄叫びを上げて、力を一点に集中した。
 全力の一撃を振り下ろす。

 ドラゴンの前足(ファイナルストライク)

 アリスターはよけるでもなく、かといって躱すでもなく。
 真っ向からドラゴンの前足と打ち合った。
 爆発がおきた、小さな村一つが跡形もなく消し飛ぶ程の爆発。

 カレン、ルーシア、ユイでさえ悲鳴を上げてまともに立ってられない程の爆発。

 爆心地にアリスターが立っていた。
 長剣で打ち合った姿のまま、傷一つ無い姿で立っていた。

「その程度かドラゴン! こんどはこっちの番だ」
「悪いが今度はない……」
「なに!? ――むっ」

 驚愕するアリスター、俺の力のない声に驚き、飛び退けようとするが。

「無駄だよ……」

 防がれたファイナルストライク、その飛び散った魔力が集結してアリスターを包みこんだ。
 まるで牢獄のように、アリスターを捕らえる。

「これは――貴様まさか!」
「そういうことだ」
「うおおおお! こんなものおおおお!」

 アリスターは剣に力を込め、魔力の牢獄をぶち破ろうとするが、意味を成さなかった。
 アリスターを取り込んだ魔力はやがて薄くなって、彼ごと消えてなくなった。

「……うっ」

 ふらつき、倒れそうになる俺。

「大丈夫ですかスライム様!」

 ユーリエが慌てて駆けつけて、俺を抱き上げた。

「大丈夫だ、文字通り全力出し切ったからつかれただけだ。アリスターを騙すには文字通り限界の一撃じゃないとダメだったからな」
「何をしたの?」

 他の三人がやってきて、カレンが聞いた。

「あいつを倒してもまだ来る。だから封印した」
「封印? しかし封印は破られるのでは?」

 ルーシアが疑問をしめす。

「ああ、教えてなかったっけ。時間を短めに設定すれば、その短さに比例して何があっても破けない封印にする事ができるんだ。この場合は5日」
「な、なるほど。五日程度なら『封印』としてはほとんど意味を成さない」
「だからこそ壊せない。今回はこれで充分だ」

 説明を終えると、いよいよつかれた。
 意識が遠くなって、目の前が真っ暗になった。

 このまま丸一日は寝込んでしまうだろうが。

「お、お兄ちゃん大丈夫なの?」
「師匠は全力を出し切ったと言った。ならば休めばよくなる」
「その間はあたしたちがリュウ様を守らないとね」
「下等な人間達からお兄ちゃんを守ればいいのね!」

 頼もしい声達に、俺は安心して意識を手放したのだった。
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