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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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倍返し

「みつけたぞ! あれじゃないのか?」
「本当か! おお、確かにファイヤーアントの卵だ」

 10日ダンジョンの中、やってきた二人の勇者が卵の前に足を止めた。
 片方は背中にボーガンを背負ってる、それを使って戦うアーチャータイプの勇者だろう。
 もう片方は体をすっぽり覆い隠せそうな巨大な盾とやや短めの片手剣を持ってる、こっちは接近戦でオーソドックスな戦い方をするだろう。
 二人の身のこなしと武器から大体の戦闘スタイルと強さが読める、危険はほぼゼロだろう。

「今すぐ壊そう」
「待て早まるな、魔力の流れが見えないのか?」
「魔力……? むっ、あれらの祭壇と繋がっているのか?」
「その通りだ。多分あっちから手をつけないと卵を壊すのは不可能だろう」
「やってみてダメならダメで――」
「それが罠なのだ。みろ、これ見よがしに卵をスライムの上に載せている。弱そうに見せる工夫がされている。何故弱そうに見せるのか」
「……罠」
「うむ」

 こっちは何もしてないのに、勇者の二人は勝手に勘違いを広げてくれた。
 何もしてないってのも違うか、そう勘違いするように仕向けたのだ。

 あからさまに四つの祭壇を攻略してからまん中に変化が出る作りをした後、まん中の卵をスライム――俺の体の上のせている。
 スライムが台座になって卵が安置されてる格好だ。

 人間は蚊が目の前を飛んでたら反射的にはたきたがるのと一緒で、勇者からすれば最弱のスライムはついで感覚で倒してしまいたいモンスターである。
 それを利用した。

「うむ、壊せない、無駄骨ならまだいい。最悪攻撃を吸収する構造だったらうかつに攻撃したら孵化を早めてしまいかねない」
「くっ、賢しい真似を」

 勇者二人は忌々しげにこっちを睨んだ。
 思惑に上手くはまってくれたみたいだ。

 二人は口惜しげな感じでこっち(たまご)を見つめつつ、まともに攻略しようと四つの祭壇の一つにむかった。
 そこはクリス、オーガのクリスが守っている祭壇。
 入った途端、二人の断末魔が聞こえてきた。瞬殺だ。

 よくやったぞクリス。
 祭壇を守るモンスターが強ければ強いほど、そこから攻略しなければと勇者は思う。
 四つの祭壇攻略しなきゃまん中の卵は壊せないと思い込む。
 それが勇者の生態、そういう人種だ。

 俺はサボった。最重要対象である卵を守る名目でまん中にいて、サボった。
 ファイヤーアント根絶のために勇者は次々とやってきて、四つの祭壇にそれぞれ特攻して、クリスらに瞬殺された。

 俺はサボれた、のんびりマッタリした。
 ユイでさえ何もいってこなかった。
 今回の件で一番重要な卵を守ってるということで彼女はなにも言わなかった。
 ユイはあくまで俺がサボってるのが嫌いなのだ、マザードラゴンの息子にあるまじき怠惰――というのが彼女の怒るポイント。
 卵を守るのは一番重要な仕事だから、実際サボってるのに、ユイは何もいってこなくて快適だった。

「クソがぁ! こんなのこけおどしだろうがよ!」

 のんびりしてると、チンピラっぽい勇者が卵の前に立って俺を睨んだ。
 あっちこっち跳ねてる髪にパンクな服装。勇者だがチンピラと言っても通るような格好だ。

 そいつは怒り狂った顔で呪文を詠唱した。
 右手に光の槍が出現、それが出た瞬間空間全体に高音が響き渡る。
 こういうのはこけおどしじゃない、威力の高さが伺える一撃だ。

「うおおおおりゃああああ!」

 勇者は光の槍をこっちに投げつけた。
 槍が卵にあたった――次の瞬間。

 槍は倍の大きさになって来た方角を戻っていき、チンピラ勇者をつらぬき真っ二つにした。

「くそ……が……」

 勇者は最後まで悪態をつきながら、倒れて絶命した。
 あの手のヤツはまだ来るだろうな、と思った。

『すごいですスライム様』

 卵が喋った。
 正確には「卵に見せかけてるユーリエ」が喋った。

 傍目からはスライムが台座になってその上に卵が載ってる。
 それは正しくない。本当は俺がユーリエに膝の上に乗ってて、見た目を卵と台座に見せかけてるだけ。

 本当の卵はもっと別のところ……勇者が想像もしないようなところに隠してある。

 万が一のために隠してるのだ。

『今はどうやったのですか? 反射魔法ですか?』
『いや、反射魔法だとそのまま弟子か返せない。こっちに攻撃しても無駄だって現象を作るためにうってきたものをきっちり倍にして返した』
『倍? どうやってですか?』
『まず受けて無効化――は関係ないか。受けた攻撃をすぐに解析して、同じのを倍の威力でやり返しただけだ』
『それを今の一瞬でですか?』
『一瞬でもないがな』

 解析から打ち返すまで100分の1秒はかかった。本当の反射ならノータイムで返せる。

『すごいです……』
『これでもうこっちには攻撃してこないだろう』

 推測したとおり、それから俺――卵の方に攻撃してくる勇者はいなかった。
 勇者達が交わす会話から、チンピラ勇者が倍返しをちゃんと広めてくれたみたいだ。

 俺はのんびりまったりした、四つの祭壇のまん中でサボリ続けた。

 約束の十日、最初の五日間。
 サボってるだけでやり過ごすことが出来たのだった。
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