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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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クッキングスライム

 裏クリスタルタワー。
 疑似太陽でひなたぼっこしてると、外からルーシアが戻ってきた。

 何処に行ってたのかと思ったら、彼女はうさぎを二羽手に持っている。

「どうしたんだそれは」
「師匠。師匠もご一緒しますか?」
「うん?」
「今から昼食なのだ」

 そういうことか。
 勇者はサバイバルスキルが高いものが多い。
 こここそクリスタルタワーで「塔」だけど、モンスターが住むダンジョンの多くはディープ「フォレスト」とかサイレント「シー」とかブルー「マウンテン」とか。
 人間からすればとにかく野外なのが多い。

 そこに足繁く通う以上、戦闘能力の他にサバイバル能力が身につくのは自然の流れ。
 野外に住む動物を狩ってタンパク源を確保するのはよくやることだ。持ってる二羽のうさぎはそのためだろう。

 ちなみに魔物はほとんどそういう事をしない、エネルギー源が人間と違うからだ。

 中には人間を洗脳して「ジュースサーバー(血液タンク)」として飼ってるヴァンパイアもいるが、ほとんどはそんなものは必要無い。

「俺はいい、スライムはそういうの必要無いから」
「スライムは肉食だと聞いたが」
「それは誤解だ、スライムはあくまで草食。人間を捕食してるように見えるけどあれは服の繊維を溶かして食べてるだけだ。真っ裸にされるけど死にはしない」
「そうだったのか」
「まあその後を狙ってゴブリン達がハイエナの如く群がってくるけどな」

 ゴブリンとスライム、どちらも弱小モンスターだが、それをこえた共存関係みたいなのがある。
 スライムが服を溶かした後の女をゴブリンが(別の意味で)美味しくいただく。
 そんな関係が成り立っている。

 もっとも最近はゴブリン側から「全部脱がすのは風情が足りない」という声が上がってて共存関係が破綻寸前だけど。

「では、師匠がいらないのなら私で――」

 ルーシアはすわり、そのままうさぎにかじりつこうとした。

「ちょっと待てルーシア」
「どうしたのだ師匠」
「そのままかぶりつくのか? 多少でいいから調理しとけよ。腹壊すぞ」

 というか絵面的にいやだ。
 王女で勇者で騎士の鎧をまとっている凜々しいルーシアが、野ウサギを料理もせずにかぶりつく光景は見てて楽しいものじゃない。

「ちょ、調理、ですか」
「ああ、出来るんだろう」
「う、うむ。多少は」
「だったらそうしろよ」
「……わかった」

 渋々頷くルーシア。
 なんで渋々なんだ?

 ルーシアは荷物から様々な器具を取り出した。
 簡単な包丁にまな板、鍋にそれを乗せる台。
 屋外で調理に使う道具一式だ。

 火は魔法で起こした、……ここまではよかった。

 ユーリエの腕の中でミラクルフィットしながら眺めてたのだが、何を見落としたのか、ルーシアが作った料理はやばかった。
 うさぎの肉を切って鍋の中に入れたまではよかったが、その鍋がどういうわけか魔女の大釜のようになっている。

 どろどろとした液体がポコポコと泡をふき、その色が紫と黒の中間でいかにもヤバイ。

「……」
「……ルーシア、それは?」
「う、うさぎの刺身です」
「何故煮た!?」

 思わず大声が出た、震える塔の天井からほこりがパラパラ落ちてきた。

「わ、わたしは料理が苦手なのだ。唯一作れるのが刺身で――」
「だから何故煮た!?」
「そもそもうさぎって刺身にしていいのかな……」

 つぶやくユーリエ、彼女もドロドロスープを見て眉をしかめていた。

「だ、大丈夫だ師匠。このくらい普通に食べれる」
「嘘だろおい……」
「たまに当たるが」
「当たるんじゃないか!」
「確率は17%程度だ、問題ない」
「数字が生々しい! というかコレクって83%も大丈夫なのかよお前は!」
「自分の料理だから鍛えた。食材を無駄にする事はできない」
「既に台無しだけどなこの時点で!」

 まさかルーシアがそんなに料理下手だとは思わなかった。
 というかクワせられる訳がない、当たる確率17%って聞いて俺の目の前でこんなもの喰わせられる訳がない。

「はあ、ちょっと待ってろ」

 俺はユーリエから跳び降りて、スライムの体を広げて鍋ごと呑み込んだ。

「うっぷ!」

 瞬間こみ上げてくるものを感じた、魂が削られるかと思った。

「だ、大丈夫か師匠」
「17%の方だったぞ……」
「ええ?」
「ふう……」

 深呼吸する、体力をごっそり持ってかれたけど、ぎりぎり死なずにすんだ。
 体の中に取り込んだものを意識する。
 うさぎの肉体をまず再構築、その後に塔から飛び出して、その辺に生えてるハープや小石を取り込む。
 それを体の中でかき混ぜて、炎の魔法を体内で放つ。

 焼き加減を調節しつつ、裏クリスタルタワーに戻ってくる。

「出来たぞ」
「できた、とは?」

 首をひねるユーリエの前に、俺は「ぺっ」と吐き出した。
 ハーブとうさぎの石焼きだ。
 うさぎの肉とハーブの香りが相まってかぐわしい香りが塔内に広まる。
 石に多少の塩分があったから、それも分解して塗りたくったからちゃんと味がついてるはずだ。

「ほらこれを喰え。あたる確率0%のはずだ」
「あ、ああ……」
「どうした、喰わないのか」
「さすがに……これは……」
「?」

 どうしたんだろう。
 ルーシアはものすごくためらって、手を伸ばそうとしない。

「スライム様、さすがにそれは難しいです」
「なんでだユーリエ」
「なんでって……それは体の中に取り込んで吐き出した訳だから……」

 ???
 だからどういう事だ?

「今までお前達に突くってやったものと同じだぞ? 武器も鎧も服も作り方同じだろ?」
「そ、それはそうですけど……」

 ユーリエは困った顔でルーシアを見た、ルーシアもものすごく困っている。

「あっ。ドラゴン様」

 ユーリエが思い出したように反対側にいるユイ、何故かこそこそ隠れてるユイの方を見た。

「こっちに――」
「べ、別にお兄ちゃんの料理に興味ある訳じゃないんだからね!」
「まだ何もいってません」

 ユーリエはあきれ顔になって、更にユイにいった。

「この料理ドラゴン様が食べますか? 多分私たちじゃ消化しきれないと思います。ドラゴン様ほど丈夫じゃないから」
「そ、そうね。人間の貧弱な胃袋じゃお兄ちゃんの料理を消化しきるのは無理だもんね」
「はい、ですから――」
「ふ、ふん。お兄ちゃんにしてはそこそこの腕前ね」

 ユイは一瞬で俺が作ったうさぎの丸焼きを平らげた。
 凄まじく早い感触だ、俺でも見逃してしまった。

 と、いうか。
 一体何なんだ?

「お姉さん、料理とかしないでそのまま食べた方がいいと思います」
「そうだな、そうする」

 ルーシアは残ったもう一羽のうさぎに手をかけようとした。

 ユーリエとルーシアの会話から推測して、更にルーシアの作ろうとしてた料理を考えて。
 ……なるほど、そういうことか。

「それじゃ頂きま――」

 ぱくん。

 ルーシアがかじりつこうとしたうさぎを横取りするかのように呑み込んだ。
 体の内部を刃物のようにかえて、うまく捌いて切り分ける、最後に同じスライムのボディで皿を作って、そこにうさぎ肉を載せてから吐き出した(、、、、、)

 皿に載ったうさぎの刺身。
 こういうことなんだろ?
 ルーシアが作ろうとしたのは刺身、そして焼いたのにためらってそのままかじろうとした。
 生で食べたかったんだルーシアは。

 そう判断した作ったうさぎの刺身、だったが。

「うっ……」
「スライム様……」
「さすがお兄ちゃん、肉の捌き方が完璧じゃん」

 ルーシアは泣きそうな顔になって、ユーリエは何故か俺を非難めいた目で見た。
 ユイはユイで珍しく感心していた。

 一体何がいけなかったっていうんだ?
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