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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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鈍いスライムと過敏なドラゴン

 さて、ユイの再教育とは言ったものの、どうしたらいいんだろうな。
 当のユイを見る。彼女はなぜかうれしそうな顔をして、なぜかわくわくした顔で俺を見ている。

 なぜか。

 転生した先のこの妹に関しては、昔から理解できないことが多い。
 今もそうだ。

 それに、一から育て上げることは今まで十三人やってきて経験はたっぷりだが、元から強い相手を育て直す――矯正するというのはやったことはない。
 何をしていいのか、まったくわからない。

 どうしたらいいのか、と考えていたらみんなの姿が目に入った。
 なんやかんやで裏クリスタルタワーに集まってきたクリス、ルーシア、カレン、ユーリエの四人。

 わからないから、彼女たちに聞くことにした。

「どうすればいいと思う」
「お兄ちゃん!?」
「少し黙っててくれ」
「でも!」
「ユイのためだ。一番いい方法が知りたい」
「あたしのため……?」
「ああ、ユイのためだ」
「あたしのため……お兄ちゃんがあたしのため……」

 ユイがまた小さくガッツポーズした。
 本当何なんだろうな、この妹は。

 まあでも、納得してくれたからとりあえずよしとしよう。
 ユイをおいて、再び四人にきく。

「どう思う?」
「今まで通りでいいと思う。肉体と精神は表裏一体、師匠にじっくりみっちり鍛え直されれば自然と快方へむかう」

 ユーリエの意見はシンプルだった。
 今まで通りか、それじゃだめだって思うから聞いてるんだけどな。

「クリスはどう思う」
「花と一緒、見守るだけでいい」
「いやいや」

 クリスの答えも実にらしい(、、、)ものだったけど、それがだめだから今こうなってる訳で。
 きっとこれ以上聞いても何も出てこないだろうなと次へ言った。

「カレンは?」
「リュウ様どや顔ってできる?」
「どや顔?」
「うん。どや顔。何かをやってからのどや顔」
「……こうか?」

 スライムである俺にとって見た目……表情を変えるのは造作もないことだ。
 どや顔ってのはあまりしたことはないんだが、とりあえずシェスタの顔を想像しながらやってみた。

「これでいいか?」
「それちょっとだめ。小物臭強すぎ」
「小物臭ってわかるものなのか……」

 モデルがよくなかったな。
 シェスタはだめだから……じゃあヒメだ。

 ディープフォレストの大幹部、ヴァンパイアのヒメ。
 普段はおちゃらけてても、いざって時の威圧感は半端ない。

 どや顔だったな……じゃあヒメが強い勇者を倒して、残りの連中をついでに威嚇するときの顔で。
 それをイメージして、スライムの体をこねこねして作り替えた。

「どうだ」
「……」
「カレン?」
「……」

 なぜかたまり混んでしまうカレン。

「あなたが見とれてどうするんですか」

 それまで黙って見てたユーリエが珍しく声を出して、カレンに突っ込んだ。
 するとカレンが我に返り。

「しょ、しょうがないじゃない。今のリュウ様のかっこよさ半端じゃなかったもん」
「それはそうですけど、あなたが見とれてちゃ話が進みません」
「そ、それもそうね」

 カレンはゴホン、と咳払いして仕切り直した。

「つぎは……そうだね、さっきのあれ。ドラゴンの攻撃を」
「ファイナルストライクか?」
「うん、それを適当に打ってから今の顔をしてみて」
「意味がわからないぞ。これに何の意味がある」
「いいから、リュウ様にはわからないだろうけどそれでいいの」
「っていわれても……」
「スライム様、お願いします」
「ユーリエまで」

 どこかあきれた感じのユーリエだが、それ以上に彼女にしては珍しく口出しが多いことに驚く。
 どこか「見かねて仕方なく介入」したような雰囲気のユーリエ。
 よくわからないけどとりあえず従うことにした。

 そうして技を放とうとすると、ユーリエは俺をそっと地面に下ろした。

「どうした」
「全力でやった方がより効果的です」
「ふむ」

 それはなんとなくわかる。
 ファイナルストライクまで打てって言う話なら、全力で打った方が効果的って理屈は理解できる。そしてユーリエが俺を下ろしたのも。

 俺はぴょんぴょんと少しだけ跳ねて、余波がいかないような距離をとって、誰もいない方角を向いた。
 力を解放、ドラゴンの力。
 それを具現化させたドラゴンの前足。

 力を凝縮、きーーーーん、と空間が震える。

 ファイナルストライク!

 全力の一撃を、誰もいない地面に向かって振り下ろした。
 塔が揺れる、裏クリスタルタワーに天変地異が起きたかのごとく揺れた。

 おっと、忘れるところだった。
 やるからには見えないと意味がないから、振り向いて最高のどや顔。

 キュン!

 なんか変な音が聞こえた。ユーリエ、カレン、ルーシアの三人が顔を赤らめていた。クリスだけは鬼の面をかぶってたからわからなかった。

 そんな三人よりも、さらに激しく反応したのが。

「ああ、あああああ……」

 ユイだった、彼女はなぜか腕を回して自分を抱きしめるような格好で、恍惚した表情を浮かべて体を震わせていた。


「ユイ?」
「……」

 答えないユイ、まだうっとりしている。
 なんなんだ? ファイナルストライクなんて見慣れてるだろうに、その気になれば黄金竜のユイでもできるだろうに(そもそも母さんがやってたことだ)。
 なのになんで震えて――ビクンビクンしてるんだ?

「おいカレン、それにユーリエ。頼むから説明してくれ」
「それを毎日一回やればなにもかも解決ですよリュウ様」
「空振りじゃなくて、だれか勇者一人相手にすればもっと効果的です」
「そだね、そしたら完璧だと思う」
「いや意味がわからない。なんでこれで大丈夫なんだ? ユイを暴走させないようにするのが目的なんだぞ」
「……ここまできてわからないとかなんなの?」
「……スライム様だから人間の心がわからない、ということにしましょう」

 カレンとユーリエはあきれた顔で見つめ合った。
 なぜかため息もついた。

「お兄ちゃん……あぁ……やっぱりお兄ちゃんだ……」

 ユイはユイで恍惚して体が震えたままだ。
 本当、何なんだ一体。
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