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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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お兄ちゃんはすごいんだから!

 裏クリスタルタワー。

「ジ――――」
「……」
「ジ――――」
「……」

 俺がいつものようにだらけていると、「これからはここにいる」って宣言したユイに思いっきり見られていた。
 見られてるって言うか、にらまれてるって言うか。
 ものすごい形相でガン見してるっていうか。

 それがすごく気になって、気が休まらない。

「なあユイ、そんなに俺のことばかり見てないで自分のことをしたら?」
「は、はあ? 別にお兄ちゃんのことなんて見てないし。調子に乗らないでよね!」
「いや、見てるだろさっきからずっと」
「みてないもん!」
「もんってお前……」

 なんというか、完璧に意地っ張りモードに入ったよな。
 なんでそこでそんなに意地を張るのかわからないけど、一つだけわかることがある。

 こうなったユイはてこでも動かないってことだ。
 そして……。

「あれが師匠の妹さんなの?」
「そうみたいだよ。まあドラゴンとスライムだから義理の兄妹なんだけど」

 離れたところでカレンとルーシアがユイのことをみて何か話していたが、その二人は頼りにはならないってことだ。
 カレンは何やら面白がってるし、ルーシアは修行モードで静観モードだ。

 アレックスと違ってルーシアは俺に「こうあるべき」だとは言わない、その代わり俺を信じ切ってるから、「俺を助ける」という発想もない。
 良くも悪くもルーシアは俺のことは(言われない限り)完全に傍観者に徹するのだ。

 そこで、一人だけ介入してくるものがいた。
 クリスだ。

 新しいスライム武器をもらって、再びオーラを立ち上らせて凶悪な見た目になったオーガのクリスがユイの前に立った。

「ユイ姫」
「なにさ」
「スライムは休みたい、邪魔しない方がいい」
「お兄ちゃんのそれはずる休みなの。あんたたちにはわからないかもしれないけど――」
「けど?」

 思わず聞き返すような形で口を挟んだ。
 するとユイは「うっ」って言葉を詰まらせて。

「――お、お兄ちゃんはお母さんの息子なの。偉大なマザードラゴンのね。だからぐうたらと過ごしてちゃお母さんの名前に傷が付くの!」

 といった。
 昔から何回も何回も、ユイが口を酸っぱくして言い続けてきたことだ。

 偉大なマザードラゴンの息子だからちゃんとしろって。
 それはわかるんだが……俺はぐうたらしたいんだよ。
 何もしないで日々ぐうたらしてたいの。

 それを言うとユイは怒るんだよなあ、困ったもんだ。

 言われ続けてきた俺はもはや慣れて、最近はちゃんとあしらえるようになってきたが、そうじゃないクリスは引き下がらなかった。

「ぐうたらはスライムにとって大事なこと。私の花と同じ」
「なに、あんたオーガのくせにあたしに意見するの?」

 ドラゴンのあたしに、って言外に言ったのがわかる。
 ユイとクリス、二人の間に緊張が走る。

 まずい、この二人が戦えばどっちも無事じゃすまない。
 止めなきゃ。

「おいリュウ、大変だぜ――ってなんだこりゃ」
「一大事だよ――何があったの?」

 表からやってきたテリーとリリがきょとんとした。

「何でもない。それより一大事ってなんだよ」
「そうそう、勇者ラッシュなの」
「……げっ」

 げんなりとなった。
 そうか、勇者ラッシュか。

 勇者ラッシュというのは、人間たちの都合で勇者の侵入が多くなる日のことだ。

 勇者がダンジョンに来るのはモンスターを倒してそれを魔法の材料にしたり、あるいは自分の名声を上げたりと、いろいろな目的がある。

 その目的が何かのイベントと重なって需要が高まった時に盛大に襲ってくる。

 ちょっと前に心優しい大后様がいて、その太后様の息子の国王はものすごい孝行息子だった。
 太后様が「世界に平和が訪れますように」と祈るたびに、国王が「平和」のために勇者をダンジョンに送りまくる。

 正直あの頃はしんどかった。
 まだ人間で勇者だった俺は、いろんな事情が重なって国王の命令を逆らうことができなかった状態だ。だからどんどんダンジョンにかり出された。

 その勇者ラッシュが、今このクリスタルタワーにも起きようとしている。

「名目はわかるのか?」
「めーもく?」
「なにそれ」

 テリーとリリはちんぷんかんぷんって顔をした。
 ゴブリンとインプ、下級モンスターはそこまで考えてなかったか。

「そんなことよりも早く来いよ、勇者たちはもうすぐ来るんだからな」
「サボっちゃだめだよ」

 テリーとリリはそう言って、表のクリスタルタワーに戻っていった。

「リュウ様、あたし知ってるよ」

 テリーたちがいなくなったあと、カレンが言ってきた。

「勇者ラッシュの名目か?」
「うん。おもちゃにしてる村で聞いてきたやつなんだけど、大勇者様の誕生日が来週だから、そのためにやるんだって」
「大勇者……あ」

 はっとする俺、そして。

「そっか、来週は師匠の誕生日だった。休日にもなってたな」

 ルーシアは一人つぶやいた。
 そう、俺の誕生日。

 前にいろいろやり過ぎて、人間の世界では前の俺の誕生日は記念日で祝日になってる。

 唯一祝日になるほどの勇者を記念すべく、勇者だからモンスターを全力で倒しまくる。

『えっと、自業自得?』

 言うな。
 確かにそうかもしれないけどそれはいうな。

 はあ……。
 それよりも勇者ラッシュだ。

「どうするのリュウ様」
「そうだな……ルーシア、どれくらいの規模で来ると思う?」
「最大規模だろう。師匠に対する尊崇の思いが年々高まっている。アレックス兄さんの働きかけもあって」
「あいつめ!」
『あっ、完全に自業自得じゃなかった……』

 なんてことを、アレックスのやつ面倒くさいこと。
 まったくもう!

 深呼吸して、気を取り直した。
 最大規模ってことはかなり来るってことだ。
 正直今のクリスタルタワーじゃ抜けられるだろう。

 そして最大規模ってことは数もかなりくるってことだ。
 一度シェスタを抜けた勇者はその後裏ダンジョンに自由で出入りできる、そして今回はかなり抜いてくるだろう。

 それはまずい。
 俺はユーリエから飛び降りた。

「スライム様?」
「そこで待ってろ、俺がやる」

 そう言ってユーリエを止めて、俺は表に、クリスタルダンジョン最上階に来た。

「その程度のラッシュどうってことねえ――キュウゥゥ……」

 到着した途端、シェスタがやられたシーンと遭遇した。
 吹っ飛ばされたシェスタは壁に突っ込んで、目を回して気絶する。

 ふがいない、すっごいふがいないなあんた!

 まあでも、都合がいい。
 俺はこっそり隠れたままシェスタを操縦した。

 再び起き上がるシェスタ。

「ふはははは、やったと思ったか、あめえよ」

 それらしき台詞を言わせてから、勇者に攻撃を仕掛ける。
 くるくる回転しながらの体当たり、ビッグマウスアタック。

 それを繰り出して、勇者を一撃で倒す。
 次に上がってきた勇者もビッグマウスアタックで倒した、その次も、さらにその次も。
 ここまでのモンスターを蹴散らして、最上階まで上がってきた勇者を流れ作業で、全部一撃で倒した。

 数が多いからほかのことにこだわってる暇はない、全部一撃で倒してしまう。

 勇者ラッシュは長く続いた、最上階まで上がってくる勇者は軽く100を越えて――三桁の大台にのった。

 それを全部一撃で倒したから、最後の方はくたくたになった。

「うおおおおお! すげええええ!」
「さすがシェスタ様」
「シェスタ様がいる限りクリスタルタワーは無敵だぜ」

 いつものごとくシェスタをよいしょしにきたモンスターの面々、それでラッシュがひとまず一段落した。

 操縦をといて、こっそり裏クリスタルタワーに戻る。

「ほら、これでわかったでしょ」

 なぜかユイがほかの三人、カレンとユーリエとクリスに向かって胸を張っていた。

「お兄ちゃんはやればすごいんだから!」

 何でお前が威張るんだお前が……と思ったけど、全力を出しすぎて、疲れて突っ込みをする気もなかったのだった。
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