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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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子供扱いと大人扱い

 ディープフォレスト最強の軍団は? という質問があれば、全員が迷うことなく「リザードマンたち」だと答えるだろう。

 森南部、この日も侵入してくる勇者たちを森のモンスターが迎撃した。

「おおすっげえ、あれみろよ、勇者の大群を押し返してるぜ」
「リザードマンさんたちってスゴイね!」

 テリーとリリ、そしておれ。
 ドラゴンナイトの三人が連れ立ってここにやってきた。
 ディープフォレスト最強軍団のリザードマンたちと一目みたいから、という二人の提案に乗ってここにきた。

「ぐおおお!」
「ジョージ!? くそてめえ、おれのジョージを!」
「パレス! 背中は預けた!」
「おう、任せろキン!」

 離れたところから見ているおれたち、テリーとリリは戦場の熾烈さに舌を巻いている。

「すっげえよなあ」
「うん! でもどうしてリザードマンさんたちってそんなに強いだろ」
「それはな」

 背後から男の声がした。
 驚いて振り向くおれ達三人、そこにリザードマンが二匹いた。
 右手に刀、左手にラウンドシールド。どっちもいかにもな戦士って装備をしている。

「愛の力だからだ」

 リザードマンの一人が答えて、テリーとリリが互いの顔を見比べた。

「愛の力?」
「どういう事なの?」
「簡単な事だ、愛する人とともに戦う、愛する人を守るために戦う。弱いと自分だけじゃなくて一緒に戦ってる人まで危険にさらしてしまう。だから強くならざるをえない。な、バーナード」
「子供相手になに言ってるんだヘンリー」

 そう言って、バーナードがヘンリーの頭をどついた。それがイチャイチャに見えてしまう不思議。
 リザードマンはオスしかいない種族で、全員がそういう関係らしい。

 なるほど、だから強いのか。
 むかしどっかの国にそういう兵隊がいたって文献で読んだことがある。今説明されたのとまったく同じ、兵士は全員が恋人同士で互いに互いを守る為に戦うからメチャクチャ強かったって。

 リザードマンと勇者の戦いを見る、勇者どもも決して弱くはないが、リザードマンの愛の力で圧倒されている。

「それよりもお前たち、ここは危ないから森東部に帰りな」
「えー」
「いいじゃんか少し見てたって。つよいんだろあんたたち」

 テリーが食い下がる、いやそこまでして見るもんじゃないだろ。

「いいから、ここにくるんならもっと強くなってからこい」
「その通りだぜ、さあ帰ろう」

 おれはそう言ってインプのリリのしたに潜り込んで、馬のように彼女を乗せて身を翻した。そうするとテリーも後をついてきた。

「はーい」
「しょうがねえな」

 軽くふてくされた二人だが、おれはしめしめと思った。
 これだよこれ、よわっちいスライム扱いされて面倒ごとから遠ざけられる。
 これこそおれが求めてた生き方で、二人とちがっておれはこっそり満足していた。

     ☆

 最弱の森、ディープフォレスト東部に戻ってきてしばらくぶらぶらしてたが、この日こっちには勇者が侵入してこなくて、ドラゴンナイトは早めに解散した。
 テリーとリリを見送ってからおれはいつものスポットに来て、木漏れ日でひなたぼっこをしていた。

 あぁ……やける……ちくちくポカポカする……きもちぃ……。

 そうやってのんびりまったりと溶けかかっていると、急に日差しがなくなった。
 太陽が雲に入ったのか? と思って空を見上げたがそうじゃなかった。

 深い森にぽっかり空いた木々の隙間にはコウモリがあった。多数のコウモリが隙間を覆って、日光が差し込まれるのを防いでいた。
 邪魔だなおい……って思っていると。

「さっがっしたよー」
「うわ!」

 いきなり背後からタックルされた。
 びっくりして溶けかかった姿からもとのまん丸スライムに戻ったおれは誰かに抱き上げられた。

 ゼリーの体の中に目玉を自由に移動して方向転換、すると、一人の少女に抱きかかえられている事が分かった。

 見た目だけならほぼ人間だ。
 金色の長い髪、黒を基調にしたレースのドレス、起伏の乏しい少女的な肢体。
 そして、鋭く尖った犬歯。

 パンヴァイア、一見人間っぽく見えるが紛れも無い魔物の女。
 それだけじゃない、このディープフォレストにおいて、マザードラゴンに次ぐナンバー2の魔物だ。つまり幹部クラス、重鎮中の重鎮だ。
 名前は――。

「な、なにするんだヒメさん」
「ノンノンノン、ヒメさんじゃなくて、ヒメ、って呼んで」
「いやでも」
「呼ばないとたかいたかいしちゃうゾ♪」

 ヒメはおれを抱き締めて頬ずりしたままいった。

「いやおれ子供じゃないんですから高い高いされても嬉しくない」
「ノンノンノン、ご褒美の高い高いじゃなくて、お仕置きの他界(たかい)他界――よん?」
「殺す気か!」
「だってお仕置きだもん」

 だもん、の直後に背中がぞわっとした。
 ふざけた性格に見えて彼女はものすごく強い、何せナンバー2だから。
 ヘタに逆らうと更に面倒な事になるから受け入れる事にした。

「わかったから離して下さいヒメ」
「うん、いいこいいこ。だが断る」
「さん付けやめたじゃないか」
「やめたら離すなんていつ言った?」
「それは言ってないけど」
「うーん、やっぱりスライムっていいよね。ねえねえ、ちょっと血を吸わせて」
「スライムに血なんてないから!」
「じゃあ体吸わせて、あたしゼリーとかプリンとか大好きだから。あっ、ストローも用意してきたから。これをこうして――」

 ヒメはおれを抱いたまま、どこからか取り出したストローを脳天にぶっさした。
 スライムだからこうされたくらいじゃダメージもないけど、スライムの脳天にストローが刺さったきわめてお間抜けな姿になった。

「とにかくもうやめてくれ。というかなんなんだいきなり」
「ちょっと頼みごとがあってね」
「頼みごと?」
「うん、森南部に勇者が侵入してきたからリュウちゃんがそれ倒してきて」

 悪びれもなく無茶ぶりを突きつけてくるヒメ。さっきのリザードマンたちとは真逆の対応だ。
 彼女は数少ない、おれの本当の実力を知っているものだ。
 なんでかは聞いたことないが、ナンバー2の幹部だから母さんに聞いたとかそう言うのだろう。

 それはそうとして。

「南部って、リザードマンたちがいただろ?」
「うん、でも儀式はじめちゃったんだよ連中」
「儀式?」
「一組の勇者を撃退すると儀式はじめちゃうんだよトカゲたちは。まあ単に戦った後盛ってるだけなんだけどね」
「うへぇ……」

 オスだらけのその光景を想像しかけて思わず吐きそうになった。

「あいつら最強軍団だけど、扱いが面倒なんだよね。で、侵入してくる連中がどうやら強そうだから、今動ける中で倒せるのリュウちゃんしか残ってないのね」
「人使い荒いな」
「いかないと森の木漏れ日スポット全部埋めちゃうかんね」
「鬼かあんたは!」
「だってあたしヴァンパイアだもん、日差しなんてない方がうれしいもーん」

 それは道理だ。おれとはなすために今も頭上の日差しを眷属のコウモリで塞いでる。

「なんでヒメが自分でやらないんだよ。母さん以外だとヒメが森最強なんだろ?」
「さりげなく自分の事を外さないの。あたしは今回パス、パッと見た感じ僧侶が多かったから」

 ヴァンパイアと僧侶の相性は悪い。
 ヒメクラスになると負ける事はありえないが、それでもいやってことか。

「おねがい、リュウちゃんだけが頼りなの」
「調子のいいことを……分かった」

 ため息交じりにいい、同時にヒメの抱っこを振りほどいた。
 着地すると共に、スライムの体からヒメの姿にかえる。

 もともとスライムは形だけを真似る能力があるが、おれはその上に魔法で色とか服とか、声までもかえた。スライムの中でおれだけが出来る技だ。
 ヒメのドッペルゲンガーみたいに変身して、彼女に言う。

「やるけど、功績は全部そっちにつけるからな」
「うん! ありがとうねリュウちゃん。お礼のキスをしてあげる」
「いいからそんなの――って首筋はキスじゃなく吸うつもりだろ!」
「あはは、冗談冗談。チュッ」

 笑いながらほっぺにキスしてくるヒメ。
 同じ顔の女の子がキスをする光景は、想像してちょっとムラッとしたが悟られない様に平然とした。

「むっふふー♪」

 ヒメは口を押さえてイタズラっぽい笑いをした、ばれてるなこりゃ。
 それがちょっと恥ずかしくなって、おれは早足で彼女から離れて森の南部に向かっい。
 彼女の姿で、侵入してきた勇者を瞬殺したのだった。
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