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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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鬼の笑顔

 日が暮れて、夜になって、朝が来て。
 また日が暮れて、夜になって、三度目の朝。

 その間、クリスはずっと花を眺めていた。
 よっぽど好きなんだろう、体育座りのまま、三日近く微動だにしないで花を眺め続けている。

 それに付き合っていた俺、いつ飽きるのか、いつ帰るのか。
 こっちから声をかけるのをやめてとことん待とう、って思っていたんだが。

「……本当に花が好きなんだな」

 つい、こっちから話しかけてしまった。

「うん、好き。花は綺麗。大好き」

 まったく迷いのない、ストレートな返事が返ってきた。
 手折るでもなく、ただただ見つめているだけ、それで満足しているようだ。

 その証拠に、クリスの体から立ちこめているオーラが最初の頃よりも遥かに強くなってる。
 最初は体のまわりにまとわりついてただけなのが、オーラの総量が増えて、花畑全体を覆うようになっていた。

 ここ一帯がオーガのまがまがしいオーラに覆われて、さながら魔界の様な感じになっている。

「なんで花が好きなんだ?」
「綺麗だから」

 即答された。
 他の理由なんかない、それだけだってのがひしひし伝わってくる。

「本当に好きなんだな」
「うん」
「むっ」

 視界の隅っこにそれが入って来た。
 花がオーラで枯れないように俺の体でコーディングしていたのが、三日経って剥がれてしまったようだ。

 完全に剥がれた一輪がクリスのオーラに触れて枯れてしまった。

「あっ……」

 俺の声に気づいて、同じ方角をみたクリスがそれに気づいた。
 仮面をかぶっているから表情は分からないが、あきらかに肩を落として落胆しているみたいだ。

「時間なの」
「まあな。もう一回コーディングし直せばいいけど」
「……ううん」

 クリスは首を振って、ゆっくり立ち上がった。
 本当にゆっくりと、まわりの花を万に一つも傷付けないようにゆっくりと。
 立ち上がって、まずは俺の方をみた。

「ありがとう、夢みたいな時間だった」
「……」
「それじゃ」

 巨体が小さく見えるような、肩を落として背中を丸めて、慎重な足取りで花壇から離れていくクリス。

 その背中は、小さくて、可哀想に見えた。

『スライム様……』

 三日間、ずっと俺を抱っこしていたユーリエが念話で言ってきた――言うまでもない。
 言うまでもない事だ。

「待って」
「なに?」
「ちょっと待って、今考えてる」
「?」

 クリスは首をかしげる、俺は考える。
 何をすればいいのか、どうすればいいのか。

 花畑をコーディングしたのは成功だが、失敗だった。
 正確に言えば短期的には成功だが、長期的には失敗だった。
 更に言えばここをコーディングするだけだと、クリスはここの花畑しか見れない。

 花なんて世界中にいくらでもある。

「花はなんでも好きか」
「好き」

 やっぱりそうだ。
 クリスから感じていたもの、それはただただ「好き」なんだ。

 花なら好き、なんでも好き。
 そんなクリスに、花畑一つコーディングするだけなのはもうやる前から失敗ってことだ。

 ならどうする、決まってる、クリス本人をどうにかするんだ。

「もう行くね」

 俺が黙っていると、クリスは再び立ち去ろうとした。

「待って。……そのこん棒いつも持ってるのか?」

 再び呼び止めて、たずねる。
 クリスが持っているこん棒、オーガのトレードマークといってもいい、下手な人間の胴回りよりもぶっといこん棒。

「持ってる、けど」
「じゃあそれにしよう」
「どういう事?」

 言葉で答えず、行動でしめす。

 まずはイメージ、こん棒に与える能力、その影響と効果をイメージする。
 それが固まると、体の一部を溶かした。
 溶かした分をクリスの方に向かわせて、こん棒に飛びつかせた。

「なにをするのスライム」
「……」

 答えない、黙ってやる。
 スライムの体がこん棒を包む。
 完全に包み込んだ後、透明になって、元のこん棒とはまったく見た目のこん棒になる。

「よし、これでいいはずだ」
「どういうこと?」
「もう効果が出ているはず――でたな」
「え?」

 クリスはきょろきょろとまわりをみる、何が起きたのかと。
 そして気づく。

「オーラが……上に?」
「そのこん棒の力だ、持ってるものの体のまわりに障壁をはる。普通と向きが逆のな」
「向きが逆?」
「オーラとか魔力とかが障壁に押し返されて外に出て行けないようになってるだろ」
「うん、なってる」
「かといって全部塞いでしまうと体によくないし下手すると爆発するかも知れない。って事で上に穴を開けた。オーラが上に登ってって煙突みたいに見えるだろ?」

 更に頷くクリス。
 そう、上に向かってる。
 四方八方に拡散していたオーラが一方向に上に向かってる。

 立ちこめるオーラは上に向かうことでビジュアル的にはより凶悪に見える様になったが。

「これで平面、お前の頭より低いところにはもう影響がないはずだ。そのこん棒を持ってる限りは」
「あ……」

 気づかされたクリスはまわりをみた。
 頭より低いところ、花畑。

 そのこん棒を持ってる限りはどんな花畑にいっても枯らす事はない。

 昔誰かがやってるのをみたことがある、武器に「はったり」をかますしかけだ。

 今のようにオーラを強そうに見せたり、動いただけで残影が見える様にしたり。
 人によっては、そういうはったりを武器にくっつけることがある。
 それを再現したのだ。

「ありがとう」

 クリスは俺をまっすぐ見つめ、そう言った。

「ありがとうスライムさん、ありがとう」

 語彙が少ないのか、それとももっと他に原因があるのか。
 それは分からない、でも、クリスの「ありがとう」は心に響いた。
 オーラも増えた、本気で言ってるのがよく分かる。
 やってよかった、と思った。

 なお、オーラが増えたこともあって。
 ビジュアルは「鬼の面をつけてるまがまがしいオーラをたちこめらせてる凶悪なモンスター」になってて、ユーリエなどはその視覚的な恐怖に手が震えだしたのだった。
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