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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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鬼と花とへそ曲がり

 ある昼下がり、ユーリエに抱っこされたままクリスタルタワーを出た。

 最近は自力で疑似太陽をつくって裏クリスタルタワーでもひなたぼっこできるようにしていたけど、所詮疑似は疑似だと思った。
 それなりにマッタリできて気持ち良いけどどこか物足りない、養殖の魚ばかり食べてたら天然物がほしくなった、そんな気分になった。

 だから天然の日差しを求めてクリスタルタワーを出てどこかいいところはないか、と探してるところだ。

「ふんふんふーん♪」
「どうしたんだユーリエ、機嫌がよさそうだな」
「スライム様とお二人なのは久しぶりだなって思ったんです」
「そういえばそうだな」

 最近はルーシアが押しかけてきた事もあって、二人っきりってのは確かに少なくなったかもしれない。
 アレックスタイプで俺信者なユーリエには、二人きりでいられるのが嬉しいんだろう。

 何かがおきない限り、ユーリエはずっと俺を抱っこしたまま手放さないだろう。
 それくらい上機嫌だ。

 ……ふむ、ならばこうしよう。
 俺はこっそり、自分の体を重くした。
 もちろん物理的にじゃない。

 そもそも俺がユーリエに抱っこされてるのはユーリエを鍛えるためだ。俺を抱っこしてる事で常に体力と魔力に負荷を掛けて、基礎能力を地道に上げていく。それが抱っこされてる理由だ。

 ユーリエは機嫌いいし多分今日は俺を離そうとしないみたいだから、こっそりとユーリエにかかる負荷を一割増しにした。

 増えすぎても意味がない、一割ってのが気力でぎりぎり乗り切れる限界だ。
 もちろん人間一瞬だけなら数倍から数十倍の、いわゆる火事場のバカ力が出せるが俺はそれを鍛錬には使わない。普段は長く負荷を掛けるのがオレ流だ。

「♪」

 ユーリエはまだ鼻歌交じりで上機嫌だ。すぐに気づかれないのはいいことだ、そのままにしとくことにした。

「あれ?」
「どうしたユーリエ、いきなり立ち止まって」
「あそこにオーガさんがいます」
「ん?」

 ユーリエが示した方角をみた。
 確かにそこにオーガが一体いた。

 オーガ、鬼人とも呼ばれるモンスター。
 怖い見た目と高い戦闘力、そして強大な殺意を併せ持ったナチュラルボーンジェノサイダーだ。

 そのオーガはどういうわけか膝を抱えて体育座りをしている。
 その視線の先に……花畑があった。

 もしや……と思ってユーリエに言って近づかせる。

「よう」
「スライム……スライムなんで」
「その顔、あんたクリスだな」
「私の事……しってる?」

 オーガのクリス。
 ディープフォレストにいたときに一度会ったことのある個体。
 見た目が鬼みたいに怖いくせに花が好きって言うかわりだねのオーガだ。

 ちなみに向こうはお面をかぶっている、鬼のお面だ。
 お面も怖いけど、それを取った素顔はもっと怖い。

 子供がみたら一生うなされるくらい怖い。

 俺は向こうの事を覚えてるけど、向こうはこっちの事を覚えてないみたいだ。

「どこかで……会った?」
「覚えないかな、ほら」

 俺はセルフでめ潰しした。
 スライムの体が飛び散って、目が「><」みたいになった。

「あのときのスライム」
「思い出してくれたか」
「なんでここに?」
「ひなたぼっこ出来るところを探してるんだ。おっ、ちょうどいいところに花畑が」

 そう言って花畑をみた。
 クリスがじっと眺めていたそこは一面の花畑。野生のもので、金にならないような野花ばかり咲いている。

 花は綺麗に咲いている、同時に日差しも温かく降り注いでいる。
 花を育てたのは俺だ、と言わんばかりの温かくて穏やかな日差しだ。

「そういえば花を見てたな、もっと近づかないのか?」
「わたしはだめ」
「だめ?」
「近づくと枯らすから」
「枯らす?」

 どういう意味なんだろうと不思議がっていると、オーガの体からうっすらとオーラが漏れてる事に気づいた。
 魔物にしてはとても頼もしい、まがまがしい程のオーラだ。
 しかしそれは生物にとっては毒でしかなかったみたいで、よく見たらクリスが体育座りしている周辺の草が枯れ、半径一メートルは完全に不毛の地になっていた。

「それが花を枯らすのか?」
「うん、ディープフォレストじゃない、免疫のない花はすぐ枯れる」
「なるほど」

 ディープフォレストみたいな劣悪な環境で育った花はモンスターのオーラ程度になら免疫はあるけど、そうじゃない普通の環境で育った花はダメって事か。

 それはなんだか切ないな。

「おいみろよ、ここに花が咲いてるぞ」
「きゃはははは、こんなところに花とか超受けるー」

 ふと、離れたところから男女の声が聞こえてきた。
 勇者でもないただの人間だ、しかも男も女も相当にチャラい。

 二人は土足でつかつかと花畑の中に入って、咲いてる花を踏み荒らして回った。
 花を摘んですぐに捨てたりと、ただただ荒らしているだけだ。

「あっ……ああぅ……」

 立ち上がって、一歩踏み出した瞬間クリスが止まった。
 体がブルブル震えている、ものすごく悔しそうだ。

 今すぐ飛び出して制止したい、でも自分が近づけば花を枯らしてしまい、被害をもっと大きくしてしまう。
 そのジレンマ、故の逡巡。

「クリス」
「なに……?」
「行ってこいよ」
「でも……私は……」
「もう大丈夫、クリスの力は封じた」
「え?」
「ほら」

 俺はユーリエの抱っこから飛び出した。クリスに軽く体当たりをした。

「痛い」

 軽くボールをぶつけられた程度の衝撃、クリスは当てられたところをさすった。

「力の大半は封じた、今ら近づいても大丈夫だぞ」
「……」

 クリスは半信半疑のまま一歩踏み出す。
 綺麗に半径一メートルだけ禿げていた地面はなんともなかった。

 更に一歩踏み出す、大丈夫。
 もう一歩、なんともない。

 自信をえたクリスはドッシンドッシンと花畑に向かっていく。

「ぐおおおおおおお!!」

 そして天に向かって咆哮した。

「ひゃん!」
「も、モンスターだ!」

 花畑を荒らしてたバカ二人は逃げだそうとした。
 明後日の方向に向かって逃げようとしてまた花を踏み荒らしそうになるが、クリスは一足早く回り込んで、二人の首根っこを掴んだ。

 まるでネコにそうするかのように、二人を掴んで花畑の外に向かって放り投げた。

「ぐえっ!」
「ごふっ!」

 地面にたたきつけられて苦悶の声をあげる二人、しかしオーガというモンスターへの恐怖が痛みを上回って、二人はすぐに起き上がって逃げた。

 バカを追い払ったクリスは、花畑の中でじっと佇んでいた。
 俺が押さえた――からなのかは分からない。
 花畑の中にいるクリスは優しく見えた。

 俺はユーリエに抱っこされたまま近づき、途中であるものを拾ってそれをクリスに差し出した。

「これやるよ」
「これは……?」
「あいつらがさっき手慰みに摘んでそのまま捨てた花」
「可哀想」

 クリスは花を受け取って、手のひらの中でめでた。
 サイズ的に人間が小指大のものをめでているような、そんな光景になる。

「本当に花がすきなんだな」
「うん、花好き」
「そうか、わかった」
「わかった?」

 クリスが訝しむ中、俺は体を溶かした。
 スライムの体を溶かして、ゆっくり広げていく。
 まるで飴細工のように、スライムの体で花を、花畑を全部コーディングしていく。

 広大な花畑、闘技場のリング100個分はある花畑を余すところなくコーティング下から、ちょっとつかれた。

「何をしたの」
「皮を被せた、人間の飴細工ってしってるか? あんな感じだ」
「なんのために?」
「クリスの力はもう元に戻してる」
「え? ……ほんとうだ」

 自分の体をみて驚くクリス。
 離れて体育座りをしていた理由だったオーラがまたでるようになった。
 しかし花は枯れない。

 コーディングされた花は枯れなかった。

「もう大丈夫だ。花が好きなら近くで見るといい」
「そのために……?」
「……俺がのんびりしたいから、ここがちょうどいいんだ」

 俺はユーリエを座らせ、抱っこされたまま半溶けになった。

 見かねてついついやってしまったが、「そのために?」とか改めて言われると恥ずかしい。

「ありがとう……スライム」

 クリスはそういって、俺のそばに座って花を眺めた。
 穏やかな空気を出して、花をじっと見つめ、めでていた。

 別にクリスのためじゃない、気がついたら体が動いてた、俺の悪い癖が出ただけだ。

 ついでに言うとちょうどいい場所だったから、花がこんなに育ってるところなら日差しもいいから、ここでひなたぼっこしようとしただけだ。

 それだけだ、うん。
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