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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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伝統芸能

 クリスタルタワー八階。

 この前のユイの事は気になったから、裏を出てここにやってきた。
 ちなみに俺一人だ。いつも抱っこしてもらってるユーリエにはスライムのボディを一部切り離して、重しとしておいてきた。

 そうしてやってきてユイの階、すぐにユイを見つけた。
 彼女はこっちに背中を向けている。何かを手に持って、それを見つめているみたいだ。

「うふ、うふふふふふ」

 なんかご機嫌みたいだ。
 何を見てるのか気になって、俺はぴょんぴょん跳ねながら近づいて、後ろから声を掛けた。

「ユイ」
「ひゃん!」

 ユイは文字通り、飛び上がるくらいびっくりした。

「お、お兄ちゃん!? なんでここにいるの?」
「なんでって……それより今背中に何を隠したんだ?」
「な、なんでもないよ?」

 ユイは目を泳がせて、空気の抜けた音しか出ない下手な口笛を吹いた。
 俺を剥いてて、両手は背中だ。今見てた何かを隠してる。

「って、それ俺のリボン」

 他の物なら分からなかったが、それだけは分かった。
 この前ユイが来た時につくってやったリボン、スライムのボディを素材に作ったリボン。

 俺の体から出来た物だから、これくらい近くにあったら見えなくでも存在は感じる。

「まだ持ってたのか」
「な、なによ! 持ってちゃ悪い?」
「別に悪くはないけど」

 というかそんな物を見つめて何をしてたんだユイは。
 それを媒体に俺に呪いを掛けるにしても魔力とか感じられなかったぞ。

「別にお兄ちゃんがくれたから持ってるわけじゃないんだからね! これは……そう! 暇だったの」
「暇?」
「暇だったからちょうどいい暇つぶしになったの! 結んだりしていろいろ」
「ああ、なるほど」

 それは分かる。
 俺も暇な時は割り箸の紙をおったり結んだり、輪ゴム二本をつかって互いに通していろんな形にしたりするからな。

 リボンの形は確かに、暇つぶしには最適かもしれない。

「ありがとうユイ」
「だから別にお兄ちゃん――えっ?」

 驚くユイ。

「いいこと気づかせてくれた、ありがとう。俺も暇をつぶすときはそういうのでやってみる事にする」
「お兄ちゃんの……暇つぶし?」
「ああ、ありがとう」

 もう一回お礼を言って、ユイをみる。
 どうやら元気そうだ、前に裏ダンジョンまで来たから何かあったのかなとも思ったけど、どうやら大丈夫みたいだ。

 そんなユイはしばし視線をさまよわせてから、いつものドレスから紐りぼんを一本ほどいて俺に突き出してきた。

「これ!」
「うん?」
「お、お兄ちゃんにあげる」
「ああ、これで暇をつぶせって事か」
「か、勘違いしないでね! 別に深い意味があるわけじゃないんだからね! もらったから同じものをお返ししただけなんだからね!」

 怒濤の勢いでいい訳をするユイ、いやそんなのは分かってる。
 義理の兄妹でしかも種族が違うんだ。スライムとドラゴンに深い意味があるわけもない。

 俺はリボンを受け取った。

「ありがとう、暇な時使わせてもらう」
「つ、使う!?」

 ユイは思いっきり驚いて、それから顔を真っ赤にしてうつむいた。
 またどうしたんだろう。

 ユイの事はやっぱりわからないな。

「何やってんだ小僧ども」

 ふと、背後から野太い声が聞こえた。
 振り向くとそこに、上の階から降りてきたシェスタの姿が見えた。

「シェスタさん。シェスタさんこそどうしたの?」
「俺か? 俺は客の出迎えだ」
「客?」
「ワームホールからな、ファイヤアントの使者が来たって言うんだ。女王の側近だとよ。いっちょで迎えようって思ってな」
「へえ」

 ワームホールのファイヤアントというのは、ちょっと前に協力を求めてきたダンジョンとモンスターの名前だ。
 女王の繁殖に大量の人間をエネルギーに必要だってんで、勇者がそれなりに多くくるようになったクリスタルタワーとシェスタに協力を求めてきた。

 こういうのは正直お互い様だし、勇者の死体は処分に困るから渡りに船って事で引き渡してた話になってた。
 そのファイヤアントの使者か。

「変なラブコメしてねえて腕を磨け小僧ども」

 シェスタはそう言って、下の階に向かって行った。
 突っ込みところしかない台詞だ。
 まずラブコメじゃないし、腕を磨かなきゃいけないのはお前の方だ。

 とは流石に言わずに流して、後ろについて行った。

「なんだ小僧」
「ちょっと使者が気になって」
「物好きなやつめ。ついてくるのはいいけど粗相するんじゃねえぞ」
「わかってるって」

 俺はそう言って、シェスタの後について塔を降りていった。

 降りていく間、シェスタがモンスタータチにちやほやされてるのを見た。
 このクリスタルタワーの表向きの主で、多くの勇者を葬ってきたビッグマウスのシェスタ。

 今やその存在感と信頼感はディープフォレストのマザードラゴンに勝るとも劣らない程のものがあるようにみえる。

 そうしてついて行って、一階の入り口のところまでやってくる。

 そこに一体のファイヤアントがいた。
 シェスタはファイヤアントに近づいていき、ファイヤアントがシェスタに話しかけた。

「あなたがシェスタ様ですか」
「おう。このクリスタルタワーのボス、ビッグマウスのシェスタだ」

 シェスタが名乗っただけで、あたり中から歓声があがった。
 そこいら中にモンスターがいて、そいつらがシェスタの名乗りに興奮している。
 まるでアイドルのご登場みたいだ。

「この度はありがとうございます。クリスタルタワーが送ってくれた人間はダンジョンのモンスター一同ありがたくいただいてる」

 ん? ちょっと待って、今なんて言った。
 ダンジョンのモンスター一同で?
 おかしいぞ、ファイヤアントの依頼は女王のためにって話じゃなかったのか?

「あんなの朝飯前よ。足りなかったらまた送るからいつでもいえ」

 シェスタが上機嫌で言った。ファイヤアントの言葉の矛盾にまったく気づいてないみたいだ。

「それで、ご協力してくれたシェスタ様にはお礼をしたいのですが」
「お礼? なんだ」
「これをみて下さい」

 ファイヤアントは小さな箱を取り出した。
 宝箱――いやサイズ的に宝石箱みたいなもんだ。
 それを取り出して、シェスタに差し出した。

 シェスタはそれを受け取った。

「なんだこれは」
「開けてご覧になれば分かります」
「そうか」

 シェスタは箱を開けた、瞬間、箱から黒いもやが飛び出してきて、シェスタを包み込んだ。

「あ、が……」

 包まれたシェスタはほとんど抵抗することなく、一瞬もがいただけでそのまま倒れて動かなくなった。

 まわりがざわつく、シェスタがいきなりやられた事でモンスター達がざわめきだした。

「やった、やったぞ! 大ネズミを倒したぞ!」

 直前まで慇懃な態度を取っていたファイヤアントが喜びの声を上げた。
 そして、ポン! と姿を変える。

 ファイヤアントじゃなかった、それどころかモンスターですらなかった。
 現われたのは人間、杖を持った中年の勇者だった。

「なんだお前は!」
「シェスタ様に何をした!」

 モンスターが口々に勇者を問い詰める。
 単身で乗り込んできた勇者は四面楚歌の状況に怯えるどころか、逆にしてやったり、って顔で胸をはった。

「俺の名前はゴーラル、ファイヤアント討伐団の一員だ。追い詰めたファイヤアントに手を貸す大ネズミを討伐しに来たのだ」

 ああ、そういうことか。
 たしか前、「俺たちがふがいないせいで」って言ってきたんだっけ、ファイヤアントの使者は。

 つまりあれは勇者達に追い詰められて滅ぶ寸前って意味で、その勇者の一人が目の前にいるこいつって事か。
 でもってファイヤアントに協力して物資(、、)を流すシェスタを止めに来た、ってわけか。

 なるほど、なるほど。

「ははははは、お前らのボスは倒れたぞ、これでもうファイヤアントに協力はできまい!」
「あまいよ」

 ゆらり、とシェスタが体を起こす。
 ゆっくりと立ち上がって、それまで勝ち誇っていた勇者を真っ向からにらみつける。

「なっ――馬鹿な、あの呪いをはねのけるとは!」

 驚く勇者。
 確かにシェスタじゃ無理だった、そして違和感を感じてなかったら俺でも間に合わなかったかも知れない。

 呪われたシェスタは今も気を失っている、いつも通り俺がシェスタをこっそり操っている状況だ。

 そしてこれまたいつも通り、モンスター達から歓声があがった。
 一度わざとやられてから立ち上がる、不死の大ネズミ、ビッグマウスのシェスタ。

 ある意味横綱相撲なシェスタの姿にクリスタルタワーのモンスターが沸きに沸いた。

「ならば差し違えてても!」
「ふん!」

 捨て身覚悟で突っ込んできた勇者を、シェスタを操って受け止める。

「帰って連中に伝えろ。おれ様に呪いは一切聞かないってな」

 またそう来られたら面倒臭いから、俺はシェスタを操作して、ピンピンなのを演出して、一撃で勇者を消し飛ばした。

 強力な呪いを受けてもびくともしないシェスタ。
 それを目撃したモンスターと、倒されて仲間達のところに情報を持ち帰った勇者によって。

 ますます、有名になっていくのだった。
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