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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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殺意の波動に目覚めたリュウの弟子

 裏クリスタルタワー、俺とユーリエから少し離れたところで、ルーシアはマントの修繕をしている。
 手際は見事なものだけど、マントそのものは度重なる修繕でつぎはぎだらけだ。

 出自はお姫様で生活どころか何一つ不自由しない生活ができるのに、こいつは貧乏性なところがある。
 ボロボロのマントも。

「直せばまだ使える」

 といって直している。
 直してる間も正座に背筋ピンと伸ばしている。生真面目な性格が出ている。
 クソ真面目に貧乏性、それがルーシアって女だ。

「なあルーシア、お前いつまでここにいるつもりだ?」

 聞くと、ルーシアがビクッと手を止めた。
 いよいよ来たか、って顔で恐る恐る俺を見る。

 ちなみに仲が微妙に悪いユーリエは、俺を抱っこしてる手からウキウキしてるのが伝わってくる。

「いつまでもここにいるわけにも行かないだろ。お前にも帰る国、家族がいるんだし」
「そのことならば問題ない。父上は私に自由にしていいと言ってくださっている」
「知ってるよ、その場に俺もいたからな」

 そう、前に彼女の父、国王がそういった時俺も居合わせた。
 彼女の師匠として挨拶に行ったときだ。
 そのとき、国王の台詞はこうだ。

「はあ……言って聞くような娘ではなかったな。わかった好きにするといい」

 だった。
 ルーシアのくそ真面目に由来する頑固さにさじを投げた形だ。

「もし……」
「ん?」
「師匠が出て行けというのなら今すぐにも出て行く」

 ルーシアが真顔で言った。
 その顔は二つの感情がない交ぜになっている。

 決意。俺がそういえばそれに従ってすぐにでも出て行くという、言葉通りの決意。
 そして悲しみ。せっかく見つけた俺のそばから追い出されるという、捨てられた子犬のような悲しみ。

 悲しいけど、俺が言うのならその通りにするって顔だ。
 実際彼女はそうするだろう。そこがアレックス、そして……。

「うぅ……」

 同じようにそれを読み取って微妙に負けた気になっているユーリエとは違うところだ。

 そんな顔をさせられると出て行けなんていえないだろうが。
 まったく……。

「わかった、好きなだけいるといいさ」
「わかった!」

 途端、ウキウキし出すルーシアである。
 まあ、ルーシアにいてもらう分には全く問題ない。
 アレックスは全力で追い返すどころか見つからないように逃げるけど、ルーシアは問題ない。

 そんな風に、ルーシアが居着くことを認めた瞬間。

「おいリュウ、こんなところで引きこもってねえで表来いよ」
「勇者がいっぱい来てるよー」

 表からテリーとリリの二人がやってきた。
 クリスタルタワーの本当の住人、モンスターであるゴブリンとインプは裏に入ってくるなり、普通にそこにいるルーシアに驚いた。

「こんなところに勇者が!?」
「倒さなきゃ!」

 テリーとリリはそれぞれの武器を持って、ルーシアに飛びついた。
 止めるまもなく飛びつき、そしてルーシアに倒された。

 正座してる状態からの高速移動、背後に回って剣を納めたままのさやでくじの後ろを一撃。

 恐ろしく早いが手加減した一撃、テリーとリリは白目をむいて気絶した。

「すまない師匠、手を出してしまった」
「いやいい、ちゃんと手加減したんだから問題ない」
「幼なじみだな、こっちに生まれ変わってからの」
「なるほど」

 俺の答えを聞いたルーシアが途端に居住まいを正した。
 倒れているテリーとリリにも敬意を払う、そんな振る舞いだ。

 この瞬間で、テリーとリリは「師匠の幼なじみ」として序列が急上昇した。

 ルーシアの中では自分を含む十二使徒以上、国王である父親よりも上回ったはずだ

 局地的に国王よりも偉くなったテリーとリリを見て、考え込んだ。

「どうしたのだ師匠」
「ルーシアがこの先ここにいるんなら何か工夫をしないといけない思ってな」
「工夫、ですか」
「ああ……ちょっとそのまま立ってて。何があっても動くな」
「わかった。命を賭けて立っている」

 いやそこまで大げさなものじゃないんだ。命がかかわる事態になったら普通に動いて対処しろ――とは思ったけど言わなかった。それがルーシアだってよくわかっているからだ。

 そんなことよりも――俺は体を溶かした。
 スライムの体をドロドロにとかして、まったりしてる時の半溶けじゃなくて全溶けになって、溶けて切り離した部分を動かして、ルーシアに向かわせた。

 スライムがルーシアの足下に到達して、浸食するかのように足から上に向かって包んでいく。

「……テリーが好きそうな光景だな」

 姫騎士を浸食するスライム、うーん本当に好きそうだ。

 ルーシアは俺に言われたこともあって、全く動かなかった。スライムがが体を覆っていくのにおびえる気配すら全くない。

「気にならないのか」
「師匠がなさることですから」
「お前らしいけどな、でもそれだと説明が足らなくて困る人もいる」
「わ、わあ、これはいったいどうしたことなんだ」
「棒読みだけどありがとう」

 ルーシアに芝居の才能はないな、真面目だけど。
 俺はそのまま、切り離したスライムでルーシアの鎧と剣、そしてマントを包んだ。
 スライムに包まれた白をベースにした鎧が次第に色を変えて、黒をベースにしたものに変わる。

 黒と赤、ダークを意識した色合いにした。

「マントもちょっとかえてみるか。ユーリエ、血を行ってきもらうぞ
「え? あっはい!」

 いきなり話を振られて戸惑うユーリエ、そんな彼女に抱っこされたまま、体の一部を変形してとがらせて、右手の親指の腹を刺した。

 針でさしてぷくー、と出た一滴の血をルーシアの方に飛ばす。
 スライムで包まれたマントに着弾するとそれが広がっていく、マントの裏側が一瞬で赤くなった。
 赤いだけじゃない、赤くなったり暗くなったりと、明滅を繰り返している。
 心臓の脈動をイメージしたものだ。

「よし、これで完成だ」
「これは……」
「コンセプトは『堕ちた姫騎士』、そのままだな。お前がここにいるために多少の理屈が必要だろ」
「なるほど」
「俺か、その鎧に洗脳されて悪堕ちした、そんな感じの設定でいこう」
「わかった、ありがとう師匠。……ありがとう師匠」

 一呼吸間を開けて、もう一度、最初のより心のこもった感謝を言われた。

「ん?」
「この鎧、着ているだけで負荷になる。座っているだけで修行になる。師匠の心遣いに感謝する」
「……ただのクセだ」

 改めて言われると恥ずかしい。
 確かにそうした。鎧の色を変えるついでに、俺の魔力を結構な量注ぎ込んだ。
 ルーシアがそれを着ているだけで、ユーリエが俺を抱っこしているように体力と魔力を消費する鎧にした。

 着ているだけで体力魔力徐々に減少……ああ、本当に呪われた防具みたいになったな。
 だがそれは、俺の弟子ならわかる。
 負荷を長く続けられる限界ギリギリにかけて鍛錬するのがオレ流だ。
 それをされて、ルーシアはむしろ喜んだ。

 そして指摘された俺はちょっとだけ決まり悪い気分になった。

 何かいってごまかそう、と考えているとテリーとリリが目を覚ました

「うーん、はっ、ここは」
「さっきの勇者――ってあれ?」

 起きた二人はルーシアを見かけたが戸惑った。
 それもそのはず、ルーシアはさっきと全く違う見た目をしている。

 コンセプト、堕ちた姫騎士。

 ダークでまがまがしさを出しているルーシアに戸惑っていきなり飛びかかるようなことにはならなかった。

「彼女ならもう大丈夫だ」
「大丈夫って、どういうことだよリュウ」
「あの鎧、俺の体で作ったんだ」

 体の一部を溶かして見せて、そう言った。厳密には違うけどその方が話が早いって思った。

「リュウの体?」
「リリたちの武器と一緒だね」
「ああ。それで彼女を洗脳した。だから彼女はもう勇者じゃない」
「堕ちた勇者か! かっけえなそれ」
「すごいねリュウ、そんなこともできるんだ」

 テリーとリリはなんの疑いもなく納得してくれた。
 幼なじみが単純な性格で助かった。

 そんな時、一人の勇者が裏に突入してきた。
 ルーシアのことに気をとられてるうちにシェスタを突破されたのだ

 やらなきゃ、と思った瞬間。

「リュウウウウウウウ!!!」

 ルーシアがいきなり奇声をあげて、ガリアンソードを抜いて勇者に襲いかかった。

「ヤアアアアスゥウウメエエェェェエエ!!!」

 声を上げつつの猛攻、勇者は一瞬で劣勢におちいった。
 まるで暴走してしまったかのような猛攻。

「お、おい。大丈夫なのかよあれ」
「リリたちも同じ武器使ってるけど、ああなっちゃうの?」

 同じスライム武器を使ってる二人が心配になるほどだった。

「大丈夫だ、色が違うだろ」
「なんだ、心配させんなよ」
「色が違うなら大丈夫だね」

 お前らそれでいいのか、いやまあチョロいのは助かるけど。

 テリーとリリが納得した一方で、叫びなら猛攻を続けるルーシア。

「リィュウウウウゥゥゥゥゥ!!」

 暴走チックだが、その目は正気そのものだった。
 戦い方も今まで通り、ガリアンソードと魔法の正統なコンビネーション。
 叫びも結局俺の名前だけで、次第に演技臭く感じてくる。

 本当、クソ真面目だなルーシアは。ちょっと落ち着いたら簡単にやれる設定を考えてやろう。

「リィュウウウウゥゥゥゥゥ!!」

 ああ、でも。
 ルーシアが遠慮なく勇者を屠っていくのを見て。
 彼女が代わりに倒してくれるのってかなり楽かもしれない、と思ったのだった。
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