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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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踊るスライム

 クリスタルタワー最上階。
 それまでのモンスターをなぎ倒し、一気に駆け上がってきた勇者パーティーがあった。

 数は四、全てが妙齢の女だ。
 装備はきわめて薄く――というよりほぼゼロに等しい。

 全員が踊り子の格好をしている。
 比喩でも誇大表現でもなく、どこからどう見ても踊り子にしかみえない格好だ。
 それが、クリスタルタワーの最上階に辿り着いてる。

「あーはっははははは!」

 四人の勇者を出迎えたのはこの塔のボス、ビッグマウスのシェスタ。
 踊り子の倍以上はある巨体の大ネズミは、いつもの様に高笑いしている。

「よく来たな勇者ども、おれ様がここのボス、シェスタ様だ」

「「「「……」」」」

 勇者たちは無言で、そのまま踊り出した。
 まるで酒場のような光景だった。
 服装もさることながら、四人の踊りは美しくキレがあり、視線を奪った後大喝采を浴びせられる程の踊りだ。

「オホッ! お姉ちゃんたち綺麗じゃねえか――」

 ボボボボーン!

 鼻の下を伸ばすシェスタ、その鼻先で爆発が立て続けに起きた。
 見えない爆弾が当たったかのように、大ネズミの体がいきなり、連続で爆発した。

 それをやったのはもちろん四人の勇者。
 彼女達は踊りで魔法を操る技を身につけている、これまでの戦いも踊りながら進んでいると、まわりのモンスターが次々と倒されて道を空けると言う奇妙な光景になった。

 その踊りはここに来ても衰えを知らず、一瞬にしてシェスタを倒してしまった。

 黒焦げになった大ネズミを見下ろす四人。

「これがこの塔のボスなんですか?」
「にしては弱すぎじゃんね? 偽物なのかな」
「そうかも知れませんわ。こらそこ、油断をしてはダメですわよ」
「ねずみさん、ねっずみさん、お腹の中も、ねっずみさーん」

 一人がつんつんとシェスタの死体を突っつき、もう一人がそれを止める。他の二人はまわりを見回しながら警戒する。

 そんな四人の勇者の前で、のそり、とシェスタが起き上がった。

「わあ、ネズミさんが生き返った」
「そんな! 手応えがありましたわ」

「ふっ、その程度でやられはしねえよ。おれ様をただのビッグマウスとでも思ったか?」

 起き上がったシェスタはまるで別人(、、、、、)のように、まとってる空気そのものが一変した。

 四人の勇者がアイコンタクトをかわし、再び踊り始めた。

 広大な最上階のフロアを、シェスタを取り囲んで踊り出す。
 彼女達の魔法が飛んでくる――直前に。

 トトン。

 シェスタが軽く地面を踏んだ、つま先でノックをするかのように叩いた。

「きゃあ!」

 すると空気の破裂音がして、勇者の一人が悲鳴を悲鳴をあげて倒れた。

「ど、どういう事なの」
「気を抜かないで! 続けますわ!」

 残った三人は踊り続けた、しかしシェスタがまた「トトン」と地面を踏みならすと、一人また一人、見えない何かにやられて倒れていった。

 ここまで駆け上がってきた勇者の四人。
 一度やられて立ち上がったシェスタの前に、なすすべもなく全滅したのだった。

     ☆

 望遠の魔法で四人の絶命を確認した後、俺は魔法をやめて休憩モードに入った。

 裏クリスタルタワー。最上階まで駆け上がった勇者がいたから、いつも通りやられたシェスタの体を操作してその勇者を撃退した。
 これでまたちょっとシェスタが有名になっていくんだろうな。

「スライム様、今のは何ですか?」
「舞踊魔法だ。精霊に踊りを捧げる事で魔法を行使する精霊魔法の一種だ」

 同じように望遠を見ていたユーリエが俺に聞いてきて、それを離れたところで正座しているルーシアが代わりに答えた。

「ありがとうございますお姉さん。でもそうじゃなくて、スライム様が何をしたのかって思って」
「むぅ……」

 それは答えられないルーシアである。
 当然だ、精霊魔法は使えない人間だととことん理解できないらしいからな。
 代わりに質問に答えて俺を休ませたいルーシアの気持ちはありがたかったが、これは俺は答えるしかないな。

「ルーシアの言った通り、あれは精霊に踊りを捧げる儀式を行うことで魔法を行使する。普通は踊りを間違えてもどうもしないが、一定の手順を割り込むだけで儀式の意味がガラッと変わってしまう」
「はあ……」

 ユーリエは説明を聞いてもわからないって顔をした。

「人間の言葉もあるだろ? 同じ文字列なのに、句読点の位置が違っただけで褒め言葉が逆にけなす言葉になる事ってあるだろ?」
「あっ、ありますあります」
「それと同じだ。踊りの中に読点を割り込んだ事で精霊を怒らせて自爆に追い込んだんだ。あの四人、踊りは完璧にマスターしてるけど、細かい意味までは知らなかったみたいだな」
「そうだったんですね……スライム様すごいです、あの踊りの意味も全部理解してるんですね」

「まあな。見てろ」

 俺はユーリエの腕の中から跳び降りて、その場で踊り始めた。
 踊り、ではあるんだが、スライムの体でそれをやるとぴょんぴょんみょんみょん飛び回ってるようにしか見えない。

 正直見た目だとあの踊り子たちに完敗だ。
 というかこっちの方が「謎の儀式感」がある。
 儀式は無事成功した。

「わわっ!」

 魔法の効果が現われて、ユーリエが驚く。
 それまでユーリエがきていた服の上に別の服が出来た。

「すごい……水なのにドレスみたい……氷でもゼリーでもない水なのに、まるで最上級のシルクみたい」
「こんなことも出来る」
「スライム様って本当にすごい人なんですね……」
「当然だ、師匠は何でも出来る。我ら十三人(、、、)が集まったとしても足元になど及ばない」
「そんなスライム様の功績を持っていくシェスタさん、ちょっと嫌いです」
「師匠のすごさを知らないヤツなど知らないままでいい。それは選ばれた人間だけがしっていればいいのだ」
「でも……」
「……お前はアレックスと似ているな」
「ふぇ?」

 驚くユーリエ、ああ、やっぱりルーシアにもそう見えるか。
 うん、似てるんだよな、というか本質が一緒だ。

 アレックスほど重症じゃないから、別にいいんだけどな。

 俺はそんな事を思いながらユーリエの腕の中に戻った。
 半溶けになって、ミラクルフィットしてだらっとした。

 このあと、やってくるのはそれなりの勇者たちばかりで、久しぶりに大事件もなくのんびり出来た一日だった。
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