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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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善人は死んでも治らない

 裏クリスタルタワー、俺はユーリエに抱っこしてもらっていた。

「ちょっとチリチリするかも知れないけどガマンして」
「チリチリですか?」
「ああ、初めてだから加減できるかどうか分からない。なるべくコントロールしてみるけど」
「はい」

 そう言って頷くユーリエ。
 いつもと変わらず素直だが、頭の上にいくつも「?」を浮かべている。
 すぐに分かることだから、説明するよりも実践することにした。

 ユーリエに抱っこされたまま魔力を練る、いつもよりも強い魔力を、いつもより遥かに小さくするように圧縮して。
 四方八方から、あらゆる方向から魔力を一点に向けて圧縮した後、天井に向かって放出。

 光の玉。
 まばゆい方の光ではない、暖かな、命を育むタイプの光。

「これって……お日様?」
「太陽的な物を作ってみた。その辺にすわってくれ」
「はい」

 言われた通り素直にすわるユーリエ。抱っこされた俺はそのままくつろぎはじめた。
 スライムの体で腕の中にミラクルフィットして、半溶けになって人工太陽のじりじり感を楽しむ。

「これでひなたぼっこをするのですね」
「そういうことだ。外に出ると色々巻き込まれるからな。この裏ダンジョンでまったりすることにした」
「なるほど。でもさすがスライム様、太陽まで作れるなんて」
「今ので半分の魔力を持ってかれたけどな」

 そう、全魔力の半分を一気に持っていったこの人工太陽。
 それでもここに隠れて、何も巻き込まれないでのんびりするためなら必要経費だ。

 俺はそのまままったりした。

 ゆっくりと流れる時間、動かない人工太陽。
 時間の感覚があやふやになってきた頃、勇者の気配がした。
 せっかくくつろいでるのにまったくもう! って腹を立てたその時。

「あっ……」
「ユーリエ?」

 現われたのは先日あったばかりのユーリエだった。
 彼女はいつもと変わらない格好で現われた。

 ユーリエはあたりを見回す、俺以外のモンスターがいないことを確認するや脱力した。
 戦闘態勢をといて、自然体になった。

 まあ他に誰もいないのなら俺も別にルーシアと戦う必要もない。
 そう思って半溶けのまま、ルーシアが何かいってくるのを待った。

 しかしルーシアは何もいってこなかった。
 裏クリスタルタワーの隅っこに移動して、地べたに正座した。
 揃えた膝の上に鞘に収めたガリアンソードを乗せて、そのままの体勢を維持した。

 ああ、そういうことか。

『スライム様、いいのですか? 昔の教え子さんなんですよね』
「いいんだ」

 俺はあえて声に出していった。
 ユーリエがちょっと驚く。

「一緒なんだよ」
「一緒?」
「お前が俺を抱っこしてるのと、彼女が剣を膝の上に載せてるのと」
「あっ……」

 ユーリエがハッとする。
 そう、俺の教え方は昔から変わらない。体力と魔力、両方を日常生活に溶け込ませて、長く負荷を掛けて地道に鍛えていく。
 俺と出会ってからずっと抱っこさせられて、それで体力も魔力も上がっていったユーリエはすぐに理解したのだ。

 改めてルーシアをみる、彼女は何かするでも無く、そこに座っているだけ。
 前に俺がしたアドバイスに従って、鍛え方を矯正している。
 それを俺に見せに来たのだ。

 見せるだけ。
 言葉じゃない、行動で見せる。

 クソ真面目だな本当に。
 それが彼女のいいところなんだが。

 他のモンスターがいなく、ルーシアの姿を見ているとつい昔の空気になって、そのまま話しかけた。

「よくここまで来たな。まあでもシェスタ程度、ルーシアなら片手間で倒せる程度か」

 急に話しかけられたルーシアはびっくり顔をしたが、俺から話しかけられるのなら黙ってる必要もないと返事をした。

「シェスタはあのネズミの事? それならいなかった」
「いなかった?」
「うん、最上階に着いたらそのままここに来た」
「……どういう事だ?」

     ☆

 カレンを呼んで話を聞いた。

「ついさっきファイヤアントが来てさ、シェスタにお願いをしてったの」
「ファイヤアント? なんのために」
「そいつはワームホールってダンジョンから来た使者でさ――」

 カレンから聞いた話は、ちょっと目を覆いたくなるような話だった。

     ☆

 クリスタルタワー最上階、ビッグマウスのシェスタの前に、ファイヤアントのコンテナとなのるモンスターがまるで国王か貴族に謁見するかのようにへりくだっていた。

「あの有名なビッグマウスのシェスタに会えるなんて光栄です。俺、シェスタさんのファンなんすよ」
「おお、そうかそうか、おれ様のファンか」
「はい。俺もいつかダンジョンを出て、一国一城の主になるのが夢です」
「みたほど簡単なことじゃねえぞ? まあ、おれ様にかかればそれでも楽勝だったがな」
「さすがシェスタさん」
「あーはっははは」

 コンテナに盛り上げられ、気分をよくして高笑いするシェスタ。
 ここにリュウがいれば苦笑いの一つでも浮かべていたであろう光景だ。

「で、お前がここに来た用はなんだ?」
「実は、話がワームホールは女王様の元で集うファイヤアントのみのダンジョンなんですけど、その女王様が近く出産ラッシュを迎えるのです」
「なるほど?」

 それがどうした、って顔をするシェスタ。

「恥ずかしい話ですけど、女王様についていって新しいダンジョンを作ったまではいいけど、俺たちがふがいないせいで人数を大きく減らして、それで女王様が新しく産まないといけなくなったんです。そのために人間を食糧としてほしいのです」
「人間なんてダンジョンに来た勇者どもを倒せば勝手に死体が増えるだろうが」
「そうなんですけど、そもそも俺たちは数を減らしてるのでそれも出来なくて……だからシェスタさんにお願いしたいんです! しばらくの間このダンジョンで集めたのをくれませんか!」
「ふむ」
「どうかお願いします。こんな事を頼めるのはシェスタさんしかいないんです! 有名で強くて余裕のあるシェスタさんしか!」
「ま、おれ様なら確かに余裕だがな」

 コンテナに持ち上げられて、シェスタはいつも以上に有頂天になっていた。

     ☆

「そんな訳で、いつもより大勢の勇者に襲ってきてもらうために街を襲いに出かけたんだだよ」
「おいおい……」

 頭痛がしてきそうだった。

「安請け合いして、それに今街っていったよな」
「うん。黄金の街クワトロ、住民は1万ちょっとの結構大きい街。せっかくだから一遍に大勢に来てもらった方が楽だって」
「ああもう! 行くぞユーリエ」

 俺はカレンを置いてユーリエに命じて駆け出した。
 裏クリスタルタワーを飛び出して、クワトロの方角に向かってユーリエを走らせる。

「どうするんだ?」

 同じように出てきて、隣を並走してきたルーシアが聞いてきた。

「シェスタを止める、その後クワトロをほどよく襲って、与える脅威を最低限に押さえてあまり強い勇者が来ないようにする。やり過ぎるとお前みたいなのが出てくる、分かるだろ」
「師匠は相変わらずなのだな。少し安心した」
「安心するなよ」
「ならば私が協力しよう」
「うん?」

 どういう事だ、って顔でルーシアをみる。

「師匠が大ネズミを止めるのはケガをさせたくないだからなのだろう。それを私がやってくる。私なら途中でモンスターと出会って戦って、みられても何の問題もない。あの大ネズミ一行なら全員気絶させて動きを止めるのも可能だ」
「そうか、クリスタルタワーに何度も来てて把握してるのか」

 静かにうなずくルーシア。

「何もお返しは出来ないぞ」
「師匠から既に色々もらっている」

 ルーシアはそう言って、そのまま速度をあげて俺より先行した。
 進む先は気配を感じているシェスタたちクリスタルタワーのモンスターたちがいる。
 そこは任せろ、って意思表示だ。

 俺は立ち止まって、方角を変えた。
 微妙に方向を修正してクワトロの方をむく。

「聞いたなユーリエ、このままクワトロの方に行くぞ」
「あの……スライム様」
「どうした」
「いえ何でもありません。飛ばしますね」
「ああ。俺は残った半分の魔力で街にナイトメアをかける、移動は全部任せる」
「はい」

 ユーリエは俺を抱っこしたまま駆け出した。今のユーリエならいきと帰りの移動は任せていいはずだ。
 俺はナイトメア、クワトロ全体を悪夢に陥れ、ほどよくクリスタルタワーに対する恐怖を植え付けるように魔力と神経を回した。

「巻き込まれたくないのに……自分から進んで行くスライム様。いつものスライム様ですね」

 ユーリエの複雑も嬉しそうな言葉は、俺の意識が沈んだ後につぶやかれたので、耳に届くことはなかった。
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