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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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いい人、素敵な師匠

 俺は助けた女の人から逃げ出した。
 経験上向こうから何かを言い出されると断るのが大変だからだ。
 だから何か言われる前に、適当なことを言って逃げ出した。

 もう村を出よう、このままここにいたらまたやっかいなことに巻き込まれそうだ。
 それに自分から首を突っ込んでるだろうって声が聞こえてきそうだが、それらもまとめて聞こえないふりをして逃げた。
 そして、村の入り口にやってきた瞬間。

「――あ」
「あ……」

 一人の女とばったり出くわして、足が止まってしまった。
 姫ドレスと騎士鎧をミックスしたようなプレートアーマー、優雅で上品かつ力強いたたずまい、そして――一門特有の波動。

 俺の教え子の一人、ルーシアだ。

 前に面と向かって遭遇したとき俺はスライムだった。
 危機察知にたけるルーシアは俺を「ものすごく強いスライム」だと認識して即座に逃げ出した。俺の正体には気づかなかった。

 だけど今回は違う、俺は今人間の姿だ。
 前世の姿に戻ってしまってる。

 さすがにこれはごまかせない、まずいどうしよう。

「こ、これは違うんだ――」
「失礼、知り合いによく似ているのでついじろじろと見てしまった」
「――俺は別に……って、え?」

 知り合いによく似ている?
 ルーシアは確かにそう言った。

 そうか、ルーシアはアレックスと違って俺の「魂の匂い」とやらはわからないんだ。

 俺はもう死んでいる、ちゃんと本物の死体も残してる。

 ルーシアからすれば、この俺と前の俺が結びつくことはない。
 ならば。

「かまわない、世の中には似てる人間が三人はいるっていうしな」
「本当にすまない。邪魔をしたな――」
「待ってくださーい」

 ルーシアが道を譲ろうとしたそのとき、背後から声が聞こえてきた。
 ちらっと見ると村人の一団が追ってきていた。

 最初の雷雲の時、そしてさっきの女。
 俺が助けた村人たちが追いかけてきていた。

「待ってくださいそこの人。せめてお礼だけ言わせてください」
「やだよそんなの。絶対お礼を言うだけじゃすまないだろ面倒くさい」

 俺はそそくさと逃げ出した。
 こういう場合、お礼の言葉だけですむことはない。
 せめて一晩泊まってくれとか、宴会を開かせてくれとか、場合によっては娘をもらってくれとか、そういうのをいってくるんだ。

 それは面倒くさいから、俺は村から飛び出した。
 村人を振り切る早さで走って逃げた……のはいいんだが。

「な、なんでついてきてるんだ?」

 ルーシアがぴったりと真横に着いてきていた。
 重そうな鎧を着ているのにもかかわらず、俺にぴったりついてくる。

「もしかして本物のリュウなのか?」
「何をいう、俺はおまえの師匠なんかじゃないぞ。さっきもいったろ世の中には似てる人間が三人も……」
「わたしはリュウが師匠だなんていってない」
「……あっ」

 まずいやっちゃった、って凡ミス過ぎるだろおれ!

「それにさっきの物言いも師匠そのものだった。人助けをしてお返しとお礼を面倒くさいというのは師匠そのものだ」
「うっ……」

 こっちは無意識だった、完全に無意識で出た台詞だった。
 確かにそれはいつもの俺の台詞で、ルーシアはそれをよく知っている。

「……はあ」

 ため息が出た。

 ここまで状況証拠がそろってると下手な言い逃れは無理か。

 村人が諦めて追ってこないことを確認してから、俺は野外に足を止めた。
 ルーシアも足を止めて、いぶかしむ顔で俺を見てきた。

「とりあえず、誰にもいわないでくれ頼む」
「わかった、だれにもいわない。師匠の命令なら従う」
「……助かる」

 これもルーシアとアレックスの違いだ。

 アレックスは俺を崇拝してて、俺をとにかく表舞台、しかも大きい舞台につきだそうとしている。
 俺が表舞台にたって人々を導かないのは人類の、時代の損失だとかいってる。

 一方のルーシアも俺を尊敬しているが、俺に何かしようという考えはない
 むしろ俺の命令に絶対服従のワンコだ。

 ルーシアが一度「誰にもいわない」といった以上、ありとあらゆる拷問をかけられたとしても彼女はいわない。

 俺はちょっとだけほっとした。

「事情を聞くのも……だめなのか」
「できれば聞かないでいてほしい」
「わかった。私のことを聞くのは?」
「おまえのこと?」
「実は最近調子が悪くて、力を使おうとすると左胸の下につっかえを感じるのだ」
「ふむ」

 俺は顎をつまんで考えた。
 それはつまり、弟子として師匠に教えを請うということだ。

 12人……いや今はユーリエを入れて13人か。
 13人の教え子たちは全員俺が救って、手を差し伸べていろいろと教えた。
 教えるということを忌避はしてない。

「それはいつからだ? それとどんなつっかえだ?」
「師匠が亡くなってから半年程度たった頃だ。つっかえは強かったり弱かったりするが、たまに体が引きつるような痛みを覚える」
「ああ、そういうことか」

 その症状は知っている、そして納得もした。
 俺の教え子で、特に真面目な人間――いや。
 クソ真面目な人間によく出る症状だ。

 解決法もわかってる、それは――。

「「むっ!」」

 俺とルーシアは同時にあさっての方角をぱっと向いた。
 同時にある波動を感じたのだ。

 視線の先、村のさらに向こうの空に雷雲が発生している。
 さっきと同じ雷雲、それが村に向かっている。
 そして今度は雷雲の上に何かが見える。

 また村を襲うのか――そう思った時に俺はもうかけだしていた。
 そしてルーシアも走っていた。

 俺と同じように雷雲に向かって、それをまっすぐと見つめて。

 しばらく走った後、ルーシアはぼそりとこぼした。

「師匠は相変わらずなのだな」
「……そういうな、自分じゃそれに公開してるところなんだから」
「そう言いつつも結局体が動いてしまうのがいかにも師匠だ」

 ルーシアは懐かしむような顔と声でつぶやく。
 俺は恥ずかしかった、立場は逆だが、親戚のに「昔おまえのおむつを替えたこともあるんだぞ」って結婚式で暴露された時のような気持ちになった。

 そんな気持ちになりつつ、村を通り過ごして雷雲の下に到達した。
 俺とルーシア、二人が同時に飛んだ。
 地面を強く蹴って真上に飛んだ。

 ぐんぐん上昇していく体、雷雲を突き抜けて空の上についた。
 雷雲の上にゴブリンのような小さいモンスターがいた。

 青いからだにとんがった角、皮の腰巻きを巻いてて太鼓を持ってる。
 そいつは俺たちの出現にぎょっと驚く。

「消えろモンスター」
「余計な面倒をかけさせるな」

 俺とルーシアは同時に攻撃を繰り出して、モンスターを一撃で倒した。

 倒した後からだが自由落下して地面に着地、眼球を体の真上に動かして見上げると、雷雲が急速に散っていくのがわかった。
 多分発生源のやつも倒したし、これでもう大丈夫だろう。

「おまえは大丈夫かルーシア、つっかえは?」
「……」

 聞いてみたが、ルーシアはなぜか俺を凝視していた。
 驚いた顔で、死ぬほどびっくりした顔で俺を見つめている。
 どうしたんだ一体……あっ。

 眼球を動かして自分を確認――した瞬間理解した。
 そう、眼球を動かす。
 俺はいつの間にかスライムの体に戻っていたのだ。

「待ってくれルーシア、これには事情が――」
「あれえ? ししょうどこにいったのかなあ」
「――ある、へ?」
「おかしいですねえ、さっきまでいっしょだったのに」

 ルーシアはものすごく棒読みくさい芝居でそんなことをいって、額に手のひらでひさしをつくって周りをキョロキョロ見回した。

 これは……気を遣ってくれてるのか。
 そうか、俺が誰にも言うなって言ったから、それで何かを察してスライムの体になったのも見なかったふりをしてるのか。

 こいつ、本当くそ真面目だな。

「前にある人間から聞いた話だけど」

 俺もそれに乗ってやった。

「その人間の教え子は無理矢理強くなろうとすると逆に体を悪くするって。特に胸の下に違和感を感じるようになるって」

 ルーシアはビクッとなった。相変わらずこっちを見ないが、俺の言葉を真剣に聞いてるのが気配で伝わってきた。

「わざとらしい修行はだめ。修行は全部日常の中に溶け込ませて、短距離走じゃなくて長距離走みたいな感じで」
「…………はい」

 ルーシアは意気消沈した形で言った。
 こいつのことだ、俺がいなくなった後もっと強くならなきゃってことで無茶な修行したんだろう。だからああなったんだ。

 全く、クソ真面目にもほどがある。

 意気消沈するルーシアをみて、俺は……ええい性分だ!

「一人でならクリスタルタワーを完全攻略するといいことがあるかもね、ってその人が言ってた」
「――はい!」

 俺をみて大喜びでうなずくルーシア。これから彼女がシェスタを倒して、裏クリスタルタワーにくるんだろう。

 俺は……こういうのを放っておけないんだよな……死ぬほど面倒くさいのに。
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