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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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背中とお尻

 ドカッ! パシッ! ボコッ!

 低レベルな殴り合いの後、おれたちドラゴンナイトは四人組の勇者を倒した。
 三人が男の剣士で一人が人間の女僧侶。
 テリーがこん棒で殴りつけて、リリが三叉のフォークで飛び回りながら刺した。

 おれはおれで、スライムらしく体当たりをしたり、時々体を変形して勇者を呑み込もう(、、、、、)とした。
 さながら始まりの村周辺の低レベルな戦いのすえ、無事勇者たちを倒した。

「やったー! あたし達って結構強いね」
「ああ、そうだな」

 はしゃぐリリは可愛くて、おれは彼女の言葉に同意した。

 敵勇者が弱いこともあって、またこっちはおれ達三人しか居ない事もあって、二人の強さにあわせた戦い方(縛りプレイ)をしたけど、この三人のコンビは意外に強かった。

「テリーもお疲れ」
「うおおおお! 女だ、人間の女だ」
「……」
「……」
「こいつ処女かな、前も後ろも上も下も処女なのかな」
「……こっちの三人は後ろ処女だと思うぜ」

 呆れながら言うとテリーはあきらかにげんなりした。

「男はいらねえよ」
「ごもっとも」
「というわけ処女くってくるー!」

 ゴブリンのテリーは種族特有のいやらしい顔と声を出しながら、今し方倒して気絶している女僧侶を担いで走り出した。

「まってテリー」
「追いかけない方がいいぜ、追いかけたら思春期未満お断りなシーンに出くわすぞ」
「えー、でもダメだよ」
「ダメって何が」

 まさか人間の女を捕まえても犯すなってゴブリンに言うつもりか?
 それはいくら何でもひどいぞ、犬に散歩禁止っていうくらいひどいぞ。

「だって、まだ勝利のポーズ決めてないじゃないの」
「勝利のポーズ?」
「うん。あたし考えたんだけど、ドラゴンナイトがもっと有名になるためにはあたしたちモンスターだけじゃなくて、人間の勇者にも協力してもらわないとダメなんだって。例えばたまに倒した勇者を見逃して帰して、ドラゴンナイト強いガクブル、って宣伝してもらうとか」
「なるほど、たしかに人間に恐れられてなんぼだからなモンスターは」
「そのためのドラゴンナイト(パーティー名)、あとそのための決めポーズだよ」
「おいおい……」

 決めポーズなんかとったら逆に舐められると思うんだけど。
 思ったけど言わなかった、リリは瞳をキラキラさせて、子供のように語っていたからだ。

「ちなみにどんなポーズなんだ」
「えっとね……こう」

 リリは武器の三叉のフォークを使って地面に絵を描いた。
 メチャクチャうまかった! ポーズをとってるおれとテリーとリリの三人は実写なみにそっくりだ!

「画家になった方がいいよリリ! うますぎるよこれ」
「え? そうかな……えへへ」

 照れるリリ、絵がメチャクチャうまい一方で、ポーズのセンスは壊滅的だった。
 こんなどこぞの特戦隊の様なポーズ、少なくともおれはしたくない。後絶対に口に薔薇とかくわえない。

 口に薔薇をくわえて決め顔でポーズをとるスライム……違う意味で恐怖の対象になりそうだ。

 ふと、リリが残された三人の勇者を見つめているのが見えた。
 全員虫の息になってて、あとでまとめて森から放り出そうと思って放置してる連中だ。

「どうしたリリ」
「三人組の男、パーティーをくんで冒険、何も起こらないはずが……」

 なにやらブツブツいっていた、内容はよく聞こえないけど背筋ないけどがぞわっとして、肛門ないけどぞわわってなった。

 あまり掘り下げない方がいい話だなって思って、「女も一緒にいたぞ」ってツッコミも呑み込んでスルーする事にしたのだった。

     ☆

 リリと一緒に勇者たちを倒した森の東部から中心部の居住区に戻ってきた、テリーはいない、後で「お楽しみでしたね」っていってやるつもりだ。
 すると、モンスターたちがあつまってガヤガヤしてるのが見えた。

 様々なモンスターが集まって、中央に二体のリザードマンがいる。
 リザードマンはボロボロで、いかにも勇者たちと激戦を交えた後って感じだ。

 モンスターの中に妹のユイが見えたから、近づいて話しかけた。

「どうしたユイ?」
「お兄ちゃん。あのね、あの二人の子供が勇者にさらわれたって」
「あの二人……リザードマンのか」
「うん」

 二体のリザードマンを見る、話を聞いて改めて見ると、戦闘のケガと疲れとは別に、悔しさと焦りがある。
 そうか、子供がさらわれたのか。

 ちなみにそういう事はたまに起きる、勇者どもが襲ってきてモンスターをさらっている事がある。

 理由は色々ある、ペットにしたり見世物にしたり、実験動物とか装備の素材にしたりと、色々だ。
 しかしどっちにしてもそれは死ぬより大変な事。

 ディープフォレストで死んだモンスターは濃厚な魔力とマザードラゴンの加護で生き返れる、逆に森の外に連れ出されたら取り返さないと本当に死んでしまう。

 ディープフォレストのモンスターにとって、さらわれる事は死以上の最悪な事態だ。

 ちなみにリザードマンはその名の通りオスしかいない種族だ。
 二体のリザードマンが誘拐された我が子の事を嘆いてるのをみて、封印したいらない保健体育の知識が蘇りそうだったので、おれは慌ててその場から立ち去ったのだった。

     ☆

「くそ! あのトカゲやろうども、むちゃくちゃ暴れやがって」
「そのおかげでこいつを捕まえられたんだからいいだろ」
「まっ、トカゲはガキは大金で売れるからな」
「なあなあ兄貴、こいつどれくらいで売れるのか」
「一ヶ月……いやこの幼さだったら仕込み(、、、)安いから三ヶ月は遊んで暮らせるんじゃないか?」

 森から外に退却していく三人の勇者。
 魔物の森に攻撃をしているから勇者と呼ばれているものの、世界が変わればただの人さらいか盗賊にされる様なゲスイ顔の連中。
 その三人は子供のリザードマンを肩に担いで走っている。子供は口に布を詰められ、声を出せないようにされている。

 勇者は人によって様々な目的がある。

 王道のマザードラゴン討伐からはじまり、腕試しをするもの、修行をするもの、モンスターを倒して名をあげるもの、などなど。
 男達の様なモンスターさらいは決して珍しくない。

 何せ金になるからだ。
 そんな三人組は、これから懐に入るであろうお金を想像して上機嫌になっていた。

 だから気づくのが遅れた――死神が既に先回りしていたことに。

「兄貴! なにかいる」
「んあ? なんだスライムじゃねえか」

 一瞬足を止めて、強ばった顔で腰の得物に手をかけた男達だったが、行く手を阻む物がスライムだと認識するや、三人とか顔の表情が緩んだ。

「ヤン、お前がやれ」
「へいアニキ」

 三人のうち一番したっぱっぽい男が肉厚の刀を抜いて一歩踏み出した。

「その子を離せ」
「待てヤン! おい、今このスライム喋らなかったか?」
「喋ったな」
「おれも聞こえたぜアニキ」
「喋るモンスター、しかも下級のスライムか」

 モンスターと人間は基本言葉が通じない。一部の上級モンスター……ドラゴンのようなモンスターは普通に人間の言葉を喋れるのだが、スライムとかゴブリンのようなモンスターだと、人間は鳴いてる(、、、、)とうにしか聞こえない。

 故に、「喋れるスライム」というのは相当の珍獣だ。

「計画変更だヤン、そいつを捕まえろ」
「へい! へへ……こいつ何ヶ月分になるかな」

「もう一度いう、その子を離して今すぐこの森から出て行け」
「すげえな、喋れるだけじゃなくて人間を脅かしてるぜ」
「ますます高く売れそうだな」
「物好きのお姫様のところとかに持ってけば、うまくすりゃ一生遊んで暮らせるくらいもらえるぞ」

「はあ……」

 スライムは深いため息をついた。

「面倒なのは避けたいんだがな、しゃーねえ」

 次の瞬間、まわりの空気が一変した。
 ざわざわと、肌にぴりりと突き刺す空気。
 それをしかし、男達は気づいていなかった。
 三人の目はすっかり金のマークになっていて、状況をまったく見えていない。

「あちっ! ってなんだこりゃ」
「アニキ燃えてる、まわりが燃えてますぜ」
「なにぃ!」

 三人のまわりの空間が炎に包まれた。
 炎が渦巻き、熱気で景色がゆがむ。

「アニキ! ガキが」
「結界……っ、ガキにだけぴったりと……なんだこの高度な魔法は」
「あちっ、あちち……うおおおお!」

 火力が更に増した、炎の舌が三人を呑み込んだ。
 三人がやかれて灰になる中、魔法の結界に守られたリザードマンの子供だけポカーンとしていた。

     ☆

「まったく、面倒かけさせやがって」

 燃やし尽くした勇者どもに向かって吐き捨てた。
 ちらっと背後を見る、既にディープフォレストの出口が見えている。
 もうちょっとで取り返しのつかない事態になってたぜ。

 おっと、それよりも子供だ。
 おれはさらわれたリザードマンの子供に近づき、器用にスライムの体を伸ばして布を口からとってやった。

「大丈夫か」
「う、うん……今のってお兄ちゃんが?」
「まあ、そうかな」
「スゴイ……お父さんたちとどっちがつよいんだろ」

 面倒臭い事にならないように本当の実力は隠したいけど、これくらいの子供にだったら大丈夫だろ。
 体のあっちこっちに擦り傷もあったから、さりげなく回復魔法をかけてやった。

 ちなみに回復魔法は苦手だ。
 勇者たち相手にはめったにケガしないし、母さんのお仕置きだと基本即死だから、回復魔法を覚える必要はなかった。

 それでも擦り傷を治す位は出来る。
 直してやったあと、声をかける。

「さっ、帰るぞ。両親が心配してる」
「う、うん……」
「どうした」
「あの……お兄ちゃん」
「おう」
「助けてくれてありがとう! お兄ちゃんってすっごく強いね」

 子供に感謝された、されたが。
 何故か頬を染めてもじもじするその姿にぞわわとした。

 リザードマン(、、)

 オスしかない種族、男と男の両親。
 その子供、人さらいから助け出したあと頬を染めてお礼を言ってくる子供。

 おれは、背中とお尻、両方がぞわわ、となったのだった。
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