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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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本能>学習

 俺が雷雲を消したのを目撃した村人に早くもあがめられそうになったから、これ以上面倒なことになる前にその場から逃げ出した。

 村の反対側まで逃げてから、民家の前にいる番犬を見つけた。
 黒い毛が雄々しさを出している、番犬として申し分ない見た目の犬だ。

 俺は少し考えて、初級の風魔法を犬に使った。
 毛をちょっとだけもらって、それを口の周りにつけた。
 髪型もちょっといじってみる、これなら別人に見えるだろう。

 魔法で完全に姿を変えてしまってもいいが、大規模な魔法を使うと感知されたりとかしていろいろ面倒くさくなりそうだった。

 変装をした俺は村の中を歩いて回った。
 ダンジョンが近くにあるのに、この村には勇者向けの施設が少ない。

 武器屋とか道具屋、宿屋といったものだ。
 勇者に現地の人間はすくない、大抵が外からやってきた外部の人間だ。
 その勇者をサポートしたり、あるいはもうけようとする施設がほとんどない。

 まあ、クリスタルタワーができてまだ日が浅いし、俺の方針であまり大規模に襲ってないから、そっち方向に村が進化してないんだろう。

 その村は徐々に落ち着いていった。
 落雷というアンラッキーな天災に襲われてあっちこっちに火の手が上がっていたが、雷雲を早めに俺が吹っ飛ばしたこともあって、騒ぎはさほど大きくはならなかった。

 うん、この調子なら放っておいていいな。
 そう思って、俺は村から立ち去ろうとした。

 なるべく目立たないように村を出ようとすると、進行方向の先にもめ事を見つけてしまった。

 男が一人、女に絡んでいた。
 女たちはいかにも素朴な村娘といった感じで、男は腰に刀を下げていてガラも人相も悪い。

「なあいいだろ? 今夜ちょっと付き合えよ」
「こ、困ります」
「こまりますじゃないだろ? 俺は勇者だぜ? れっきとした、な。モンスターに困ってるこの村を助けに来た勇者をおまえは邪険にするのか? んん?」
「そんな、私そういうつもりじゃ」
「だよな、しないよな。じゃあ今夜俺に付き合えよ」

 男はしつこく女に絡んでいた。
 今夜何に付き合わされるのか名言してないけど、この手合いの考えることはいつも一つだ。
 それは女もわかっているようだ。だから困りながらもどうにか断ろうとしている。

 ……。

 俺は見て見ぬふりをして立ち去ろうとした。
 この程度のことはよくあることだ。
 勇者は慈善事業じゃない、命をかけてモンスターと戦う代わりに名声や実利を代わりに受け取る。

 もちろん倒されても死にはしない、が、それは逆にデメリットでもある。

 モンスターの中には勇者をいたぶるのが好きなのがよくいる、カレンがまさにそうだ。
 そして勇者の中には実力が足りないがどうしてもあるダンジョンにいかなければならない場合がある。人間にはいろんなしがらみがある。

 その二つが重なった場合、勇者はダンジョンに出向いては死ぬほどの苦痛を延々と繰り返さなきゃならない
 俺が知ってる限り、同じモンスターに100回以上生きたまま食い殺される勇者もいる。死んでも復活できるというのは善し悪しなのだ。

 そんなこともあるから、俺は勇者が守る村に見返りを要求することを悪いことだとは思わない。
 あの迫り方はどうかと思うが、それも仕方ないといえば仕方ない。
 が。

「ゆ、勇者様は一度もダンジョンに行かれてないじゃありませんか」

 む?
 俺は足を止めた。もめてる男と女を改めてみた。

 女はさっきと同じように困り顔だが、少しだけ強気になって言い返していた。

「村に来てからずっと休みっぱなしで、いつダンジョンにいかれるのですか?」
「俺を満足させたらいってやるよ。こう見えても俺は強いぞ? あの程度の新生ダンジョンなんて本気を出したらすぐに制覇しちまうぜ」
「だったら先にいってくださいっ」

 二人の話を聞いた、状況がちょっと変わった。
 どうやら男は一度もダンジョンにいってないのに図々しくも見返りを要求してるみたいだ。

 男の顔を見た、うん、確かに見たことない。
 俺はちょっと前までクリスタルタワーの一階にいたから、侵入してきた勇者の顔は全部覚えてる。

 なぜ覚えてるかって? そりゃ俺の教え子どもーー例えばアレックスとかが紛れ込んでると面倒くさいことになるからちゃんと観察してたんだ。
 もめてる男は一度もクリスタルタワーには来てない。

 見て見ぬふりをしようとしたが、それなら話は別だ。
 俺は近づいていこうとーーいやいや。

 さっきもやっただろうが、面倒ことに首を突っ込んで感謝されてただろうが。
 学習しろよ俺、面倒ごとに首を突っ込むなよ。

 俺は深呼吸して落ち着いて、ぐるっと身を翻して立ち去ろうとーー。

「俺は別にここでやってもいいんだぜ?」
「きゃあああ、やめて、誰か助けて!」
「誰もこねえよぶげっ!」

 男が吹っ飛んだーーへ?

 気が付いたら男がきりもみしながら吹っ飛んでいった、そしてなぜか俺は握った拳をもめ事のしてた方に突き出していた。
 拳の先から煙が出ている、魔力の残滓が漂っている。

 ああ、なるほど。
 これがよく聞く「むしゃくしゃしてやった」ってやつか。

 そして俺の体は完全に俺の心を裏切った。見て見ぬふりをしようとしたのに体が悲鳴を聞いて勝手に介入した。

 学習どうのこうのって話じゃなかったな、はは。

「あ、あなたは……」

 助けた女が驚き半分、感謝半分の目で俺を見た。
 乗りかかった船だ。

 俺はつかつかと男に近づいていった。
 男は顔が半分腫れ上がって、何が起きたのかもわからないって顔で俺を見た。

「おまえ、勇者なんだな?」
「え? そ、そうだ! 俺様は勇者なんだぞ!」

 我に返った途端、俺にすごみをきかせて怒鳴る男。
 たいした小物っぷりだ。

「勇者はダンジョンにいってなんぼだ」
「おまえに指図されるいわれはねえ!」
「だからおまえもダンジョンにいけ」

 呪文を唱えて、魔法を使った。
 人差し指を突き出して男の額をこづいた。

 男は一瞬きょとんとした後、また俺を怒鳴った。

「なめんじゃねえーーえ? な、なんだ体が勝手に動くぞ」

 男は混乱したまま立ち上がり、村の外に向かって歩き出した。
 顔はこっちを向いている。

「てめえ何をした!」

 俺は答えなかった、男が村から出て行くのを見送った。

「あの……ありがとうございます」

 女が俺のところにやってきて、おずおずとお礼を言ってきた。

「大丈夫だったか?」
「はい、ありがとうございます。あの、今のは……?」
「勇者に使う魔法だ。勇者に公認したけどサボってばっかりいるやつにかけるものでな、ある程度の戦果をあげるまで強制的にダンジョンに生かせ続ける魔法だ」

 実態はのろいみたいなもんだがな。

「そんなものがあるんですね」
「だからもう安心しろ、あいつがサボってればずっとダンジョンにいき続けるし、またなにかを要求してきたときはちゃんと働いた後だ」

 そのときは要求に応えるのが村や町の役目だと俺は思ってる。
 ま、雑魚で公認勇者ならエンドレス苦痛だが、それはそれだ。

 問題は俺だ。

「はい、ありがとうございます。あの、お礼をさせていただきたいんですけど……」

 女は熱い視線を俺に向けている。
 ものすごく感謝して、何が何でもお礼したいぞ、って顔をしていたのだった。
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