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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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エクスカリバー

 裏クリスタルタワー、ユーリエの腕の中でミラクルフィットしてのんびりしていた。

 他にはカレンがいた。
 この日朝からずっとここにいるカレンは、りんごくらいのサイズの玉を手のひらの上で転がして、もてあそんでいた。

 よく見ると玉は赤と青の二色がまだら模様になって混ざり合っている。

「それはなんだ?」
「これは元気玉っていうの」
「元気玉?」

 強そうな名前だな。

「あたしが近くの村とか町とかの人間に淫夢を見せて、それで吸い上げた元気を具現化したものだよ」
「へえ? ああ、ものすごい高純度な魔力だな」
「やっぱり分かるんだ」

 カレンは嬉しそうに言って、玉をいじる手を止めた。
 赤と青なのはやっぱり男と女だからなんだろうな。

 にしても……かなりのものだぞあの玉。
 大量の人間からかき集めたものだけあって、力の濃さは抜群だ。
 その上全部が性欲だから、純度も申し分ない。

 カレンはそれを何気なくいじってるけど、あれだけの力なら大抵の事は実現出来てしまうぞ。

「むぅ?」
「どうしたのリュウ様」
「それ、力漏れてるな」
「え? あっホントだ」

 俺に言われて気づくカレン。
 彼女が持ってる玉から少しだが力が漏れていた。
 玉の総量からして大した量じゃないが、それはあくまで割合の話。

「ん……ぅ……」

 その程度でも、ユーリエが顔を赤らめたり、股をもじもじさせる程の力をもっていた。

「どうしたんだろ。さっきまでこんなことなかったのに」
「いじりすぎて漏れてるんじゃないのか?」
「かもしんない」

「おーい、リュウ、いるかー?」
「勇者が来たから倒しに行こうよ」

 テリーとリリが表からやってきた。

「それをしまえカレン。あの二人まで当て(、、)られたらややっこしくなる」
「わかった――あっ」

 玉をしまおうとしたカレンだったが、慌てたせいで手を滑らせた。
 カレンの手から離れた玉は放物線を描き、俺の前に落ちた。

 パリン!

 まるでガラス玉のように音を立てて割れてしまった。
 瞬間、あたり一体にキリが立ちこめる。
 割れた玉から吹きだしたのはピンク色の霧。

「げげ、なんだこれは?」
「リュウ大丈夫?」
「リュウ様!?」

 三人の声が聞こえてくるが、姿は霧に覆われて見えない。
 煙に覆われて視界は見えないが、特に苦しいとかはない。煙たいのもなくてただ見えないだけ。

 と、そんな事を思っていると。

「きゃっ」

 ユーリエの小さな悲鳴が聞こえてきた。

『どうしたユーリエ』
「す、スライム様が……」

 念話で話しかけてみたが、ユーリエは声に出して返事した。
 トーンからしてそうだが、大分パニックになってる声だ。

 どうしたんだ? って思っていると俺も異変に気づいた。

 スライムに転生してからまったく無かった感覚があった。
 大地に足を下ろす――両足で立つ感覚。

 両足で!?

 ピンクの霧の中自分の姿を確認。

 両足があった、その上に胴体があった。
 両手を顔の前に持ってくると生命線がやたらと長い手のひらがあった。

 霧の中、俺は人間の姿に戻っていた。転生する前の姿だ。

「す、スライム様、それは――」
『しっ、黙ってユーリエ』

 強めに言い放つ、ユーリエはビクンとして、言い付け通り口をつぐんだ。
 まだ霧が晴れてない、俺は考える。

 どうやら霧で一時的に人間に戻ったみたいだ。
 一時的というのは、霧に包まれた直後から体の奥に別の力を感じるようになって、それが徐々に減ってきてるからだ。
 多分、半日程度で完全に消えてスライムの体に戻るだろう。
 だから問題はない、一時的に戻っただけだ。

「おいリュウ、そっち大丈夫か?」
「リュウどこー?」
「!?」

 テリーとリリの声が聞こえる。霧の中ゴブリンとインプのシルエットがうっすらと見える。

 まずい、このままじゃばれる。
 高速で二人の背後を取って、首に手刀を落とした。
 気を失わせるために極限まで手加減した手刀。
 叩かれたテリーとリリはドサリ、と地面に崩れ落ちた。

 そこで霧が晴れた。

「リュウ様大丈夫――え?」

 俺に駆け寄ろうとしたカレンの動きが止まった。
 信じられないものを見てしまった、って顔をしている。

「リュウ様、その格好は?」
「どうやら俺の前世の格好に戻ったみたいだ」

 手のひらを再度確認、顔をベタベタ触ってみる。
 間違いなく転生する前の姿だ。

「転生前?」
「お前の元気玉の暴発のせいだな。あれのせいで一時的に戻ったみたいだ」
「そう、なんだ……」

 納得しつつも、カレンはじっと俺を見つめた。

「どうしたカレン、そんなに見つめて」
「あの……リュウ様」
「ん?」
「あたしを抱いて!」
「なに言ってんだお前は」
「だってかっこいいんだもんリュウ様。素敵なんだもん。あたしその姿見ただけでこんなに濡れちゃったんだもん」

 カレンは声高らかに主張する。
 最上級の淫魔ナイトクイーンは股間をこれでもかってくらいぬらしていた。

「だから抱いて!」
「落ち着けそんな面倒――」
「スライム様! 私も抱いてください!」
「ユーリエ!?」

 背後にいたユーリエも同じ事をいってきた。
 振り向くとちょっとぎょっとした。彼女は潤んだ目で――強烈な媚薬でも飲んだかってくらい目を潤わせていた。

「お願いリュウ様!」
「スライム様!」

 迫ってくるカレンとユーリエ。
 二人に抱きつかれて、体のあっちこっちがもうとにかく柔らかい。

「ええい!」

 テリーとリリにしたように二人にも手刀を落とした。
 カレンは強めに、ユーリエはちょっと弱めに。

 二人とも半日寝かせる程度の強さで首筋に手刀を落としてやった。

     ☆

 クリスタルタワーをこっそり出て、当てもなくさまよった。
 テリーとリリ、カレンとユーリエは裏クリスタルタワーに置いてきた。

 あのままあそこにいたら色々やっかいな事になりそうだったから、ひとまず塔をでて避難することにした。

 カレンとユーリエの求愛、そういうのは今に始まったことじゃなかった。
 スライムに転生する前にもちょこちょこあった事だ。
 転生を決意したのは、何をやってもそんな風に求愛されるのが面倒だったからってのもある。

 スライムになって収まったのだが、カレンのせいで昔の姿に戻って、またこうなった。
 半日で戻りそうなのがせめてもの救いだな。

 さて、どこかで時間をつぶさないとダメだな。
 しかも街とか村とかはダメだ。人間とあうとまた求愛されかねない。

 ここはどこか人気の無い森の中に避難して、スライムに戻るのを待つのがベストだな。

 そう思って人気のない場所を探そうと感知魔法を使おうとした、その時。

 西の方の空がやたらと黒めいているのが見えた。
 ゴロゴロと雷鳴がうごめいたかとおもえば、ピカッ! と稲妻が空を裂いて地面におちた。

 直後、煙が上がる。
 雷に打たれたものが炎上した煙だ。
 煙は黒よりの色合い、あれは人造物が炎上した時の煙だ。

「あそこは確か――ニーの村」

 方角と距離を確認、間違いない。
 シェスタについて言って、何回か襲撃したことのあるニーの村だ。
 その村が雷に打たれて黒煙を上げている。

「――ッ!」

 次の稲妻が落ちた、空中で不規則な軌道を描いて地面に吸い込まれる。
 考える前に体が動いた。地面に落ちている石をサッと拾って投げつけた。

 後発の石が風を引き裂いて飛んでいく。稲妻を途中で止めた。
 石と稲妻、二つの巨大な力がぶつかり合って空中で大爆発を起こした。

 更に稲妻が落ちた。今度は四本だ。
 次も来ると予想していた俺は石を投げた直後から飛び出していた。雷が落ちてきた頃にはもう村に飛び込んでいた。

 村民は逃げ惑うか、怯えたりしている。

 俺は村のど真ん中に立って、魔法陣を展開。
 対魔法用の魔法障壁を多重展開する。

 四本の雷が落ちてきたことには障壁が完成してて、全部防がれた。

 あの雷雲に意思を感じる。
 モンスターか、それとも人間か、あるいは他の何かか。
 それは分からないけど、とにかく「意思」を感じる。
 ならば。

 魔力を高める、守りだけじゃなくて反撃するための魔力を。
 右手が光り輝く、キーンという高い音が響く。

「エクスカリバー!」

 空に向かって腕を振り抜いた。竜の形をした黄金色の力が天を駆け上がる。
 雷雲が一瞬で消し去られ、跡形もなくなくなった。

 よし、これでもう――。

「た、助かった」
「ありがたやありがたや」
「本物の勇者様が村に来て下さったのね」

 さっきまで怯えていた村人が一斉に俺の事を拝んでいた。

 ……やってしまった。

 毎回毎回気づくとこれをやってしまうから面倒臭い事になるんだよな。
 学習しろよ……俺。
+注意+
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