挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

46/77

尻拭いするスライム

 ドライの村。
 人口約500人を持つ、山の中にある村。

 一見して辺鄙なところにあるこの村は本来寂れる運命にあったのだが、十数年前に山に自然に魔力を放つ木が生えている事を発見し、それを使った木細工がお守りとして様々な効果を発揮することから、現在はその木細工の産出でそこそこに潤っている村である。

 少なくとも働くのは壮年の男で、家族は不自由なくのんびり暮らせる程度には潤っている村だ。

 その村は今、魔物の脅威にされされている。
 いや、晒されていた(、、)

 真夜中のドライは、あっちこっちから呻き声が聞こえる。
 草木さえも眠る時刻に発せられた声は嬌声。

 男女がむつみ合った時に高らかに放たれる嬌声だ。
 とは言え、村をあげてのサバトを開いている訳でもない。

 老若男女、一人として例外なく床につき普通に寝ている。
 寝て、寝言で嬌声を上げている。

 それをしたのは一体の魔物。
 村の上空に飛んでいる露出の多い女性型の魔物。

 名前はカレン。
 サキュバス――の上位種族であるナイトクイーン。
 百年に一人しか生まれてこないと言われる淫魔中の淫魔、ナイトクイーン。

 彼女の力によって、ドライの村はいともあっさり陥落した。
 淫夢を見せられた村民どもは寝ているのに精気を彼女に抜かれるという状態に陥った。

 村民総勢500人、腰の曲がった老人から断乳前の幼子まで。
 一人残らず淫夢を見せられ、精気を吸い上げられていた。

 やがて朝はくる。
 日の出と共に村中をこだましていた嬌声がピタリとやんだ。
 代わりに村民たちが起き上がってくるが、誰も彼もが生きる屍かのように、生気なく動いているだけ。

 朝を迎えたと言うのに、逆に静まりかえった村は名状しがたい不気味さがあった。

 魔物一体のよって知らないうちに陥落した500人の村だが。

「ごちそうさま。さて、どっかで食後のデザートでもつまんでこよっかなー」

 ナイトクイーン・カレンにとって、それはただの夜食に過ぎない行為なのだった。。

     ☆

 クリスタルタワー近くの森。
 日差しを浴びて、半溶けになったスライムは子供達にいじめられていた。

「見ろよ、こいつネバネバするぜ」
「木の枝に絡まるぜ、なんか水飴みたい」

 子供達はスライム――俺を取り囲んで、木の枝で突っついたり、石を投げつけたりした。

「やめて、ぼくをいじめないで」
「こいつしゃべるぜ」
「なあなあ、これって川に投げ込んだらどうなるかな」
「俺は火であぶったらどうなるのか気になるぜ。粘土みたいに固まらないかな」

 子供特有の残酷さをこれでもかって出しながら、俺を囲んであれこれ言ってる子供達。
 暇だから乗っかってやった。

 元々はただのひなたぼっこだった。
 裏ダンジョンが出来て実力隠しがより楽になったけど、裏ダンジョンは日差しがほとんど入らないという弱点があった。

 俺は塔を抜け出して、人気のないところでひなたぼっこ(一服)してたんだけど、子供達に見つかってしまって、いじめられてるって訳だ。
 ユーリエは置いてきた、テリーもリリにも内緒で来た。
 でも子供達に見つかった。

 のんびりするのってむずかしいんだなあ……。

「そうだ、カイトん家の犬に喰わせてみようぜ」
「それ面白いかも。あのバカ犬って骨とか興味ない代わりに柔らかくてベタベタしたものがすきなんだろ」
「このスライムなら喜んで喰いそう」

 おいちょっと待て、犬に喰わせる……子供って発想が残酷だなあ。
 さてどうやって追っ払うか、と考えたその時。

「コォラ、そんな事しちゃダメでしょ」

 頭上から女の、色っぽい女の声が聞こえた。

 半溶けボディだったからすんなりと目玉を真上に動かした。
 空から飛んでくるのはカレンだった。

 太陽を背に後光を背負ってるが神々しさはまったくない、無駄に色っぽいだけだ。
 カレンが着地するやいなや。

「やべえ、魔物だ」
「逃げろ!」

 子供達が一斉に逃げ出した。
 色っぽいとは言っても頭に角、背中に羽を生やした淫魔だ。
 スライムと違ってその姿だけで子供を散らす力をもっていた。

 子供が完全にいなくなったのを確認して、カレンは俺を見て、

「何であんな子供達にいい様にされてるのリュウ様」
「別に害はないからな、子供だし」
「そりゃリュウ様をどうにか出来るはずもないけどもさ」

 カレンは不満そうだった。
 彼女をサキュバスからナイトクイーンに進化させたのは俺だ、そのせいで彼女は俺を「様」付けで呼んで慕ってくる。

「ねえリュウ様、リュウ様はもっと上に行こうって考えてない?」
「上?」
「うん」

 カレンは俺の横で四つん這いになって、半溶けの俺に視線の高さを合わせながらまっすぐ見つめて来た。

「今のモンスター界ってさ、ディープフォレスト、ブルーマウンテン、サイレントシーの三大ダンジョンが同じくらいの勢力で、それぞれ牽制したり、時には協力しあったりして妙な均衡を保ってるじゃない?」
「ああ、もう何百年もそれが続いてるらしいな」
「そろそろさ、そういうのをとっぱらった魔王様に出てきてほしいって思うんだよね」
「やだよ面倒臭い」

 話の流れで、俺に魔王になれっていってきてるのがはっきりと分かった。
 当然断る一択だ。
 なれるかどうかはともなく、なるまでもなってからも、そんなもの(魔王)なんて面倒臭いのばっかりだろうが。
 そんなの、なってられるかってんだ。
 おれは平穏に、静かに生きたいんだ。

「そんな事をいいに来たのかカレン」
「え? あっごめんなさい、実はリュウ様に助けを求めに来たんだ」
「助けを?」
「実はね、リュウ様にナイトクイーンにしてもらってからいろんな事ができるようになって、それで村とか喰って回ってたんだけど、ちょっと我慢出来なくて、大きめの街を襲っちゃった」
「……おいおい、まさかクリスタルタワーにくるってんじゃないだろうな」
「それは大丈夫! でも――」

 カレンの表情が曇った、そして俺は気づく。
 いつの間にかまわりを勇者たちに囲まれていた事を。

 それなりの使い手がひいふうみー……16人はいる。

「あたし戦うのがそんなに得意じゃないからここまで逃げてくるのが精一杯で」
「こいつらは喰わなかったのか?」
「夜だったら食べられたんだけど……街を襲った後の夜明けにばったり出くわしたんだ」
「なるほど」

 ナイトクイーンは淫魔だ、伝説の上位種族とはいえ、その力のほとんどは淫夢をかけるためにある。戦闘は苦手なんだ。

 にしても……多いなぁ……。

「お願いしますリュウ様! 助けてくれたら何でもします、リュウ様に普通のエッチの一万倍は気持ちいい事をしてあげるから」
「やだよ面倒臭い」

 セックスの気持ちよさは否定しないけどつかれるじゃんかそれ。

「わかった助けてやる。そのかわり――」
「わかってます! リュウ様が倒した後ちゃんと記憶いじるから。倒れさえすれば後は夢でいかようにも出来るもんね」

 ノリノリで言うカレン。
 ホント仕方ないな……。

 俺は半溶けのボディをシャキンと戻して、力を解放した。

 殺すわけにはいかない戦いだ。
 勇者は殺しても復活する、復活した後に俺の正体を覚えてたらまずい。
 全員、半殺しでカレンにいじってもらわないといけない。

 全員に手加減を――と思ったその瞬間。
 空から星が降ってきた。
 大魔法の一つ、空から星を降らせて相手に当てるメテオという魔法。
 それも、一発だけじゃない。
 七つ連続で落ちてきている。

 七つのメテオを放ってくる勇者、強いんだろうなあ……めんどくさいなあ……。
 そんな奴らに手加減をしなきゃいけないと思うとウツになってくる。

「頑張れリュウ様、リュウ様がなら余裕余裕」

 俺の横でニコニコしながら声援を送ってくるカレンにちょっとイラッとしつつ、ドラゴンの力を解放して、黄金の前足(ファイナルストライク)でメテオを一掃しつつ、勇者たちを迎え撃った。

 16人の勇者を手加減で倒すまで10分くらいかかって、のんびりしに出てきたのに、ここしばらくで一番くたびれてしまったのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ