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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第三章

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眠りのシェスタ

 裏ダンジョンのルールその一。
 ボスを一度でも倒したら、ダンジョンに入ったときに裏ダンジョンに行くかどうか選択出来る様になる。

 これは、割と当たり前のルールなのだという。

     ☆

 裏クリスタルタワー一階。
 侵入してきた勇者をドラゴンナイトの三人で迎撃した。

 勇者は前に来た弱いヤツだ。
 動きはほとんど変わってない、レベルが上がってないんだろう。
 ただ武器がよくなっている。前は量産品の鉄の剣だったけど、今見たら黒い鋼の剣になっていた。

 黒い鋼は希少な鉱物、特性はいくら薄くしても通常の鋼よりも高い硬度を保てるというものだ。
 それがどうなるのかというと、薄く出来る分ダイヤモンドでも斬れる切れ味があり、硬度も高いからたたきつけたとしてもパワーが維持されるという。
 男は強力な武器を手に入れて裏クリスタルタワーに再挑戦してきた。

 それに対し、テリーはこん棒、リリは三叉のフォークを持っている。
 どっちも俺の体から作ったスライム武器で、二人が昔持ってる武器よりも遥かに強い。

 どれくらい強いのかは、スライムの体で武器を作った経験はあまりないから例えるのが難しいが。

「くっらえー」
「ええい!」

 テリーとリリ、二人とも黒鋼の剣とつばぜり合いが出来る位だから、それなりのものではあるはずだ。

「おい、さぼってんなよリュウ」
「リュウもちゃんと戦って」
「へいへい――うわあ!」

 俺は悲鳴を上げてすっ飛んでいった。
 今まで俺を抱っこしていたユーリエがいきなり投げ飛ばした――ように俺が指示した。
 ボールのように俺を投げつけるユーリエ。俺の体はつばぜり合いをしている三者に割り込んで、黒鋼の剣をはじく。

「よっしゃ!」
「リリの槍捌きを見て!」

 弾かれて隙だらけになった勇者に、テリーとリリは容赦なく追撃して、きっちりトドメを刺した。
 武器だけ変えて本人は強くなってない勇者は、あっさりと二人にやられてしまったのだった。

     ☆

「まったく、だらしねえぞリュウは」

 勇者を倒した後の裏クリスタルタワー。
 ユーリエに包帯を巻いてもらってる俺に、テリーは呆れ口調で責めてきた。

「あんなヤツの剣に当たっただけでケガするなんてよ」

 そう、俺はケガをした。
 これも実力隠しの一環だ。

 ユーリエに投げてもらって、剣にあたる瞬間自分で自分に弱体魔法を掛けた。
 そのせいで体に切り傷が出来たのだ。

「そもそもリュウって戦ってないじゃないの」
「そうだぞ、サボりすぎだぞお前」
「いいじゃねえか、倒したんだからよ。ドラゴンナイトなんだから、三人でやって倒せりゃそれで充分」
「んもう! もっと真面目にやってよリュウ」
「俺は大真面目だよ」

 大真面目にごまかしてるぜ?

 テリーとリリはそれでも腹の虫が治まらなくて色々言ってきた。
 二人には悪いけど、やっぱりまだまだごまかしたい。
 ドラゴンナイトとして名声をつみあげるのはどうやら避けられそうにないけど、だったらドラゴンナイトのお荷物って事を演じさせてもらう。

 あいつは俺たちの中でも最弱、って風になるのがベストだ。

 そのためには、テリーとリリを前にだして、俺は戦わずユーリエに投げてもらう。
 通用しなくなるまでこのやり方で行くことを決めた。

「それにしても暇だぜ」

 テリーはごろん、とダンジョンに寝っ転がっていった。

「巫女の勇者こねえかな。もし来たらぐっちゃぐちゃに汚してやるのによ」
「巫女って何?」

 リリがテリーに聞き返した。

「巫女ってのは東の国のシスターだよ。神に仕えてるから清いからだでいるのが決まりなんだ」
「そっか、テリーが一番好きな処女だね」
「もっちろんだぜ」
「でも……リュウよく知ってたね、巫女さんの事なんて。もしかしてリュウ――」

 げっ。

「でぃ、ディープフォレストで母さんに教えてもらったんだよ。勇者の事は一通り頭に入れとけってさ」

 なんか誤解されそうだから慌ててごまかす。

「そっか、マザードラゴン様の息子だもんね。あたしてっきり、リュウも処女スキーなのかって思っちゃった」
「それはねえよ!」

 もっといやな方に誤解されそうになってたぜ。

 しかしテリーブレねえな。ゴブリンってのはみんなこうなのかね。

「おっ?」

 ごろんと寝っ転がったテリーがパッとおきた。

「どうしたのテリー」
「巫女さんキター!」

 テリーはこん棒を持って走り出し、そのまま表ダンジョンに戻っていった。

「あっ、ちょっとまってテリー」

 リリも三叉フォークを持って、テリーを追いかけて裏から出て行った。
 いなくなった二人、裏クリスタルタワーは俺とユーリエの二人っきりになった。

「スライム様はいいんですか、いかなくて」
「面倒臭いからいかない」
「そうですか……」
「なんだ? なにか言いたい事でもあるのか?」
「えっと……」

 ユーリエは俺を抱っこしたまま口籠もった。
 何かいいたいが言っていいものか、って感じだ。

「いいたいことがあるなら――」
「お兄ちゃん」

 ユーリエを問い詰めようとしたその時、ユイが裏クリスタルタワーに入って来た。

 ユイは人の姿、美少女の姿をしているがれっきとしたドラゴン。
 伝説の黄金龍と呼ばれる種族で、クリスタルタワー内なら俺に次いで二番目に強い実力者だ。

 同時に、俺の妹でもある。
 俺はスライムだが、ユイの母親――マザードラゴンの巣に生まれた。
 巣に生まれたスライムをマザードラゴンは我が子のように育ててくれたから、俺はユイの義理の兄ということになる。

「どうしたユイ、何かあったのか?」
「一応お知らせ。今来てる勇者の中に一人強いのがいる」
「え?」
「かなりめんどくさいよ、あれ」

 ユイに言われて、俺は望遠の魔法を使った。

 表クリスタルタワーを駆け上がる勇者が見えた。
 ユイが言ったとおり勇者は相当の使い手だ。
 二本のナイフを使って、風の様な速さでモンスターを切り刻み、無人の野を行くかのように塔を駆け上がる。
 当然ながら、シェスタじゃかなわない相手だ。

「しょうがない、またいつもの様にシェスタを操って――」
「あの、スライム様」
「どうした。そういえば言いかけてたこと聞いてなかったな。こいつを始末した後に――」
「そうじゃないですスライム様。もしあの勇者がシェスタさんを一度でも倒したら、その後自由に裏ダンジョンに出入り出来る様になるんじゃないですか?」
「……あっ」

 それは……盲点だった。

     ☆

 クリスタルタワー最上階。
 ここまで駆け上がってきた勇者の前にビッグマウスのシェスタが立ち塞がった。

 勇者は警戒したまままわりを見た。何かを探しているかのようだった。

「安心しろ、誰もいねえ。俺がここのボス、ビッグマウスのシェスタだ」

 シェスタがいつも通り尊大にそう言うと、勇者の顔は警戒半分、困惑半分になった。

「お前がボス、だと?」
「ふっ。さあかかってこい、このおれ様が直々にふにゃーん……」

 それまで気勢よくぶちあげていたシェスタだったが、急に何かがおきてふらつきだした。

 勇者は一瞬ビクッとして、得物のナイフを構えて警戒した。
 ふらついて倒れそうになったシェスタだったが、すぐにもちなおした。

「悪い悪い、せっかくここまで来たのに本気を出さないで相手するのは失礼だったな」

 シェスタが言う、瞬間、勇者は顔色を一変させて、ナイフを構えたまま大きく飛び下がった。
 手に、額に、そして背中に。
 汗が伝う……恐怖の汗だ。

 さっきまでザコにしか思えなかった大ネズミから、伝説の魔獣のような威圧感が放たれていたのだった。

     ☆

「ふう……」

 一仕事を終えて、俺は息を吐いてユーリエにもたれ掛かった。
 まるでソファーに深く体を沈めるかのように。

 望遠の魔法も切った、下の階から上がってきたモンスターがシェスタを称えるのが見えたからミッションコンプリートだ。

「おわったの?」

 ユイが聞いてきた。

「ああ、シェスタがやられる前に、こっちから眠りの魔法を掛けてそのまま操った」

 そう、俺が眠らせた。
 今までは一回勇者に倒させてたのが、今はそれをやると勇者が裏クリスタルタワーに来れるようになってしまう。
 それもただ来るだけじゃない、次回から直通だ。

 強くて面倒臭いヤツは来れないように先に倒しておく必要がある。

「ありがとうなユーリエ。言いたかった事はそれだったんだな」
「はい」
「本当ありがとうな。それにユイも」
「へっ?」
「ありがとう、おかげで助かった」
「べ、別にお兄ちゃんのためじゃないんだから。勘違いしないでよね」

 ユイはぷんぷん怒って、裏から出て行こうとした。
 それは知ってるけど、ユイがドラゴンでもないのに兄になってる俺を快く思ってないのは知ってる、それでも助かったんだ。

「本当にありがとうなユイ」
「……ふん!」

 そう言って鼻息を荒くして出て行ったユイだが、最後にちらっと見えた顔はそんなに怒ってなかったみたい。フォローしてよかった。

 俺は更にユーリエに深くすわった。スライムの体を半溶けにして、ユーリエにジャストフィットしてくつろいだ。

 今日も、実力をばらさずに勇者を撃退できてよかった。
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