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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第二章

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つかの間の安らぎ

 ルーシアは一気にクリスタル最上階まで駆け上った。
 途中のモンスターはガリアンソードと魔法を駆使して葬った。
 彼女の前に立ち塞がるモンスターは鞭のようにしなる刃にズタズタにされたり、あるいは神聖なる炎で灼かれたりした。
 リュウ十二使徒の一人である彼女を並みのモンスターでは傷一つつける事も出来なかった。

 無双とも言える戦い方で駆け上がっていった彼女だが、八階のドラゴンとの戦闘は回避した。
 状況判断に優れ、戦略戦術共に高いレベルの知識を持っている彼女は、塔の途中にいる強敵のドラゴンとは戦わなかった。

 そして駆け上がった最上階には大ネズミがいた。

「んん? 一人か? 姉ちゃんやるじゃねえの。一人でここまでくるなんて」

 大ネズミは尊大かつ、不敵な態度でルーシアの前に立った。
 階には他にモンスターはいなかった、大ネズミ一匹だ。
 上の階もなかった。階段そのものはないし、外から見たときに九階が最上階だろうという推測にもあっている。

 ルーシアは戦力を見極める力に長けている。
 目の前の大ネズミが、能力で言えばこの塔の一階にいるモンスターたちとさほど変わらないだろうとすぐに見抜いた。
 何か隠している訳でもない。

 人間もモンスターも、自分が持つ本質を完全に隠せないものだ。例え道化を演じていても必ずどこににじみ出るもの。

(あのスライムのように……)

 ルーシアの脳裏に、ディープフォレストで一度だけ遭遇したスライムの姿が浮かんだ。
 あれこそ、自分の才覚や能力を隠そうとするが隠しきれないものの好例だ。
 それに比べると、目の前のネズミは徹頭徹尾ただの大ネズミ、ザコの一体に過ぎない。

「おれ様がビッグマウスのシェスタ。見ての通りこのとうのボスだ」

 シェスタがそんなことをいった。ルーシアは困惑した。
 もしかして……何かあるのか?
 彼女は警戒しつつ、新調にガリアンソードでなぎ払った。

     ☆

『うぎょわっ!』

 望遠の魔法で追っかけてたら、ガリアンソードの一撃にシェスタが瞬殺されるシーンがみえた。
 あまりにも鮮やかすぎる瞬殺に、攻撃をしかけたルーシアは逆に困ったような顔をする。
 彼女は倒れているシェスタと、塔の最上階の空間をきょろきょろ見回す。

 さて、俺の出番だ。
 魔法を使って、シェスタの体を乗っ取った。
 ガリアンソードのダメージをついでに回復して、途中でおきてこないように念の為に軽く眠りの魔法をかける。

 そうしてからシェスタを立ち上がらせる。

 乗っ取ったシェスタの視界に見えたルーシアは目に見えて警戒した。
 手にガリアンソードを握ったまま、じり、と一歩後ずさる。

「復活……いや変身した?」
「やるじゃねえか姉ちゃん」

 えっと……シェスタの口調はこれで良いんだっけ。
 体を操ってるから声色は気にする必要はないけど、口調とキャラはちゃんとしないとな。

「それが貴様の正体か」
「ふっ、誇っていいぞ姉ちゃん。このおれ様に本気を出させたのをな」
「……クッ!」

 ルーシアは身を翻して逃げ出した。
 いつぞやだったか、ディープフォレストで遭遇したときと同じように、早すぎるくらいの状況判断で逃げ出した。

 だが。

「あまい。このクリスタルタワーは一度登ったら降りられない仕組みになってる」
「くっ……ならば力で活路を開くまで!」

 踏みとどまり、ルーシアは戦闘態勢に入った。
 右手でガリアンソードに遠心力をつけるようにぐるんぐるんと回して、左手は魔法陣を複数展開する。

 自己強化魔法、敵弱体魔法、拘束に攻撃魔法と、一連の魔法をセットでぶっぱなってきた。

 青白く聖なる炎がシェスタの体を包む。灼かれてちょっと熱い。
 間髪いれずガリアンソードが襲ってきた。
 王女専用に作られた姫鎧をまとい斬りかかってくるその姿は舞踊を彷彿させる美しさがある。

 (シェスタ)は手を伸ばしてガリアンソードを掴む。刃の一枚を指でガッチリ掴むとガリアンソードの勢いが完全に止まった。
 ルーシアは引く、だがびくともしない。

「くっ!」
「ここまでだな。苦しまずに一撃で沈めてやる。ビッグマウスアタック!」

 (シェスタ)は地を蹴って、砲弾の如く突進した。
 ビッグマウスアタック、ただの体当たりだ。
 シェスタを操るときはできるだけ俺の正体をばらさないようにシンプルな攻撃だけをしている。
 それがこの体当たり――ビッグマウスアタックだ。

 猛烈な勢い、ルーシアはよけきれなかった。
 ここまで一人で駆け上がってきたルーシアを、俺は一撃で沈めてやった。

     ☆

「うーん……」

 頭を押さえて徐々に目覚めるシェスタ。
 彼が気を失ってる間に、モンスターたちが最上階に上がってきていた。
 生き残ってるモンスターも、勇者がいなくなったから魔力で復活させたモンスターも。
 シェスタに憧れて一緒にここまでついてきたモンスターたちが上がってきて、彼を取り囲んでいた。

「これ、は……」
「さすがシェスタ様」
「あの姫騎士を瞬殺するとかすげえ尊敬ッス。俺たちじゃ全然歯も立たなかったのに」
「人間で十二使徒って呼ばれてる奴だからな、しょうがないさ」
「それを一撃で倒したシェスタさん! やっぱりシェスタさんについてきてよかった」

 いつもの様に、勝利したシェスタを称える塔のモンスターたち。
 そして、シェスタもいつも通り。

「あーはっはははは。このおれ様にかかりゃ十二使徒だろうが十三使徒だろうがへでもねえ。何だったら使徒の上のヤツもちょいちょいのちょいでやっつけてやる」

 シェスタがいうと、まわりのモンスターたちは更に沸いた。

 それを少し離れたところから見ていた俺たちだが、いつもの様に俺を抱っこしてるユーリエの腕にちょっと力が入った。

『どうした十三人目、気に触ったか』
『違います、あの人スライム様のおかげであんなに慕われてるのにスライム様の悪口まで』
『知らないんだからしょうがないさ』

 そもそもこの状況は俺がわざと作りあげたんだからな。
 シェスタが称えられるほど俺の思い通りに事が運んでる訳だから、文句はまったくない。

 そんな事よりも、むしろ今は。

 ――ダンジョンポイント50を突破しました。

 裏ダンジョン作りのダンジョンポイントがたまったことの方が重要だった。

     ☆

 次元刀ディメンションスライサーで次元の壁を開けて、中に飛び込む。
 ここに来るのも三回目だ。
 入るなり、土地神のジジイが前に送ってきた美少年に膝枕させてさくらんぼを食べさせてもらっていた。

 違う意味でおぞましい光景だった、まだジジイが美少年を犯してる光景の方が想像がつく分我慢出来た。

 今見た光景を記憶から頑張って抹消しつつ、薄目で焦点を合わせないようにしてジジイに話しかけた。

「じいさん」
「んん? なんじゃ、またお主か。何しに来たのじゃ。わしは見ての通り忙しいのじゃ、相手にしてるヒマはないからさっさと帰れ」
「今日はお願いがあってきた。塔の、裏ダンジョンを作ってくれ」
「……」

 じいさんは美少年の膝からおきた。油断した!
 膝から離れたからもう大丈夫だと思って普通に見たら、美少年が「あっ」って漏らして残念そうな顔をしてるのが見えてしまった。

 なに? 何があったの? なにがあってどういう関係にあんたたちなってるの?

 考えるのもやっぱりおぞましいから、それを記憶から消しゴムしてジジイだけを見た。

「裏ダンジョン、じゃと?」
「ああ。ポイントも50溜めてきた」
「面倒臭いからお断りじゃ」
「……追加の美少年を用意した」

 一瞬ためらったのは、さっき見た光景と二人の関係が頭から消しきれなかったからだ。
 それでも俺は我慢して。開きっぱなしの次元の裂け目から二人の美少年を引きずり込んだ。
 最初のヤツと違う方向性の美少年。
 片方は女の子のように線が細くて、もう片方はおれ様系なキリッとした顔をしている。

「おお、おおお、おおおおお!」

 三段活用かよ! って位にジジイが食いついてきた。
 美少年二人は縛り上げて拘束してる。どっちも綺麗な顔をしてるが、ジジイが迫ると顔に恐怖が滲んだ。
 一方で前の美少年は唇を尖らせた、まさかの嫉妬だ!

 いかんいかん、これ以上深く関わるのはよそう。
 さっさとジジイを説得するんだ。

 ヒメから教わったのは、ダンジョンポイント50と、塔の管理人である土地神を徹底的に喜ばせること。
 ポイントはディープフォレストから転送されてきた勇者ラッシュでたまった――半分がアレックスとルーシアだったが。
 そして喜ばせる美少年も勇者の中からストックしてなんとかなった。

 さて、これでどうだ?

「むふ、むふふふふ」

 いけそうだな。
 ジジイは美少年たちをなめ回すように見てから、ごほん、と今更取り繕うようにして俺の方を向いた。

「しかたあるないのう、これほどの供物をもらってしまって叶えないとあっては土地神の名折れというものじゃ」

 なんかお為ごかしまで言われた。
 いやそれはいいから……。

「ありがとうございます!」

 思ってる事をおくびにも出さず、おれは、土地神のジジイに思いっきりお礼を言ったのだった。

     ☆

 クリスタルタワー、A(アナザー)1。
 見た目は今までの塔の内装とまったく一緒なそこに俺はいた。
 違う所は一点、扉や階段といった出入り口がない事。

 ユーリエもつけず、俺は一人でゴロゴロしていた。
 ごろごろごろ、のんびりまったり。

 適当に寝て、適当におきた。

 すばらしい! 誰にも邪魔されない空間ってこんなに素晴しかったんだな!

 人間だったときも、ディープフォレストに生まれてからも、クリスタルタワーに来てからも。
 いつも人の目があってのんびり出来なかった、こんなに開放感たっぷりのだらけは生まれて初めてなんじゃなかろうか。

 俺は何もせず、とにかく、人生初めての本物ののんびりを享受していた。

     ☆

 クリスタルタワー八階。
 ユイがドラゴンの姿に戻って、やってくる勇者を蹂躙してた。

 塔ができてからほぼ置物状態だったユイが、初めて、そして完全に力を解放して戦っていた。

 伝説の黄金竜、その力のまえに人間の勇者はなすすべもなく倒されていく。

「ああもう! なんであたしがこんなことをしてなきゃらないのよ」

 そう話すユイのそばに女の姿があった。
 頭に角、背中に羽。
 露出の高い服で申し訳程度に肌を隠しているセクシーな美女。
 サキュバス改め、ナイトクイーンのカレンだ。

「文句言わないできりきり働く。リュウ様の安息のためにね」
「なんであたしがお兄ちゃんなんかのために――」
「やらないとリュウ様にラブラブ大好きなのばらすから」
「なっ――な、なにをいってるの、あたしはお兄ちゃんの事なんて――」
「あたし好意はわからないけどさ、情欲は分かるんだよね。あんた、リュウ様と話す時いつも発情して――」
「うるさいうるさいうるさい!」
「バラされたくなかったキリキリ働く」
「んもう! 勇者を皆殺しにすればいいんでしょ!」
「そうそう、頑張ってね」

 カレンに脅かされ、ユイは上がってくる勇者たちを倒していく。

 この日を境に、クリスタルタワーの名は更に上がり、そして噂が流れる。
 このダンジョンは二人のボスがいる、ネズミとドラゴン。

 どっちか片方を倒したら、真のボス、裏クリスタルタワーへの道が拓かれるという噂が。
 リュウがつかの間の平和だと気づき、裏ダンジョンにすむスライムの皮をかぶったドラゴンが有名になっていくと知るのは、それからしばらくしてのことだった。
これで第二章終了です、ここまでの応援ありがとうございました!

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