挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第二章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

40/77

スライムタワー

 クリスタルタワー最上階、俺はユーリエに抱っこされ、ヒメと一緒に上がってきた。
 最上階はシェスタの階、王宮の様な内装にしたそこに、シェスタが玉座でふんぞりかえっていた。
 そのシェスタは俺たちを見て立ち上がった。

「おお、これはこれはヒメさん。お久しぶりですなあ」
「お久しぶり。ネズミちゃん好調みたいじゃない。噂、ディープフォレストにまで聞こえてきてるわよ」
「そうですか? ま、当たり前の事をやってるだけなんですけどね」

 シェスタはかつての幹部にそれなりの敬語で返事をするが、表情は思いっきり得意げで、誰が見ても分かるくらい天狗になっていた。

「それがなかなか出来ないのよ。新しいダンジョンをつくって、上手いごとまわりの村を襲っていい感じに攻撃を誘導させる。このまま行くと三大ダンジョンが四大ダンジョンになる日も近いわね」
「やめてください、俺なんかマザードラゴンと肩を並べるなんておごがましいです」

 そうは言いながらも、シェスタの表情はまんざらでもなさそうだった。
 ヒメがやたらと持ち上げたのもあるが、本人は大分その気だ。

「すごいね。もうちょっとしたらこの塔にも勇者ラッシュが来るけど、ネズミちゃんがいれば大丈夫だね」
「任せてください。どんな勇者が来てもこの俺がペロリと――」

 シェスタは大きく口を開く。
 巨大なネズミであるビッグマウス、限界まで開かれた口は人間を丸呑みするのに何の問題もなさそうな感じだ。

「――呑み込んでやりますよ」
「きゃー、素敵ー、かっこいい!」
「あーはっはっははは」

 更に持ち上げるヒメ、そのヒメに持ち上げられて鼻の下を全力で伸ばすシェスタ。

『丸呑みは、ちょっといやです』

 念話でユーリエがつぶやく。

『そんなの誰だっていやだろ』
『スライム様ならイイかもしれない?』
『俺?』
『私生け贄だから、ドラゴン様に食べられる覚悟をしてきたから。今でもちょっといやですけど、スライム様なら……』

 どんな心境の変化なのか分からないけど、食べないからな。

『全身をスライム様に包まれる、360度スライム様……あぁ……』

 俺を抱っこしたままうっとりするユーリエ。腕にも力が入る。
 この子、最近ますますやばくなってないか?
 誰かさんみたいになりつつある。

 ……なんで俺の教え子ってこうなりがちなんだろうな。
 将来もし神様とやらに会う機会があったら締め上げて問い質してみたいもんだ。

 馬鹿笑いするシェスタ、おだてるヒメ、うっとりするユーリエ。
 いやな現場に立ち会ったものだ――と思ったその時。

 悪寒が走った。
 寒気が一気に背筋を駆け上がっていった。

 これは……まさかっ。

     ☆

 クリスタルタワー一階。
 転移ゲートから姿を現わした勇者の一団。
 数は10、全員が同じ格好と装備で揃えている。

 その中に一人マントをつけていて、いかにもリーダーって感じの男がいた。
 男の名前はアレックス。転移されてきた直後から訝しげにダンジョンの中を見回した。
 塔の先制攻撃を男達が弾きつつも、いきなりの事で困惑していた。

「アレックス様! これは一体」
「移転魔法。どうやらマザードラゴンに辿り着くとトラップでここに飛ばされるような」
「なんですと! おのれえマザードラゴン、この様な卑怯な手で逃げるなど」
「引き返しましょうアレックス様」
「搦め手を使うことはマザードラゴンが弱まっている証左! 今なら叩けますぞ」
「……」

 部下たちが意気込むが、アレックスはそれには乗らなかった。
 彼は訝しげに、眉をひそめてダンジョンの中を見回した。

 その間ゴブリンやインプなどのモンスターが襲いかかってくるが、彼の部下の返り討ちにあった。

「アレックス様? どうかしたのですか?」
「いる……」
「え?」
「ここにリュウがいる」
「ここにですか?」

 アレックスの台詞に、部下たちも訝しげにダンジョンの中をあれこれ見るようになった。

「間違いないのですか? その、リュウ様がここにいるのは」
「間違いない。これはリュウの魂の匂いだ。しかも強い。そうか、マザードラゴンめリュウをここに隠したのだな」
「なんと!」
「卑劣なりマザードラゴン!」

 アレックスの推測に、部下たちは一斉に憤った。
 その中で、一人のんびり屋の部下が言う。

「もしかして、リュウ様はモンスターにされてるかもしれませんね」

 その男は睨まれた。アレックスの部下たちが一斉ににらみつけた。

「そんな事あるわけないだろ!」
「そうだ! アレックスさんの師匠のリュウ様なのだぞ」
「ですよねアレックス様!」
「……例えリュウがモンスターになったとしても」

 アレックスは部下を睨んでいなかった。その目は強く天井を――上の階を見ていた。

「その時は俺もモンスターになって、リュウの下についてモンスターの王国を作る手助けをするだけだ」

 アレックスは、どこまでもリュウの事しか見ていなかった。

     ☆

「うげえ……」

 望遠の魔法で見ていたおれはげんなりとした。
 一階に転送されてきたアレックスとその仲間たちの会話を聞いて、ぞっとするのとげんなりするのが半々くらいになった。

『大変ですスライムさん、すぐに気配を絶たないと。お弟子さんなら波動分かっちゃいます』
『アレックスにそれはきかないんだ……あいつ、何でか知らないけど魔力とかの波動じゃなくて、俺の事を魂の匂いで認識してるらしい。気配をゼロにしたところで誤魔化せない』

 前にディープフォレストで試した事があるしな。
 とは言えこのままにしておけない。

 アレックス一行は早速ダンジョンを攻略し始めた。
 モンスターを次々と倒し、階層を一つあがるごとにアレックスはまわりをきょろきょろと何かを探す仕草をみせる。

 このままじゃまずい、どうする?

 一瞬で倒すか?
 いやアレックスは勇者だ、ダンジョンの中で倒しても復活する。俺が一瞬で倒したらどうやっても正体ばれる。

 いつも通りシェスタを操って倒すか?
 アレックスは強い、シェスタを操っての間接プレイだと倒しきるまで時間がかかる、その間に俺が操ってるのが魔力の波動でばれる。

 逃げるか? いや意味がない。アレックスなら俺が逃げ出した瞬間何もかも放り出して追いかけてくる。

 参ったな、ものすごくピンチだぞ。
 アレックスに俺の正体がこのスライムだってばれない様に撃退する方法……。

『スライム様、わたしいいこと思いつきました』
『いいこと?』
『呑み込むんです』
『ダメだろそれ、呑み込んだ時点でアレックスはスライムが俺だって確信してしまう――』
『違います。塔を呑み込むんです』
『塔を』
『はい!』

 ユーリエは頷いて、シェスタを見た。
 未だにヒメにおだてられて、脳天気に高笑いしているシェスタ。ちなみにヒメは眉をひそめて俺を見てくる。こっちはアレックスの侵入に気づいてるみたいだ。

『シェスタさんみたいに塔をパクッと呑み込んでしまえば――』
『塔全体に俺の匂いが拡散する訳か』
『はい! もし出来るのならですけど……』
『問題ない』

 俺はユーリエの腕から跳び降りた。
 床に跳び降りて、力を解放。
 スライムの体を溶かして、床の隙間から体を染みこませる。

 スライムの体はわずかな隙間も問題なく通り、やがて、塔全体の隅々まで行き渡った。

 塔が肉体なら、俺の体は血液だ。
 そうして塔そのものに俺がいるようにした。

『むっ』
『どうしたんですかアレックス様』
『いや何でもない……リュウの匂いが変わった……この塔そのものだと?』

 塔の隅々まで行き渡ったおかげで、魔法なしでもアレックスの動向が分かるようになった。
 ユーリエのアイデアであきらかに困惑するアレックス。
 俺の魂の匂い、とやらに絶対的な自信があっただけにこの状況に困ってるのがありありと分かった。

 これならいける。

 困惑しつつも塔を駆け上がるアレックス一向。
 そいつらが――アレックス本人が八階に上がった瞬間、俺は八階の地面から黄金の前足を顕現させて、アレックスを叩いた。

「塔が……リュウ……?」

 一階からずっとあった、塔の先制攻撃を装って、全力で黄金の前足をアレックスに叩き込んで、倒した。

「ふう……」

 ぐちゃぐちゃになったアレックスと、敗走するその部下たち。

 どうにか誤魔化せたことに、俺はホッとしたのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ