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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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過去を知ってる男

「ねえねえ、ドラゴンナイトが有名になるにはどうしたらいいかな」
「決まってるだろ、勇者をバンバン倒して行くんだよ」
「勇者を倒すだけでいいの?」
「うーん、言われてみるとそれだけじゃ足りない気がするな。そうだ! 勇者王を倒せばいいんじゃねえか?」

 ギグッ!

 森の数少ない木漏れ日が差し込まれるスポットでひなたぼっこしつつ、テリーとリリと三人でいたら、テリーの提案に心拍数が上がってしまった。
 ……いやまあスライムに心臓はないんだけどさ。

「勇者王かあ、そうだよね、勇者王を倒せば一躍有名人だもんね」
「だろ?」
「でも勇者王ってどういうのなんだろ。あたしが生まれてから一度もあったことないな」
「おれもねえ、リュウは?」
「お、おれもねえぜ。そうだ、ちょっと母さんに呼ばれてるからいかなきゃ。じゃな」

 溶けた後びっくりして固まってしまった、まるで目玉焼きのような体で地面を這って、その話題で盛り上がる二人から離れた。

 勇者王、あまり深く関わりたくない話題だ。

 まず勇者というのは魔物の巣にやってきて魔物を討伐する人間の総称である。命の危険を省みず人間に害をなす魔物の討伐する――という事から勇者と呼ばれる事になった。
 その中でもめざましい活躍と功績をつんだ勇者が王と――勇者王と呼ばれる。

 最近は勇者王の話を聞かない。
 おれの次(、、、、)に新しく勇者王になった人間の話は聞こえてこない、やっぱり面倒臭い事はみんなやりたがらないんだろうなと、そんな事を思いながら、おれはまったりし直すために、別の日光浴スポットに向かった。

     ☆

 木漏れ日で体を溶かしていた、うーんやっぱり気持ち良いこれ。
 痛がゆいというかなんというか。
 人間の時の感覚で例えるのはちょっと難しい。タバコで一服するのとにてるし、からい物を食べる時の快感と似てる気もする。
 まあ、体をちょっといじめてるけどそれが逆に快感になっててやみつきだ、ってところだ。

 そうやってのんびりしてると、遠くから人の声が聞こえた。
 意識を集中、声の数と距離を測る。

 数は約20、モンスターじゃなくて人間だ。
 距離はざっと200メートルくらい、違う方向に向かって進んでるからこっちには来ない。
 こっちに来ないのなら――とおれはひなたぼっこを続行した。

『アレックス様、負傷者の治療完了しました。全員が回復魔法で復帰できる程度のケガです』
『そうか、ご苦労』
「え?」

 アレックスと呼ばれた男の声におれはぎょっとした。
 日光浴で溶けた体がまた(、、)びくっとなって固まってしまう。

 アレックスに、このやたらと渋い声、まさか……。

『すみません、あたしのミスでみんなを危険にさらしてしまって……』
『おれのせいでもある、気にするな』
『しかし――』
『おれがもっと気を配ってやれりゃみんなケガをしねえですんだんだ。リュウみたいに「さがってろ、おれが全部やる」っていえりゃいいんだがな』
『リュウ様……たしか前の勇者王で、アレックス様のお師匠さんですよね』

 やっぱりそうだった!
 アレックス・アリマス、おれが人間だった頃にやたらと慕ってきたヤツだ。
 少年だったころからやたらと渋い声のくせに、わんころのようにおれの後ろにびったりついてきてたやつだ。才能もそこそこあったからあれこれ魔物退治のスキルを仕込んでやったりもした。

 ちょっとだけ懐かしいな。

『ああ。気が緩んでいたのかもしれんな。この森に入った時からずっと懐かしい匂いを感じていたから、そのせいかもしれんな』
『なつかしい匂い、ですか?』
『リュウとよく似た匂いだ』

 げげ。
 ってかおれとよく似た匂いってなんだよ、やっぱり犬かよお前は!

『まあ、似てるだけだろうがな』
『もしかして本物なのかもしれませんよ? リュウ様がなくなったの実はこのディープフォレストで、だから匂いが残ってたのかもしれませんし』

 だれだか知らないけど余計な事言うなよ女。

『ふっ、ありえんな。お前はリュウの事を知らないからしかたないが、あのリュウがこの程度の森でやられて死ぬはずがない』

 お前はお前でおれを神格化しすぎだアレックス。

『はあ……やっぱり勇者王様って強かったんですね』
『リュウは強く、美しかった。お前たちは不幸だ、実際に戦っているリュウをみた事がないのだからな。あれは、みているだけで勉強になる……強くなれる』
『はわぁ……』

 だから神格化しすぎだってのに。お前たちのそういうのが面倒臭かったんだよ。

『でももういないんですよね』
『ああ……詮ないことだ。さて、そろそろ進軍を再開しよう』
『はい、どっちに行きますか』
『これもなにかの縁だ、リュウの匂いが濃いこっちに進もう』
『はい!』

 やべっ、こっち来る。
 やっぱりアレックスはわんこだった、匂いが濃いとかいって一直線にこっちに向かってくる。

 つうかなんだよ匂いって。
 転生したんだぞおれ、人間からスライムに転生したんだぞ。
 なのに匂いが一緒って、それが濃いからって迷いもしないでこっちにまっすぐ向かってくるって。

 実際にあっちゃだめだ、200メートルくらいで転生したおれの匂いを掻き分ける相手と直にあったらまずい。超絶面倒臭い事になる。
 逃げよう。

『なあなあ、なんでこっちに来てるんだ?』
『リュウを探す時はひなたぼっこ出来るところ、基本だよ』

 声を拾った、100メートルくらい離れたところにテリーとリリの声が聞こえてきた。
 二人ともおれを探してるらしいが、位置がまずい。

 おれとアレックスの直線上、そのど真ん中にいる。
 そしてどっちもここを目指している。

 アレックスのわんこは多分まっすぐここに来る、ここで溶けるくらいひなたぼっこしてたから匂いを辿られると間違いなくここに来る。
 テリーとリリもここに来る、二人はおれがここにいるって推測してるからやっぱりまっすぐここに来る。

 ということは、二人とアレックス一味は途中で鉢合わせるするか、ここで鉢合わせするかのどっちだ。

「まったく! 世話をやける!」

 さすがにテリーとリリの二人を見捨てる訳にはいかなかった。殺されても母さんがいれば生き返れるんだが、それでも見過ごせない。

 かといってアレックスと会いたくない。
 ならば。

 溶けた体をシャキンとした、もとのスライムの形に戻った。
 一応まわりに他の人間とかモンスターが居ない事を確認してから。

 魔法陣を展開、全身から魔力が立ち上る。
 体が金色に変わる、スライムの体が輝きを放つ。

 心の中で念じる。
 凝縮、追跡、隠形。
 属性は――ドラゴン。

 石ころサイズまで凝縮した魔力弾を見えない様にしてから次々と打ち出した。

 魔力弾はテリーとリリの頭上を越え、アレックス一味に襲いかかる。

『ぐわっ!』
『な、なんだこれは――うぎゃ!』
『敵はどこ――おごぶっ!』

 悲鳴が次々と聞こえてくる、攻撃を察知して回避をしたヤツもいたが、追跡効果もつけた魔力弾は次々と当たった。

『アレックス様!』
『この攻撃は……ドラゴンか』
『わ、わかるんですか』
『リュウに教わった。先制攻撃を受けた時は攻撃からモンスターの種類を推察出来る様になれと』

 そうだ、おれはそう教えたな。
 で、その後にどう教えた?

『で、では本当に』
『こんな攻撃が出来るドラゴンは予想外だ……ここは一旦引く』
『ひ、引くんですか』
『詳細の分からない相手と戦うべきじゃない。引けばまた来れる』
『――! わかりました』

 悲鳴が続く中、アレックス一味がどんどん遠ざかっていくのがわかる。

 そんな中、テリーとリリの二人がここにたどりついた。

「いたぜ」
「もう、リュウったらいきなりいなくなっちゃって」
「どうしたんだよ二人とも」
「こんなところにいねえでいこうぜ、おれの勘だとすっげえ弱い、すっげえ美人の白エルフ僧侶が森に入ってくるから、それを倒そうぜ」
「どんな勘だよ、ってかそんな都合のいい相手いるわけねえだろ」

 テリーとリリ、二人に連れられてディープフォレスト東部に戻る。
 そんな中。

『おれは戻ってくるぞ、ドラゴン』

 去りゆくアレックスの捨て台詞が聞こえた。
 とりあえず撃退したけど、面倒臭い事になりそうだな。

 この先まだくるだろうけど、鉢合わせにならない様にしないとな。
 平穏な日々のために。
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