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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第二章

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頼られる男

 ディープフォレストの北に少し進んだところに小さな街がある。
 街とは言っても、そこの本来の住民は100人かそこらで、また民家という形での建物も存在しなくて、勇者のための店のみがある。

 ディープフォレストのような有名なダンジョンの近くにはこういう街が出来る事がよくある。何年何十年たっても攻略されないダンジョン、勇者たちはそれでも名誉や財宝を求めてダンジョンに入る。
 そういった事情から生まれた、勇者専用の街。

 武器屋や道具屋はもちろん、勇者の認定や復活を司る教会、果ては即席のパーティーを組むための紹介所などがある。

 もちろん欠かせないのは宿屋。その宿屋の一室で、一組の男女が向かい合っていた。

 男の名前はアレックス、女はルーシア。
 同じ人間に師事を受けた人間同士、二人は兄妹弟子とも言うべき間柄だ。

「よく来てくれたルーシア」
「兄が私を呼び出す、珍しい」
「明日は槍が降るとでも言いたいのか?」
「用事は?」
「おめえにに協力してほしい事がある」

 アレックスが言うと、ルーシアは眉をひそめた。

「世界滅亡の知らせ?」
「そこまで珍しいって言いてえのか。ふっ、そうかも知れねえな。だが俺の話を聞けばおめえも納得するはずだ」
「なら、話す」
「リュウを見つけた」
耄碌(もうろく)?」

 ルーシアはいかにも気の毒な人間を見るような目をした。
 それもそのはず、リュウとは二人の師匠であり、大分前に死んだ人間の名前だ。

「いいや、あの匂い、魂の色は間違いなくリュウだ」
「勘違いは?」
「この俺がリュウの事を間違えると思うのか?」

 真顔で、にらみつけるようにルーシアを見るアレックス。
 黙り込むルーシア、彼女もまた真剣な表情になった。

 リュウの十二人の教え子――通称十二使徒は全員リュウに恩義を感じ、これ以上なく慕っている。
 その中でもアレックスは飛び抜けていて、その姿はもはや神を崇めるようだと兄弟弟子の間でもよくからかわれている。

 そのアレックスが間違いないと断言した。

「変わらない。リュウの事だけ考えてる」
「当然だろうが。リュウ以上の男はこの世にいない、リュウこそこの世を統べ、全人類の指導者――道しるべになるべき男だ」
「リュウはそれ嫌う」
「人間がリュウを失ったのは致命的な損失だ。このままだと人間の文化は停滞する、そしてかつてない暗黒期にはいっちおまう。そうなったらこの世はモンスターの天下だ。だからリュウを連れ戻さなきゃならねえ」
「リュウは死んだ」
「リュウはあの森にいる」
「根拠は?」
「この俺が根拠だ」

 迷うことなく言いきるアレックス。
 それは自分に絶対的な自信があり、自分の事を相手もよく知っていると確信している人間の表情だ。

 ルーシアはしばしアレックスを見つめ、やがてため息交じりに言う。

「役割は?」
「マザードラゴンまでの露払い。前にリュウの気配を感じた、それがある時から消えちまった。だが完全に消えてねえ、残ってるんだ」
「どこ?」
「マザードラゴンの右手」

 アレックスは断言する。

「森から完全に消えてしまったリュウの気配がマザードラゴンの手にだけ残ってる。あのドラゴンは何か隠してる。そいつの体に直接聞けば分かる」
「……わかった。任せる」

 ルーシアは身を翻し、宿屋の部屋から立ち去ろうとする。
 話はついた、もう一緒にいる必要はない。
 アレックスもルーシアも、リュウから独立し、それぞれの居場所を持っている大人だ。
 決行する時以外べったりと一緒にいる事はない。

 だから立ち去ろうとドアノブに手をかけたルーシアに、アレックスは思い出したように呼び止めた。

「ルーシア、そのマントはかえとけ、貧乏臭い。リュウの直弟子がそんなボロボロなマントじゃ様にならん」
「……考えとく」

 そうとだけいって、ルーシアは部屋を出た。
 部屋を出た後、そのままマントをつまんで眺めた。
 年季の入ったマント、あっちこっちがボロボロで、修繕の跡がいたるところにあるマント。
 それを眺めて、ルーシアは。

「リュウから最後にもらったもの、捨てられるわけない」

 と、いつになく饒舌につぶやいたのだった。

     ☆

 クリスタルタワー一階、ヒメと向き合うおれ。


 ――ぷるるっ!

「どしたのリュウちゃん、いきなり振えたりして」
「なんいま……ものすごい悪寒がしたんだが」
「誰かリュウちゃんの事噂してるのかもね。もしかしてモテ期かな!」
「なんでそれでヒメがわくわくするんだ」
「だってリュウちゃんだよ、きっとモテ期もすごいに決まってる。街の人間全員と曲がり角でぶつかって次々と恋が芽生えるとか」
「ぶつかりすぎてぐちゃぐちゃになるわ! そんな事よりも頼みごとをいえよ」

 思いよらず脱線してしまったのを本題に引き戻す。
 ヒメは何パーセントか真面目な顔になった。

「実はさ、マッチーが400年に一回の休眠期に入るんだよね」
「休眠期?」

 初めて聞く単語だな、寝るのか母さん。

「うん、寝るの」
「心を読むなよ」
「感覚的には動物の冬眠みたいな感じね。休眠期に入ったドラゴンはしばらくの間動けなくて、勇者が目の前に迫っても追い払えないの」
「そんなのがあるんだ」
「マッチーが前に休眠した時はどうとでもなったけど、今回は二つのイレギュラーがかさなっちゃってさ」
「なんだよ」
「一つは勇者ラッシュ。休眠期とまるかぶりで勇者の侵入が増えちゃうのね」
「なるほど、それは面倒」
「もう一つは戦力の低下。ほらどっかの誰かさんがモンスターを大量につれて独立したから。その上ドラゴンも二匹いなくなるし」
「おれはスライムだ」
「スライムの皮をかぶったドラゴンでしょ」

 にやりとヒメ。

「スライムに生まれたけど中身をほじくり出されたドラゴンを詰めらされたんだよ」

 母さんに無理矢理な。

「どっちでも似たようなものじゃない。それよりも、その二つが重なっちゃったから、ちょっとやばいのね」

 おれは考えた。
 動けない母さん、勇者ラッシュ、俺たちが抜けた分のディープフォレストの戦力低下。
 確かにまずいかも知れない、ヒメが助けを求めてくるのも分かる。

「だから俺とユイに戻れって言いにきたのか」
「ううん、リュウちゃんだけ」
「俺だけ?」
「だってリュウちゃんがいれば余裕だもん。勇者ラッシュでもリュウちゃん一人でどうにか出来ちゃうでしょ」
「はあ……」

 ヒメに持ち上げられた。乗っかると面倒臭い事になるタイプの持ち上げられ方だ。
 それでも断れない。

 色々大変な目にあってきたけど、それでも母さんは母さんだ。
 ちゃんと助けないとな。

「分かった。それで俺はどうすればいい。ディープフォレストにしばらく出戻りすれば良いのか?」
「その必要はないよ、しばらくの間あたしが勇者をここに送る。特にマッチーのところに辿り着きそうなのをね」
「母さんのところに辿り着ける勇者なんて面倒臭い奴らばかりだろ」
「でもこれ必要な事だよ? リュウちゃん裏ダンジョンに食いついてきたじゃん? その裏ダンジョンの作り方って大量のダンジョンポイントがいるから」
「くっ!」

 言われてみればそうだ。
 裏ダンジョンなんてもう一つのダンジョンを作りあげることだ、普通にやって出来るはずがない。
 ヒメが言う「大量のたんジョンポイントがいる」のは当たり前過ぎる話。

 二重の意味で、やらない理由がなくなった。

「これで決まりね、じゃあとりあえず――えい!」

 ヒメがパチンと指を慣らした。
 瞬間、まわりのモンスターが、クリスタルタワーの中にいたモンスターが全員倒れた。

「みんなにちょっと眠ってもらった」
「全員か」
「ユイちゃん以外、リュウちゃんが強さを隠したがってるみんな」

 一応気を使ってくれたみたいだ。
 ヒメはクリスタルタワーのど真ん中にいった。

「ここがいいかな。リュウ、ここを思いっきり叩いて」
「叩く?」
「そう、空間をたたき壊す勢いで」
「『次元刀ディメンションスライサー』とかか?」
「それは一人しか通れなさそうだからもっとでっかいので」
「……わかった」

 ため息が出た、ヒメがやりたいことを理解したからだ。

 おれはユーリエから跳び降りた。ヒメはユーリエの腕を取って離れてくれた。
 力を解放する、ドラゴンの力を。
 その力で顕現した前足を――黄金の前足を全力で振り下ろした。

 何も起こらなかった――物質的には。
 黄金の前足が振り下ろされたそこに、ぽっかりと空間の穴が空いていた。

 背後から魔法の光が見えた。ヒメが魔法を使って、穴に何かをした。
 俺が穴をあけて、ヒメがディープフォレストとつなげた。

「これで良し。じゃあしばらくの間、これ使って勇者送ってくるね」
「……わかった」

 しばらくの間強い勇者が襲ってくる事になった。
 裏ダンジョンのために、そいつらを倒していかないとな。
+注意+
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