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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第二章

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神様の供え物

 この日、同じようにクリスタルタワー一階で半溶けひなたぼっこしていた。
 気持ちいいひなたぼっこ、体にダメージを与える、人間でいう煙草で肺を痛めつけるような、そんな快感。

 それに溺れていると、急に耳鳴りがしてきた。
 最初は気のせいだと思ってたけど、耳鳴りは収まる所か徐々に大きくなっていき、しまいには耳元で爆竹をならしているような爆音になった。

「いてててて、やめろ! なんだこれは」
「スライム様!? どうかしたのですか」

 俺を抱っこしてるユーリエがびっくりして聞いてきた。

「ユーリエには聞こえねえのかこれ」
「聞こえるって……何がですか?」

 困り顔のユーリエ、こうしてる間にも音が更に大きくなってる、稲妻が耳元に連続でおちてきた様な轟音だ。
 普通ならば聞こえないはずはない、ならばこれは俺にだけ?

『聞こえるか若いの』
「この声は……土地神!?」
『そうじゃ』
「そうじゃじゃねえ! なんだよこれは、すぐにやめてくれ」
『……』
「くっ!」

 言ってもやめそうな気配はなかったから、次元の扉を開いて土地神の元に向かった。
 仙人のようなじいさんはふてくされた顔で俺を見ている。
 ここに来た瞬間耳鳴りは治まったから、俺はじいさんに怒鳴りつけた。

「いきなり何するんだよ!」
「いきなりではない。若いの、お主よもや忘れてるのではあるまいな」
「忘れてる?」
「わしに美少年を捧げる約束じゃったろ」
「……」

 忘れた。
 すっかり忘れてた、綺麗さっぱり、今の今まで忘れてた。
 そうだそういう約束だった、ダンジョンをくれる代わりに定期的に土地神に美少年の生け贄を捧げる約束だったんだ。
 それは……一回も実行されてない。
 怒るのも無理はない。

「その顔はやっぱり忘れてたな」
「待ってくれそうじゃない。そもそも美少年なんか一人も来なかった。土地神なら分かるだろ」
「うむ、それはわかる。今まで侵入してきた人間の中に、お世辞にも美少年は一人もいなかった」
「だったら――」
「しかしお主らは何度も外に行って、人間の村を襲っておるではない」
「ぐっ……」

 それを言われるとかえす言葉もない。
 普通に考えて、外に行ったときにさらってくるのが筋ってもんだ。
 ああして、土地神に美少年を捧げるって約束をした以上そうするのが筋だ。

「わかった連れてくるから。もうあれはやめてくれ」
「よかろう、ボリュームを下げてやる」
「さげるって……」
「なくしては約束をまた忘れられかねないからのう」
「忘れないって。信じてくれ」
「そういうのは一度でも約束を守ってからいうものじゃ」
「くっ」

 それも言われるとかえす言葉がない。
 今まで一度も実行したことなかったからな。

「分かったら行くのじゃ。ちゃんと美少年を連れてきたら完全に止めてやるのじゃ」

     ☆

 塔に戻った俺は一人外にでた。
 戻って来るなりまた耳鳴りが始まった。
 爆竹や稲妻ほどの轟音じゃないけど、ずっとキーンって音がして、まったりなんて出来ないほどの音だ。

 それが塔の外に出ても続いた。
 これはもう、美少年を捕まえてくるしかない。

 おれは一人でニーの村にやってきた。
 魔法で姿を隠して村の中をぐるっと一周する。

 うん、やっぱりいない。
 何回か襲いにきたから目星はついている、この村には老人や女子供がほとんどで、美少年と呼べる男は一人もいない。

 俺はそっと村を出た、何人か若い男もいたけどお茶を濁せる相手じゃない。
 仕方ない、もっと人口の多い街に行くか。

 ダンジョンを運営して行くに当たって、勇者を引き寄せるために襲う近隣の村や町の事は把握している。
 この先人間の足で半日ほど離れたところに街が一つある。
 住民から税を取ってるちゃんとした街だ。

 そこに行けば美少年の一人や二人はいるだろう。
 そう思って、道をぴょんぴょん進む。

 ふと、道の向こうから一団が現われた。

 先頭はむさ苦しいことこの上無い重装兵、中程に騎兵がいて、その騎兵が馬車を守っている。

 面倒くさい事になりそうだから、姿を隠してやり過ごすことにした。

「カイ、モンスターの巣はまだなのかい」
「――っ!」

 姿を消してそのまますれ違おう賭した俺の足が止まった。
 馬車の中から顔を出して、部下に質問した貴族風の男はかなりの美少年だった。

 線が細くていまいち頼りないが、それもまた美少年の素質の一つ。
 あえて言えば女装したら女にしか見えなくなるだろうが、あの匂いは間違いなく男というかオスの匂い。

「もうすぐでございます、今しばらくの辛抱を」
「そうなんだ。ねえカイ、ぼくやっぱりいやだな。何もしていないモンスターをこっちから襲うのは」
「陛下の命令です。これも後継者と認めていただくために必要な事でございます」
「それがいやなんだよ。いいじゃないか、後継者なんて弟がやってくれれば」
「なりません。しきたりがあるとはいえ、健在の長男を差し置いて次男が跡継ぎになればお家騒動が起こること必至。そのような事になれば三男四男五男……殿下の全ての弟が騒動に巻き込まれます」
「……」
「長男たる殿下が継ぐのが最も流れる血が少ない道です」
「そうだね。ごめんカイ、ぼくが間違ってたよ」

 黙って聞いてると、向こうにもなにやら事情があるようだった。
 まあ、そんな事情なんてどうでもいい、こっちは今この耳鳴りをおさめるのが最優先だ。
 それに……別に殺す訳じゃないしな。

 魔法を使った。まずは広範囲魔法。
 中央にいる王子だけをよけるように広範囲の爆発魔法を使った。

 魔力が爆発する、悲鳴があたりに響く。

 爆発が収まった後、王子――ともう一人がたっていた。
 歩兵も騎兵も倒れている中、王子と話していたカイという男だけがたっていた。

「カ、カイ、これは……」
「ご安心を殿下。……でで来い魔の物!」

 カイが叫んで、俺は姿を見せた。
 スライムの俺を見て、カイは眉一つ動かさなかった。

「スライム……? なんでスライムが」

 王子はキツネにつままれた顔をしたが、カイは厳しい顔で俺をにらみつけた。

「波動が一致している。お前か、これをやったのは」
「まあな」
「目的は何だ」
「ちょっとそこの王子様を借りたい。大丈夫、殺しはしない」
「そのような戯れ言を信じると思うか。第一そう言われて主君を差し出すヤツがどこにいる」

 そりゃそうだ。

「悪いけどそいつはもらう」
「やらせん」

 カイは戦闘態勢にはいった。
 全身から立ちこめるオーラと威圧感はかなりのものだ。
 強さは……多分俺の教え子……最初の12人と同ランクくらいだ。

 これはやっかいだ。

「カイ」
「ご安心を殿下、今すぐ排除してご覧に入れる」
「うん、任せた。竜殺しの力、期待しているよ」

 竜殺し?
 俺は眉をひそめた。王子の台詞がそうした。

 竜殺し、ちょっと前にも聞いた言葉だ。
 前のはどう見てもほら吹きだったけど……。

「本物、か」

 この威圧感、この力。
 ドラゴンを倒した事があっても俺は驚かない。

「行くぞ魔の者よ、はあっ!」

 両手を挙げるカイ、瞬間、頭上に半透明の大剣が何本も現われた。

「ドラゴンスレイヤー。フン!」

 カイは一本掴むなり、それを俺に投げつけてきた。
 空気を切り裂く轟音と共に飛んでくる、とっさに障壁を展開して弾く。

「フン! フン! フフフフフフフフン!」

 投げる、投げる、次々と投げてくる。
 一撃一撃が必殺級の大剣が絶え間なく飛んでくる。

 障壁が徐々に弱まり、やがてパリーン、と音を立てて破れる。

「やったの!?」
「まだです、まだ息がある」
「えぇ……」

 手をあげるカイ、一本指を立てる。
 指の先に光の球が現われた。
 球は徐々に大きくなり、帯電したようにパチパチと音を立てる。

「次はこれだ! ゴーストバスター!」

 カイはそれを投げつけてきた。
 光の玉はあたり、じわじわとまわりを浄化する。
 爆発するのではない、飲み込みのでもない。
 浄化。神聖魔法特有の魔物に対する攻撃現象だ。

「今度こそやったよね」
「……まだです」
「そんな!?」
「ご安心を、ヤツの気配は確実に弱まっている」

 三度、手をあげるカイ。
 今度は黒い槍を出した。
 黒く、魔法の紋様がついた槍。

「トドメだ! ゴッドイーター!」

 それを投げつけてきた。
 当たった瞬間、それは内部なら体と魂の両方をむしばむ。
 存在そのものをむしばみ、変質させる効果を持つ攻撃。

「今度こそやったよね!」
「……そんな馬鹿な」

 愕然とするカイ。
 一連の大技、飽和攻撃で舞い上がった砂煙が晴れたあとに現われた俺の姿に驚愕した。

「馬鹿な、何故倒れない。手応えはあった、あそこまで弱まってたら倒れるはずだ」
「ああ、倒されてたぜ。連続で受けてたらな。だけどお前が攻撃の合間に技名を叫んでたから、その間に回復する隙があったんだ。攻撃、全回復、攻撃、全回復――ってな感じでやり過ごしたんだ」
「馬鹿な! わざと技の間に0.1秒もなかったはずだ」
「0ではない」

 俺は一歩進みでる。
 ドラゴンの力を解放し、力で前足を具現化。

「倒す時は一気にしろ、でなければこうなる」

 驚愕するカイに、母さん直伝の一撃を振り下ろした。

     ☆

 クリスタルタワー、土地神の部屋。
 連れてきた王子を土地神の前に放りだした。

「連れてきたぞ」
「おお……おおおおお!」

 最初の「おお」は俺が戻ってきたこと、その後の「おおおおお!」は王子の容貌に対する感嘆なんだろう。

「よくやったのじゃ。うむうむ、これぞ美少年。モンスターの感性がずれてたらどうしようかと思っていたのじゃが、うむ、これならこの先も安心じゃ」
「そうかよ。だったら耳鳴りをといてくれ」
「無論じゃ。そしてさっさと出て行くがいい。わしはこれから……むふふふ」
「言われなくても」

 ここに残ってじいさんと美少年のまぐわいとか見たかねえからな。

 俺は土地神の部屋を出て、クリスタルタワー一階にもどってきた。
 耳鳴りはない、やんでる。俺はホッとした、これなら安心してのんびり出来る。

――美少年を献上、スキルポイントを5手に入れました。

 じいさん……ご機嫌だな。
 耳鳴りは治まったけど、今度は美少年王子のあられもない声の空耳がした。
 無視するけどな。
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