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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第二章

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ドラゴンのプライド

「お兄ちゃん」

 クリスタルタワー一階、ひなたぼっこで半溶けになってると、珍しくユイが降りてきて、俺のところにやってきた。

「どうしたユイ」
「ちょっとケガした、お兄ちゃん治して」
「ケガ? どこに?」

 みた感じ無傷でピンピンだけど。

「ここ」
「ここって……その顔のヤツか?」
「他に何があるのよ」

 不機嫌そうに唇を尖らせる。
 よく見ないと分からないレベルで、頬にちょみっと、糸くずのような傷がついている。
 かすり傷――よりも更にかすり傷。日常生活の中で自分でひっかいてしまった、程度の傷だ。

 俺はそれに回復魔法をかけた。

「珍しいじゃねえか、ユイが傷をおうなんて」
「一人出来るのが8階まで上がってきたのよ」
「出来るっていってもこの程度のかすり傷しか負わせられなかったヤツだろ。だったらそもそも傷も負わなくてもよかったんじゃねえのか? それともそんなに早かったのかそいつ」

 勇者たちは一階を素通りしていくから全然覚えてないし知らない。

「別に。普通」
「じゃあなんで?」
「ドラゴンは攻撃をよけちゃだめ。真っ向から受けて、その上でたたきのめすのがドラゴンなのよ」
「そういえばそんなのもあったな」

 昔母さんから聞いた気がする。
 ドラゴンはその誇り高さ故にちょこまか逃げる事を良しとしない。ユイが言ったようにまっ子からうちあってねじ伏せるのを好む。
 もっと言えば先制攻撃もあまり好まない、受けた上で叩き潰すのがドラゴンの流儀だ。
 それがドラゴンの矜恃なんだが、考えが古くさいから俺はあまり好きじゃなくて、今の今まで忘れてた。

「お兄ちゃんも、母さんの息子なんだからちゃんとそういうのやりなさいよ。――お兄ちゃんなら余裕なんだから」

 尻すぼみに何か言ったけど、俺は聞き流した。
 そういうのは面倒臭いからパスだ。

     ☆

 シェスタや他のモンスターたちと塔を出た。向かう先は村、ダンジョンに対する恐怖を維持するために、村を襲いに行く途中だ。
 こんな七面倒臭いことはやりたくないんだが。

「今日もがんばるぞ!」
「うん! クリスタルタワーにドラゴンナイトありって知らしめてやりましょ!」

 テリーとリリに引っ張られて、無理矢理つれて来させられたのだ。
 面倒臭いが、まあ適当にやれば問題はねえ。
 襲う村は前と同じ、適当に手加減しつつ殺さないように(殺すと死に物狂いで来る)襲えば何も問題はねえ。

「リュウもちゃんとやるんだぞ」
「そうだよ。あたし達の中で一番強いんだから、ちゃんといっぱい人間を倒してね」
「はいはい」

 ミッションの条件にテリーとリリよりも戦果をあげるのが追加されたけど、まあこの程度なら問題ねえ。

 さて、そろそろ村につくな――。

 ――ドサッ。

 歩いているリザードマンの一体が急に倒れた。

「レイマン! どうしたレイマンしっかりしろ!」

 その隣を歩くもう一体のリザードマンが倒れた恋人を抱き起こす。
 村に向かう進軍が止まった、みんなリザードマンを見ている。

「おいおい大丈夫か?」
「疲れが出たんじゃないのか? ダメだぞ、いくら若いからって夜の生活はほどほどにしないと体がもたねえぞ」
「リザードマンは男同士だから激しそうなんだよなあ」

 まわりのモンスターは口々にそういう、倒れたリザードマンを過労かなんかだと思ってるみたいだ。だが、

「――みんな伏せろ!」

 俺は大声で叫んだ、みんながこっちを見た。
 ユーリエをのぞいて、全員が「なに言ってんだこいつ」って顔をする。

「いいから伏せろ、早く!」

 叫ぶが、誰も伏せなかった。
 直後、もう一体モンスターが倒れた。
 今度はオーガだ。鬼の巨人が白目を剥いて、がくっと膝から崩れ落ちる。

 オーガが倒れると、ようやくモンスターたちが反応した。
 全員が一斉に伏せて、体を丸めて身を守る。

 倒れたリザードマンとオーガを見る。顔が黒ずんでいる――毒だ!
 急いでまわりを探った、それらしき気配を――あった。

 ユーリエから跳び降りて、気配のある方に走った。

「おい! どこ行く小僧!」
「シェスタさんはみんなを守ってて!」

 適当な事を言い捨てて、気配を追いかけた。
 直前までそばにいた気配は、俺が叫んだのとほぼ同時に逃げ出していた。
 その気配を追いかけて駆け出す。

「姿を隠す魔法か、しかもそれなりに早い」

 状況を整理する。
 どうやら相手は姿を消す魔法を使っていたようだ。
 最初は遠距離からの狙撃だと思って伏せろといったが、そうじゃなかったみたいだ。

 追いかけっこはしばらく続いた。
 相手の姿が見えないから、気配を探りつつの追跡で骨が折れた。

 やがて開けた場所に出たところで、向こうから姿を現わした。
 長髪の若い男だ。顔はにやけていてしまりがなく、軽薄そうなイメージを受ける。

 そいつは俺に向かって、にやりとわらった。

「なんでえ、どんなやつがおってくるのかビクビクしてたけど、ただのスライムじゃねえか」
「……」
「運がよかったなスライム、俺は今日機嫌がいい。今すぐ立ち去れば見逃してやらんこともないぞ」

 俺は一歩前に進みでた。

「おいおいやるのか? 悪いことは言わないからやめとけ。これ、わかるか?」

 男は胸もとからペンダントを取り出した。何かの牙を五つほどつなげて作ったペンダントだ。

「なんだそれは」
「これはな、ドラゴンの牙だ。俺は今まで5体のドラゴンを倒した。いわば竜殺し、ドラゴンスレイヤーって訳だ」
「ドラゴンの牙?」

 あれが? 違うだろ、どう見てもなんかの野生動物の牙だぞ。

「おうよ。これで倒したんだ」

 男はナイフを見せた。刃の真ん中に妙な溝が入っている、そこに毒を流して使うタイプのナイフだ。

「無知て怖いな」
「どういう事だよ」
「スライムにはわからんだろうが、これは毒だ。それもドラゴンの見ただけでびびって逃げ出すような毒だ。もう一度いう、今ならまだみのがして――」

 最後まで言わせなかった。
 魔力を解放し、それを前足の形にして振り下ろした。
 男を、前足で踏みつぶした。

 クレーターの中、つぶされた男はビクビクとけいれんしている。
 まだ息があるのか、もう一発行こうか?

「お、ま……」

 男のそばに転がってるナイフを魔法の炎で焼き尽くした。
 その瞬間男の顔色が変わった。
 目の前のスライムがヤバイヤツだとやっと分かってみたいだ。

「出せ」
「な、なに、を……」
「解毒剤だ。出せないともう一発行くぞ」
「ひぃっ! や、やめてくれ! 解毒剤はこの中に――」

 男はペンダントを差し出した。
 受け取って、軽く力を込める。
 何かの牙の中から小さいガラス瓶が出てきた。なるほどこれが解毒剤か。

「これで見逃して――」

 何か言おうとしてる男にトドメを刺す。

「冗談も休み休みいえ。ドラゴンが逃げ出すわけないだろこの程度の毒ナイフで」

 ドラゴンはバカみたいに気高いんだ、どんな強くても、どんなに卑怯な攻撃でも、それを受けてかえすのがドラゴンの矜恃だ。
 こんな毒くらいで逃げるわけないだろ!

 まあいい、ほら吹きのそれに付き合っててもしょうがない。
 問題はこの解毒剤、どうやってみんなに渡すか。
 バカ正直に渡すと色々面倒臭そうだな……。

「それ頂戴」
「――え? ユイ!?」

 考え込んでいたところにユイが現われた。

「どうしたんだユイ、こんなところに」
「べ、別になんだっていいでしょう。その……さ、散歩よ、散歩で偶然通りかかっただけ」
「散歩ってお前……」
「なんか文句ある? お兄ちゃんみたいにぐうたらじゃないんだから」

 それを言われるとつらい。
 確かに俺に比べると散歩くらいはしても不思議はないな。

「それよりもそれを頂戴。お兄ちゃんの事だからどうせ面倒臭いことにならないかって迷ってるんでしょ」
「お、おう……それじゃ頼む」

 俺はガラスの瓶をユイに渡した。確かにユイが渡す――つまりユイが倒した事にすればなんの問題もない。全て丸く収まるのだ。

 ユイはガラスの瓶を受け取って、俺が来た方向、塔のモンスターたちがいる方向に向かって駆け出す。

 俺はしばらくその場にとどまった、もうちょっとしたら戻って、敵を見つからなかったって事にしとこう。
 そうするために、その場にとどまった。

「お兄ちゃん……やっぱり素敵」

 だから、去っていくユイが何かをつぶやいたのだが、俺の耳には届かなかったのだった。
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