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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第二章

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理性と煩悩

 クリスタルタワー。
 今日来た勇者達は一階のモンスターに目もくれず、一直線に二階に上がっていった。
 階段の上から聞こえてくる叫声と嬌声(、、)をBGMに、俺は一階の隅っこでのんびりまったりしていた。

 いやあ、はじめてかも知れしない。
 生まれてはじめて、こんな感じでゆっくりのんびり出来るのは。
 勇者はカレンに操られて上がっていって、ダンジョンスキルで降りて来れない。
 このコンビ技に、おれははじめてのんびり出来ていた。

 ひなたぼっこで半溶けの体が、気づけば全溶けになっている。

「あわわ……す、ドラゴン様の体が……」

 全溶けで腕からこぼれだしたのを、慌ててかき集めようとするユーリエ。
 完全な液体じゃなくて手で多少かき集めることは出来るが、それでも大半は指の隙間からこぼれてしまう。

 俺の体を必死にかき集めようとするその手つきが気持ちよかった。頭とか背中を撫でられている様な気持ちよさだった。
 だからユーリエに好きにさせた、むしろ溶け方をすすめて、もっとあたふたかき集めさせたくらいだ。

 もちろん彼女への鍛錬も忘れてない。
 俺の体をかき集める動作が負荷になって体力と魔力の鍛錬になる。
 人間で例えると水の中で素振りしてるようなものだ。

 そんな、のんびりした昼下がる。

「リュウちゃんリュウちゃん、あたしにも何かやらせて?」
「んあ? いいよカレンは、俺は今のが一番幸せだから」
「リュウちゃんそれ昨日も言った」
「おじいちゃんご飯は昨日食べたでしょうみたいないいからするな。一日かそこらで変わる訳ないだろ」
「うー。なんかさせてよ」

 あれからすっかり懐いてしまったカレンはことあるごとにこうして俺にまとわりついて何かさせてくれっていってくる。
 おれが恩人だから何かしたいって気持ちはわからんでも無いんだが、それなら静かにしてくれっていいたいところだ。

 せっかく生まれて初めての約束された安穏なのに。

「た、助けてくれ!!!」

 ……安穏が終わってしまったじゃないか。

     ☆

 大勢のモンスターに見守られる中、最上階から一階に降りてきたクリスタルタワーのボス、ビッグマウスのシェスタ。ファイヤーアントという巨大なアリの前に立った。
 ファイヤーアントは二体、片方は大きくて、人間感覚だと大型犬のサイズで、もう片方は顔つきが幼くて小型犬サイズだ。

 小型の方は大型にしがみついて、大型はそれをかばっている。

「お前ら、なにもんだ」
「私はコロロ、こちらは我が主のサララ姫だ」
「姫だあ?」

 シェスタは大型のコロロ、そしてそいつが主と呼ぶ小型のサララを訝しげにみた。

「姫様は我らファイヤアント一族の女王になるお方、我ら一族の命脈なのだ」
「で、その姫様がなんだってこんなところに?」
「勇者に追われているのだ。勇者は我らのコロニーに侵略してきて、一族を虐殺したのだ」

 憤りながら話すコロロ、それを聞いてサララは更にコロロにしがみつき、アリそのものの体をブルブルと震わせた。

「ひでえ……」
「勇者って身勝手だよな」
「モンスター相手なら何をやってもいいって思ってる連中だぜ。けっ」

 野次馬のモンスター達は口々に勇者を非難した。
 一方、最初は訝しげだったシェスタの顔に同情の色が浮かんだ。

「よーし任せろ、このおれ様が何とかしてやる」
「本当か?」
「ああ。その娘が女王として新しい巣を作れるまでおれ様が保護してやる」
「ありがとうございます! 本当になんていったらいいのか……ありがとうございます!」
「気にすんな」

 男気あるじゃねえかシェスタ。
 火種って知ってて背負い込めるヤツそうそういねえぞ。

 そう考えると、バカみたいに高笑いしてるシェスタが妙に格好良く見えて来るぜ。

「ここにおられたのか」

 塔の入り口に人間が現われた。
 丸めた頭に、お香で焼いたアザが頭のてっぺんに。
 手のひらをあわせ、黄色い袈裟を改造した道着を纏っている。

 僧侶、それも武僧だ。

「なにもんだてめえは」

 シェスタが即座に誰何したが、するまでもないと俺は思った。
 武僧があらわれた瞬間、ファイヤアントの二体が震えだしたからだ。

「拙僧の名はワンフー、その異形を狩るものだ」
「てめえか、ファイヤアントの巣をぶっつぶしたの」
「しかり。その二体がこの地に残った最後の二体。人々のため、この地の生態が崩れぬため。拙僧は狩らねばならない」

 なんか真面目なやっちゃな。
 俺はちらっとユーリエをみた。

『なんですかスライム様』
『いや、なんでもねえよ』

 一瞬どっちがよりくそ真面目なのかなって思ったけど、よく考えたらどうでもいいことだった。

「あれ面白いね」

 カレンが俺のそばでささやくように言った。俺だけに聞こえる程度の小声でのささやき。

「面白い?」
「うん、アレ皮をかぶってるよ」
「皮?」
「そう、理性……じゃないか、あれボウズだから戒律の皮だね」
「へえ」

 つまり僧侶だから厳しいルールで理性を保ってるだけって事か。
 それは確かに面白いな。

 と、そんな事を思ってるうちに。

「きゅう……」

 一人だけ飛び出したシェスタが早速やられていた。
 無造作に飛び込んでのクロスカウンター、あまりにも綺麗に決まりすぎてテレフォンパンチに見えた位だ。

「またつまらぬものを殴ってしまった」

「つまらぬものってなんだ!」
「シェスタ様に謝れ!」
「この塔のボスなんだぞ!」

 モンスター達が次々とワンフーに罵声を浴びせかけた。

「この程度の輩がボス……? それは何の冗談だ?」

 冗談じゃないんだ。カラクリはあるけどよ。

「そんな事いってられんのもいまのうちだぜ」
「シェスタ様はな、一度やられてからが本番だ」
「シェスタ様の顔も二度までってヤツだ」

 シェスタがやられたのを気にするところか、むしろこれからが本番だというモンスターたち。なにやらことわざっぽいのも出来てて、いつの間にそういうことになったのかとびっくりした。
 まあでも、その方が都合がいい。

 俺はそっと魔法を使って、シェスタの体を操った。
 ゆらり、と言葉通り操り人形のように起き上がるシェスタ。

「きたきたきた!」
「シェスタ様ぁ」
「そいつをやっつけろー」

 俄然、盛り上がるモンスター達。

「成程、本気ではなかったと言うことか」

 ワンフーも勝手に納得した。

「よかろう、今度こそ貴殿を倒し、異形のファイヤアントを絶滅に追い込んでくれる」

 ワンフーはそういって、再びシェスタに飛びかかった。
 さっきは話してたので分からなかったが、ワンフーはかなりの使い手のようだ。

 正攻法でやっても、単独でこの塔の三階は突破出来るほどの力だ。
 戦闘スタイルは格闘、非常に綺麗な型から繰り出される力強い攻撃。
 質実剛健、正統派な強さだ。

 長引くとやっかいなので、シェスタの体を操って、蹴り上げてからハンマーパンチで地面に叩き込んだ。とっさの受け身で意識を刈り取るまではいけなかったから、更にあごを容赦なく蹴り上げた。
 縦に一回転して、顔から地面に突っ込む。
 ビクンビクンとちょっとまずいかもしれないけいれんをするようになった。
 まあ勇者だし大丈夫だろう。

「うおおお!」
「流石シェスタ様!!」
「すげえっす! シェスタさんすげえっす!!!」

 モンスター達はシェスタを褒め称えた。

 おれはそんなシェスタを操縦したまま、自分のそばにいるカレンに話しかけた。

「カレン、こいつを頼む?」
「え? なんで?」
「面白いんだろ、こいつ」

 カレンはハッとして、真横にいる俺をみた。
 俺はウインクした。彼女は更にハッとして頷いた。

「わかった、任せてよ」

 そしてカレンはウキウキ顔で倒れてビクビクしてるワンフーのそばに行った。
 しゃがみ込んで、つるっぴかの後頭部にそっと触れる。
 触れたところが微かに光って、その光がワンフーの体に吸い込まれていく。

 しばらくして、ワンフーが。

「じゅううううくじょおおおおおお!」

 と、獣じみた雄叫びを上げた
 なんだそれ?

「熟女はいねがああ! ほっぺと膝の皮膚が垂れ下がった熟女はいねえがああああ!」

 ……どういう意味だろう。
 いや言葉の意味は分かったけど、どういう事なんだろうそれ。
 なんて、首をかしげてるとカレンが説明をしてくれた。

「こういう趣味もいるのよ」
「じゅうううううくじょおおおおおお!」

 ワンフーが雄叫びをあげて塔から走り去って行った。
 それを見ても、おれは何がなんだかさっぱりだ。
 普段抑圧されてるってだけはわかった。

「その通りだね、だってさ」

 いつの間にか戻ってきたカレンはパチン、と小さく指を鳴らした。
 直後、遠くから、

「はあはあ……処女とやりたい……白エルフ女王の処女をメチャクチャに汚したい」

 と、ゴブリンの誰かの声が聞こえてきたが、あまりにも普段通り過ぎてだれもそれを気にする事はなかった。

 こうして、クリスタルタワーは新しいモンスターを保護し。

――強敵を撃破、スキルポイントを1手に入れました。

 ちょっとだけ強くなったのだった。
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