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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第二章

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カオスシード

『ユーリエ、お前に残念な知らせがある』

 ゴクリ、と生唾を飲むユーリエ。
 俺を抱っこする腕にも力が入る、見下ろしてくる目がちょっと怖い。
 それでも俺は告げた。

『シー・ロンの心を探った結果、第三世代は全員で64人いることが分かった』
『そ、そんなに……』
『そのうち63人はお前より年上だ』
『……え?』
『つまり年上の甥っ子姪っ子が63人いるって事だ』
『うわああああん』

 泣き出したユーリエは俺を両手で持ったまま、何度も何度も床にたたきつけた。
 まるっきり年頃の女の子がぬいぐるみで八つ当たりしているような、そんな光景だ。

 まわりのモンスターはにやにやしながら見つめてくる。
 こっちの事情など分からないだろうが、ユーリエのそれは傍から見てるとわりかし微笑ましいもので、誰も止めようとせず、むしろいい感じに見守っている。

『スライム様のバカバカバカ!』
『俺のせいじゃないけどな。ああそういえばアレックスが決めた事が一つあったな』
『アレックスさんって、あのスライム様の匂いとか言ってた人ですか?』
『そいつだな。俺を思いっきり崇拝してるおれ様教の信者みたいなヤツだ』
『し、信者……』

 ごくり、と更に生唾を飲むユーリエ。

『その人は何を決めたんですか?』
『礼節を尽くせ――スローガンだけじゃわからんか。ようは目下の者が目上の者を見たらちゃんと跪いて挨拶しろってことだ。第三世代だと俺を見た瞬間十歩下がって餅をつくかってくらい頭を下げてくるぞ』
『わあ……』

 まだ分かってないか、無理もない。

『第三世代が第二世代を見ても、まあ一歩は下がって跪くな』
『え?』

 ぽかーんとするユーリエ、おれはわかりやすくしてやった。
 スライムの体をちぎって、魔力で人形を作る。

 ちょっとデフォルメしたが、知ってる人間が見たらユーリエとシー・ロンだって分かる二つの人形。

 ユーリエはふんぞりかえって、シー・ロンはそのユーリエにへこへこしている。

『これが63人分いるってことだ』
『うわあああん! スライム様のばかああ!』

 またガンガンガンとユーリエに叩かれた。
 ユーリエの「年下のおばちゃん」ネタは思いのほか面白くて、それで彼女をイジり倒していた。

 ちなみにいじるためにあれこれ言ったが、全部本当の事だ。
 ストーカー気味で俺を信奉するアレックスが勝手にきめて、俺も転生前はわりとウザたかった記憶がある。
 アレックスたちに正体がばれないようにしなきゃな、と。
 ユーリエをいじりつつ、改めて決意する俺である。

 ふと、視線を感じた。
 ユーリエをいじってる俺は一階中の視線を集めていたが、それとは違う種類の視線が一つだけあった。
 それに振り向く、カレンだった。

 彼女は俺をじっと見つめている。他のモンスターたちがニコニコしている中、カレンだけが熱の籠もった視線で俺を見つめている。
 なんなんだ? それ。

 しばらく経って、ユーリエのイジリが一段落して、まわりの注目が徐々になくなっていった頃。
 カレンはそっと俺のそばにやってきて、いった。

「師匠」
「だから師匠って呼ぶなって」

 まわりを見る、今の聞かれてないだろうな。

「ううん、師匠。あたしを弟子にして。この子の事をずっと見てた、師匠はこの子を育ててるんでしょう?」
「……だからお前も育てろと?」
「うん! お願い師匠。あたしはもっと強くなりたい。サキュバスの中のサキュバスになりたい」

 力説して、俺を睨むように見つめてくるカレン。
 視線の熱は本物だった。

「はあ……ダメだって言っても引き下がらないよな」
「それじゃ――」
「条件がある。まず声のボリュームを落とせ。注目されたくない」
「うん!」

 カレンははっきりと頷いて、器用に小さく大声を出した。

「強くする協力はしてやる、ただし弟子にはしない」
「ど、どうして?」

 お前アレックスと同じ匂いがするからだよ。
 と思ったが言わなかった。

「モンスターは弟子にしない」

 と、適当な事をいった。
 そのままユーリエに指示を出す、ユーリエは俺をだっこしたまま歩き出す。

「ついてこい」
「うん!」

     ☆

 クリスタルタワー八階、竜の部屋。
 ユイの部屋に、俺はカレンを連れてやってきた。

「お兄ちゃん? 何しに来たの?」
「すまないがここをちょっと借りる」
「何をするの?」
「見てれば分かる。それよりも今からやることは内緒にしてくれ。……この塔じゃお前にしか頼めない」
「あたしだけ……わ、わかったわ」

 ユイは何故か頬を赤くした。
 なんでそうなったのかは分からないけど、承諾してくれたのでとりあえずよし。

「あの……師匠……」
「だから師匠はやめろ」
「うん、じゃあ……リュウちゃん。あたしどうすればいい?」
「ちょっと待ってろ、すぐに終わる」
「わかった」

 頷くカレン。おれはユーリエから跳び降りて地面にたった。
 なにもない空間に向かって――叫んだ。
 思いっきり叫んだ。

『スライム様?』
「リュウちゃん? 大口をあけてどうしたの?」

 ユーリエとカレンは不思議がった。
 まあ分からないよな。
 今俺が出してるのは超音波みたいなやつだ。もっと正確に言えば超魔力波になるのかもな。
 通常の人間やモンスターじゃ感じ取れない程の高い魔力の波動を出して、それを前方にぶつけ続けた。

 やがて、穴が開く。
 何もない空間にぽかっと穴が開いた。

「な、なにそれ」
「異空間だ。これをちょっと使う」
「い、異空間? そんなのあけられるの?」
「まあな」
「そっか、それで変な魔力を出してたんだ」
「ユイ、お前今の分かったのか?」
「ちょっとだけ。なんか肌が妙にチリチリしてかゆくなった。気のせいじゃなかったんだ」
「へえ……」

 ユイを見た。

「な、何よ人の顔をジロジロとみて」
「いや、よく今の感じ取れたなって。また強くなったんじゃないのかユイ」
「ふ、ふん! お兄ちゃんなんかに言われなくてもあたしは普通に強いわよ」
「はは、そりゃそうだな」

 正真正銘の黄金竜だもんな、ユイは。
 そこらへんにいるモンスターとは訳が違う。

 おれは改めて穴に振り向いた。これを使って――。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
「どうした」
「どれくらい?」
「え?」
「どれくらい強くなったって聞いてんのよ。お兄ちゃんと比べてどれくらい?」
「そうだな……肌がチリチリしてかゆいんだろ今ので。じゃあ俺の10分の1くらいかもな」
「10分の1?」
「ああいや、4分の1くらいはあるか。まあでもこういうのはあくまで推測で――」
「10分の1でいいわよ!」

 ユイは何故か怒りだした。
 うーん、今のはよくなかったかな。俺は本気で10%から25%くらいはあると言い直したんだが、フォロー……同情に聞こえたかも知れないな。
 ドラゴンはプライドが高いから、その辺気をつけないと。

「あたしがそんなに高いはずないじゃん。お兄ちゃんの方がもっともっと強くなきゃおかしいもん」

 ユイはコロコロ表情を変えて、なにやらぶつぶつつぶやいた。

「でも……うふふ……10分の1お兄ちゃんかぁ……うふふ……」

 何をつぶやいてるのか知らないけど、下手にフォローしたりするとまたやぶ蛇になるかも知れないから、今はほっとこ。

 俺は気を取り直して、異次元の穴に魔力を送り込んだ。
 今度は高周波の魔力じゃなくて、普通の魔力。
 ただし大量に、この塔をなぎ払える程の量を異次元の中に送る。

 そして、圧縮。
 何もない――文字通り何もない異次元の空間の中で魔力を圧縮。

 精錬。

 魔力を純粋な固まりに精錬する。
 そうしてできあがったものを異次元の空間から取り出して、カレンに見せる。

「それはなに?」
「カオスシード、可能性の種だ」
「カオスシード?」
「これを使うと、使ったヤツが自分に望む、夢描いてる姿に進化することが出来る」
「そんなすごいものなの!?」
「ああ。ただし」
「た、ただし?」

 たじろぐカレン。

「ちょっとでも雑念があると、これを受け取った後つぎはぎだらけの姿に変わってしまう。理想の姿なんて普通はそんなにちゃんとしてない。大半の人間はあれもこれも、色んな理想のすがたがあって、そういうのがごっちゃまぜになる。今までの例だと、美しく可愛く、なんて思ってたヤツが体のど真ん中から線を引いたように、片方可愛く、片方美しくなんて――キメラみたいな姿になってた」

 俺が見てもはっきり分かるくらい、カレンは息を飲んだ。
 これは脅しだ、同時に試しでもある。

 それを聞いても、なおこのカオスシードを手にする勇気はあるのか。

「大丈夫、そういうのあたしは大丈夫」
「そうか?」
「うん。そこのドラゴン娘はどっちつかずの中途半端だけど、あたしは大丈夫。なりたいものは一つしかないから」
「そうか」

 ユイがなんで中途半端なのかは分からないけど、カレンの決意は伝わってきた。

「それじゃ……受け取れ」

 カオスシードをそっと押し出した。
 カレンはそれを受け取った。

 瞬間、光がカレンの体を包む。

 まばゆい光、進化の光。
 それがカレンの体を包み込んで姿を変えた――かえた?

「何も変わってないぞ? それがお前の望む姿なのか?」
「えっと、それは――」

 答えかけたカレン、それとほぼ同時にずんずんと足音がした。
 上の階から降りてくる足音、大ネズミの足音。

「なんだ今の光は、人がせっかく気持ちよく昼寝してたのにふおおおおお!」

 降りてきた瞬間、シェスタは全身を震わせて、白目を剥いて、奇声を上げて絶頂した。
 性的な絶頂で、体液をまき散らしながら失神して、ビクンビクンとけいれんする。

 それで分かった。
 見た目は変わってないが、カレンは紛れも無く進化していた。

「というかダダ漏れだ、コントロールしろ!」
「うん」

 艶然と笑うカレン。
 彼女は深呼吸して、おそらくは洩れているフェロモンを引っ込んだ。

 するとシェスタのけいれんも治まった。

「ありがとう、リュウちゃんおかげ」
「ってことは、ちゃんと望むサキュバスの姿になれたか」

 聞くが、カレンは首をゆっくり振った。
 振ったが、顔は晴れやかだった。

「あたしはサキュバスじゃない。サキュバスの中のサキュバス、伝説に残るナイトクイーンになった」
「上位種か、なるほど」

 予想をちょっと上回ったカレンの進化。
 よっぽど強い想いだったんだろうな、と俺は思ったのだった。
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