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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第二章

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村の襲撃

「かー、くそっ、暇だな」

 クリスタルタワー一階。わざわざ最上階から降りてきて、塔の外を見渡しながら悪態をつくシェスタ。
 湖の真ん中に立てられた塔はその分見晴らしがいい、人間――勇者が襲ってくるもの来ないのも一目瞭然ということ。

 そして今、勇者はまったく来る気配はない。これで三日連続だ。

「ったく! なんでまったく来ねえんだ? 早く来い勇者! このおれ様がけっちょんけっちょんのぎっちょんぎっちょんにしてやる」

 相変わらずものすごい自信だよな、シェスタは。
 まあ来ない理由は分かるし、俺としては全然来ない方がのんびり出来てありがたい。
 暇を持て余してるシェスタには悪いが、このまま吠えさせておこう。

「勇者が来ないのはここが無名だからだよ」
「なんだとぉ! ってユイちゃんじゃねえか」

 指摘されていきり立つシェスタだが、振り向いた先に階段から降りてくるユイを見てややクールダウンした。

 マザードラゴンの娘、伝説の黄金竜。
 シェスタも彼女に一目置いて、他のモンスター同様に大いばり、とはいかない様だ。

 というか待てユイ、お前何を言い出すつもりなんだ。

「無名ってのはどういう事なんだよ」
「言葉の通りよ。このクリスタルタワーは出来て間もない、ここに地上最強のモンスターがいるって誰も知らない、だから討伐に来ない」

 ユイはそう言いながら俺をちらっと見た。
 くっ、止め損ねてしまった。

「どんなにつよいモンスターがいようと、知られなきゃ勇者がまともに来ないのは当たり前でしょう」
「なるほど、言われてみると……」
「だから人間を襲うの」
「人間を襲う?」
「そう。村でも町でも都市でもいい、とにかく襲ってそれがモンスターの仕業だって分かれば、人間の方も相応の勇者が討伐に乗り込んでくるの」
「なるほど、よーし」

 ユイに唆されて、シェスタが俄然やる気になった。

「これから近くの村を襲う! お前らついてこい!」

 シェスタの号令一つで、おおくのモンスターが彼について外に飛び出した。
 上の階からもモンスターがぞろぞろと降りてきて、かなりの大群になった。

 おれはいつも通りユーリエに抱っこされたまま、ユイに近づく。

「なんのつもりだユイ」
「……別に? あたしはあのネズミに本当の事を教えただけ。それとも何? あたし何か間違ったことでも言った?」
「言ってないけどよ……」
「だったらいいじゃん? ……お兄ちゃんがいるのに閑古鳥なんて許せない」

 ユイはにやりと口角をゆがめた後何かぶつぶつ言ったようだが、声が小さくて聞き取れなかった。

「あーあー、ごっそりいっちゃったよ」
「お兄ちゃんは行かなくていいの?」
「やだよ面倒くさい。お前こそ行けばいいだろ」
「いいの? あたしがいっても?」
「え?」

 どういう事だ? とユイを見あげる。
 ユイはイタズラっぽい笑みで俺を見つめ返して。

「あたしが行ったら、ドラゴンにふさわしい勇者が襲ってきちゃうよ?」
「……くっ」

     ☆

 久々にクリスタルタワーを出て、モンスターの隊列の最後尾についていった。
 隊列は今、一番近い村に向かっている。人口500人程度の小さな村だ。

 面倒臭いけど、こっちの方が得策だと判断してついてきた。

『スライム様、どうしてついてきたのですか? それにさっき妹様との話はどういう意味なのでしょうか?』
『村を襲うと人間がやってくるのは分かるな?』
『はい』
『例えばユイが――ああお前にはこっちの方がわかりやすいか。お前の村にマザードラゴンが行って、破壊の限りを尽くして蹂躙したら、村の人間はどうする?』
『怯えて、生け贄を差し出します』

 自分がそうだったから、と言わんばかりの速さで即答した。

『そう、村だったら。しかしマザードラゴンという強力なモンスターがいると言うこともばれる。そうすると村は完全降伏だけど、それ以上の街とか、都市とか、下手したら王国の都とか。そこから命知らずとか腕利きとかわんさかやってくる』
『攻撃しすぎると強い勇者を呼び込んでしまうのですね』
『正解だ。賢いなお前』

 何となくほめるとユーリエは照れくさそうに笑った。

 そう、やり過ぎるとそうなる。
 ユイが出っ張っていけば村程度は一瞬で更地にかえしてしまうだろう。しかしそれはユイ――黄金竜を討伐するクラスの勇者が送り込まれてくるということでもある。

 それはダメだ、やり過ぎは強い敵を招く。
 いずれ強いモンスターが来るようになったとしても、今はまだダメだ。
 もう少し、ゆっくりとした時間を過ごしたい。

 そのために俺はついてきたのだ。

     ☆

 ニーの村、押し寄せたモンスターが襲撃と略奪を開始した。
 平和な村なんだろう、シェスタが先頭にたって押し入った直後から村人が逃げ出し始めて、抵抗らしい抵抗はまったくない。

 人間に攻撃を加えて、家や畑をやいて、家畜や女を略奪する。
 クリスタルタワーのモンスターは村を荒らして回った。

 俺はと言えば、攻撃する振りをしながら、こっそりと回復の魔法陣を村全体に広げていた。

 別に人間の味方って訳じゃない、同情してる訳でもない。
 ゴブリンたちが村でたった一つの教会に押し入った後の女の悲鳴や、オーガが壊して回る建物や畑は完全に無視した。

 人間のケガだけをそれとなく、致命傷にならない様に直した。

 軽傷や重傷はほおっておいた、致命傷になりそうなものだけ直す。

 恐怖と怒りのコントロールだ。
 最初の襲撃だ、死人なんて出せば村が怒り狂って塔に押し寄せてくる。
 そうならないために死人が出ない様にというコントロールだ。

『スライム様、もしかして今人間を治癒しているのですか?』
『よく分かったな』
『もしかして……村全体をですか?』
『そうだ。修行の成果出始めてるじゃないか』

 それを感じたユーリエにちょっと嬉しくなった。
 やっぱりこの子は素質がある。素質がある人間を鍛えるのは今も昔も結構嬉しいことだ。

『村全体をカバーする程の魔力……なんてすごいの……』

 お前もいずれ出来るようにしてやるよ。

 ユーリエに抱っこされたまま、たまに逃げ遅れた村人に体当たりで気絶をさせつつ、襲撃の戦況を見守った。

「やめろ!」

 怒鳴り声が響き渡る、一人の男が現われた。
 男は手に柄の長い斧を持っていて、背中に薪を背負っている。
 どこかに薪狩りに行って帰ってきた、という出で立ちだ。

「モンスターどもめ、これ以上の勝手なふるまいはゆるさんぞ」
「あーっははははは、生きがいいのが残ってたか。結構結構」

 シェスタは大笑いしつつ、男の前に立った。

「どれ、このおれ様が揉んでやろう」
「ふざけるなモンスター!」

 飛び出す男、ポーズをとりながら迎撃するシェスタ。
 勝負は一瞬でついた。

 一撃で、シェスタが男にやられたのだった。

     ☆

「……ここは?」
「おいみんな、シェスタ様が意識を取り戻したぞ」

 シェスタについていたリザードマンが大声をあげると、まわりに散っていたモンスターたちがぞろぞろと集まってきた。

 村から少し離れた場所の林の中、それまで寝かされいたシェスタが体を起こす。

「一体何があったんだ?」
「その……」
「えっと……」
「あれは……」

 モンスターたちは気まずそうに次々と目をそらした。
 まるで見てはいけないものを見てしまったかのように。

 それもそのはず、自分達が盟主を仰ぐモンスターがただの木こりに一撃でやられたんだ、こんな反応をしてしまうのも無理からぬ事。

 ……なんだが、それは都合が悪い、俺にとってすこぶる都合が悪い。
 フォローする事にした。

「さすがシェスタさんだ」
「なぬ?」

 シェスタだけじゃなく、他のモンスターたちも一斉に俺をみた。

「村を襲った最後に負けることで、人間たちはきっと『このモンスターたちなら戦って勝てる』って思っただろうな。きっと襲ってくるよ、村人が大挙して。さすがシェスタさん、目的のためなら進んで道化を演じるリーダーの鑑だ」

 俺がそう言うと、シェスタは一瞬きょとんとしてから、すぐにまたいつも調子に戻った。

「ふっ、ばれてしまっちゃしょうがねえ」

 と、キザな決めポーズをとりだした。
 そのポーズを見て、更に一呼吸ほど間が空いて、モンスターたちが思い出したかのように一斉に沸いた。

「そういうことだったのか!」
「おかしいって思ったんだよな」
「ああ、シェスタ様があんなのに負けるわけねえもんな」

 いや負けたんだけどな。
 というかシェスタ……。

「あーはっははは。まあそれほどでもあるがな」

 あんた、どんだけ口だけなんだよ。

「よし、今から塔にもどるぞ。おれ様の見立てじゃ人間どもはすぐにでも襲ってくる。もどって待ち構えるぞ!」
「「「おおおおお!」」」

 シェスタの号令で、モンスターたちは意気揚々とクリスタルタワーに戻った。
 この日、狙い通り人間が塔に侵攻して来た。

 俺がコントロールした襲撃と、シェスタの負けによって反撃は村人だけで、塔は暇脱出と、ほどよいダンジョンの経験値を稼げたのだった。
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