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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第二章

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裏頂上決戦

 クリスタルタワー一階。
 一人の勇者がやってきた。

 塔に入ると、まずテリーとリリが反応した。
 まだまだ弱いが、俺を巻き込んでドラゴンナイトを結成するあたり、二人とも背伸びしたがりというか上昇志向が強いというか。

 それはまあいい、それよりも勇者だ。

 やってきた勇者は若い、十代そこらの少年だ。
 装備はライトアーマーにバックラーシールド、ロングソードといったオーソドックスなもの。
 それだけみればありきたりな勇者だが、他の勇者と違う点が一つ。

 彼は震えていた。
 膝が笑っていて、剣を持つ腕を振えている。
 唇に至っては歯がカチカチとビートを刻むほどならしている。

 緊張……いや怯えか。

「や、やるんだ。モンスターを倒すんだ」

 震えながらもつぶやき、己を鼓舞する勇者。

「モンスターを倒してセリカちゃんのお父さんに認めてもらうんだ」

 つぶやきの内容で何となく事情が見えてきた気がする。
 セリカちゃんとやらは多分彼が好きな女の子で、その父親がこの少年の気弱なところを不満に思って、モンスターを退治できれば認めてやる――という条件でも出したんだろう。

 ありきたりな理由だが、それ故にちょっと不憫。

「おいリュウ、何やってんだよ。早く来いよ」
「ドラゴンナイトの出番だよ」
「……おれはパス、というかテリーも休んでていいぜ」
「なんでだよ」
「あいつ、リリ一人で倒せると思う」
「うそだろ?」
「リリ一人でも?」

 俺の言葉に驚くテリーとリリ。

「やってみろよリリ。もしダメだったら俺とテリーがすぐにフォローに入るからさ」
「そうだな。応援してるぜリリ」
「……うん! リリ頑張る」

 リリは意気込んで、三叉のフォークを持って、勇者の少年に向かってふわふわ飛んでいった。

 接近するなり、リリはフォークを突き出した。少年はとっさによけたが盛大に尻餅をついた。

「なんかさ、リリの動きちょっと早くなってねえか?」
「……」

 どうやらテリーにも分かるくらいの効果(、、)が出てるみたいだ。

 つけたばかりのダンジョンスキル、地形サポートレベル1。
 ダンジョン内のモンスターが常に、そのモンスターにとって最高の力を発揮できる地形で戦うような力を出せる。
 常時能力上昇のようなもんだ。

 その効果で、リリはいつもより1割増しで強くなってる。

 尻餅をついた少年勇者に、リリは「えい」と可愛らしいかけ声と共にフォークを突き刺した。

「う、うわああああ!」

 ガードするでもなく、ましてや反撃するでもなく。
 少年はロングソードを投げ出して、地を這うように逃げ出してしまったのだった。

     ☆

 ユーリエに抱っこされたまま、ひなたぼっこ。
 少年の後、クリスタルタワーに勇者は来なくて、とてものんびりした時間が流れた。

 新しいダンジョンというのはこんなもんだ。
 勇者がダンジョンに侵入してくる理由は色々ある、名声目当てだったり、依頼されてまわりに害をなすモンスターを討伐したり、モンスターを倒して魔法アイテムの素材を手に入れようとしたりと、様々だ。

 それらは全て、新しいダンジョンにおいては該当されない。
 まだ知られてないダンジョンでモンスターを倒しても名声にはならないし、そもそも村とか町とか襲ってないから討伐依頼も出ない、どんなモンスターがいるのかという情報も出回ってないから素材狙いも来ない。

 新しいダンジョンはこんな風にとにかく暇だ。
 おれがユーリエの膝の上で全溶け出来るくらい暇だ。

 いいなあ……こんな時間がいつまでもつづくと――。

 パン!

 クリスタルタワーの扉が乱暴に開け放たれた。
 ユーリエの膝の上で目を滑らせ、侵入者を確認。

 やってきたのは勇者ではなかった。

 長い髪に黒い角、コウモリのような羽根に露出度の高いボンデージな衣装。
 現われただけで、濃厚な蜜を垂らしたような色っぽい空気を拡散させる魔族。

 サキュバス、淫魔の一種だ。

 現われたのが勇者じゃなくてモンスターと分かった時点で、一階のモンスターたちはほとんどやる気を無くしていた。

 そのサキュバスは塔の中をぐるっと見回して――何故か俺の方に向かってきた。
 スタスタと、歩いてるだけで童貞が昇天しそうな色気を振りまきつつ、俺の前に立ち止まった。

「あたしはカレン、見ての通りサキュバスよ」

 サキュバスのカレンは何故か俺にピンポイントで話しかけてきた。
 どういうつもりなのか、と訝しみつつ俺もとりあえず名乗ることにした。

「俺はリュウ、見ての通りスライムだ」
「この塔っていいダンジョンだよね。ねえ、あたしに頂戴?」
「……乗っ取りか」

 カレンはにやりと笑った、サキュバスの笑顔はそれだけでぞっとするくらい色っぽい。

 乗っ取りというのは、人間ではなくモンスターがやってきて、ダンジョンのボスにダンジョンの所有権をかけて決闘を挑む事である。
 群れをつくる生物であれば必ず起こりうる状況は、モンスターにおいても例外はなかった。

 一応例外がなくもないけどな。ディープフォレスト、ブルーマウンテン、サイレントシーみたいな、伝説級のモンスターがいると知れ渡ってるところにはさすがに命知らずは現われない。
 逆にこういう新しいダンジョン狙ってタナボタする方が多い。

「あたしと戦って。あたしがかったらこのダンジョンもらう、逆に負けたら――」
「負けたら?」
「サキュバスの力をフルに使って極楽を約束したげる」

 それは悪くない取引だ。
 サキュバスといえば淫魔の中でももっとも名前が知れ渡ってる上級種族。個体によっては肉体だけじゃなく、精神さえも悦楽を導けるといわれる。

 勝てばどんな美女でも不可能な快楽が待っているだろう。
 が。

「悪いが、ここのボスは俺じゃないんだ」
「あら? じゃあ誰?」
「それは――」
「それはおれ様さ!」

 二階に続く階段から、スポットライトを浴びながら登場するシェスタ。
 大ネズミはいつもの如く現われ、自信たっぷりにポーズをとった。

「このクリスタルタワーのボスはこのおれ様! ビッグマウスのシェスタさ」
「……そうだったんだ」

 カレンは俺とシェスタを見比べて、あっさりと納得した。

 彼女は相変わらずの色気を振りまくような歩きかたでシェスタに向かっていく。

「改めて自己紹介はいるかしら?」
「いいや、話は全て聞かせてもらった」
「そか。じゃああの条件でいいのね?」
「おう」
「それじゃ、遠慮なく行くよ」
「おう!」

 話がトントン拍子に進み、シェスタとカレンがダンジョンをかけての戦いになった。
 まわりのモンスターたちは固唾をのんで見守る、シェスタに絶対的な自信を寄せてはいるが、ボスの座をかけての戦いとなればそうならざるを得ない。

『スライム様』
『ああ、フォローする』

 シェスタにボスの座にいてもらわないと都合が悪いから、おれはこっそりいつでも介入できるように準備した。

 互いに飛びかかるシェスタとカレン。

「とわあありゃあああ!」

 オーバーリアクションで回し蹴りを放つシェスタ。好きだなそういうの、ネズミのくせに。
 というかそんな大振り当たるわけが――。

「きゃっ」

 小さな悲鳴をあげて、カレンが吹っ飛ばされた。
 後ろに飛んだあと着地し、女の子すわりで「およよ」のポーズをして。

「やられちゃった」

 と、わざとらしく言った。
 ……え? どういう事? 何が起きたの?

「はーはっはははは、これがおれ様の実力よ」
「参ったわ、さすがこのダンジョンのボスね」
「分かればいいのだ。さて、負けたからには……むふふふ、分かってるだろうな」
「わかってまーす」

 カレンはすっくと立ち上がって、やっぱり色気を振りまきながらシェスタに近づく。
 大ネズミの体にしなだれかかって、胸に指で「の」の字を書きながらいう。

「続きは、ボスの部屋で、ね」
「おう!」

 媚びるカレンにシェスタは上機嫌になって、彼女を連れて階段を上って行った。
 残された俺はぽかーんとしたが。

「やっぱりシェスタさんってすげえ」
「乗っ取りをさくっと返り討ちにしちゃうなんてな」

 まわりは、シェスタを褒め称えていた。

     ☆

 勇者が来ないまま、一階で半溶けのひなたぼっこをしていると。

「こ・ん・に・ち・は」
「うわ」

 上からにょき、と頭を出してきたのはカレンだ。
 シェスタの部屋にいっていたはずの彼女がいつの間にか戻ってきて、俺の真ん前にすわった。

「……シェスタの事はもういいのかよ」
「うん。あのネズミならちゃんといい夢を見させてあげた。今頃世界中の美ネズミと酒池肉林の夢を見てるはずよ」
「そうか」
「それよりも……どうして隠してるの?」
「……なんの話だ」
「サキュバスってね、半分精神の世界に生きてるの。肉体の快楽よりも精神の快楽を与えるのがあたし達の真骨頂。そして精神の世界でまで力を隠せるものは存在しない」
「……」
「ねえ、どうして隠してるの?」

 そうやらお見通しのようだ。
 クリスタルタワーに入るなり俺のところにやってきたのもそれが理由か。
 精神の強さは隠せない、なるほど人間にも通常のモンスターにもない発想だ。

 俺は観念して、声を押し殺してこたえた。

「面倒臭い事が嫌いだからだ」
「だから正体を隠してここにいるの」
「そうだ」
「つまり、あなたを倒さない限りはこのダンジョンをもらえないって訳ね」
「……そうだな」

 そういうことになるな。

「あたしと戦って」
「やだよ面倒臭い」
「拒否してもダメダメ、無理矢理にでも戦ってもらうからね」
「面倒臭いって――」

 カレンはいきなりに迫ってきた。形のいい唇がスライムの俺の口を塞いだ。

 瞬間、景色が変わる。

     ☆

「ふふふふふ、さあて、あのスライムくんはどれほどのものなのかし、ら……」

 風景が完全に変わった世界、景色からユーリエ、テリーやリリなどのモンスター全員がオブジェクトになり、色が反転した不思議な世界。

 その世界で、おれはカレンを見下ろしていた(、、、、、、、)
 遥か高みから、建物で言えば二十階ほどの高さから。
 ほとんど豆粒になっているカレンを見下ろした。

「う、うそよね……こんなのってうそよね……」
「はじめて体験するけどこれがサキュバスの精神世界か。精神力がそのまま大きさになるってことか」

 その精神世界で、カレンは普通の人間サイズ、おれは小山くらいの大きさのドラゴンになっていた。
 やれやれだな、生まれた時は確実にスライムなのに、母さんにしごかれていつの間にか魂がドラゴンっぽくなってたみたいだ。

「こんな強いの……見た事ない……」
「さて――」

 視線をカレンに向けた。カレンはびくっと体を強ばらせた。

「せっかくだし、今後のためにもちょっと痛めつけとくか」
「ひぃ!」

 カレンはガクガクと膝が震える。
 精神世界の攻撃だ、廃人にならない様に注意しつつ、カレンにお仕置きをした。

     ☆

「もどってきた、か」

 まわりの景色は正常になる。
 反転した色が戻って、モンスターや人間のユーリエが再び動き出す。

 そして、カレン。

「ひぃ!」

 ユーリエの膝の上からカレンを見ると、彼女は悲鳴を上げて後ずさりした。

「ごめんなさいごめんなさいもう二度としないからごめんなさい!」
「効果は抜群みたいだな」

「何があったんですかスライム様」
「ちょっとだけお仕置きしただけだ」
「お仕置きですか」

 ユーリエはカレンを見る。カレンは今にも失禁しかねない勢いで俺に怯えている。

「カレン」
「ごめんな――」
「それ以上やって俺の正体をばらしたら三倍増しでお仕置きな」
「――っ!」

 カレンは自分の手で口を塞いだ。

「すごいですね……よっぽどお仕置きがきつかったんですね」
「大した事はしてない、母さんにやられた事の一割をそのままヤッただけだ」
「はあ……」

 ピンとこないユーリエ、いいんだピンとこなくて。
 その間、カレンは一人百面相した。

 青ざめた顔で色々と考えてから、俺にすり寄ってくる。

「う、うっふーん、スライムくん。あたしスライムって大好きなのお。お姉ちゃんとい・い・こ・と、し、しない?」

 思いっきりこびを売ってきた。
 ところどころつっかえながら、顔は青ざめながらで最初の頃の色気はなかったが。

「ふん、やっぱりサキュバスはだめだな」
「淫乱の代名詞だもんな」
「女はやっぱりエルフ、それも百年以上生きた処女に限る」

 まわりで見ていたゴブリンたちが言いたい放題を言ったが、こういうのなら面倒にならなくていい。

「よくやった、これでいい」

 カレンにそう言ってやると、彼女は赦しを得たかのように胸をなで下ろしたのだった。
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