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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第二章

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クリスタルタワー

 シェスタを先頭に、モンスターの行列が進む。
 今からやる事を考えればまるで開拓者みたいだなと思いつつ、俺はユーリエに抱っこされたまま、隊列のど真ん中にいた。

 前でも後ろでもない、ど真ん中。
 ただのスライムとして、ザコモンスターの一体としてその間に混じっていた。

「もうつかれたぜ、三日くらいあるいてんじゃねえのか?」
「まだ半日だよテリー」

 俺の隣にいるのはなじみの二人、ゴブリンのテリーにインプのリリ。
 この二人とスライムの俺との三人で、パーティー「ドラゴンナイト」を結成している。俺はまったくその気はないが、二人はパーティーを組んでどんどん勇者を倒していって、いずれは名前だけで勇者たちを震え上がらせる大モンスターに成り上がるのが夢らしい。

「まだそんな? 俺もやだよー、ディープフォレストに帰りてえよ」
「諦めちゃダメだよテリー。もしかしたら今から行くところの近くに白エルフの里があるかもしれないんだから」
「本当か! ン百年も生きたロリババアの処女女王とかもいるかな」

 おいおい、属性詰め込みすぎなんじゃないのか?

「きっといるよ、だから頑張ってテリー」
「よーし、俺がんばっちゃうぞ」

 リリに励まされて、歩く気力が回復するテリー。
 ゴブリンは程度の差はあるが、基本的に女好きで、特に「清らかな」とつく女が大好きだ。
 それは処女だったり、聖職者だったり、自然の子エルフだったり。
 そういうのが好きで好きでたまらない種族だ。

 今もバテバテだったのに、なんの根拠もなく「いるかも知れない」っていうリリの励ましでやる気と体力が回復した。
 単純で、ある意味すごい種族だ。

「ばっかじゃないの? エルフの女王なんてそうそういるはずないじゃん。しかも処女とか。あーキモッ」
「いないんですか? 女王様」
「そうそういない、って意味。っていうかあんたヒメの分身だよね、その喋り方なんとかならないの?」
「えへへ……オリジナルのいらない部分だから、頭がちょっと弱いんです」

 ちょっと離れたところで妹のユイと、ヒメの分身体であるミニヒメが一緒に歩いていた。
 ユイはドラゴンから人化した人の姿で歩いていて、ミニヒメは人形に見える姿でその横でプカプカ浮かんでいる。

「……なあユイ」
「なによお兄ちゃん」
「なんでお前まで来たんだ?」
「べ、別にいいでしょ来たって。その……ひ、暇だったからよ」
「暇って……」
「あたしだって……そう、いずれは母さんの元を離れてダンジョンを作る訳なんだから、ダンジョンの立ち上げを実際にこの目で見ておきたいの!」
「ふむ……」

 そう言われると確かにそうかもな。
 なんでヒメまでついてきたのか疑問だったけど、こいつも将来一国一城の主になるんだから、立ち上げに立ち会った方がいいのはわかる。

「……お兄ちゃんのいない森なんている意味ないし」
「うん? 今なんかいったか?」
「――っ! なにも!」

 ユイは何故か急に怒りだして、スタスタと歩いて列の前の方に行ってしまった。
 うーん、また怒らせたな。
 最近やたらとユイを怒らせているような気がする。
 まあ、わかるけど。
 人間の時もそうだった、あの年頃の女の子は異性の肉親を意味もなく嫌うもんだ。

 俺の体はスライムで無性だけど、魂は前世の感覚を引き継いでて男だ。
 ユイも俺の事を「お兄ちゃん」って読んでるし、嫌う要素は充分だ。

『スライム様』

 ぷんすか怒って去っていったユイと、それを追いかけるミニヒメを見送った後、俺をだいてるユーリエが念話で喋りかけてきた。

 この開拓者の行列の中で唯一の人間。
 かつてはマザードラゴンに送られてきた生け贄だったけど、何故か母さんは彼女を俺に押しつけた。
 おどおどして内省的な性格と、それと反比例しているかのような高い魔法の素質を持ってる人間の女の子だ。
 強く鍛える代わりに、それまで面倒くさがってのんびりしたい俺の足代わりをやらせている。

 数少ない、俺が本当は強いって事を知っている者でもある。
 そのユーリエが、俺がつなげた直通回線で話しかけてきた。

『もう半日も歩きましたけど、これからどうするんですか?』
『そうか、ユーリエは人間だから知らないのか』
『はい』
『なら教えてやろう。今から龍脈に向かう』
『龍脈って、ディープフォレストみたいなところですか』
『察しがいいな。そう、ディープフォレストみたいなもんだ。陸海空、この世界のありとあらゆるところに魔力が流れている。それは葉脈のようにばらばらだが、同時に細い脈が一本に向かって集まっていく形になってる。モンスターのダンジョンはその集まったポイントの上にたってるのがほとんどだ』
『なるほど』
『ディープフォレストみたいなものすごい魔力が集まるポイントは少ないけど、今から行くところも、数十年前までダンジョンがあったいい立地のところだ』
『そこにダンジョンを作るんですね』
『そういうことだ』

     ☆

 丸一日歩いて、開拓者のモンスター行列は湖にやってきた。
 夕日を反射する湖面はキラキラしていてとても綺麗で、人間が、特に若い男女が好みそうな場所だ。

 一方で。

「こりゃすげえ、魔力がすっげ濃いぞ」
「うん! ディープフォレストの半分くらいはあるね」
「まあまあ、だね。これくらいないとドラゴン(、、、、)にはふさわしくないわ」

 到着したみんなは場所に満足しているようだ。
 そう、見た目とはまた違って、ここは龍脈で魔力が集ってくるポイントで、モンスターも好む場所だ。

 ドラゴンナイトの二人、ユイとミニヒメ。
 ついてきたゴブリン、オーガ、リザードマンの面々。
 総勢100体近くのモンスターがこの場所ではしゃいだり上機嫌になったりしていた。

「シェスタさん、早速儀式をお願い」
「おう! このビッグマウスのシェスタにまかせろい!」

 この開拓団のリーダーである大ネズミのシェスタが自分の胸を叩いて豪快に笑った。
 相変わらずの自信だなあ……と思いつつ見守る。
 シェスタは取り巻きの協力で魔法陣を作り、儀式を行った。
 普通の魔法とは大分違った波動がまわりに広まった後、シェスタの姿がフッと完全に消えてしまった。

『スライム様、今のは?』
『土地神のところに行ったんだ』
『土地神?』
『こういう魔力が集まってるところに土地神という存在がいるんだ。シェスタはそれに会いに行ったんだ。土地神との交渉が上手く行けばたまってる魔力を使ってダンジョンを作れるんだ』
『なるほど』

 ユーリエに説明しつつ、その場でまった。
 ユーリエは地面に正座して、スライムの俺を膝の上に置いた。

 他のモンスターもリラックスして待った。
 シェスタが戻ってくるのを。

 しかしシェスタは戻ってこなかった。
 日が落ちて、月が空高くに登ってきてもシェスタは戻ってこない。
 戻ってくる気配すらない。

 まわりがざわざわし始める、シェスタがどうしたんだろうかと言いだしはじめた。
 俺はぴょん、とユーリエの膝から跳び降りた。

『スライム様?』

 驚くユーリエ、それでも人前は俺に念話で話しかけてくる。
 色々秘密を知っている彼女にはそうしろと言い含めてあるのだ。

『ちょっと見てくる』
『ちょっと見てくるって、いけるのですかどうするのですか』
『母さんのせいでな、一回見た魔法は大抵使える。実際に喰らえば100%覚えるようになったのさ』

 生存本能がなせる技かもな。

 俺はその場にたって、モンスターたちが全員シェスタの消えた場所を見つめているのを確認。
 さっきの様子を思い出す。シェスタが消えた瞬間の様子、感じた波動を反芻。

 それを再現。
 あれは、別世界に繋がる魔法――。

次元刀ディメンションスライサー

 目の前の空間に魔力の刃を通す。
 すると、空間が切り裂かれて、向こう側(、、、、)が見えた。

『すごい……』
『じゃあいってくる』

 次元の裂け目に飛び込んだ。
 飛び込んだ先は真っ黒な空間だった。

 便宜上真っ黒と表現したが、黒というのとも違う。
 感覚的に説明するのが難しいが、「なんの色も持たない空間」といった方が正しい。

 そこにシェスタが倒れていた。大ネズミは大の字になって伸びていた。

「やれやれ、またきおったか」
「だれだ」

 声の方に振り向く、そこに一人の老人がいた。
 老人はまるで賢者のような出で立ちだった。
 ずれた丸眼鏡、白い髪もじゃもじゃした髭、そしてゆったりとしたローブ。

 人間の前に出せば100人中99人が「賢者」と答えるであろう出で立ちだ。

「わしは神じゃ、名前はまだない」
「土地神か……シェスタのおっちゃんは試験に不合格だったのか?」

 ちらっとシェスタを見て、想像しつつ問う。

「うむ、ここにダンジョンを作りたければわしに力を示してみよといったのだが、あのざまでなあ」
「はあ……情けねえなシェスタのおっちゃんは」
「ちゅーか、なぜお主が来なかったのじゃ?」
「うん?」
「その魔力、お主がリーダーなのじゃろ?」
「魔力? そんなの押さえうおっ!」

 土地神に言われて自分を見た瞬間驚いた。
 スライムの体から魔力がもうもうと、戦闘民族が変身したときみたいに金色のオーラがもうもうと立ちこめていた。
 母さんやユイのオーラと同種のものだ。
 黄金龍の二人は生まれつき、俺は後天的に母さんにこれを叩き込まれた。

「押さえてるのに、なんで……」
「この空間じゃ隠匿は意味がなさぬのじゃ」
「そうなのか」

 俺はちょっとホッとした。
 この空間だけでよかった、外でもこんな風にダダ漏れだったら密かに生きたいってささやかな望みが絶たれるところだった。

 安心したところで、改めて土地神に向き直った。

「俺が代わりにやるよ。力を見せればいいんだな?」
「それには及ばんよ。それほどの力ならばな」
「いいのか?」
「純粋なパワーならわしをもうわまわっとる。あのネズミにやらせたのは、パワーがなくとも知恵と勇気とその他のなんちゃらで工夫してくるかもしれないと思ったからじゃ」

 なんちゃらって適当だなおい。

「土地神をも上回るパワーなら文句はないのじゃ。後はこっちの条件をのめばダンジョンを作らせてやろう」
「なんだ、その条件は」

 きくと、土地神はうっへっへって感じで笑い出した。
 それまで荘厳な賢者っぽい雰囲気が崩れ、一気にただのエロジジイっぽくなった。

「たまにでいい、人間の供物をわしのところに送ればよいのじゃ」
「エロか」

 念の為に確認してみた。
 土地神はまたうっへっへといやらしく笑った。

「その通りじゃ」

 まったくこのスケベジジイめ。
 だが、わかりやすい。そういうわかりやすいのは大好きだ。

「わかった、後でシェスタのおっちゃんを説得して、定期的に勇者を捕縛して美女を――」
「ちゃうちゃう、美女ちゃう」
「――へ?」
「神は美少年を所望である」
「……」

 絶句した、とはまさにこの事か。
 このジジイ、まさか男色――。

「ぼーいずらぶって言ってほしいのじゃ」
「ジジイのくせに厚かましいな!」
「いっとくがこの条件はびた一文まかぬぞ」
「分かった分かった、美少年だな? 普通の美少年でいいんだな」
「うむ。歳は14から16、いわゆる紅顔の美少年じゃ」
「注文がおおいな、でもわかった」

 それはまだわかりやすい方だから了解した。

「では、契約成立じゃな」
「これからどうすればいい」
「これに触れるがいい」

 ジジイは手を伸ばし、光の玉をだした。
 一目で分かる、魔力が凝縮された玉だ。

 地上の生物では到底出し得ない程の膨大な魔力が籠もった玉だ。
 ホモジジイ改め土地神はさらに言った。

「作りたいダンジョン、そして名前をイメージするといい」
「それだけでいいのか」
「そうじゃ」

 頷く土地神、俺は光の玉の前に立った。
 玉にそっと触れる、膨大な魔力――圧が襲いかかってくる。
 ぐっと堪えて、目を閉じる。

 イメージ。
 おれがひっそりと生きられるダンジョンのイメージ。
 最初のところを勇者たちが駆け抜けていって、そこをただの通過点として誰もが軽視するようなダンジョン。

 塔。
 低い階層にいれば注目されないですむ、そんな高い塔をイメージした。
 名前は、一度あがったら降りてこないという意味を込めて。

 クリスタルタワー、と名付けたのだった。
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