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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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ドラゴンナイトとビッグマウス

 ディープフォレスト中心、マザードラゴンの前。
 ただでさえ濃密に森の中に漂う魔力が渦巻いて一点に集まった。
 凝縮された魔力は徐々に実体化していき、巨大な四本ハサミのカニになった。
 デスクラブ、という種族のモンスターだ。
 四本ハサミのカニは完全に実体化した後、マザードラゴン――母さんに頭を下げた。

「感謝するマザードラゴン」
「よい、これも余の役目である。このディープフォレストの核に鎮座する余のな」
「それでも感謝する」
「よい。それよりも今日はやすめ。復活したては肉体が定着しきっていないのだからな」
「わかった、気遣い感謝する」

 カニは更に頭を下げて、それから母さんの前を立ち去った。

 これで勇者の襲撃で倒されたモンスター(ご近所さん)が全員復活した。
 ディープフォレストの中で倒されたモンスターは、マザードラゴンさえ生きている限り、何度でもその濃厚な魔力でもって復活する事ができる。
 逆にマザードラゴンを倒されれば復活する機会を失って完全に死んでしまう。

 勇者の襲撃を森のモンスター総出で迎撃する理由はこの辺にある。

     ☆

 ディープフォレスト東部、最弱の森と呼ばれるここにおれ達がいた。

 ゴブリンのテリー。
 インプのリリ。
 そしてスライムのリュウ(おれ)

 幼なじみの三人は、集まって昨日の話をしていた。

「にしても、昨日は本当もったいなかったよなあ」
「何がもったいないのテリー」
「リリも戦ったなら分かっただろ? 昨日は僧侶の数がいつも多かったじゃんか」
「そういえば多かったね。あっ、一人特殊なのがいたね、白エルフの」
「なんだとおおお!」

 テリーがカッ、と目を見開いた後、頭を抱えて天を仰いだ。

「なんてこった! なんてこった!! なんてこった!!!」
「三回も言うほどの事か」

 おれは苦笑いした。

「あったりめえだろ。僧侶だぞ! しかも白エルフだぞ! どう考えても清純な顔をしてるくせにちょっとつっついたらエロエロで濡れ濡れになる人種じゃねえかよ」
「お、おう……」
「そ、そういうものなの?」

 おれとリリはテリーの気迫に気圧された。
 幼なじみでテリーの事はよく知っているが、それでも時々見せるこいつのこの熱量に圧倒されてしまう。

 まあ、言うことはわからんでもないがな。
 おれも元人間、白エルフの僧侶――気位の高い種族で聖職者な女が()ちた時のエロさは理解できるつもりだ。

「どぢぐじょおおおおおお!」

 テリーみたいに血涙を流して悔しがる程じゃないけどな。

「でも、昨日は残念だったな」

 インプのリリ、空中に浮かんだまま微かに落ち込んだ。

「あたしもちょっとは強くなったつもりだけど、やっぱり本物の勇者パーティーの前に何にも出来なかったな。あーあ、はやく強くなってマザードラゴン様のお役に立ちたいな」
「おれももっと強くなりてえええ」

 思わず吹き出しそうになった。
 テリーとリリ、二人とも「強くなりたい」って思いは一緒なのに、なんかだいぶ違って見える。

「しょうがねえよ、リリはインプ、テリーはゴブリン……おれはスライムだ。本物の勇者にかなわないのは当然だ」
「でも……」
「こうなったらパーティーを組もうぜ」
「おいおい、何を言い出すんだおまえ」

 テリーが拳を天に(といっても上は木に覆われてるけど)突き上げてまるで銅像の様なポーズをした。

「パーティーだよパーティー、勇者の連中もマザードラゴンを倒すためにパーティー組むだろ? 弱い奴らが強い奴らと戦う為にパーティーを組むのはあたり前のことじゃねえか」
「なるほど!」
「……ふむ」

 前向きなリリ、そしておれも実は乗り気になった。
 テリーがいう、弱い奴らが、ってところが心動かされた。

 確かにそうだ、強いモンスターほど単独で動きたがって、弱い連中ほど群れたがる。

 おれは面倒臭い事に巻き込まれたくなくて実力を隠している。
 前世がそうだった、ヘタに力があることが知れ渡ると、あっちこっちからいろんな事を頼まれるんだ。
 断ろうとしてもそれはそれで体力を使ってしまう、だから力をもってるのを隠そうとしてる。

 モンスターのくせにパーティーを組むほど弱かったら面倒ごとに巻き込まれる確率はきっとぐーんと下がる。

 もう一度幼なじみたちと、おれ自身をみた。

 ゴブリンのテリー。
 インプのリリ。
 そしてスライムのリュウ(おれ)

 ザ・ザコモンスターズ的なメンツだ。
 うん、これなら。

「いいよ、組もうよ」
「よっしゃあ! じゃあパーティー名も決めねえとな」
「何がいい?」
「……やっぱり強そうな名前がいいんじゃないか?」

 ちょっと考えておれはそう提案した。
 ザコモンスターズにふさわしくない程の勇ましい名前をつければますますザコっぽく見えることだろう。

「だよね、どんなのがいいかな」
「テリー二時五じゅっ――」
「ドラゴンナイトとかどうだ」

 テリーを遮って、自信たっぷりにいった。
 リリが首をかしげて聞き返してくる。

「どうしてドラゴンナイトなの?」

 おれはぴょんぴょん跳ねて、リリを乗せるようなポジションに移動した。

「おれドラゴン、リリが乗ってたらドラゴンナイトだ」
「そか、リュウはドラゴンって名乗らないとマザードラゴン様おこるんだっけ」
「そう」

 リリの言うとおりだ。
 スライムに転生したおれは、なぜかマザードラゴン、母さんの巣に生まれた。
 まるで逆インプリンティングしたかのように、母さんは自分の巣に生まれたおれを実の子供だとした。

 おれがドラゴンじゃなくてスライムだって名乗ると説教(ころ)してくるくらいだ。

 なのでドラゴンって名乗らないといけない理由があるが、それとは別に。
 どう見てもスライムなのを自分からすすんでドラゴンって名乗れば、背伸びしてる子供に見える事間違いない。

 ザ・ザコモンスターズとしてぴったりなパーティー名だ。

「うん! いいねドラゴンナイト」
「しゃあねえ、それでいくか」

 テリーとリリの同意を得て、この日、おれ達は正式に「ドラゴンナイト」を結成した。

     ☆

 ドラゴンナイトの初陣はすぐにやってきた。
 結成から一時間もしないうちにまた勇者どもが襲ってきた。

「きゃああああ!」
「あべしっ!」

 ドラゴンナイトの二人、リリとテリーはあっさりやられてしまった。
 リリは魔法の炎にやかれてどっかに飛んで行って、テリーはあっさりと勇者の剣で真っ二つにされた。
 あとで母さんに復活させられるからそれはいいんだけど。

「面倒臭いなここ」
「といってもザコばっかりじゃん、さっさと倒して奥に進もうよ」

 勇者は十人、昨日と比べて遥かに少ない。
 逆にこっちも迎撃のモンスターがほとんどいなかった。

 大半は昨日の襲撃でケガしたり、やられたモンスターは母さんに復活してもらったけど、復活したてはあまり戦力にならない。
 だから迎撃のモンスターはほとんどいない、おれ達ドラゴンナイトが一番乗りしたくらいだ。

 それだけならいいんだけど。

「こ、こわいよ……」
「ニンゲン、コワイ。ニンゲン、コワイ」
「パパー、ママー、お母さーん、助けてー」

 まわりに多くのモンスターがいるが、全員おれ達よりも更に小さい幼生(こども)のモンスターだ。
 もちろん戦う力はほとんどない、このままじゃ勇者による虐殺が起きてしまう。

 子供達がみてる前で戦ったら力がばれて面倒なことになる、かといってこのまま見殺しにする訳にもいかない。
 いくら後で母さんに生き返らさせられるとしても、見殺しにしるのは……。

「おーいミレイス、範囲魔法で焼き尽くせ」
「ほいきた」

 勇者どもが動いた、ええいままよ!

 そう、おれが飛び出そうとしたその時。

「ちょっと待ったぁ!」

 真横から男の声がした。
 横を向いて、見あげる。
 巨大なネズミがそこにいた。

 ニンゲンよりも一回りでっかいネズミのモンスター、ビッグマウスという種族だ。

「愚かなる人間どもめ、このおれ様が来たからにはほげっ!」

 ビッグマウスが吹っ飛んだ。
 一瞬で距離を詰めた女武道家の正拳突き一発で吹っ飛んだ。

「他愛もない」
「図体だけね」
「モンスターは見た目で判断してはいけないという好例だ」

 勇者たちは言いたい放題だ。

「おじさーん」

 おれはぴょんぴょん跳ねて、吹っ飛ばされたビッグマウスのところに向かって行った。
 とびだすと女武道家がついでにおれもたおそうとまた正拳突きを放ってきたが、体を変形させてかわした。

「ほう、やるじゃないか」
「やっぱり見た目で判断してはいけなかったな」
「スライムの特殊能力だな、だがそれだけだ」

 おれが攻撃を躱した事も大して気にすることなく、やっぱり言いたい放題の勇者たち。

 おれはビッグマウスの横にやってきた。

「大丈夫? ねえ大丈夫なのおじさん」
「おれ……は……ぐげっ!」

 意識があったから、こっそり体の一部を変形させて当て身をして気絶させた。
 よし、これなら。

 リリとテリーだとやると後々面倒だが、このビッグマウスなら問題無いはずだ。

 おれは魔法を使って、ビッグマウスの体を操作した。

 気絶したビッグマウスは白目を剥いて立ち上がる。

「へえ、立ち上がってくるのか」
「見かけ倒しじゃなかったのか」
「ならばトドメを――」

 女武道家が再度肉薄してくる、早い――だが遅い。

 ビッグマウスの体を操作してすっ飛んできた女武道家にクロスカウンター。
 短いビッグマウスの足が綺麗にあごにはいった。

 女は吹っ飛び、木を数本なぎ倒した。

「な、なんだと!?」
「ザコじゃなかったのか!」
「気を引き締めろ、ここはディープフォレストだ」

 勇者たちの雰囲気が変わった、仲間が一人やられて本気を出したみたいだ。
 だが、遅い。
 そして弱い。
 本気を出しても母さんの迫力の100分の1にも満たない奴らを、おれは、ビッグマウスの体を操作して全員を倒したのだった。

     ☆

「……ほえ?」

 しばらくして、目を覚ましたビッグマウス。

「あ、起きたよ」
「ダイジョブ?」
「おじさん、どこかケガしてない?」

 起きたビッグマウスのそばに集まったモンスターの子供。

「ケガ? いやおれは何も……」
「おじさんってつよいんだね」

 おれは子供達の中に混じって、子供の様な声色でいった。

「あーんなに強い勇者たちを一人でやっつけたんだもんね」
「おじさんつよかった」
「スゴイ、ツヨイ」
「すっげえかっこよかったよ」
「……ほえ?」

 まだ状況を飲み込めていないビッグマウス、こりゃもう一押しが必要かな、とおもったが。

「……ふっ、まあそんな事もあるかな」

 ビッグマウスは急に決め顔になって威張りだした。

「あの程度の勇者、おれ様の手にかかりゃこんなもんよ」
「すごーい」
「サスガ」
「ねえねえおじさん、これからもおれたちをまもってね」
「まかせろい! おれ様がいればこの森の平和は約束されたもおなじよ。あーはっはっはっはー」

 ビッグマウスは天を仰いで高笑いした。
 なんというか、いい性格をしている。
 追加で洗脳も操作も必要なかったみたいで、おれはそっとその場から離れた。

 こうして子供達を助け、おれの力もばれる事はなく。
 今日は、結構いい一日だった。
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