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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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的確な判断

 この日もユーリエの腕の中で朝を迎えた。
 スライムのおれはベッドの真ん中で寝ていて、それをまるでクッションのように見立てて、抱きついて寝ているユーリエ。

「ん……だめぇ……」
「何がだめだ何が」

 身じろいで、ユーリエの腕から抜け出そうとすると、寝ているのに反応されて、よりぎゅっとされてしまった。
 腕だけでなく、足まで使ってしがみついてくる。完全に抱き枕状態だ。
 まあ、いっか。
 全裸で寝ているユーリエの体温は高めだからぬくくていいし、何よりおれもベッドの上でだらだらしてるのが好きだ。

 スライムに転生してから野外で寝ることがほとんどだけど、こうしてみるとやっぱりベッドっていいな。
 綺麗に洗ったシーツ、ふかふかのベッド。
 人間が発明した物のなかで最高の物だと思う。世界が滅んでもベッド文化は遺跡の中でしっかり保存して後世に伝えるべき物だと思う。

 おれはだらだらすることにした。
 もちろんユーリエにはだらけさせない。
 疲労をカットしたまま、おれを抱いてるだけで体力魔力の消費を継続させる。
 睡眠学習ってやつだな、ユーリエにだらけるのはまだはやい。

 コンコン。

 ドアがノックされた。
 外の気配を探る、モンスターが一体。
 だれだ? と思っていると。

「ふぁい……られれしゅか……」

 ユーリエが寝ぼけたまま体を起こした。
 おれを抱いたままベッドを降りて、ドアを開く。

「ろなたれしゅか……?」
「火の精霊だ」

 おれの指摘に、ユーリエは「はあ……」とまだ寝ぼけている。
 まあいい、このまま寝かせておこう。睡眠学習は続けているので問題はない。

 彼女を放っておいて、昨日、アラガンスの護衛をしていた四精霊のうち、火の精霊に喋りかけた。

「何か用か?」

 火の精霊はおれを見て、低い声で言った。

「本日の案内は不要、と伝えに来た」
「いらない?」
「若は我々がお側にいる、貴殿の手を煩わせるまでもない」

 そう話す火の精霊。
 昨日の事で怒っているのか? と思ったらそうじゃないみたいだ。
 その語気はどっちかというと苦笑い、困っているのが多く含まれている。
 まあ、どっちでもいいか。
 母さんに言われて案内したけど、向こうからいらないって申し出てくれるのならありがたい。

 昨日見た限り、アラガンスの火力は本物だ。精霊王の息子で血筋はバッチリ、高い魔力であのファントムディザスターを連射出来る。
 ただそれが普通じゃ当たらないだけ、そして精霊のフォローでそれが当たる。
 普段の勇者の強さとその戦い方をシミュレートする。まあ、問題は何も起こらないだろう。

「分かった」
「感謝する」

 火の精霊はそう言って、そのまま立ち去った。
 言葉使いと言い、いかにも武人って感じのヤツだな。
 馬鹿王子に使える忠実なる武人、ある意味相性ぴったりだ。

 まあ、それもどうでもいい。
 案内はいらないというのだから、今日はだらだらしていくか。

「ユーリエ、ベッドに戻るぞ」
「……」
「ユーリエ?」

 命令しても動かないユーリエの顔をみる、いつの間にか完全に覚醒してた彼女はプルプル震えていた。
 震える? なんでだ? 疲労はカットしてるはずだぞ。

「どうしたユーリエ」
「は……」
「は?」
「裸みられた……もうお嫁いけない……」
「……そういえば全裸のままだっけ」

 おれがそう言うと、ユーリエはうわーん、と泣き出したのだった。

     ☆

 家を出て、ひなたぼっこスポット。
 暇になったから、ここでだらけようとユーリエに命令してここに運んでもらった。
 木漏れ日の中、芝生の上に座って、おれを膝の上にのせるユーリエ。
 彼女はまだめそめそしていた。

「気にしすぎた、別に人間にみられた訳でもないんだから。大体のタイプの精霊は大自然そのもの。火の精霊だから、たき火の前に裸で立ってたようなもんだ」
「はい……」

 説得に応じて頷くが、それでもまだ気落ちしたままだ。
 精霊にみられたくらいどうって事ないって思うんだけどな、これがゴブリンだったら貞操がやばいけど、火の精霊相手ならなぐさめじゃなく本当にたき火の前に全裸で立ってただけの様なもんだが、どうやら割り切れないらしい。

 いつまでもめそめそされるとこっちまで気落ちしてくるから、話をそらすことにした。

「これから勇者の戦闘を見せる」
「勇者の戦闘ですか?」
「そうだ、見稽古ってのがある。上級者が実際にやってる事をみて、それを目で学ぶやり方だ」
「でも勇者の戦いが見れるところまで行くと危険じゃないですか?」
「心配するな、ほら」

 魔法陣を広げて、おれとユーリエ両方に魔法をかける。

「わわ、け、景色が変わった」
「望遠の魔法だ、見えてる景色をそのまま遠くのものにすげ替える魔法だ」
「すごいです、こんな魔法も使えるんですねスライム様」
「別にすごくない、12歳の時に覚えた最初の魔法だからな」

 人間時代、幼い頃にすんでいたところの近くに露天温泉があったんだよ。
 今にして思えば馬鹿な話だけど、あの時は「見たい」一心で必死に覚えた。そのおかげで習得に5分もかからなかったな。

「これで勇者の戦いを見せる。みてるだけでいい」
「わかりました。あっ、勇者様がいました」
「どれどれ……げっ」

 思わず声が出た。見えた勇者、それは知っている顔だった。

 北の森の入り口近く、そこに一人の女がいた。
 ブロンドのロングヘアーをハーフアップにして、顔つきは化粧っ気一切ないながらも透き通るようなうつくしく、そこにいるだけで華やかさがアップするほどだ。
 清楚にして高貴な美貌とは裏腹に、体は白銀のプレートアーマーを身につけていて、腰にロングソードを下げている。

「ルーシア……」
「お知り合いですか?」
「……」

 話がややっこしくなるからユーリエには答えなかった。
 ルーシア、おれの教え子の一人だ。
 人間の間では12使徒の一人に数えられている、さる王国の第一王女だ。
 血統から美貌、強さの才能まで申し分ない女なのだが。

「あっ、ご飯を食べてます。美味しそうですね握り飯」
「……」

 望遠で見えているルーシアは木の切り株にすわって握り飯を食べていた。
 モンスターがいきなり現われた。

 そのモンスターは、ルーシアよりも遥かに巨大なオーガだった。
 鬼の顔をした巨人は人間の胴体よりもぶっといこん棒を振り下ろした。
 ルーシアはそれをよけて、ロングソードを抜き放った。

『見かけ倒し』

 つぶやきながらの袈裟懸け一閃、オーガはとっさによけて、ロングソードの間合いの外に飛んだ。
 が、次の瞬間、ルーシアのロングソードが伸びた。

 蛇腹剣。
 ガリアンソードとも呼ばれる鎖型に伸びた剣は鞭のようにしなり、オーガに追いつくなり、全身を取り囲み、巨体をズタズタに切り刻んだ。

 その一撃では浅く、オーガはこん棒を振り上げて反撃しようとしたが、ルーシアは踊るようにガリアンソードでオーガを更に切り刻む。
 あっという間にオーガは倒された。

「つ、強いです。……なにも分からなかったです」

 しょぼくれるユーリエ、まあ仕方ない。
 見稽古をやれって言ったのはおれだが、相手が悪かった。ルーシアだとレベルが違いすぎて見てもちんぷんかんぷんになるのは仕方ない。

「あ、また来ました――精霊の人だ」

 オーガを倒したルーシアの前に、アラガンスと四精霊が現われた。
 昨日の最後とちがって、アラガンスの顔に自信が戻っていた。
 四精霊がバックアップして、勇者を倒させて自信回復させてやったんだろう。

 そのアラガンスが自信たっぷりに精霊ビームを撃った。

『勘違い』

 その一言をつぶやき、ルーシアは「ハッ!」と気合をいれて、体のまわりで何かがはじけた。
 四精霊がそれぞれ驚きの表情をする。
 のろのろと放たれたビームをルーシアはガリアンソードを振り抜き、軌道をずらしてしまった。

 また強くなったなルーシア。遅いのは遅いけど、アラガンスのあのビームの火力は本物だぞ。それを剣でずらせるとは。
 頑張ったんだな。思えばこいつは才能ある癖に人一倍頑張り屋だった。
 おれがいなくなってからも修行を続けたんだな、と何となく嬉しくなった。

 望遠の中、アラガンスはまだ戦えると自信たっぷりの顔をしていたが、四精霊は判断が速かった。
 二人が前にでてルーシアを食い止め、残った二人がアラガンスをさらって逃げた。
 そのアラガンスが逃げたあと、残った精霊の一人、地の精霊が地面を爆発させて目くらましを作り、ルーシアから逃げた。

 ルーシアは追わなかった。

『忠誠心MAXのしんがり……深追いは不利』

 とつぶやいた。
 オーガの時も、アラガンスの時も――いや昔からそうだ。
 彼女はとにかく判断が的確で、速かった。
 あのまま追いかければ精霊が必死になってアラガンスを逃そうとするのは確実。
 追わない方がいいと判断したのだ。

「すごい人ですね……」
「まあ、な」
「どうしたんですかスライム様、歯切れが悪いです?」
「いや、まあ……」

 望遠のなか、おれはある物を見つけていた。
 そしてルーシアの事を知っているおれは、この後の展開をある程度読めた。

 ルーシアはガリアンソードを鞘に収め、そういえばと言わんばかりにまわりをきょろきょろして何かを捜し出した。
 すぐにそれは見つかった。

 彼女から少し離れたところで、握り飯が地面におちていた。
 転がっている握り飯は地の精霊の煙幕にやられて、表面にたっぷりと泥がついている。

 それをみたルーシアはがくっとした――が。
 あたりをきょろきょろしてから。

『300秒ルールだから平気だよね』

 と、握り飯をひったくって、剣を抜いて踊るような鞭捌きで表面の泥を落とし、そのまま口の中に入れた。

「えええええ!?」
「貧乏性なところ変わってなかったか」
「び、貧乏性ですか」
「ああ、あいつは何故か食べものの事になると途端に貧乏性になるんだ。テーブルにおちた米粒はもちろん、今みたいに地面に落とした物でも自分ルールで綺麗にして食べる。最大で3000秒ルールまでみた事ある」
「えええええ!?」

 あれでも一国の王女なんだけどなあ、不思議だ。
 握り飯をすっかり平らげたルーシアは手を合わせて「ごちそう様」をした。

 そこで望遠の魔法をといた。

「……さて。下ろしてくれユーリエ」
「どうしてですかスライム様」
「ルーシアを追い払ってくる、あいつを放っておくと被害が大きくなりすぎる」
「わ、わかりました」

 ユーリエに地面に下ろしてもらって、おれはぴょんぴょんとルーシアのところに向かって行った。

 さてどう戦ったものか。
 ますます強くなったルーシア、多分かなりの激戦になる。
 最初から全力で短期決戦を目指すか、ディープフォレストの魔力も利用して長期戦にするか。

 ……短期決戦がいいな、戦いが伸びれば伸びるほどおれの強さが誰かにばれる可能性が高まる。
 うん、短期決戦でいこう。

 そう思い、いくつかの先制攻撃を用意しつつ、ルーシアのところまでやってきた。
 モンスターを探しながら、悠然と森の中を歩くルーシア。

 先制攻撃だ!

「――勝算ゼロ」

 ルーシアはいきなり身を翻して全速力で走り出した。

 ……え?

 たたか……わないの?

 全力で逃げるルーシア、その姿はあっという間に見えなくなった。
 逃げ出す前に彼女のつぶやきが今更頭にはいってきた。

 勝算ゼロ。

「おまえ……判断速すぎだろ……」

 逃げていくかつての教え子の姿に、おれは誇らしいやら、呆れるやらの複雑な気分になった。
 まあ、追い払えたんだから、とりあえずいっか。
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