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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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貴族病

 夜、ディープフォレストの一角。
 おれはユーリエに抱きかかえられたまま、森の中を歩き回っていた。

 あれでもないこれでもない、と歩き回っていた。
 やがて、ちょっとだけ開けた場所にやってきた。

 右手側に盛り上がった、成人男性ほどの高さの小さな丘があって、左手側に小川のせせらぎが聞こえてくる。
 すむにはいい環境だ。

「ここがいいな」
「何をするんですか?」
「みてろ――はっ」

 風の下級魔法で真空波をつくって、開けた場所に生えてる雑草をなぎ払った。
 即座に口から突風を吹いて刈り取った雑草を吹き飛ばす。
 石ころや枯れ木、勇者が落としていった朽ちかけたロングソードもまとめて吹き飛ばした。

 後に残ったのは、綺麗にならされた地面。

「これくらいあればいいか」
「なにか作るんですか?」
「察しがいいな。家だ」
「家、ですか?」
「そうだ。おれはスライムだからいいけど、ユーリエは人間だからいつまでも野宿って訳にはいかないだろ」
「……」

 ポカーンとするユーリエ、しまいにはポロポロ大粒の涙を流し出した。
 おれを抱きかかえている彼女、その涙は直接おれの頭の上に落ちてくる。

「お、おい、どうした」
「ごめんなさい……こんなに……こんなに優しくされたことなかったですから」
「……」

 なにも言えず、しばらく好きにさせてやった。
 やがて涙が引っ込んで、代わりにおずおずと聞いてきた。

「でも……本当にいいんですか?」
「なにが?」
「わたしみたいなのが『家』にすんでも。その、生け贄ですし、何も出来ないしお役にも立ててないのに」
「気にするな」
「でも」
「お前みたいなのはみててイラッとするから、イラッとしないように矯正するだけだ。今までも12人くらいやってきた事だからきにするな」
「え、12……?」

 きょとんとするユーリエ、当然ながら意味が分からないんだろう。
 っていうか12人の話はやめとこ、そこから十二使徒とおれとリンクしたら面倒臭い事になる。

「それに別によくしてる訳じゃないぞ。その証拠に一旦神経をつないでやる」
「神経……あっ」

 ユーリエはいきなりガクガク震えだした、手に力が入らなくなって、抱いてるおれを取り落とした。
 予想してたから、おれはなにごともなく普通に着地した。

「ど、どうして……」
「ずっとおれを抱いてて疲労感ない事に気づかなかった?」
「それは……スライム様が気つかってくれて――」
「気づいてはいたのか」

 そこそこ優秀だな。

「だが違う。おれがユーリエの疲労を感じる神経を切ってただけだ」
「どうして?」
「おれを抱いてる時は体力と魔力を両方消費するようにした。つまり抱いてるだけで両方を徐々に使っていく。そして体力と魔力ってのは使えば使うほど基礎として向上していく」
「な、なるほど……」

 手がガクガクしながらも理解を示し頷くユーリエ。

「弟子に重ったいカメの甲羅を日常的に背負わせるやり方もあるけど、せっかくだからおれ自身が重しになる事にした。安心しろ、基礎をどんどん鍛えるために、毎日の限界を見極めてギリギリまで消耗させてやる」

 にやりとわらいながら、またユーリエの疲労回路を切ってやる。
 一瞬にして元通りになるユーリエ。

「すごい……一瞬で回復した」
「回復してない、感じないだけだからその状態で無茶したら死ぬ。そのために、回復用の家を作ろうとしてるんだ」
「そうだったんですね……」

 ユーリエはまたシュンとなった。

「……スライム様、本当にこんなわたしで――」
「さて、つぎは上物(うわもの)だな」

 またグチグチと言い出しそうだったから途中ですっぱり遮っておいた。

「スライム様は建築も出来るのですか?」
「いや出来ない」
「じゃあどうするんですか?」
「まあみてろ、基礎を死ぬほど叩き込まれれば色々応用が利くもんだ」

 ユーリエから離れて進み出て、整地した場所の中心にたった。
 息を吸って、体を膨らませる。スライムの体を家くらいに膨らませた。

 膨らんでもそこは自分の体、体を上手く操って、中を空洞にしたりドアとか窓枠とかつけて家っぽくした。
 スライムにとって体を変形させるのはあたり前のこと。戦闘だけではなく、何かを捕食したりする時にも欠かせないことだ。
 それをちょっと応用して、体を家の形にした。

「こんなもんかな」
「す、スライム様が家に……」
「家になるのはこれからだ」

 そういって、スポン、と体を切り離した。
 家の形に作った部分を切り離して、本体は空を飛んだ。
 空中にいたまま、ゼリー状の家に向かって火を吐いた。

 青白く輝く超高温の炎は一瞬で水分を飛ばし、そこに家の形をした固まりが残った。

 着地して、家に近づいて、コンコンと叩く。
 焼き上がったそれは陶器のようないい音をしていた。

「こんなもんか」
「す、すごい……一瞬でおうちが」
「ユーリエもそのうち出来る様になる」
「わたし……も?」

 目を見張って、いかにも信じられないって顔をするが、それも今のうちだ。
 今までの奴らと同じように基礎は全部叩き込んで、ぐちぐちとネガティブなのをやめさせるつもりだからな。

     ☆

 次の朝、母さんに呼び出されて、ユーリエと一緒にやってきた。
 体力と魔力の基礎をあげさせるためにおれを抱きしめたまま一緒にきた。

 マザードラゴンの御前、ユーリエはガクガク震えていた。
 こっちはしょうがないな。

「よく来た、我が息子よ」
「なんだよ母さん、また面倒ごとか?」
「余の朋友である、ディザスターのことは知っているな?」
「ブルーマウンテンの主の精霊のことか?」

 地面に寝そべったままのマザードラゴンが微かに頷いた。
 龍脈によって魔力が集まり、モンスターが集結しているスポットは世界中にいくつかある、その中でも際だって有名なのが三つある。

 ディープフォレスト。
 ブルーマウンテン。
 サイレントシー。

 この三つだ。
 どれも膨大な魔力が集まっていて、そこに強力なモンスターがいる。

 ディープフォレストにいるマザードラゴンと同等の存在がブルーマウンテンにもいる。
 大精霊(エレメンタルマスター)・ディザスターだ。

「そうだ、そのディザスターの息子をしばらく預かることになった」
「……はあ? なんのために」
「可愛い子には旅をさせよ。ということなのであろう」
「旅の先がディープフォレスト? 修学旅行かよ」
「そういうわけだ、そやつの事はお前にまかせる」
「接待でもすれば良いのか?」
「まかせる」

 母さんはそうとだけ言った。全部おれが決めろって事か。

「はあ……拒否権はないんだよな」

 無言の母さん、無言ってのがこわいんだよ。
 拒否したら折檻(殺す)というメッセージだからな。
 はあ……また面倒くさい事になりそうだ。

     ☆

「ふははははは、われの名はアラガンスである」

 到着した大精霊の息子は初っぱなからウザさ全開の男だった。
 大精霊の息子らしく、人型ではあるが体から常に魔力とは違う、輝く精霊光を放っている。そして人型であるため衣服を、貴族っぽい服をきている。
 その出で立ちからのその喋り方はウザさしかなかった。

「遠路はるばるご苦労だな、小さき物よ」

 遠路でもねえよ、もうディープフォレストの中だよ。
 森中心部、到着したアラガンスとで迎えるおれ。そのまわりは野次馬だらけだった。
 ブルーマウンテンの王子(ある意味)が留学でやってきた噂は一気に森中に広まり、物好きな連中が一斉に集まってきた。
 遠巻きにひそひそ何か言い合ったり、アラガンスを品定めしたりしていた。

「どころで、マザードラゴンはいずこか」
「母さんは休んでる、あんたの事はおれに任せるっていった」
「それは残念。噂に聞くマザードラゴンがどれほどのものか、一目見ておこうと思ったんだがな」

 アラガンスがそう言った瞬間、空気がビシッ、と固まった。
 母さんを軽んじたその物言いに、速くも何体かのモンスターから殺気めいたものは出始めていた。
 それはユーリエも同じだった、おれをだく腕に力がこもり始めた。
 第二の人生を与えてくれたマザードラゴンは彼女にとって恩人の様なそんざいだから、仕方ないな。

「しかし会えぬものは仕方ない。小さき物よ、われを案内するがいい」
「案内?」
「このようなところでのんびりしている暇はない。われは勇者どもと戦いにここまで来たのだ。噂に聞く最大の激戦地、ディープフォレスト。そこにくる遊者がどれほどの物か実にたのしみだ」

 なんとまあ……自信たっぷりだこと。
 案内するのはいいけど……大丈夫なのか?

 そんな事を思っていると、アラガンスの背後にいて、それまで沈黙していた精霊の一体が前に進みでた。マッチョマン姿の火の精霊が口を開く。

「我らがついております故」

 火の精霊がいうと、他の三体――水、風、地の精霊もそれぞれ頷き意思を示した。
 今までアラガンスのキャラが強烈だったから見逃してたけど、四体の精霊がかれの後ろにいて護衛していた。
 ぱっと見、全員が強そうな上級精霊だ。

 なるほど、ちゃんと子守役はつけてきたって事か。
 大精霊ディザスターはよほど過保護みたいだ……が、それなら大丈夫だろう。

 面倒くさい事にこれ以上ならないために、おれは、アラガンスの様なタイプが一番好きそうな提案をした。

「じゃあ早速、四つのうち最強の森にいってみようか」
「当然だ、それくらいでなくばわれの本気がだせないというものだ」

 アラガンスは予想通り、上機嫌で頷いた。

 おれはユーリエに抱かれたまま、アラガンスを先導し出した。

 四つの森のうち、最強とされる北の森。
 常住しているモンスターが強く、ヒメやユイの様な幹部連中がちょこちょこ顔を出してる事もあって、
強い勇者はここにやってくるように誘導した森だ。

 そこに、アラガンスを連れていく。

「ところで小さき物よ、おまえは我の事をどう見る」
「え? どうみるって……」

 そんなあやふやな聞き方でどう答えろというんだ……なんて困っていると。

「お前はいま、われが七光りだけの小物だと思っているのであろう?」
「……いや別に」

 顔に出てのか? おれってば。
 そうならない様に気をつけたはずなんだが。

「ふふふ」

 アラガンスは笑うだけで、それ以上なにも言ってこない。
 ヤケに自信たっぷりだな。

 その自信はなんだろ、としばらく歩いていると、すこし離れたところに勇者の気配を感じた。
 さすが北の森に入ってくる勇者、向こうもこっちの事を気づいて臨戦態勢に入っている。

 こっちはといえば四精霊の顔つきが変わった、察知できたんだな。
 ちなみにアラガンスは気づいているのかいないのか、のんきな顔をして歩いている。

「若」
「なんだ」
「そろそろ敵が」
「おおそうか」

 火の精霊に言われて、俄然やる気になったアラガンス。
 気づいてなかったのか。

 おれ達はその場にとどまって、勇者と戦う準備をした。
 数秒後、勇者が襲ってきた。
 森の向こうからいきなり剣士がオーラを立ちこめらせ、何重もの障壁を纏いながら突進してきた。

「なんと、魔法戦士か」

 アラガンスが感心した。
 ちがうよ、あれは攻撃防御のバフ、それに障壁を他人にかけてもらったただの戦士だ。魔力の色合いからバフが二人、障壁が三人ってところだ。

「よかろう、このわれが吹き飛ばしてやる」

 アラガンスはゆっくりと手をかざした。
 瞬間、常に放っていた精霊光がかざした右手に集まった。

「うけよ、父すらも越えると言われるこの一撃を。ファントムディザスター!」

 アラガンスはそう言った後、手から精霊光のビームを放った。
 とてつもなく強力な一撃、人間に例えるのなら数十年の修行の先でようやく身につけるほどの強大な魔力。
 それを凝縮し、打ち出した一撃。

 威力は申し分なし、だが遅い。
 撃つまでも遅く、撃ってからも遅い。
 テリーでもあわあわしながらよけられる程の遅さだ。
 いわんや北の森の勇者、あたるはずがない。

 そう、思っていたのだが。
 勇者はよけようという動きを見せたが、動かなかった。
 途中からまるで金縛りにでもあったかのように棒立ちになった。

 やったのは四精霊だった。
 アラガンスの背後に立つ四精霊が協力して、何かの技で勇者の動きを止めた。
 完全に動けなくなった勇者はノロノロのビームに当たって、何重も張り巡らされた障壁ごと消し飛ばされた。

「ふはははは! どうだ、これがわれの力だ」
「さすがでございます」
「若の実力にはいつも感服したします」
「きゃー、素敵、今日こそだいて」
「……お見事」

 悦に入るアラガンス、かれの事を四精霊が持ち上げた。
 するとかれは更に増長した。

「しかし、ディープフォレストは最激戦区と聞いたが、大した事はないのだな」
「若だからでございます」
「それもそうだな」

 大いばりするアラガンス。

『すごい人だったんだ……』
『いやすごくないぞ』
『え? でも今の……』
『あれなあ、典型的な貴族病だ』
『貴族病?』
『見てな』

 訝しむユーリエにそう言って、しばらく待った。
 今度は三人の勇者が森の中から現われた。
 最初の仲間がやられたことで、三人は慎重になって、じりじりとアラガンスに近づく。

「またいたか、よかろう、まとめてわれの精霊光で吹き飛ばしてやる」

 アラガンスは更にいって、精霊の光を練って右手に集めた。
 同時に四精霊が動いた、また当てやすくするために勇者を拘束するんだろう。

 おれはそこに割り込んだ。
 魔法を放ち、四精霊を先に拘束した。
 四精霊が動けなくなって、勇者は自由に動けた。

「うけるがいい、ファントムディザスター!」

 アラガンスは三本のビームをまとめて放った。
 本数を増やしたのに威力がまったく落ちてないのはスゴイが、速度はやっぱりのろのろのままだった。
 とうぜん、勇者たちはそれを全部かわす。

「なんだと! ばかな……ならばもう一度!」

 アラガンスは更にファントムディザスターを放った。それはまたよけられた。
 よけられて驚いて、今度はむやみやたらに放った。
 奥義を連射しても威力は衰えないのは本当にさすがだと思ったが、それは森を破壊するだけで勇者たちに当たるそぶりはまったくない。

『当たらなくなってしまいました』
『武術をまなぶ貴族ってのはな、こういうパワーだけの奥義しか学ばない事が多いんだ。でもってそれを使う時は誰かが獲物を獲りやすく献上してくれるんだ。縛った野獣を目の前において弓矢を射させるって例えればわかりやすいか?』
『至れり尽くせりなんですね』
『そうだ。そして覚えてる技は紛れも無く大技だから、本人の自信にも繋がるわけだが――』

 傍観している間に、アラガンスはたちまち劣勢に陥った。
 勇者のヒットアンドアウェイ戦法にやられて、それでも奥義を撃ち続けるが、かすりもしなくて徐々にやれていく。

「なぜだ! なぜあたらない! われのファントムディザスターは最強のはずだ! 父をも越える一撃のはずだ!!!」

 さけび、わめくアラガンス。
 悲しいな、当たらないのは遅いからだという簡単な事にも気づけないのが悲しい。

『基礎が出来てればいくらでもやりようがあるんだけどね』
『スライム様みたいに、ですね!』

 お前もそうなれ、と言いかけたがやめた。
 いうよりも自分で気づいた方がいいことだ、ユーリエの場合基礎能力をつけるまでまだまだ時間がかかりそうだから、いますぐに言わなくてもいい。
 そういうのがある、って目撃するだけでいい。

 勇者に攻撃されてボロボロになって、しまいには気絶したアラガンス。
 かれが気を失ったのを確認してから、介入して勇者をまとめて撃退し、かれを助けたのだった。
+注意+
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