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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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聖者スライム

 朝、いつものように集まるドラゴンナイト。
 ゴブリンのテリー、インプのリリ、そしてスライムのおれ。
 いつものメンバーだが、今日は一人多い。

 人間のユーリエ。
 生け贄で村から送られてきて、母さんがおれに押しつけた人間だ。
 奴隷とほとんど変わらないボロい服に首輪をつけた彼女はおれを体の前に抱きかかえている。

「すっかり慣れちまったよな、リュウ」
「なにがだよ」
「その子」

 リリがユーリエをさす。

「その子に抱っこされて移動するの、すっかり慣れちゃったね」
「ああ、これ意外と楽なんだ」

 おれは深く体をユーリエにめり込ませるようにした。
 まるでリクライニングチェアに座るかのように。

「だめだぞ、そんな風に怠けてたらいざって時からだが動けなくなるって父ちゃん言ってた。常在戦場、いつ姫騎士とエルフ僧侶とポニーテール武道家が現われてもいい様に下半身鍛えておけって父ちゃんいってた」
「いいんだよおれは、これが楽なんだから」

 そういいつつ更にユーリエに深く背をもたせかける。
 見た目ほどサボってないのだが、それは内緒だ。

「でも、その格好って面白いよね」
「どういう事だよリリ」

 首をかしげるテリー。ゴブリンの小柄さも相まってちょっとだけ愛嬌のある仕草だ。

「人間がドラゴンに乗るって事あるけど、ドラゴンが人間に乗るってないじゃない」
「……どういう事だ?」
「うーん、こういうことかな」

 リリは武器の三叉フォークを使って地面に絵を描き出した。
 まずは勇壮なドラゴンを書いて、その上に鎧姿の騎士を書いた。
 いかにもなドラゴンナイトって見た目だ――って。

「絵上手いなリリ!」
「え? そ、そうかな」
「そうなのか?」

 テリーはまた首を傾げた。ピンとこない様子。
 いやこれはかなり上手いぞ、これくらいかけたら街のブロマイド屋から注文殺到するぞ。いや宮廷画家に召し抱えられてもおかしくないくらい上手い。
 こんな特技があったのか。

「ふ、普通だよ……」

 そう言いながら、リリは更に絵を描いた。
 今度は逆に人間がしたで、ドラゴンが上。
 重量挙げ――ただし重すぎてつぶされかけて苦しそうな人間がドラゴンを持ち上げてる絵だ。
 人間は今にもプルプルし出しそうなくらい躍動感があって上手い。

「今のリュウってこうだよね。ドラゴンが人間に乗っかってるの」
「そういやそうだな」

 テリーが同意した。

「おれが本物のドラゴンだったらユーリエつぶれてるな」
「ユイでもペチャンコだな、重すぎて」
「ダメだよテリー、ユイちゃんも女の子なんだからそんな事いっちゃ」
「でも重いのは本当じゃねえか」

 おれは相づちも打たなかった。
 言いたいことはわかるが、体重の話でうっかり同意を示すと、それがユイの耳に入ったとき、ただでさえ嫌われてるのがもっと嫌われることになる。
 義理の妹なんだから、家庭内不和は出来るだけ避けない。
 面倒臭いからな。

 そんな事を言い合いながら、おれ達三人は移動をはじめた。
 テリーはゴブリンらしく腰を軽く曲げた前傾体勢で、リリは羽を羽ばたかせて飛んで。
 そしておれは、ユーリエに抱きかかえられたまま彼女に歩かせた。

 ふと、歩いてるユーリエが驚いてる顔をしてるのが見えた。

『どうしたユーリエ』
『え? ごめんなさいスライム様。ちょっと驚いたのです』
『驚いた?』
『はい、わたしが聞いたモンスターの事と大分違いますから。その……なんというか、普通の日常だな、と』

 ふむ。

『どういうのを想像、いや聞いてたんだ?』
『その……』

 ユーリエはおれの顔色をうかがうようにして、言いよどむ。

『気にするな、おれが言えっていったんだ。何をいっても怒らない』
『じゃあ……その、すごく残忍で、人間の生き血をすするために人間牧場を作ってるとか』

 ……。
 ヒメだな。まあジュースって言ってたから牧場ってより人間果樹園なのかもな。

『好色で、女性の勇者――特に聖職者をよってたかって強姦するとか』

 ……・
 テリーたちだな。確かにゴブリンたちはそれをやってる。

『神の摂理に逆らっていつも男同士で……その……盛りあうとか』
「リザードマンはオスしかいないんだからそれは神のミスだ!」

 思わず声が出た、リザードマンたちの擁護をしてしまった。
 前を歩くテリーとリリが振り向き首を傾げたが、適当に言ってごまかした。

『ごめんなさい、わたし……』
『いやいい、怒ったわけじゃないから。というかそれ全部事実だから』
『そ、そうなんですか……』

 全部事実と聞いて、ちょっとだけ怯えるユーリエ。
 まあ、人間視点からしたら怯える事ばっかりだから――リザードマンのは悪くないだろとは思うが。

 歩きつつ、ユーリエはそわそわした。
 何か別の話題を考えなきゃ、ってのがありありとわかった。

『す、スライム様は――』

 話題を見つけたか、よしそれに乗っかって空気を変えよう。

『――どうしてあんなにお強いんですか? スライムなのに』

 ……。
 …………。
 ………………。

 ガクガクガクガクブルブルブルブル――。

『わわ! ど、どうしたんですかスライム様。ごめんなさいごめんなさいわたしなんかが変な事を聞いちゃってごめんなさい』

 ユーリエは必死に謝った。あまりの必死さにこっちが少しだけ冷静に戻った。

『気にするな、ちょっとトラウマを思い出しただけだ』
『と、トラウマ、ですか……?』

 母さんの折檻とスパルタトレーニングを思い出したら体が勝手に震えだした。
 あれはおれが知ってるどの拷問よりも過酷なものだ。
 あんなのは二度とごめんだ……。

     ☆

 今日も森東部で勇者の迎撃をした。

 テリーはこん棒、リリは三叉のフォークで勇者と戦う。
 おれはといえば、ユーリエに抱きかかえられたまま勇者に体当たりを繰り返した。
 ユーリエから飛び立って、体当たりをしてはその反動でユーリエに戻る。

 昔、人間が船に飼い慣らしたワイパーンを乗せて「飛龍母艦」という軍隊を作ったが、あれにちょっと似てるスタイルになった。

 戦闘をしていったが、徐々に面倒臭くなってきた。
 最弱の森、ディープフォレスト東部。
 モンスターは弱く、そして侵入してくる勇者たちも弱い。
 だからここの戦闘は決め手に欠けたまま「ただ長引く」事がおおい。
 泥沼ですらない、ただ長引いてるだけ。

 子供同士が腰の引けた駄々っ子パンチを互いに繰り出すような、そんな戦い。

 数が20人という多くも少なくもない数なのが長引く一因にもなっている。
 それを面倒くさいな、って思っていると。

「あーはっははは。またせたな、このおれ様が来たからには戦いはこれでジ・エンドだ」

 少し離れたところからなじみのある声が聞こえた。
 モンスターも勇者も手を止めて声の方を向く。
 そこにでっかいネズミがいた。

「シェスタさんだ!」
「シェスタさんがきたぞ」
「げっ! あれがビッグマウスのシェスタか」
「あんなの口だけだ、やっちまえ!」

 味方だけではなく、勇者の方にもシェスタの名前が広まっているようだ。
 これは好都合、あとはシェスタがやられるのを待――。

「ほぺぎょ!」

 勇者に突進していったシェスタはいきなりカウンターをもらって気絶した。

 はやい、早すぎるぞ。早すぎてカウンターを放った勇者がポカーンとしてるじゃないか。
 そりゃやられるのを待っていたがそれにしても早すぎる。
 やれやれ……まあ、早い分には別に問題はないか。

 おれは体の一部をちぎって、シェスタに投げつけた。

『……?』

 ヒメから教わったヴァンパイアの固有スキルでシェスタを操縦する。
 一度倒れたシェスタはゆらりと立ち上がり、にやり、と口角をゆがめて笑った。

「まったく、わざと殴られてやったのにこの程度か」

 喋りも操作する、それらしき事をいう。

「なーんだ、やっぱりわざとだったのか」
「あたり前だろ、シェスタさんがあんなのでやられるもんか」

 モンスターたちがそう言いながら、徐々に戦闘から離れて行く。

 シェスタを操縦して、勇者たちに攻撃をしかけた。
 シェスタなら、遠慮はいらない。
 おれは全力をだして、二十人の勇者を瞬殺した。
 ただ長引いただけの戦いを一瞬に終わらせた。

「すさましく速いパンチだった、おれじゃなかったら見逃してたね」
「ちがうよ、今のはキックだよ。全員にキック一発で倒したんだよ」

 残念、しっぽ攻撃なんだ。
 万が一のことがあってもおれと連想しないように、ネズミらしいしっぽ攻撃をしたんだが、速すぎてまわりのモンスターたちはまともに見えなかったようだ。
 まあいい、問題はない。

『あの……スライム様』
『どうした』
『いまのって、スライム様が何かしたんですか』
『……なんでそう思う』
『えっと、なんか魔力? がスライム様からでてたから』

 ……これは驚いた。
 割と隠蔽に気を使ったんだが、ユーリエはそれを感じ取っていたのか。
 素質はある子だと思っていたが、予想以上にあるみたいだ。

 とと、それはともかく。

『その話は内緒な』
『え?』
『おれが強い事はとにかく内緒だ、いいな』
『わ、わかりました。スライム様の事は全部内緒です』

 おれを抱きかかえたまま、ビシッと直立不動の「気ヲヅケ!」のポーズをする。
 まあ、首輪の呪いがかかったままだし、別に念を押さなくても大丈夫なんだがな。

『手柄を全て他人に、自分の功績だと一切喧伝しない……まるで伝説の聖者様みたい……』

 ユーリエがなんか誤解をして、妙にめをキラキラさせだしたが……まあ、好きにさせとくか。
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