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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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生け贄育成計画

 今日は一年に一度、森の近くの村から生け贄が運ばれてくる日。
 朝から人間――勇者ではなく村民の一行がぞろぞろと入って来て、様々な供物と共に生け贄を連れてきた。
 人間が森に足を踏み入れたのだが、年に一回こうして生け贄を運んでくるということが既にモンスターたちも分かってるので、迎撃することなく村民を素通りした。

 そして、供物と生け贄の行列は森中心部にやってきた。

 マザードラゴン――母さんが鎮座している魔力的中心部まで少しあるが、とりあえずの中心部の広場に一行が止まった。

 まわりに様々なモンスターが集まっている、半分が野次馬で、半分が供物目当てだ。
 おれも一応その野次馬の中にいて、成り行きを見守っていた。

 モンスターたちに囲まれた事で村民はビクビクしている。それもそのはず、生け贄を捧げなきゃならないほどの魔物の巣で、今まさにその魔物に囲まれていればビクビクもする。
 まあ、そんなの無駄な心配だけどな。

「竜神様、今年の供物と生け贄でございます」

 村長らしき老人が一番前にでて、姿も見えないマザードラゴンのいる方角に向かって土下座した。

『……ご苦労』

 遠くから伝わってくる母さんの声。
 おれにははっきりと分かる、不機嫌な声だ。

『生け贄と供物、確かに受け取った。一年間村の安全を保証してやろう。ドラゴンの名にかけて』
「ははぁ……ありがたき幸せ」

 村長がそう言ってまた頭を下げると、他の村人――供物を運んできた村人も同じように平伏して、敵意がないことを改めてアピールするのだった。

     ☆

 村人が去った後、モンスターの半分が供物に飛びついた。
 供物は金銀財宝や、牛に豚に羊と、様々な穀物からなるものだった。

 人間の視点では売れば一財産になるような代物だが、ドラゴンには意味がない。
 ドラゴンは財宝を必要としない、そんなものは人間にしか通用しない。
 ドラゴンはものを食べない、母さんが森の中央に鎮座しているように、エネルギー源は魔力だけだ。

 それでも村人は生け贄と供物を送り込んでくる。
 森が近いこともあってものを捧げて安全を買うやり方は理解できるが、正直あまり意味はない。

 ディープフォレストのモンスターは別に村を襲ったりはしないからだ。
 それでも向こうは送ってくる、いや押しつけてくる。
 受け取らなかったらなかったで、今度は「贈り物を満足なさらなかった、もっと送るんだ」という勘違いでものが増える。
 そうならないためにも適当に送って、人間で一番納得できる一年間の安全を保証してやってる――のが母さんだ。

 もちろん供物はいらないから、それをいるモンスターが適当に分けてる。野次馬の半分はそれだ。

『リュウよ、我が息子よ』
「どうした母さん」
『生け贄の処遇、お前に一任する』
「えっ?」
『余は人を食べぬ、交わる事もせぬ』
「それはしってるけど、なんでおれ?」

 今までも生け贄は毎年送り込まれてきた、その度に母さんが適当にあしらってきたのだ。
 それがなぜ、今年になって急におれに?

『命令だ』
「いやでも――」

 次の瞬間目の前が真っ暗になった。
 次に気がついたらまわりがクレーターになってて、スライムのゼリー状の体が飛び散ってる。
 供物の半分はモンスターたちが持ち帰ってぱっとみ残飯状態だ。

 また、母さんに折檻(ころ)されたみたいだ、たてついた(聞き返した)せいで。

『余の決定に異を唱えるか』
「唱えない、唱えないから」

 慌てて否定した、下手な事を言うとまた瞬殺だ。
 その答えに母さんは満足したのか、それっきり何もいわなくなった。

 はあ……面倒くせえ。
 生け贄って、どうやって扱えばいいんだ。

     ☆

 森中心部から少し離れた、人気の無い場所。
 生け贄が乗ってる台車をエイショエイショ(わざと声をだした)と押してここに連れてきた。

 台車の上には人間が一人座っていた。
 頭から布を被せて、姿が見えないようになっている。

 が、震えている。
 当然だろう、ドラゴンの生け贄になる人間がここに来て泰然としてられるはずがない。

 とりあえず、おれはその布をとった。
 布の下から出てきたのは幼い女の子だった。
 年は十歳前後、取り立てて可愛くもなく、将来綺麗になるタイプでもない。
 器量は中の下、まあだからこそ生け贄に選ばれたんだろう。

 女の子はまわりをきょろきょろして、首をかしげた

「あれ……ど、ドラゴン様は?」
「話を聞かなかったのか。お前の処遇はおれに任された」
「聞いたけど……竜神様が『我が息子よ』って言ったから」

 ああ、だから竜神様じゃなくてドラゴン様か。

「それならおれだ」
「えええええ!? で、でも、スライム……だよね」
「声は覚えてるだろ?」
「たしかに……竜神様とお話をしていた方の声」
「つまり――」

 頭を巡らせて、向こうが納得出来そうな理由をつけた。

「――お前はおれに任された」
「でも息子って」
「マザードラゴンはモンスターたちを全員我が子のように思っている。だからマザードラゴンなんだ」
「そ、そっか……」

 それらしい理由をつけてやると女の子は納得した。

「あの……」
「うん?」
「よろしくお願いします。出来ればひと思いに。痛いのはいやです」
「立派な覚悟だな。怖くないのか?」
「怖いです、怖いですけど……しょうがないことですか」
「だって、わたしなんてなんの役にもたたない無能ですから」

 女の子はそう言って、寂しげに顔を伏せた。

「字も読めないし、農作業も出来ない。家事をやらせても失敗ばかりで。他のひとが一日で覚えちゃうような仕事も、わたしは一週間かかってもほとんど覚えられないです」
「……」
「それに親もいませんし、き、綺麗でもありませんから。馬鹿でドジで不細工なわたしなんて、生け贄になるくらいしか村のお役に立てる事ないから」
「……ネガティブだな」
「全部本当のことですから。村のみんなそう言ってますし」
「みんな? 大人がか?」
「同い年のみんなもです。お前はドジで間抜けだから、せめて邪魔にならない様にどいてろって、いつも」

 いつも。

 相当だな、それは。
 実際どこまでドジで間抜けで、頭が悪くて不器用なのかは分からないけど、十歳前後の女の子がそこまで内罰的になるのは相当言われてきたからに違いない。

 そういうのは……正直ちょっとどうかと思う。

「だから、村の役に立てて嬉しいです。でもでも怖いから……その、せめて一思いで」
「なるほど、話はわかった」
「ありがとうございます!」
「だが断る」
「――えっ!?」

 断られた女の子は今にも泣き出しそうな顔をした。

「わたし……生け贄としてもダメですか?」

 出てきた言葉はやっぱり根深かった。
 そういうのはおれ、あまり好きじゃない。

「お前は馬鹿でドジで間抜けでオッペケペーかもしれない」
「お、オッペケペーまでは言われたことないです……」
「だが、誰にも負けないものを一つ持ってる」
「そんなものありません……」
「ある。おれに出会えた事だ」
「え?」

 驚く女の子。おれは魔法陣を広げた。
 まずは結界を張って、他のモンスターが近寄れないようにした。
 次に女の子にも魔法をかけた、おれが放った魔力が女の子の全身を包む。

「な、なんですかこれ」
「ほれ」

 おれは地面におちていた岩を放り投げた。
 いきなりそれ投げつけられた女の子は慌ててキャッチした。

「な、なんですか」
「割ってみろ」
「む、無理ですこんな大きいわ」
「無理じゃない」
「無理ですよ」
「それを言ったら今岩を抱えてるのも本来は無理だろ?」
「え? あっ……」

 女の子はハッとした。
 そう、本来の彼女ならおそらく持てなかったであろう岩だ。
 大きさはかなりのもの、女の子は抱きかかえようとしても両手が岩の向こうでくっつかない程でっかい岩。
 重さも相応のものだ。

「ど、どうして持てるの?」
「いいから割ってみろ。殴っても蹴ってもいい、適当に」
「は、はい……」


 女の子は頷き、おそるおそる岩を殴った。
 ドゴーン! と音を立てて、岩が粉々になった。

「えええ!?」
「割れたな」
「な、何がどうなってるんですか?」
「お前に魔法をかけた。一分間だけ、全能力が才能上限まで引き上げられる魔法だ」
「さいのう……じょうげん?」
「お前が死ぬほど頑張ったらこうなれるって意味だ」
「えええええ!? む、無理ですよ」
「できる、魔法がそれを証明してる。今のお前が馬鹿でドジで間抜けでオッペケペーなのは学び方が悪いからだ」
「で、ですからオッペケペーまでは……」
「ちなみに」
「え?」

 おれは体を反転して、炎を吹いた。
 渦巻く業炎、ドラゴンの炎が森の一部を焼き尽くした。お貴族の屋敷一個分の敷地をまるまる塵にかえた。

 それをみた女の子はポカーンとなった。

「おれでも、最弱のスライムでもこうなることが出来た。だからお前にも出来る」
「……本当に、ですか?」

 おれははっきりと頷いた。

     ☆

「おー、なんだなんだ、どうしたんだそれは」
「リュウが人間の女の子を連れてる」

 テリーとリリと合流したおれは女の子を連れていた。
 いや、抱かれていた。

 女の子は来た時に来た服そのままで、おれが作った首輪だけを追加でつけた。
 首に綺麗に収まる、スライムのレリーフがついた首輪だ。
 その格好で、おれを抱いている。体の真ん中でボールを抱きかかえるようなポーズで抱いている。
 こうしたのは、彼女が森で暮らせるようにするためだ。

「母さんから処遇を任されたんだ、それでせっかくだしおれの足にする事にした」
「おめえ、ほっんとうにグータラだな」
「あはは、リュウらしいね」

 テリーとリリはそれで納得した。
 おれが動きたくないから足がわりにこき使うという話をすんなりなっとくしてくれた。
 彼女の首につけた首輪がおれの所有物という証拠になって、モンスターから襲われることもないだろう。

「……」

 その女の子は何か言いたげで口をパクパクした。
 彼女に心で話しかけた

『おれが強いって事をしゃべりたかったんだろ?』
『え? こ、これって』
『首輪の効果だ。おれとこうして念話ができるのと、おれの秘密はばらせない軽い呪いがかかってる』
『秘密……ですか』
『おれが強いのは秘密だ。理由はおいおい教える』
『わかりました』

 女の子は納得した。

「あの……あっ、こっちは話せる」
「うん? どうした」
「わたしがんばります、そして」

 女の子は、出会ってからはじめてみる笑顔でおれに言った。

「ありがとうございます、リュウ様」
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