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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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オトメドラゴン

 静かなディープフォレストにいきなり地響きが走った。
 木々に止まっていた鳥が一斉に飛び立ち、遠方から爆発音が聞こえてくる。

「勇者か!?」

 まったりしていたおれは爆発が聞こえた方角をみた。
 森の外周じゃなくて、中央あたりから聞こえてくる。
 そして、急に聞こえてきた。

 勇者の襲撃なら急に外周を抜けて中に入ってから大規模な戦闘になることはほとんどない。
 ……ってもしかして、あの転送法陣か。
 アレックス、かつてのおれの弟子が伝送の魔法陣で勇者を直接森の中に送り込む作戦をこの前やった。
 それが成功したら今みたいに外周部をぬけていきなり中央に激戦が繰り広げられる。

 地響きが更にした、爆発も連続で起きて、黒い煙が立ちこめていた。

 感知の魔法を使う、何故か分からなかった。
 多分戦闘が行われているところだけぽっかりとあいて何も感知出来ない。
 妨害の魔法でもかけてるのか?

「……まったくもう」

 本当にアレックスたちならおれが行くのはまずいんだが、かといってこの状況は見過ごせん。
 姿と気配を消す魔法をかけてから、おれはピョンピョンと、地道にスライムっぽく爆発が起きてる方角に向かっていった。

 慣れた森の中、すぐにたどりついた。
 なんとそこには、暴れているドラゴンがいた。

 マザードラゴンよりも一回り小さい、黄金のうろこが全身を覆うドラゴン。
 そいつは血走った――正気をなくした目で暴れ回っていた。

 まわりにモンスターたちが集まってきていた。
 オーガもリザードマンも、強力なモンスターたちがドラゴンを止めよう(、、、、)と攻撃をしかけるが、全員が返り討ちに遭っている。

 まわりは死屍累々、ここ一年で一番ひどい状況だ。
 どんな勇者が侵入してきたところでここまでひどくはなかった。

「何やったんだよユイ」

 そう、ドラゴンはユイだ。
 あの黄金色に輝くうろこはものすごく特徴的で、間違えるはずがない。

 マザードラゴンの娘、伝説の黄金竜の血を継ぐユイ。
 そのトゥルーフォーム、ドラゴンの姿だ。

 それが何故か暴走している。

「あいててて……」
「ヒメ! 大丈夫か?」

 離れたところにヒメがいた。
 彼女は木に背をもたせかけていて、体のあっちこっちに打ち身みたいなのが出来ている。
 どうやら彼女もユイを止める為にケガしたようだ。
 大幹部のヴァンパイアだけど、暴走したドラゴンの方がワンランク上だったみたいだ。

「おー、リュウちゃんじゃん。来てくれたんだ」
「それよりもこれはどういう事だ」
「今はそれよりもユイちゃんをとめてちょ。話はあとでするからさ」
「止めるったって、こんな人前で――」

 くるりとまわりをみる、負傷したモンスターも、今まさに挑みかかるモンスターも。
 モンスターたちが大勢いる、目が無数にある。
 こんなところで本気を出したら色々ばれる。

「大丈夫大丈夫、それもあたしに任せて。リュウちゃんはとにかくユイちゃんを止めて」
「……まったくもう」

 人間の時だったらむしゃくしゃして頭をかきむしってたところだろうが、残念ながら今のおれはスライムでそれが出来なかった。
 しょうがない、やるか。

 おれが一歩前にでると、ヒメは大声をあげた。

「はいはーい、みんな下がって下がって」

 モンスターたちはヒメの声を聞くなり、一斉に下がりはじめた。
 交戦しているモンスターたちは普通に下がって、負傷してるモンスターは同族の力を借りて距離をとった。

 大幹部、ヒメの信用と威厳がなせる技だ。

 そこにおれが更に一歩踏み出した。

「リュウくん?」
「ばかな何しに出てきた」
「ニゲロ」

 モンスターたちの大半が驚いた、ヒメじゃなくておれが出てきたからだ。

 ちらっと振り向きヒメをみた、親指を立てられてウインクをされた。
 大丈夫任せて、っていわれた気がしたけど、正直軽すぎて信用できない。

 が。

「ぐ……おおぉぉぉ……」

 暴れているユイはどことなく苦しそうだった。
 止めるモンスターたちが与えたダメージで苦しんでるのではない、もっと違う、内側からの苦しみだ。

 仕方ないな。

 おれはピョン、と大きく飛び上がり、ユイの真上で垂直に落下した。
 ただの落下じゃない、魔力を噴射しての急速落下。

 全身でユイの頭に頭突きをした。

 ドーン!!!

 爆発が起きた、頭を打たれたユイはその巨体ごと地中に打ち込まれた。
 隕石落下に匹敵する一撃を受けたユイはそのまま目を回し、きゅー、と腹立つくらい可愛い声をあげて失神したのだった。

     ☆

「あれはお兄ちゃんぱぅわぁだよ。ユイちゃん強いけど、お兄ちゃんとお母さんにだけは勝てないんだ」

 おれが一撃でユイを倒した事にモンスターは絶句して、その後ざわめきだした。
 それにヒメが説明すると、一拍開けて全員がすんなり納得した。

「マザードラゴン様のお力だな?」
「まあなあ……スライムとはいえ兄は兄、威厳を保つための処置がないとな」
「本人のグータラさがその威厳を台無しにしてるけどな」
「ちげえねえ」

 勝手な解釈をして、笑い合うモンスターたち。
 それでいいのかと思ったが、納得してくれる分には文句はない。

 それに……。

「あたし、本当の事しか言ってないもんね。ユイちゃんは確かに強いけど、お兄ちゃんとお母さんには勝てないよね」

 ヒメはイタズラっぽい笑顔でおれにだけ聞こえるように言った。

 ユイの暴走が解決されたから、モンスターは三々五々と散っていった。
 負傷したモンスターもいるが、原因がどう見えてもユイの暴走だということもあり、みんなは特に気にすることなく散っていった。

 全員がいなくなったあと、おれはヒメと一緒に地中に打ち込んで気絶したままのユイを眺めた。

「にしても、どうしたんだこれ」
「ドラゴンの体質だね。人間の姿になれるけど、人間の姿でいるのってドラゴンの血と本能を無理矢理抑えるって事でもあるからさ、ずっと人間の姿でいるとこうして暴走する事があんのよね」
「そうだったのか」

 そういえば最近のユイはずっと人間の姿だな、と思い出す。
 それで暴走したのか。

「しかし、なんだってこんな事になるまで人間の姿で居続けたんだ? そういうことならちょこちょこドラゴンの姿に戻ってればこうならなかったって事だろ」
「だねー。くふふふ、なんでだろーねー」

 ヒメは握りこぶしで口元を押さえて、またまたイタズラっぽい笑顔を浮かべた。
 理由を分かっている人間が意地悪で教えない時にする顔だ。腹立つことにヒメはこう言う表情がよく似合う。
 理由は多分聞いても教えないだろうから聞かなかった。

「それよりも、これはどうするんだ? このまま放っておけばいいのか?」
「川岸が決壊する時ってさ、水が多いからなんだよね。決壊するところを塞いでも水が残ったままだから、そのうちまた崩れちゃうんだ」
「……水を減らせってのか」
「そ。ドラゴンの本能で爆発的に増大した魔力を体の外に出してやればいいの。だからこその暴走だね」
「ヒメが吸ってやればいいのか」
「あたしじゃ無理無理、ヴァンパイア程度がドラゴンの魔力をまともに受けたら体が粉々にくだけちっちゃうもーん。しかもドラゴンの魔力でやられたら一ヶ月は復活できないんだよ」
「……やれるのはおれだけか」

 はあ……と深いため息が出た。
 まったくもう、ユイのやつ面倒臭い事になりやがって。
 妹じゃなかったら見捨ててたぞ。

 おれは穴の中に飛び込んだ、気絶してるユイの頭の上に乗った。
 触れるとはっきりと分かる、ヒメが言うように、ユイの体の中で膨大な魔力が渦巻いている。
 これが暴走の原因で、吸い出してやらないとだめか。

 さて、やるか。
 ユイの魔力中枢とつなげて、おれの体を一旦空にした。
 そして繋がる部分に魔力をちょっと流す……バケツにいれたホースに呼び水を流し込む感じで。

 次の瞬間、ユイの魔力がこっちに流れ込んできた。
 水が高いところからホースを通って低いところに流れるかのように。

 ドラゴンの魔力がおれの体に流れ込んできた。

「うへぇ……ユイ、こんなに魔力強くなってたのか」

 ちょっとだけうんざりした。ユイ、ちょっと前に比べてまた少し成長したようだ。
 こりゃ確かに、ヒメじゃ受け止めきれない量だな。

 流れてくる魔力を体に溜めた。魔力はすぐに放出するともしかしたらユイの体に戻ってまた悪さするかも知れない。
 魔力は、一旦おれが全部引き受けることに下。

 やがてユイの全魔力がこっちに来た。

「げっぷ」

 食い過ぎのゲップが出た。
 胃はもうないけど、胃もたれしそうなくらい大きい魔力だった……。

「う……ん」

 魔力を吸いきったのとほぼ同時にユイが目を覚ました。
 ドラゴンの目をぱちくりさせて、まわりをみる。
 そして、おれと目が合う。

「きゃあああ!」

 悲鳴を上げた。
 女の子の様な悲鳴、しかしそれを出したのはドラゴンの体。
 大きな声が起こした衝撃波におれは吹き飛ばされて、穴の外に出てしまった。

「きゃあっておまえ」
「な、なななな、何してんのよお兄ちゃん!」
「何って……別に?」
「別にって事はないでしょ、人の頭の上にのってさ」
「うふふふん、リュウちゃんはね、ユイちゃんの――」
「ヒメ」

 ヒメが何か言おうとしたけど、それは面倒くさい事になりそうだから止めた。

「えー」

 止められたヒメはつまらなさそうに口を尖らせた。

「おれはもう行く」

 後は任せる、と言外にヒメに言い残して、その場から立ち去った。
 今日はもう動きたくない、腹一杯だ。
 このままひなたぼっこスポットにいって、だらっと過ごしてユイの魔力を消化しよう。

「あの、ヒメさん、これは一体……?」
「ユイちゃん大暴走の巻~」
「あっ……」
「ユイちゃん、誰かのために人の姿でい続けたい乙女心はわかるけど、それもほどほどにね」
「だ、だだだだだ誰かって誰のことですか! あたしは別におに――」
「んー? あたしは別に誰かと名指ししてないけど?」
「――っ!」

 背後からからかうヒメと、ユイの声にならないうめき声が聞こえてきた。
 ヒメにイジられてるけど、これくらい元気なら後はもう問題無いな。

 さて、今日はこれから全力でだらけるぞ、っと。
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