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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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勇者王のシンパ

「おはよーリュウ、今日もいい天気だね」

 朝、ディープフォレスト東部。
 小さなほこらの前で、おれはリリと合流した。

 ドラゴンナイトの集合場所として決めたここに、おれ達は毎日一度は集まっている。
 それでリリと合流したんだが……テリーの姿が見えない。

「テリーは?」
「それがね、昨日人間の女王様を捕まえたから、ゴブリンのみんなは今日忙しいって」
「ああ……そういえばそうだな」

 その事を思い出して、納得した。
 ゴブリンが高貴な女を捕らえたんだ、一晩で済むわけないよな。

「もう何日かしたらテリーの弟が生まれるかもね」
「息子って線もある」
「甥っ子とか従弟とかもね。今回もたくさんうまれるといいな」
「前に聞いた話だと身分が高貴であればあるほど子出しがいい、だったな、ゴブリン的に」
「あたしも聞いたことあるそれ。女王様ならバンバン産んでくれるね」

 ゴブリンの生態を世間話のついでに語り合うおれとリリ。
 モンスターは種族が違えばその生態も大きく違う、モンスター同士であっても完璧に知っている訳じゃない。
 その分、おかしいと思うこともない。なぜならみんなちがうから。

 ゴブリンが高貴な女を苗床にするのも、リザードマンがオスしかいなくて父と父で卵を温めるのも、ヴァンパイアが不老不死で生殖しない代わりに気に入った人間を眷属化するのも。

 みんな違って、いちいちおかしいと思ってる方がおかしいのだ。

 ちなみにスライムは主食が繊維で、個体によっては人間の汗が調味料になるきている服が好きなやつもいるが、おれはいたってノーマルな、草木を食べてる草食系スライムだ。

「今日は揃わないからどうしよっか」
「解散でいいんじゃねえか? 別に毎日戦わなくてもいいだろ」
「それもそうだね」

 ゴブリンが大忙しのこの日は、ドラゴンナイトとして出撃する事はお休みで、おれは堂々とサボれる権利を手に入れた。

     ☆

 ひなたぼっこスポットに行くために、一旦森の中心に戻ってきたおれは騒ぎの現場と遭遇した。
 モンスターが多数いて、輪を作っている、その中心に一人、後ろ手を縛られている人間の勇者がいた。

 年は二十の半ばと若く、縛られてモンスターに囲まれているのに不敵な笑みを浮かべている。

「どうしたんだこれ」
「おお、リュウか」

 一番近くにいたモンスターが返事してくれた。
 四本ハサミの大カニ、デスクラブという名前のモンスターだ。
 名前はジャッキー、おれより何歳か年上だ。

「ジャッキーさん。あれはなんなんだ?」
「今日侵入してきた勇者なんだ、防御力がやたら高くて、おれらじゃ歯が立たないからヒメ様かユイちゃん、マザードラゴン様に始末してもらおうって」
「なるほど」

 たまにそういうのがある、防御力に特化したやつで、捕縛は出来ても倒せないってタイプの人間が。
 そういう時は捕縛してつれて来て、幹部に始末してもらう事になってる。

「ふははははは、モンスターといえどもたいしたことはないな!」

 縛られたうえモンスターに囲まれているのに、男は怯えることなく、逆に天を仰いで高笑いした。
 それにカチンときたジャッキーが男をおどした。

「調子に乗ってられるのも今のうちだ、マザードラゴンにかかればお前など一瞬で八つ裂きだ」
「そっちこそ調子に乗ってられるのも今のうちだ。我々の救世主がそのうち戻ってくるのだからな」
「救世主?」

 訝しむジャッキー、同時にまわりのモンスターがざわつきだした。

「そうだ。我らの救世主、伝説の勇者王リュウ様だ」
「へ?」

 思わず声を上げてしまった。なんでおれ?

 おれが声を上げたことでモンスターたちが一瞬こっちをむいたが、すぐに笑いの渦が巻き起こった。

「違う違う、リュウくんのことじゃないよ」
「リュウはスライムだもんな」
「そんなこといったらいけね、リュウはマザードラゴン様の子、ドラゴンなんだ」

 からかいもあるが、全部が好意的な言葉だ。
 ちょっとだけホッとした。自分の事をいわれて思わず反応してしまったが、モンスターたちはそれを笑い飛ばしてくれた。

「そこのスライムもリュウって名前か、汚らわしい。いいか、リュウ様はそんなスライムなど比較にもならないほど強いのだ。まず竜殺し、生涯殺したドラゴンの数は100を越える」

 勝手に水増しするな、そのうち9割9分ワイパーンとかそういうのだろうが。
 ユイのような知性を持った本物のドラゴンは五体程度しか倒してない。

「ただお強いだけではなく、十二人の使徒を従えて多くの魔物の巣や迷宮を壊滅してきた」

 使徒って名乗ってるのかよあいつら! ダンジョン攻略とかモンスター退治の手ほどきをちょっとしただけなのに。

「その強さを世界中に残すために、各国の王が次世代の勇者を育ててくれと懇願したほどだ」

 あれは超絶面倒くさかった。
 おれの遺伝子を確実にほしいってことで大量の処女を集めてきて抱けって言われた。
 とある国に至っては古い伝統である初夜権をおれに押しつけてきたくらいだ。

 男は次々と、前世のおれの事を大いばりで話した。
 ほとんどが面倒くさい事実だったり、決して嘘じゃないけど権力者が都合のいいように膨らませた逸話だったりで、おれは心の中でのツッコミに忙殺された。

 それをしばらく聞いていたジャッキーが、自慢の途切れたところを見計らって話に割り込んだ。

「もうおわりか?」
「なに?」
「勇者王リュウの話はおれも知ってる、だが、そいつは死んだのだ」

 ジャッキーがいうと、モンスターたちは一斉に安堵した。
 男が話すリュウ伝説に、すくなからずのモンスターが恐れをなしたようだ。
 それが死んだ、と聞いて安堵したのである。

「ふっ、ふふふふふふ」
「何がおかしい」
「リュウ様は近いうちに復活する」
「なに!」
「リュウ様の第一使徒アレックス様がおっしゃったのだ。リュウ様の魂を見つけた、と」

 ……そういえばあいつに存在を嗅ぎつかれたっけ。
 ああもう、面倒くさいなあいつは!

「おれは、リュウ様復活のためにここに来た」
「なに!?」

 男はそう言って、足元に魔法陣をひろげた。

「何だこれは!?」

 ジャッキーが問い詰める。

「転送の魔法陣。今から五分後、ここに我々の仲間が大挙して転送されてくる。おれがベラベラとリュウ様の事を話していたのは魔法陣の時間を稼ぐためなのだ」

 モンスターが一斉にざわめきだす。
 ここは森の中心、ここに転送されてきたらマザードラゴンまでノンストップだ。

「貴様!」
「おっとおれを殺してももう遅い。もうおれがいなくても魔法陣は完成してるのだからな」
「くっ! みんな、仲間たちをここに呼び戻せ!」

 ジャッキーの一言でモンスターたちがばらばらに走り出した。
 やってくるであろう勇者の大群を迎撃するために仲間を呼びに走ったのだ。

 またたくまに、モンスターがいなくなる。

「はーははははは! これでマザードラゴンは倒れる、ヤツさえ消えれば、あとはゆっくりとリュウ様の魂を探せるのだ」
「わるいがそうはさせねえ」
「……ん? なんだスライム、お前はいいのか? 仲間を集めにはしらなくて」

 男は見下しきった、侮蔑しきった目でおれを見た。

 まあそうだろうな、スライム相手だとそうだろうな。

「こんな転送法陣まで持ち出して、本気でこの森をならす(、、、)つもりかよ」
「ふっ、当然だ。ほうらきたぞ、第一陣がくるぞ」

 魔法陣の輝きがまして、いよいよ活動を開始した。

「はあ」

 おれはため息をついて、足元に魔法陣を広げた。
 男が展開した魔法陣の上に更に魔法陣を重ねる。

「むだだ、この魔法陣はリュウ様直伝、破壊も停止も不可能の魔法陣だ」
「確かにそうだ、だけど再転送はできる」
「……え?」
「第一陣は……リザードマンのところに送ろう。次のこいつはオーガの巣だな。後方の僧侶部隊か、ゴブリンたちにプレゼントだ」

 転送されてくる連中をざっと判定して、一番相性のいいモンスターのところに送る。

「な、何をしてるお前」
「うん? だから再転送。ここに集まると大変だからな、ばらばらにしてあっちこっちに送ったんだ」
「なんだと……お、おまえ……なにものだ」
「おれはリュウ、ただのスライムだよ」

 驚愕する男にそう言って、邪魔をされないように倒しておいた。

『ごくろう』

 背後からマザードラゴン、母さんの声が聞こえてきた。
 まだちょっと距離があるとはいえ、やっぱり把握してたか。
 このまままとめて転送されてくるのを見過ごして、勇者の大群が母さんのところまでノンストップ……なんて事態になったら後でまた折檻(ころ)されるからな。

 偶然ここを通りかかってよかったぜ。

 転送法陣の上に転送法陣を重ねて再転送するのはだいぶつかれたが、おれはきっちり、モンスターたちが各個撃破出来る様に勇者をばらばらに転送したのだった。
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