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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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ドラゴンの習性とゴブリンの本能

 深夜のディープフォレスト。
 大抵の勇者は昼間に侵攻してきて、夜には全滅してるか引き上げるかしている。
 夜の森での戦いは人間の勇者には不利な事が多いから、自然に戦いは昼間のうちに、ということになっている。

 しかし今日は深夜になっても、撤退しないで森の中にとどまってる一団がいた。
 感知魔法で探ってると、50人ちかい勇者が一箇所に固まっていて動くそぶりはない。

 なんなんだこれは。

「リュウ! ここにいたのかよ」
「テリー。どうしたんだ?」
「ちょっときてくれよ」
「ま、待て、頭引っ張るなうわああ!」

 いきなりやってきたゴブリンのテリーがおれの頭を掴んで、つかつかと歩き出した。
 抵抗すれば引っ張られずにすんだが、いきなりの事、それに幼なじみがやったこと。
 おれはテリーに引っ張られていった。

「大変なんだよ、助けてくれよリュウ」
「大変ってなにが……うお!」

 テリーに引きずられてゴブリンの群れにやってきた。
 森のちょっと開けたところに集まっている。
 左を見てもゴブリン、右を見てもゴブリン。
 ゴブリンゴブリンゴブリンの大群だ。

「どうしたんだこれ」
「いまから勇者を倒しに行くんだ」
「ゴブリンだけで?」
「そうだ!」
「一体どうして」
「あのな、勇者がいるんだよ」
「ああ、いるっぽいな」
「その勇者の中に人間の女王がいるんだよ」
「女王様?」

 つぶやくと、その言葉に吸い寄せられ、ゴブリンが一斉におれをみた。
 夜の森の中、ゴブリンの爛々と光る目が無数……ぶっちゃけちょっと怖い。

 怖いのはそれだけじゃなく、なんとゴブリンは謎の儀式を始めた。
 10匹がひとかたまりになって、輪をつくってぐるぐる回って、妙な踊りをした。
 まさに儀式としか言いようのない踊りだ。

「ど、どうしたんだみんな」
「いまから勇者を襲って、女王を捕まえるんだ。即位したばかりの幼い女王だぜ」
「……ああ」

 ようやく話が見えてきた。
 ゴブリンの習性の一つで、人間の女、特に「穢れなき」とか「高貴な」女にものすごく魅力を感じるらしい。

 今も勇者の中に女王がいて、その女王を性的な意味で襲おうって事か。

「話は分かったけど、なんでおれを?」
「だれも協力してくれねえんだよ」
「そりゃ……な」

 感知魔法で調べた限り、今いる勇者たちは夕方頃からずっと同じ場所にいる。
 魔力の流れ的に何かをしているわけでもなく、ただそこにいるだけ。

 ディープフォレストの魔物は、勇者が襲ってこない限りこっちから攻撃をしかけないことがおおい。
 半日近く動かない勇者ならそのまま放置して帰ってもらえばそれですむ。

 そういうのが成り立つのはちゃんと理由がある。
 今回も――多分。

 こっそり魔法を使った、指向性の集音魔法、特定場所の音を盗み聞きする魔法だ。

『このまま何事もなく夜明けを迎えられそうだな』
『気を抜くな、女王陛下の初陣なのだ。戦闘がなくともこのまま帰還するだけで大勝利なのだ』
『分かっている、どんなモンスターが来ようと、例えドラゴンが来ようとも追い返してくれる』

 キャッチした人間の会話はほぼ予想通りだった。
 貴族とか、身分の高い人間の中はモンスターの巣を襲撃し勝利する事がステータスになる事がおおい。
 今回のそれだ。女王というのを聞いた瞬間、動かない勇者は女王の箔付けにきたんだと目星がついた。
 そしてそれは大正解だった。

「なあリュウ、協力してくれよ」
「……わるいけど、パス」
「えーなんでだよ」
「面倒くせえんだよ、おれは別に女王の事どうとでも思ってない」

 ゴブリンじゃないし。
 ゴブリンは高貴な女を襲うのが本能だけど、おれはスライムなんだ。
 女王でも姫騎士でもエルフ僧侶でも、別に興味を感じないしな。

「ちぇ、もういいよ。じゃあな」

 テリーはふてくされながら、おれに別れを告げた。
 謎の儀式を行っていたゴブリンたちも儀式をやめ、ぞろぞろと出発していった。

 ま、森の中だし、相手は箔つけ目的の勇者たちだし。
 最悪でも復活前提の全滅にしかならないから、ゴブリンたちの事をほっとこうと思った。

「協力してあげて」
「うわ! ユ、ユイじゃねえか。何してんだよこんなところで」
「ちゃんと協力してあげて」
「はあ?」

 いきなり現われた義妹、ドラゴンのユイがおれをジト目を向けながらいった。

「なんでだよ、別にイイだろ」
「これは母さんの命令」
「うっ、で、でも別にやらなくてよくないか? ああいう勇者なら母さんのところまで襲ってこないだろ。だったら――」
「母さんからの伝言」

 ユイはすぅと目を閉じて、重々しい口調でメッセージを伝えた。

「『余は眠い、夜更けに余の睡眠を妨げるほどの復活をしなければならぬ時は』」
「と、時は……?」

 ごくり、とツバを飲んだ自分の声が聞こえた。

「『復活分折檻する』」
「シャレになってねえ!!!」

 今し方進軍していったゴブリンは優に100匹を越える、100匹ゴブリンの大行進だ。
 そしてゴブリンはきっと全滅するだろう。
 女王の箔をつけるためにつれて来た勇者どもが弱いはずがない、そしてゴブリンは100匹揃ってもゴブリンでしかない。

 ……つまりおれは朝になったら100回折檻(ころ)されるってことか。

 それはやだ、やだところの騒ぎじゃない。

「ってことだから。あたし伝えたからね」

 ユイはそう言って、身を翻して立ち去ろうとした。

「待て待て待て」
「なに、あたし眠いんだけど」
「話分かったから、協力してくれ」
「やだ。聞こえなかった? あたし眠いね」

 ええいドラゴンは怠け者ばかりか!

「お兄ちゃんにだけは言われたくない」
「心の声に突っ込むなよ。そうじゃなくて、おれがやるからうろこ一枚くれ」
「妹のうろこを要求するなんて……お兄ちゃんは怠け者の上に変態」
「最後のは取り消せよ!」

 ユイはしばらくおれを見てから、やれやれとため息をついた。

「しょうがない、あげないと母さんに怒られそう」
「わかってくれればいいんだ」
「ちょっとまって……」

 ユイはそう言って、スカートの中に手を入れた。

「ん……ふぅ……」

 何かをごそごそまさぐって、顔を上気させたあと、スカートの中から手を出した。
 手に持っているのは一枚のうろこ、ドラゴンのうろこだ。
 いつもながら何で人間の姿の時はそんなところから取り出すんだろうな、と不思議になる。

「はい、変な事に使わないで」
「つかうばか!」

 ユイから受け取ったドラゴンのうろこを口の中に放り込んだ。
 スライムの体に取り込んだドラゴンのうろこを、肉体と魔力の両方で消化する。

 するとたちまち変化が起きた
 スライムのゼリー状の肉体に変異が起きて、みるみる内にドラゴンの姿になった。

 巨大な、体が森からはみ出すドラゴンの姿。ユイのドラゴン状態の姿だ。

 変身魔法の一種で、対象の体の一部を取り込むことで対象の姿に変身する事ができる。

 ちなみに変身は見た目だけ、能力まではコピれない。
 おれがテリー……おえっ。

 ゴホン。
 おれがヒメの髪を取り込んでバンパイアに変身したとしても、血をすって相手を眷属にかえたりすることは出来ない。
 あくまで外見だけだ。

 なのに何故かえたのか、それはおれが母さんの息子だからだ。

 スライムだが、ドラゴンの巣に生まれて、長年マザードラゴンにしごかれ来た結果、ドラゴンの能力は一通り身につけてる。
 つまりこの瞬間、おれは見た目も中身もドラゴンになったって訳だ。

「やれやれ、それじゃ行ってくる」
「うん、頑張って」

 ユイに送り出されて、ドラゴンの体で勇者のいる方向に向かって行った。

 途中でゴブリンたちを追い抜いた。
 全員が目をギラギラさせている、何人かはもう女王を捕まえた後の事を妄想している。

 そのゴブリンたちを追い抜いて、勇者のところにやってきた。
 軽くテントが張られてあって、ちょっとした野営陣地になっている。

「も、モンスターが襲ってきたぞ――」

 おれを見つけた夜番の勇者が声をあげたが、前足を振り下ろした踏みつぶした。

「ど、ドラゴンだと!?」
「まさか本当にくるとは!」

 一人聞き覚えのある声だった。
 慌てながらも襲ってきたので、口から炎を吹いた。
 燃え盛る炎が装備の上から勇者をまとめて焼き尽くした。

 勇者たちが一斉に襲いかかってきたのを、次々と返り討ちにする。
 50人ほどの勇者、全員が女王を護衛してきた者だけあってかなりの強者だ。
 一人一人が最弱の東の森を単独で突破できるほどのちからだ。

 それを相手に手を焼いたが、ゴブリンに被害が出るとその分母さんに折檻されるから、おれは全力をだしてそいつらを蹴散らした。

「女王陛下、今のうちにお逃げ下され」
「わ、わらわは――」
「お早く!」

 一番奥のテントにそれらしき人影とそれを逃がそうとする勇者の姿がみえた。

 女王は若く、12-3歳程度の小娘だ。
 よくあるパターンで、即位したはいいが若すぎて箔をつけなければ舐められるタイプだ。
 だから来たのはよく分る……が。

 女王に魔法障壁を張った、そのまわりに業炎を吐いた。
 障壁で守られている女王以外、お伴の勇者を焼き尽くした。

 女王は逃がさない、母さんの命令にはなかったが、女王を逃がすとゴブリンたちが追撃していってやっかいな事になる。
 だから、逃がさない。

 へたり込む女王をよそに、おれは残りの勇者相手に無双した。
 勇者は手ごわかったが、どうにか、ゴブリンたちが到着するまで女王を残して殲滅して、その場から立ち去った。

『ひゃっはー! 勇者ども女王をだせ――あれ?』
『クイーンオアデストローイ! ――へ?』
『なんで勇者がいねえだ?』

 遅れて現場に到着したゴブリンたちは状況に戸惑ったが。

『そんな事よりあれ女王じゃねえのか』
『本当だ女王だ』
『わしにはわかる、あの女王は処女じゃ』
『『『ひゃっはー! 新鮮な女王だぜ』』』

 残された女王に本能を刺激され、誰一人として状況を深く考えようとはしなかった。
 やれやれ、これで折檻されずにすみそうだ。
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