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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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勇者ラッシュ

「ああっもう! なんでこんな勇者がくるんだよ!」

 ディープフォレストは今日、勇者ラッシュに見舞われていた。
 朝からひっきりなしに勇者が侵入してきて、住民のモンスターは迎撃に大わらわだ。

 それは最弱の森、森東部でも変わらず、多少弱くて質が低いが、大量の駆け出し勇者が次々と襲ってくる。

 朝からそれとの戦闘に追われていたおれ達ドラゴンナイト。
 昼頃になるとすっかりバテバテで、テリーはゴロンと地面に大の字になった。

「せっかく気の強い魔法使いのねーちゃんとかいたのによ、倒してつかまえる余裕もなかったぜ」
「しょうがねえよ、この時期の風物詩みてえなもんだ」
「ふうぶつし? なんだそりゃ、エロイのか」

 エロくはねえよ。

 テリーの発想に密かに突っ込みつつ、さてどこから説明したらいいのかを考えた。

「リリ知ってるよ、たしか女王様の誕生日だよね」

 ドラゴンナイトの一人、インプのリリはおれの頭の上に乗ったままいった。

「正確には太后様の誕生日」
「たいこー? エロいのかそれ」
「王様のお母さんだよ。前の王様が死んで息子が王様になったから太后に――」
「未亡人かよ! やっぱりエロイじゃねえか」

 おいおい、そっちもいける口なのかよテリー。
 まあ、ちらっと見たことはあるけど、王族だけあって綺麗な貴婦人だったな。

 王族とか貴族とかって、代々美女と結婚する事が多いから美形の遺伝子がたまりたまってるんだよな。美形のサラブレッドだぜ。
 太后なんてその頂点にいるような人間だから、当たり前の様に綺麗だった。

 未亡人じゃなくてもエロかったな。

 などとそんな事を思いながら、勇者ラッシュの説明を続けた。

「今の王様は孝行息子らしいんだ、太后が人間に害をなすモンスターを駆除したいってんで、王様は毎年の太后の誕生日喜ばせようと各地の勇者に命令して、モンスターの退治数を報告しろって命令を下してる。それで勇者が次々と襲ってくるってわけさ」
「へえ、そうなんだ」
「でもよ、それって迷惑だよな」
 テリーがうんざりした顔で言う、まあな。
 完全に人間側の都合、しかも一部のお偉いさんの都合だ。
 モンスター(こっち)側からしたらいい迷惑だ。

 ま、慣れたけどな。
 もはや季節ごとの天候、梅雨とか台風とかそう言うものだと思う用にしてる。

「いたぞ! モンスターだ!」
「スコア頂き!」

 休んでいるところにまた勇者がやってきた。今度は顔が似てる若い男女の勇者だ。多分兄妹かなんかだろう。

 女が前衛で突っ込んできた、武器はもってなくて拳を軽く握ってる、武闘家か?
 男の方は後ろで弓矢をつがえていた、遠距離で援護するつもりか。

「テリー、リリ」
「任せろ!」
「がんばる!」

 ドラゴンナイトリブート。
 テリーはこん棒を振りかぶって、リリは三叉のフォークをもって武闘家の女を迎撃した。
 おれは男が撃ってくる矢に体当たりをして、できるだけ打ち落としていった。

 勇者ラッシュはめんどいけど、本格的な面倒にはならない。
 なにせ太后を喜ばせるためのだ、大抵は普段よりも無茶をして身の丈以上の事をする勇者が多い。
 それはこっち《モンスター()からしたら、普段よりも弱い勇者がやってくるということ。

 数は多いけど、一人一人の力はたいしたことはない。
 この兄妹勇者も、妹はテリーとリリの二人がかりで倒されて、兄はおれがこっそり分裂して近づいて取り憑き、矢筒ごと矢を全部とかした。

「へへん、こんなもんよ」
「勝利のポーズしよ、勝利のポーズ――ってテリー?」
「もう我慢出来ねえ、ちょっとそこの茂みにいってくる」

 テリーは倒したばっかりの、気絶している女武道家を茂みに引きずり込んだ。
 ゴブリン、気絶した女、なにもおこらないはずはなく。

「ほどほどにしとけよー、まだまだ勇者は来るんだからな」

 茂み越しにテリーにいった。
 太后の誕生日前ならラッシュはむしろこれからが本番だろ。
 こういうとき調子に乗るとろくな事ないからな。

     ☆

「おかしい……」

 午後になって、三人組の勇者を撃退したおれはそうつぶやいた。

「はあ……はあ……なにが、おかしい、んだ?」
「それより……リュウは……大丈夫?」

 連戦に次ぐ連戦で、テリーもリリもすっかりバテている。
 というか二人は結構前から限界が来てる。おれがこっそり補助魔法(バフ)をかけたり、さりげなく回復とかのフォローをして、それでどうにか戦えてる状態だ。

 それは別にいい、この最弱の森、ディープフォレスト東部くらいなら二人のフォローをしても普通に戦える。
 それよりも問題なのはこっち(モンスター)側の戦線が押し込まれてることだ。

 ここはまだ良い、しかし他の場所――念の為に森全域に感知魔法をずっとかけてて様子を見てたけど、他の場所は勇者に押し込まれてる。
 いくら勇者ラッシュでも、今までこんなことはなかった。

「どうしたんだ一体」
「はあ……そ、そういえば」
「うん?」
「やられたやつら、戻ってこねえよな。いつもならマザードラゴン様がすぐに復活してくれるんだけどよ」
「――っ!」

 テリーの言葉はまるで雷のごとく脳天にズガーンと落ちてきた。
 感知の魔法で再確認、たしかにこっちのモンスターの数は普段よりも少ない。

 普段なら森中心にいる母さんが、ディープフォレストの濃密な魔力をつかって次々と森の中でやられたモンスターを蘇生させるんだが、そのペースがだいぶ遅かった。

 蘇生のペースが落ちて、前線にモンスターが徐々に足りなくなって、それで押し込まれてるんだ。

「だが……どうして?」

 母さんに何があったのか? いやあの母さんに限って何かがあったなんて考えられない。
 マザードラゴンだぞ、未だにおれを前足一本でぺしゃんこにしてあの世に送るようなバケモノなんだぞ。
 何か起きたなんてあり得ない。

 なら?

 感知の魔法を更に広げた、森全域に広げたそれで情報を取り込んで、どこか何かないかと探った。
 すると、遠く離れたところ、東部の奥――いや入り口側だから外か、そこに大量の勇者が集まっているのが分かった。
 数はおよそ二十、動く気配はまったくない、そこにいるだけ。

「そこか!」

 テリーとリリを置いて飛び出した。

「どうしたんだよリュウ」
「まってよリュウ」

 二人はおれの名前を呼んだが、だいぶ消耗してるみたいでついてはこれなかった。
 おれは飛んだ、魔力を放出して森の木々の間を縫うように飛んだ。

 この勇者ラッシュ、太后の歓心を買うための討伐で一箇所に固まって動かない勇者なんていかにもおかしい!
 おれはそいつらのところに向かって、一直線に飛んで行った。

 森の入り組んだ場所にそいつらがいた。
 二十人ほどの勇者は聖職者が多めだった。
 そいつらはそこで大がかりな儀式をしていた。

 法具をつかって、魔法陣を描いて、祈りを捧げている。

「龍脈か!」

 感知では分からなかったが、実際に目でみたら一瞬で理解した。
 この儀式は魔力の流れを止めている、ディープフォレストの命脈とも言える魔力の流れを遮っているのだ。

 そしてここは魔力の流れのなかで一番ぶっといところ、それをせき止められているのだ。
 龍脈の魔力が減ってはさすがの母さんも蘇生のペースが落ちたって事か。

「モンスターが来たぞ」
「なに!? ――ってスライムじゃないか」
「排除する、儀式をそのまま続けててくれ」

 一人の勇者がこっちに向かってきたが、他はそのまま儀式を続行した。
 正しい判断だ、最弱のスライムがやってきた勇者側の判断としては正しい。

 普通なら。

「まったく、前線の奴らはなにして――」

 向かってくる勇者を瞬殺、魔力の弾を撃ち込んで一撃で倒す。
 糸が切れた人形のように崩れ落ちたそいつをみて、他の勇者がざわつき出す。

 残り十八――いや地中に一人隠れているから十九か。
 そいつらを全員ロックオンして、更に念じる。

 心の中で念じる。
 凝縮、追跡、隠形。
 属性は――ドラゴン。

 魔力の弾を一斉に撃ちだした。
 反撃する暇を与えず全員瞬殺して、守るものがいなくなった儀式を魔法陣ごとぶっ壊した。

 戦ってる最中は気づかなかったが、間近でぶっこわしたら魔力の流れが戻ったのがわかった。
 せき止められていた魔力が龍脈を伝って、森中心のドラゴン――マザードラゴンのところに流れ込む。

 すぐにモンスターの復活のペースもあがった。
 よし、これなら勇者どもを押し返せるだろう。

「お、まえは……」
「え?」

 声に振り向く、魔力弾に生き残ったのが一人いた。
 そいつはもがいて起き上がろうとする。

「おまえ、は……なにものだ」
「……リュウ、面倒くさがりのスライムさ」

 面倒臭い事になりそうだったから、その勇者にきっちりとトドメを刺して、おれは一スライムとしてテリーとリリの元に戻った。

 龍脈が復活した森は、勇者ラッシュを最後まで防ぎきって、侵入者を全員撃退したのだった。
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