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スライムの皮をかぶったドラゴン~ダンジョンで静かに暮らしたい 作者:三木なずな

第一章

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最弱の息子、最強のスライム

 ディープフォレスト。
 密集した木々と濃厚な魔力が充満する魔物の住処。

 森の中の数少ない木漏れ日が差し込むところで、おれはひなたぼっこをしていた。
 暖かな日差しが体に降り注ぐ、スライムに生まれ変わってからこれがおれの一番の趣味になっていた。

 体が変色するかゲル状に溶けるかまでに日光浴するのがたまらなく気持ちよくてやみつきだ。
 人間の時で例えるのなら――タバコで一服するのと似てるかもしれない。煙が肺を満たすのと日光が体をじりじり灼くのとでかなり近い感じがする。

 今日もこっそりここにやってきて、日光浴を楽しんでいた――のだが。

『リュウよ……我が息子よ』

 げげ。
 頭の中に響くこの声……母さんだ。

 まったく何のようだ母さんは、人がこうして日光浴してるってのに。
 ……無視しとこ、どうせここにいるの分かりっこないんだ。もう一服してから――。

『三分以内に戻れ、さもなくば一秒遅れにつき一回殺す』
「しゃれになってねえぞクソババア!」

 思わず飛び上がった、いい感じに溶け始めた体が完全に肉まん状(、、、、)に戻ってしまった。
 出来の悪い福笑いのように崩れた顔面も一瞬で元の顔に戻る。

 くそ、マジで早く戻らないと。あのクソババア殺すっていったら冗談抜きで本当に殺してくるんだよ。
 ゴムボールのようにぴょんぴょん跳ねて、急いで家に戻った。

 途中で何体かの顔見知りのモンスターをすれ違った。そいつらは慌てた様子でうちとは反対方向の方に走っていった。
 なんだ? って思ったけど遅刻したらマジ殺される、おれは慌てて家に戻った。

 家、といっても人間の世界のように建造物があるわけじゃない。
 ディープフォレストの中心、龍脈によって集まってきた魔力がもっとも濃くとどまっているところ。
 そこにクソババアこと母さんがいた。

 森の主、マザードラゴン。

 全身を深紅のうろこに覆われ、その体はおれの数百倍もあって、目だけとってもおれの体よりも大きいくらいだ。
 その母さんは魔力が集まってくる中心に寝そべったまま、気だるげにおれを見下ろしてくる。

「……おそいぞ」
「ま、間に合ったからいいだろ。それよりいきなり呼び戻して何のよんなだ」
「人間どもが襲ってきた」
「……またかよ」
「他のものともに撃退を命じた、貴様もいけ」
「やだよ、大体おれなんかいかなくても――」

 反論しようとした瞬間、母さんの前足がおれを踏みつぶした。

 一瞬で意識がブラックアウト、気がついたらおれのまわりはクレーターになってて、あっちこっちにゼリー状のものが飛び散っていた。

 ……無事じゃねえ、また(、、)殺されて復活させられたのかよ。
 くそ、これで何回目だよ。

 かたや最古のモンスターと呼ばれるマザードラゴン、かたやただのスライムだ。
 力の差は歴然、おれは生まれてから母さん相手に延々と負けイベントを強いられてきた。

 生まれてからこっち、なにか言い返そうとするとすぐにこうやって折檻(ころ)されてきた。

「二度と言わん、いけ」

 母さんの目がキラン、と光った。

「分かった分かった、いくから!」

 おれは慌てて、ピョンピョンと飛び出した。途中で他のモンスター、このディープフォレストに住まうモンスターたちが慌てて走ってるのがみえた。。
 全員が同じ方向に向かっている。って事はこっちが人間ども、勇者どもが襲撃してきた方角か。

 まったく迷惑な話だよな、人間ともは。
 いつもいつも襲ってきやがって、こっちの都合を考えもしない。

 ……いやまあ、おれもスライムに生まれ変わる前は人間だったから、「人に害をなす」モンスターは討伐しなきゃっていう人間の気持ちはわからんでもないが。

 それでも迷惑なのは迷惑だ。
 何せこっちは今やスライム、しかもひなたぼっこが趣味の無害なスライムなんだからな。
 仕方ない、とっとと追い返そう。
 そう思ってご近所さん(モンスターたち)と合流しようとしたのだが。

「リュウ、おいリュウ」
「んあ?」

 途中で呼び止められた。おれ、跳ねるのをやめて、まわりをみる。
 真横の木陰からゴブリンがおれに手招きをしているのが見えた。

 見知った顔、悪友のテリーだ。
 おれは方向を変えて、テリーの方に向かって跳んでいった。

「どうした」
「どうしたもこうしたもねえよ、みりゃわかんだろ。隠れてるんだよ」
「またか」
「あったりまえよ、おれら(ゴブリンとスライム)みたいな弱いモンスター、勇者どもとまともにかち合ったら一瞬でやられちまう。ここはひとまず隠れて、勝負がついた頃に出て行くのが賢いやりかたってもんさ」
「ふむ」

 テリーの言うことはもっともな話だ。
 スライムとゴブリン、種族としては最弱を争うようなモンスターだ。
 わざわざモンスター討伐と意気込んでくるような勇者どもにとって、本来なら弱すぎて経験値の足しにもならないようなクソザコナメクジだ。
 終わった時に火事場泥棒をするのが賢いやり方、というテリーの言い分はもっともだ。

「そんな事を言うって事は、今回の相手を把握してるのか?」
「おう、今回はいつもより僧侶が多めだぜ、しかも女僧侶。ぐへ、ぐへへへ、女僧侶……聖職者……処女……グヘヘヘ」

 テリーはよだれをたらすほどいやらしく笑った。
 こいつは見ての通り、人間の女にエロいことをするのが大好きだ。
 ゴブリンという種族はモンスターの中でも数少ない人間の女を孕ませられる種族で大抵エロイけど、こいつは輪にかけてひどい(、、、)

「リュウよ、おれ気づいたんだ。人間の女を苗床にするのなら処女が一番いい、そして前じゃなくて後ろ(、、)を使や処女のまま仔をうませられるってな」
「処女懐胎とかいいところに目をつけたな」
「だろ、だろ?」

 胸を張るテリー、ただでさえ長い鼻が自慢げに更に伸びそうな勢いだ。
 こんなことをいっちゃいるが、こいつはまだ童貞だ。最弱のゴブリンの中でも更にエロいことにしか興味がなくて、弱すぎて今のところ一人も人間を襲うことに成功していない。

 つまりは童貞ゴブリン……ふむ、童帝ゴブリンって書けば字面的にかっこいいかもしれないな。

「ど、ドドドドド童貞ちゃうわ!」
「何もいってないぞおれは」
「お? おおう……そうか?」

 テリーは納得した様な、してないような顔をして、首をかしげたりした。

「まあいいや。ってかお前もそこに突っ立ってるとみつかると、こっち来て隠れろよ」
「おう、そうだな」

 面倒臭いし、せっかくだからテリーと一緒に大勢がきまるまでここでサボってよ。
 と、思ったのだが。

「あー、お兄ちゃんこんなところにいた」

 げげ。
 木陰に隠れようとしたら、幼い女の子の声にびくっとなった。
 振り向く、13、4歳くらいの少女がおれ達を見つけていた。
 見た目こそ幼いが、頭に角、背中に羽と尻尾がある。種族としてはおれ達よりも圧倒的に格上のドラゴンだ。
 名前はユイ、母さんの実の娘(、、、)だ。

「おおゆいちゃん、今日もすごく可愛い――ぶげっ!」

 ユイに飛びかかっていったゴブリンのテリーは綺麗なクロスカウンターをもらって、カクッ、と綺麗な直角の軌道を描いてユイの真横の木に顔を突っ込んだ。
 顔を突っ込んだままの姿勢でずるずると地面におちていった。
 ビクンビクンと変なけいれんしてるけど……まあ大丈夫だろ。

「エッチ! 嫌い!」
「容赦ないなお前」
「だってエッチなのは嫌いなんだもん」
「まっ、目の前に人様の妹にいきなり発情して飛びかかるようなヤツは今のでいいんだけど」
「そんな事より、なんでお兄ちゃんまだこんなところにいるの?」
「なんでって」
「お母さんに勇者を倒してこいって言われてるんでしょ」
「そりゃ言われたけど……みんないってるんだろ、だったら足手まといだよ」
「足手まといでちゃんといくの、じゃないとお母さんに言いつけちゃうからね」
「わーった、わーったからそれだけはやめてくれ」

 ユイに見つかったのが運の尽きだな、おれは観念して、勇者が襲ってきた方角に行こうとした。

 動き出した直後、悲鳴と共にモンスター(なかま)たちが敗走してくるのが見えた。
 リザードマンもサキュバスもハーピーも。
 ディープフォレストに住まうありとあらゆるモンスターたちがボロボロの格好で逆走してきた。
 中には担がれてる重傷者もいる。おれはかけよって問いかけた。

「どうした」
「リュウくん!」

 足を止めたのは幼なじみのインプ、リリだ。
 ぬいぐるみくらいのサイズの小さな悪魔、一応は人型で小動物チックな愛くるしさがある。

「あのね今回の勇者たちはメチャクチャ強いのね、危ないからリュウくんも逃げた方がいいよ」
「つよいのか」
「うん――きゃっ!」

 言い終わらないうちに遠方から爆発が起きた、空中に飛んでるインプのリリが悲鳴をあげて、その衝撃波で吹っ飛ばされた。

 空中で体勢を立て直して、そのまま飛んで逃げていくリリ。
 その姿にちょっとホッとして、爆発の方角をみた。

 強いのか今回の勇者たちは。
 しめしめ、そういうことならおれもにげて――。

「おーにーいーちゃーん?」

 垂直跳びしつつ百八十度Uターン、しようと思ったら真ん前にユイがたっていた。
 彼女は腕組みしながらおれをジト目でにらみつけてくる。

「お母さん」
「わかったから、いけばいいんだろいけば……はあ」

 おれはため息つきながら、もう一度垂直跳びで180度Uターンして、勇者どもの方に向かって行った。

 森の中をしばらくピョンピョン跳んでると、勇者どもと遭遇した。
 三人パーティーの勇者だった、戦士に僧侶に魔法使い、バランスのとれた編成だ。
 全員が男で、装備がガチだ。

 まわりをみる、ついでに意識を広げて気配を探る。
 近くにモンスターはいない、いるのは勇者だらけだ。
 なら、いい。
 ご近所さんがいないんなら、やってもばれる(、、、)心配がないよな。

「スライムか」
「おれがやる、魔力は温存しておけ」
「わかった」

 僧侶と魔法使いを止めて、戦士がおれに向かってきて無造作に剣を振り下ろした。
 まあこっちは最弱のスライムだから、あたり前なんだろ。
 だけど。

 パキン。
 軽く跳んで、こっちから剣に体当たりをする。
 剣は音を立てて真っ二つに折れた。

「……え?」

 何が起きたのか分かってないって顔の戦士、面倒臭いから説明もしない。
 そのままもう一度体当たりで戦士をぶっ飛ばす、バキバキバキと鎧と骨が砕ける音がした。

 魔法使いと僧侶も固まったままだった、スライム(おれ)がやったことを信じられないでいるようだ。
 装備を見極めて、氷耐性の強い装備だったから炎を吐いた。
 燃え盛る火炎が魔法使いと僧侶を呑み込んで、一気に焼き尽くす。

「どうした!」
「こ、これは……」

 最初の三人を瞬殺すると、騒ぎを聞きつけて他の勇者どもが集まってきた。
 もう一度意識を広げてスキャンする。範囲をディープフォレスト全体に広げた。
 残りの勇者は41人、数だけはいっちょ前だ。

「だれがやったんだ?」
「スライム? いやもっと強い魔物がどこかにいるはずだ」

 勇者どもはあたり前の判断をして、あたり前の警戒をする。

 わるいが、警戒は無駄だ。
 長引くとみられてばれる(、、、)から、とっととケリをつけさせてもらうぜ。

     ☆

 ディープフォレスト中心、マザードラゴンの前。
 母さんはおれの体よりも巨大な目でじろりと睨んできた。

「44人相手に3分もかかったのか」
「ぼ、防御魔法の使い手がいたんだ。物理魔法両方の無効化を使うヤツがいて、それを破るのに手間取ったんだ」
「これのことか」

 母さんはそういって、微動だにしないままおれに魔法をかけた。
 究極防御魔法、物理と魔法両方を無効化する魔法。

 人間が三人がかりで魔道具も使って展開した魔法を、母さんは一人であっさり使った。
 ――そしてあっさり破った。

 究極防御魔法をかけたおれに前足を振り下ろす、おれの意識がまた途切れた。

 気がついたとき、無傷のおれの体とクレーター、まわりに飛び散るゼリーのかけら、そして魔法の残滓が空中でキラキラ光っていた。

 また、折檻(ころ)されたのだ。

「このような物、一撃で破れるだろうに」
「母さんと一緒にしないでくれよ!」
「余の息子だ、それくらい出来なくてどうする」
「だからおれはスライムで母さんはドラゴンで――」
「言い訳無用」

 母さんはそう言って、また魔法を使った。
 おれの背後にぽっかり穴が広がった。
 底が見えない、深淵に続く大穴。

「待ってくれ母さん――」

 止める間もなく、母さんは前足を出して、おれを穴の中に突き落とした。
 獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすなんてことわざがあるが、それだ。

 生まれてからずっと、なにかあると母さんにこうやってこの穴に突き落とされてきた。

 穴の底は大量のガイコツがいた。
 見覚えがあった、装備とか服とか、今日倒した勇者どもだ。
 そいつらはアンデットになって、おれに向かってくる。

 剣士が全力で剣を振り下ろした、体当たりでカウンターしたが、剣は折れず互角だった。
 ああもう! また強化かよクソババア! ドラゴンの力で強化されたアンデッドとか面倒臭いだろ!
 何より面倒臭いのは、マザードラゴンが強化したアンデッドは通常の十倍の経験値だ。

 45体のアンデッド、10倍の経験値。
 五分後、二度死ぬ勇者の屍の上でスライム(おれ)がため息をついた。

 また強くなってしまった。
 もう強さとかはいいのに、ひなたぼっこしてのんびり暮らしたかったのに。

 ただのスライムだったのに……念願の最弱に生まれ変わったのに、ドラゴンの家に生まれたってだけで、今やマザードラゴン以外で最強にされてしまった。

「はあ……」

 立て続けのため息。
 母さん以外におれの強さがばれてないのがせめての救い……なのかもな。
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